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merunoniaさんのJ.Q.V 人類救済部 ~With love from isotope~の長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
J.Q.V 人類救済部 ~With love from isotope~
ブランド
StudioBeast
得点
94
参照数
813

一言コメント

とてつもない読了感。 主幹のしっかりとしたシナリオで伏線回収もしっかりされている。同人レベルとは思えない素晴らしい作品

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

ロミオさんの作品が好きだったり、セカイ系SFが好き!って方はプレイしてください
損はしないと思います。この読了感は何にも代え難いものです。
ただ癖があるのでとりあえず体験版をすれば合う合わないがわかります。


いろいろ考察したいことや感想はあるのですが
まずはこのエロゲの良さを箇条書きにしていきます。

①惹き込まれるテンポの良いシナリオ
 このゲームはいわゆるセカイ系SFノベルですが、伏線もしっかりすぐに回収され、
テンポが良かったです。
 過去現在といくため、最初は少し混乱しますが、すぐに慣れだんだんわかってくる感じは
面白かったです。 
またどうしてもこういうノベルゲームは説明難解な用語、設定になり
がちではありますが、アーカイブもあり、作中にもわかりやすい具体例や説明が
されているため、わかりやすく世界観に入り込むことができました。

②アーカイブというツール
 いわゆる、ゲームの作中の単語が説明されるTIPSといったものです。
 このアーカイブの説明のおかげでとても世界観に入りやすかったのですが、それだけで
はありませんでした。アーカイブには主人公の主観や感情も含めた単語だったり、
そのアーカイブ自体が伏線であったりしたものがありました。
 例えば「友達」というアーカイブであったら、主人公にとって友達とは何を指しているのか
同じ単語でも「保護特区1」「保護特区2」というように全貌がだんだん明らかになる物で
あったりしました。このアーカイブのおかげでより世界観に入り込むことができたと思います。
 個人的には「公共放送1」と「公共放送2」がすごい好きです。ゾクゾクします。
 このアーカイブがあってのシナリオだと言っても過言じゃないと思います。

③BGMによる雰囲気
 人類救済部はBGMがすごい雰囲気作りにあっていたと思います。
ある狂気(厳密には違うのですが)の部分にはあえて、似つかわしくないBGMを使うことで
より神々しさを表現したり、BGMの水準が高かったです。
 ただBGMの聞くところがないのでそこが個人的には欲しかったです。

④一貫した主幹がしっかりされている
 この作品のよかったところは一番ここだと思います。
 ライター様が言いたいこと、持っていきたいところがしっかり一本化されてて、そこに肉付け
されていったものであるため、とてもまとまったシナリオになっています。
 こういう作品はけっこうブレやすいと思うのですが、安心感があり、段階的に踏まれた展開は
よりわかりやすく、かつ入り込みやすいものでした。
 これもライター様の含蓄ある知識と、練りこまれたシナリオの素晴らしさだと思います。
 そしてこのしっかりしたシナリオで作り上げられた、シナリオの読了感は素晴らしいものでした。
 
 以上がよかったところですが、セカイ系SFが好きな方はやるべし!です。
個人的にはever17が好きな方、ぜひやってください。
ただ主人公の言動が癖あるので、ここは体験版でやってみるといいかもしれません。個人的には
気になりませんでしたが。。


以下ネタバレありの雑記、感想、考察です














 本作は「人類が動物に変容してしまう」という病気EOが世界に蔓延し、世界は滅亡寸前、
その中で主人公は変容しないよう、どう人類救済という希望を持ち続けるか、というもの
かなと「最初」は思いました。
 ただ説明も曖昧で、ミームによる情報伝達によって変容かな?とか、ナタリアさんも
そんな感じなのかな?と勝手に予測していましたが・・・・

 いやぁいい意味で裏切られました・・本当に。後半の怒涛の展開には惹き込まれるばかりでした。
主人公が一人になったあと、ナタリアさんが登場。


 「世界と主観が等倍になる 観測者の法則は崩れ去る」

このナタリアさんが説明した瞬間の衝撃と惹き込まれる、あの感覚は今でも覚えています。

自由選択とはじつは確率における選択であり、ランダムでの選択である。
例えば喉が渇いたとき、コップに水があれば当然水を飲む。
自分の血液を飲むことはない。これはコップの水を飲むことが100%の確率に近いからである。
つまり、自由意思による選択は、ランダムによって選択された高い確率のものである。

では世界はどうだろうか。コペンハーゲン解釈によれば、観測者と観測対象によって世界は
一定に決まっている。なぜなら多くの観測者である人類がおり、観測されない状態などありえないからである。
では世界が一人しか、観測者が一人しかいなかった場合どうなるのか?
つまり観測者が見ていない状態での世界はどうなっているのか、定義できない。
自分の行動だけで選択した自由意思は世界にも影響を与える、世界は所有物になる。
なぜなら、他者による観測での決定はされないのだから。
つまり「確率が崩壊する」。

まさにこのゲームの山場だと思います。
またこの時の説明もわかりやすいものでした。

 とても凄いと思ったのは、安易にこの世界の成り立ちとナタリアさん再登場の理由を
安易に多世界解釈にしてしまわなかったことです。
 人類の滅亡を、観測者が一人しかいないということからコペンハーゲン解釈をうまく使い
確率による観測で世界が作られる=世界は観測者の思いのままである
ことを作り出したシナリオにはのめり込んで感動しました。

 EOもこの観測による変容だったのでしょうか。自分での存在を自分がこう観測してしまうため、
アニムス(理想像)に変容されてしまう という感じでしょうか。


 

 そしてもう一つのゲームの山場は彬名さんの変容シーンだと思います。
いやぁなかなかに壮絶でした。なんせ足は逆に曲がるわ、内蔵出てくるわ、テキスト表現はきつい。

しかしある方と話していました(この場をお借りして感謝します。M様ありがとうございます)
 このシーンはとても対比表現が上手だという結論を出しました。
 例えば「変容に対しては無臭。だから自分の嘔吐の臭いばかりが鼻に付いて自身の醜さが際立つ。
~美しい進化に対してかくも俺は醜い。~機械的であり、どこか芸術。~どうして目を覆うことができようか。」
という、シーン。

 このシーンでは変容がただ淡々と進みます。ただの無機質な現象であるために、主人公の感情にも介さず進みます。
その進みにも進化の神々しさ、それと自己嫌悪による自分の醜さが対比して表現がされていて、嫌悪を覚えるのに
なぜか魅入ってしまう、という魅力があるシーンでした。

 ここでもライター様の筆力の高さが伺えます。このライター様は様々なところでの対比な表現や詩的表現が本当に
上手だと思いました。


 
 

 そして考察を

 最後に現れた少女、恐らく島地の変容したあとの新人類という感じでしょうか。
 目の下の泣きぼくろ・・彬名と島地がもし結ばれていたなら・・という主人公のアニムスがあの結果になったの
でしょうか。そしてもう一つのめーたんがいる確率世界では保護特区で幸せに暮らしました・・という感じでしょうか
 ナタリアさんについては、どうして彼女自身は観測できないんだろう・・?など
まだまだわからないところが多いのですが、アペンドがあるためそっちで理解していこうと思います。



最後に・・
 一人しかいない観測による確率世界。
改竄後の楽園・・・世界は偽物ではないけれど、そこにいてしまうと
元の生きていた人々の存在意義を失わせてしまう

人類救済に必要なのは、人類滅亡にいたらせる思考の毒とその弱さを尊重できる心
また人類は誰でも自分はここにいると知ってほしい 誰もが共存したい 当たり前のことであり
尊いものである


 そして最後に「世界で一番ちいさなものは」・・人の心。
そして変容は願いを反映する・・・それは心の変容を反映させる・・心の変容とは成長。

様々な思いが込められた作品だと思います。
この作品をプレイし終わったあとの読了感、達成感はとてもつもなく大きいものでした。
改めてこの作品をプレイできたことに感謝します。
このような素晴らしい作品がプレイでき、紹介してくださったM様、
ブランドStudioBeast様 ありがとうございました。
ライターの昼王様の他の作品も見てみたいと強く思いました
この力量・・ぜひこれからも活躍されることを願います。
そして更なる様々な同人作品が評価されることを願って・・・


PS.作中では彬名さんが一番好きです!