前作の伏線部分を回収しながらも、今作では違った部分についてテーマとして語られる部分が今回も面白かったです。終章の盛り上げ方は相変わらず上手で熱かったです。楽しかった。
※最初からネタバレ全開です。未プレイ者は注意※
〇全体の感想・1作品目と比較して
〇好きだったSF要素
〇まとめ
の3つに分けて。
(最後に〇追記追加)
〇全体の感想
前回のミステリー物に見せかけてバリバリのSF作品だった1作品目の続編。
あんな終わり方気になるに決まってる!!ということで2作品目である【羽ばたきし鳥かごの天使】もプレイしました。
しかしやはりタイトル画面の絵といい、抜きゲにしか見えんのよなぁ……。
だがしかし今回もすごい面白かったですね。
前作の伏線等も回収される中、好きな要素盛沢山で満足です。
前作は館を舞台にした記憶喪失の主人公&メイドと密室殺人、サイコメトラー要素を交えながら推理探求パートとヒロインイチャイチャ日常を過ごしながら、最後の真相では実はSF要素でした!という。
【人工知能】でありながら『あなたは人としてて生きていると主張できますか』と語られる作品でした。
今作は打って変わってコールドスリープから目覚めた主人公、施設の維持管理を務めるアンドロイドのディア、そして天使のセクサロイドのローゼルの3人でイチャイチャしながら施設からの脱出を目指すお話。
最初からSF要素全開であり、合間合間で語られるSF要素の思考実験や、アンドロイドヒロインが大好きな自分にはもうドツボでした。
今作もほんとヒロインがすごい可愛いんですよね……。特にローゼルが本当にツボでした。素直になれないツンデレ要素もありながら、精液がエネルギーになるためHを求めてしまう姿と、自分のことを愛してほしいとかまって欲しいと堕天使の姿になってしまう話だったり……。
Hシーンも「し、しょうがないわね……(嬉)」ってなりながら求めちゃう姿からもう何度も悶えました。
また、今回も序盤中盤と様々な思考実験、価値観が語られながら終章へと入る盛り上がり方が本当に上手なんですよね……。
『機能として生み出されたアンドロイドは人間なのか、道具なのか』
『研究者としての抗えない探求心の蠱惑と、贖罪』
『精神コピーの弊害』
といった『精神コピーと機能としてのアンドロイドの存在』のSFの要素を、ヒロインといちゃいちゃ楽しみながらも合間合間に語られ、最後の真相と選択へと繋がっていく盛り上げ方は本当に面白かったです。
前作も思いましたが、終章の入り方が本当に上手なんですよね。
最後の覚悟を決めると同時にBGMの切り替えとシーン展開がされていく盛り上げ方。
本当に熱かったです。
また前作の伏線要素、芙蓉さんの存在や3人の研究者の存在等が語られていくのも面白かったですね……。まだまだ謎が多いものの、少しずつ時系列明らかになっていくのは、さらに続編が気になります。
最後の気になる館の終わり方も含め、ぜひ次回作ではどのような『人間とは』といったものが語られるのか気になる所……期待したいです。
〇好きだった要素(SF要素)
以下は自分の好きだったお話を備忘録のためにメモ。
今作も上記で述べたように様々なSF要素がありました。
その中でも、
①ディアに対しては
『機能として生まれたアンドロイドは道具か人間か』
②精神コピーであるローゼル&黒幕については
『精神コピーをしたアンドロイドと元人間は同一の存在か
精神コピーはただの延命治療なのか』
③主人公の脱出理由
これらについて簡単に感想メモ。
特に①と②の二つの考え方がこの作品の根幹でもあったと思います。
①『機能として生まれたアンドロイドは道具か人間か』
施設の維持管理のために生み出されたディア。
しかし高性能な彼女はもはや人間と同程度に思えるような人工知能を持つ。
機能として作られた彼女は人間だろうか道具だろうか。
作中では何度も語られた、この作品のテーマであり、そして最後の選択の意味合い。
『ディアを壊して脱出するかどうか』に重要な一つでした。
主人公は以下のように語ります。
──────────────────
ディアを俺は人間として扱うけれど、
同時に彼女がヒューマノイドであることを忘れてはならない。
ディアは人間によって目的のために作られた存在だ。生命ではない。
高度な知能を持った道具であって、車やパソコン、言ってしまえば人形とすら同じものだ。
(省略)
高度な人口知能は、人間と道具の境界線を曖昧にする。
どこからが人間で、どこからが道具なのか?
人工知能はその境界線を不確かにし、人の認識を惑わしてきた。
けれど、最終的な結論は変わらない。本質は常に、一つで、生命として生まれれば人間。道具として作られれば道具。この2つが越境することは絶対にない。
──────────────────
どこからが人間で、どこからが道具か。
その曖昧な境界線は、いつだって人間を混乱させた。
だが、俺は長年考えてきた結果として、自分がどちらで認識したか、だけを全ての判断基準として決めることにしていた。
誰かがこれを道具だと言ったから道具。
誰かがこれを人間だと言ったから人間。
なんて他人任せに判断するのは、俺は馬鹿げた話だと思う。
──────────────────
俺は自分を罰することで、相対的に自分は悪人じゃないと言いたかったのかもしれない……。
たぶん。
ディアを失うのが、俺はただひたすら、悲しかったのだ。
辛かったのだ。
それだけだったのだ。
──────────────────
主人公は上記で語ったように、機能として生まれたアンドロイドだと認識しながら、同時に人間と同じように扱う立場でした。
それがゆえに、ディアを失うという選択は、主人公にとって、一人の人間を殺すと同義であるほど、ディアの存在は主人公の中で大きなものでした。
逆にディア自身は、自分自身が機能としてのアンドロイドだと自覚していたため、最後には自分を破壊するのが当然のことだと言い切り。
主人公は人間だと扱っていたために、破壊に対して葛藤することがこのお話の主題でありましたね。
特に黒幕であるバックアップ主人公(以下黒幕)は300年以上もディアと生き続けていたため、もはや愛着という言葉では生ぬるいほどに彼女への想いが強くあり。
だからこその「絶対にディアを殺させない」という対立へと繋がる点も重要でした。
300年と共にした黒幕の想いはどれだけ大きなものだったのか……。
それが最期のあの姿だと思うと、黒幕を憎み切れないところがあります。
もちろん黒幕の、主人公への嫉妬憎しみもあるからこそのお話ではありますが。
ディアの最後のセリフより
──────────────────
私、天丸が幸せならそれでいいから。
──────────────────
天丸。ありがとう。私は道具として作られたヒューマノイドでありながら、あなたのおかげで、人間にも似た喜びを覚えることが出来た。
それはとても貴重なこと。感謝している。
──────────────────
うん。信頼してる。ローゼルは、私の恋のライバルだから。
──────────────────
道具、機能として作られた存在に人間と近似した感情がある場合、その存在は人間なのか、道具なのか。
アンドロイドは人間か、それとも道具か。
この要素は脱出後の世界でも描かれるのかどうか気になります。
②『精神コピーをしたアンドロイドと元人間は同一の存在か
精神コピーはただの延命治療なのか』
この作品のローゼル、そして最後の選択と黒幕の存在を語る上でもう一つ重要な要素がこの『精神コピー』でした。
そもそも、精神コピーとは、1作品目でも語られたように、永遠を生きたいと願う『延命治療』として求められた技術でありました。
しかしそれだけで終わらないのが今作の最後の問答に繋がっていくのが今回のもう一つのテーマだったと思います。
まず前提のお話を整理。
ローゼルは芙蓉さんの精神コピーを改造した、改造精神の存在であって、黒幕は主人公のバックアップである精神コピーであり、主人公は精神コピーされたアンドロイドであったという真相でした。
(特に主人公がまさかの精神コピー体なのは一番驚きました)
その中で、一番精神コピーの被害にあっていたのが、黒幕の存在です。
主人公のバックアップである黒幕は、ディアに助けを求められてしまったことにより復活してしまった。黒幕はディアと300年以上一緒に過ごしてしまった。
もちろんバックアップである黒幕は、主人子と同じ存在なので、芙蓉さん、娘の成果が見たいと外に出たいと願う。
しかし、同時にディアを破壊するという選択は、ずっと一緒に過ごした以上できない。また自分だけを抽出して切り離すということはできない。
自分と同じ存在であるにもかかわらず、バックアップとして存在するために『外へ出るという選択をすることができる』主人公を恨むのが黒幕の対立の要素の一つでした。
黒幕より
──────────────────
オレだってそうやって生きていたかったんだ。……俺は、お前が出るか否かを考えた時と、同じように悩んだこともあったんだ。なぜなら、お前がここで眠る前と、おなじ精神を持っていたのだから!
だけど出来なかったんだ。オレはお前ではなく、バックアップになったから。お前はオレなのに。オレはお前なのに……、なんでこうも違う結末にならなければならない……っ!!!
天丸。オレはお前を許せない……!顔を見るだけで殺したくなる。その顔はオレのものなのに!ディアにオレのように思われて!!!
(省略)
自分をコピーした奴らが、『自分は自分のままでいる』と思っているから起きた弊害の数々を、お前は知っていたはずだろうが……っ! お前自身、経験したはずだろうが!
──────────────────
天丸より
──────────────────
同一人物でも……、別人だ。
だから俺たちが作った永遠の命ってのは、仮初めなんだ
──────────────────
ローゼルより
──────────────────
私もそう思う。
別に私自身が──芙蓉だっけ。あんたの娘さんと同じなんて思わないし
──────────────────
もはや精神コピー後の存在は、元の人間とは別の存在であるがゆえに最後の問答へと繋がったのが今作でした。
ここまでで、人工知能と精神コピーがもたらした歪みが語られたわけではありますが、この変革が世界にもたらされた結果、どのようなカオス具合になっているのか……。
作中では
──────────────────
世界は変わっていった。人では人でなくなっていった。
寿命という概念がお金で買えるものになり、価値観が大きく変わった。
人間とヒューマノイドという差が出来たことで、差別と格差が生まれた。
差別と格差が生まれ、それが永遠に解消出来ないものだとなれば──
必然的に争いが起こる。
(省略)
気付けば世界の半分以上が、ヒューマノイド化した人間になっていた。
むろん、表向き全員が争っていたわけではない。色々な考えの人がいた。
だから、明確にどう2極化していたかは難しい線引きだ。
だが、少なくとも人類は、この永遠の命を手に入れ、そして新しい価値観を受け入れるための過程として、混乱の世へと突入した。
──────────────────
と語られていました。
主人公はこうしたカオスな状況を生み出してしまったことに目を背け、施設に引きこもり、そして贖罪の想いを抱き続けることになるわけですが。
今作、そして前作で語られたような人工知能と精神コピーとの課題がさらに世界が広がったと思うと、どのように続編で描かれるか、本当に楽しみですね。
③主人公の脱出理由
これは本当に、自分の備忘録用に。
自分の好奇心の蠱惑に負けることになり、世界を変えてしまった後悔、贖罪の思いと、せめて何か意味を成して死にたいと願ったがゆえに施設に引きこもった主人公。
なぜ主人公がこの施設から脱出したいと願ったかは、2つ理由がありました。
1つ目は、自分の娘である芙蓉の成果を見るため。
『──願わくば、父の無念を晴らさんがために』
自分と同じように、「ただ、やりたいから、やる」とロマンにあふれた願いを叶えた娘の姿を見たいがために。
「よくやったな、芙蓉」と言ってあげるために。
親として子の成果を見たいがため が一つの目的。
2つ目は、ローゼルを生かすため。
創り出したのが芙蓉さんではあるが、あくまで1つの事例であり。
主人公たち3人が作った技術こそが彼女を作り出してしまった結果であり被害者。
こうした彼女への贖罪として外へ出して生かさなければならないというのが二つ目の目的。
こうした目的のために脱出をした主人公が続編でどのような活躍をするのか。
なぜ主人は精神コピーなのか。
1作目の主人公と邂逅するのか。
楽しみですね。
〇まとめ
好きなSF要素が多かったこともあり、引用文が多めな感想になってしまいました。
けれど、こうしたSFの思考実験だったりは本当にたのしいですね。
そういう意味でも2作品目も上質な作品でした。
最初でも語りましたが、前作で語られた人工知能は、「人として生きると言える」にはどのような条件がいるのかと語られ、今作では、「アンドロイドの存在」への価値観と、「精神コピー」の弊害が問われるお話でした。
同時に、世界の崩壊をもたらすことになると分かりながらも研究者として止めることができない人間の好奇心の業の深さと後悔を描く作品でもありました。
私の中で、こうしたアンドロイドを主軸とした物語って、二つの軸があって、どちらにバランスがとられるかってのがあったりします。
片方は、アンドロイドとの関係性を重視するか。
主人公とヒロインとの関係性だったりですね。
もう片方は、SF要素と世界の変化を重視するか。
SF要素によって変革されてしまった世界がどう描かれるか。
もちろんどちらの要素も好きですし、倫理観だったり語られる要素は同じだったりしますが、1作2作目は、どちらかといえば関係性が語られてきました。
どちらも閉鎖空間ですしね……ヒロインの可愛さも相まってそうなるよなぁと。
だからこそ続編ではどのような世界が描かれるのか。
脱出した世界では、いよいよ世界の変化が描かれていくんじゃないかなぁと思ったり。殺伐としているのか、それとも一週回ってディストピアなのか。
この部分もとても好みなので楽しみで仕方ありません。
同時に1作品目の主人公と今回の主人公がどのように邂逅するのかが見てみたいと思います。
その前にブランニュー版をやらねば……ヒロインとイチャイチャせねば……。
ありがとうございました。
〇追記
『言葉の不完全性と判断基準』
本作に直接的なつながりは深くないですが、自分にとって好きな要素だったのでメモ。序盤で語られたものでもありました。
そして、主人公である天丸が人工知能を、人間を作りたいと願った最初の想いでもあります。
本文より引用
──────────────────
言語とは、最も効率よく伝達とコミュニケーションを行う方法である。
(略)
しかし、それはとても不完全な方法である。
本来の感情や意志を、完全に正確に表現することは出来ない。
それでも人間は言語を使う。言語ほど優れた伝達方法が他にないからだ
(略)
言語は世界を限定する。同時に、自分を規定する。
しかし、言語は自分の忠実な鏡というわけではない。
言語は不正確さの宿命から逃れられない。
ここでは、『言語』というより『言葉』という方が正しいだろう。
例えば今、9割は元気であって、残り1割に元気とは違う感情があったりする時、「元気ですか?」と聞かれたら、人はどう答えるだろう。
元気です。と答える人もいる。
9割は元気なのだから、元気と言っても嘘ではない。
ただし、完全に正確というわけではない。
概ね元気です。と答える人もいる。
(略)
しかし、残り1割を明示していないので、完全に正確というわけではない。
(略)
9割元気で1割考え事をしていますとと答える人がいるかもしれない。
これも嘘ではない。
表現としては非常に正確に思えるが、「1割考え事をしています」と回答することによって、「逆に元気ではない」という印象を与えてしまう。
つまり、正確に答えても不正確さから免れることは出来ない。
(略)
(では言葉に求められるのは何か)即解性──すぐにわかるということだ。
(正確性よりも、相手に即座に理解されることこそ言葉に重要視される)
(略)
基本的には、1つの質問に対して許容されるのは、1つの言い方である。
(略)
だから人間は回答の仕方を選ぶ。沢山の言葉による表現の中から、どれを使うのか。瞬時に、一瞬で、選ぶ。その選択のくり返しが、会話だ。
(略)
では、人が全部の中から1つを選び出す決め手、主体は何か。
それこそが人格や性格と呼ばれる、人間の中に形成された価値の判断基準の集合体である。
何を優先するべきか。何を伝えぬべきか。どういう意図として伝えたいか。その瞬時の判断のベースとなるのが、価値の判断基準である。
価値の判断基準には、善悪が色づけられている。
だが、元々の事象──裸形の事象──には、善悪は色づけられていない。
善悪を色づけるのは、人間である。人間の価値観が、善悪を色づけしている。
そしてその価値観に基づいて、選択がされる。
もし自身の中に価値の判断基準がなければ、おそらく人は延々と迷ってしまう。
(略)
正直に答えることがよいという判断基準もなく、相手を思いやる答えがよいという判断基準もなければ、どうやって複数の選択肢の中から最適なものを選び出せるだろうか?
(略)
そしてそのベース(経験、環境や生まれ、人格、正確による価値判断の基準)があるからこそ、人間は会話が出来る。
価値判断の基準があるからこそ、会話が出来る。
ただ、価値判断の基準を作り上げれば、人間が誕生するわけではない。
そこに速効性と即解性を投入すれば、人間が誕生するわけではない。
(略)
俺は──人間がつくりたかったのだ。
(略)
俺は、人が好きだった。だけど、人と話すことが苦手だった。
会話の速効性が、俺には恐ろしく苦手なものだったからだ。
(略)
結局、人と話したかっただけなのか、お前(俺)は。
──────────────────
引用が長くなってしまいました。
言葉には便利さと同時に不完全性もあり。
けれど即解性があるからこそ使われ、会話になっていく。
その判断基準は、今まで培ってきた価値観、善悪の基準。
これが人間と話すということ。といったものでしょうか。
逆に言えば、これらを完璧に使いこなす、1作品目の人工知能たち、そして2作品目のローゼルやディアたちはまさしく人間だったとも思います。
彼ら彼女らにも、彼らなりの価値観判断基準があり。
特に1作品目のいよりさんは、その判断基準が完全にご主人様でしかないことが、人とは言えないとして証明された作品でもありましたが、彼女なりの判断基準がご主人様である以上これも一つの形だと思ったりします。
(芙蓉様の、暴走の危険性があるというのもわかる話ではありますが)
またディアさんの最後の言葉選びこそ、彼女が人間である証明だとも思ってしまいます。
話は変わり……。
天丸の研究の理由は、ただシンプルに好奇心でしかありませんでした。
ただその好奇心は、天丸が人間のことが好きだから。
同時に、言葉の限界による速効性だけで会話されてしまうことが怖く、でも話をしたいから。
その後この研究によって引き起こした悲劇は恐らく今後の続編で描かれるところでしょうか。
けれど、天丸の彼のきっかけは、このような純粋な動機だったことを頭の片隅に入れつつ、どのような世界が描かれていくか見ていきたいとも思います。