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merunoniaさんの終わる世界とバースデイの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
終わる世界とバースデイ
ブランド
コットンソフト
得点
82
参照数
742

一言コメント

なんの感慨もなくなった誕生日が、少しはまた好きになったような気がします。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

なんの感慨もなくなった誕生日が、少しはまた好きになったような気がします。

 (最初はネタバレなしで簡単な感想。
  後半からはネタバレありで、各項目に沿って感想


 コットンソフトは私にとって初めてのエロゲでして、前情報もなくプレイ。
 名前からして、終末論か、SFチックな展開なのかなーと思いつつ。
 はっきり言うと、序盤中盤は、意味不明な展開も多く、まぁ凡ゲーなのかなーと思いつつ。
 個別ルートもはっきり言って、そこまで面白いわけでもなくという評価。
 70点台かなーとおもっていましたが。

 後半の伏線が回収されていくのも、「おーなるほどねー」
 と自分の予想と照らし合わせながらも、まぁ無難と思いつつ、プレイしていました。
 確かにSFチックな面白さはあるけれど、まぁこんなもんかなと思いつつ。

 いやはや。
 終盤の展開にエピローグにしてやられました。
 まさに最後の最後でかっさらう、最大瞬間風速ゲー。
 終盤後のEDの歌詞を聞いてさらに少し泣いてしまって。
 
 この最後のために作られたのではと思うほどの出来であったと思います。


 どちらかというと、SFの設定や展開、また伏線回収を楽しむというよりも、
 SFの設定を上手く利用した、感情移入することで楽しむタイプのエロゲ。

 そのため、ここで評価が分かれるエロゲなのかなと同時に思います。

 こういった意味も含めて、SFモノとして楽しむよりは、
 兄妹モノとして、また、ちょっとした哲学もの、自己肯定感物として楽しかった。

 評判通りの作品だったと思います。
 こうした寂寥なでも何か温まった作品は「さくらにかげつ」や「僕が天使になった理由」以来な気がします。
 こうしたビターエンド風な作品、いいですよね。 
 
 
 ほろ苦いテーマ作品が好きな方、おすすめします。

 HAPPY BARTHDAY



 


 (以下はネタバレありで、各項目ごとに整理して思ったことを書いていきます。)
  ※このゲームはネタバレされてしまうと著しく面白さが損なわれます。
   未プレイの方はご注意ください。


 上記ですでに述べたように、本作のエピローグで感慨深い何かが残った作品でありました。
 
 どうしてここまで感動したのだろう、そもそもこの作品のテーマは何だったのだろうという思いがありまして、
 項目ごとに整理をしていって、少しは今の思いを文章化できたらと思います。
 最初に言ってしまいますが、この作品は人によって受け取るテーマが千差万別なんだろうなと思います。
 どうしても感想が、整理しがてら各ルートのあらすじ解説調になってしまうのでご了承ください。


  ①SFモノ、ループものとして。
  ②各ルートについて
  ③I am legend(織塚編)
  ④Reverse End(ナルルート)
  ⑤HAPPY BARTHDAY(前半)
  ⑥HAPPY BARTHDAY(後半
  ⑦なんの感慨もなくなった誕生日が、少しはまた好きになったような気がします。

  この項目で感想を書いてきます。


 ①SFモノ、ループものとして。
 
 今作品の大きな特徴として、舞台が擬似世界であり、(主人公は現実世界と認知)
 何度もループされているという設定。
 こうした世界で入莉の人口意識体を育成するという、育成シュミレーションゲーム(語弊)
 
 終わる世界とは、リセットされた世界で繰り返されているというものでした。
 こうした設定はけっこう面白くてなるほどと思った。
 
 ただ、カサンドラの予言の緊迫感だったりは序盤はあったものの、どこか緩みがあるのが残念。

 また、設定が明かされる後半も、徐々に明かされるというよりかは、第3者の黒幕的存在が
 洗いざらい全部喋ってしまうため、解説を聞いているようだったのが残念かなと。

 こうしたループモノは、主人公だったりと一緒に追体験をしていきながら、明かされていく奇妙さと
 あっと驚かされる展開が好きだったため、少し肩透かしだったのが本音であります。
 2012から目が覚めて、2022年に目覚めた時の瞬間、2022すら擬似世界であった瞬間はなかなか面白かったですが。
 正直SFループモノとしては、あまり出来が良いとは思わない。
 
 と、批評しますが、ただ今作の場合はSFループものとしてメインに出している作品というよりかは、
 こうした設定を利用していくことで登場人物(特に最後)に感情移入をさせるのが狙いだと思うので
 大きくは言いません。
 ただ、こうした徐々に明かされる展開も、SFらしい楽しさがあったら、
 または、感情移入できるような展開がされたら、さらに評価される作品であっただろうと思います。


   以上は世界観や設定に向けた感想でした。
   以下からは、キャラの心情や動向に昇天を当てた感想になります。

 

 ②各ルートについて(柊&ミカ)
 
 各個別ルート はっきり言うと凡作かなーと。
 柊ルートも、ミカルートも、急展開すぎてついていくのが必死でした。
 最初は予言を阻止するということで動き出しますが、
そもそも予言に対する根拠もなくただ予言は実在するのかどうなのかを水掛け論でしあったり。
 いきなりの急展開に対応を追われる様子を、見ているだけな感じが多かったかな。
 特にミカルートの場合は、「B級映画のようだわ」とナルが言っていたけれどまさしくそんな感じ。
 微妙。 
 
 このままでヒロイン達が終わるならおざなりだなぁというままで終わるのですが。
 そもそも各ヒロインが輝くのは、HAPPY BARTHDAYルートの
 各キャラが未練、後悔に向き合った時。

 ミカは名前のトラウマから、友達と本当の意味で向き合うことを恐れていた未練。
 柊は、父親と正面から向き合えなかった後悔。 
 ここが描けていた最後のシーンはちょっとじんわりきました。 

 個別ルートの段階では、設定をばらすわけにもいかないこともあり仕方なかったかなと思います。
 ただもう少し、予言による切羽詰まった焦燥感であったり、違った魅せ方があったかなぁという思いもあるのが本音。
 
 このゲームのテーマの一つに「後悔や未練という過去から未来へ向き合う」
 という要素があったと思います。


 ③I am legend(織塚編)

  むしろ、面白くなってきたのはこのルートから。
  終末を迎えた廃墟。主人公視点から見た世界観に一気に引き込まれる。
  そんな中安定の織塚ちゃんの安心感。でも、過剰なテンションだったり意味深なセリフであったり。
  本編でも、どこかぼっちで違和感だった彼女の様子から、疑問が生じてくる。
  
  こうした中で繰り広げられる彼女と主人公の掛け合いはどこか楽しかった。
  二人きりいままでなかなかなれなかった織塚さん真骨頂!

  その後は雪が降り、彼女から次に言うセリフを言い当てられて。
  あぁループしてるのかと気づく。
  
  彼女の「一緒にいると約束してくれたのに」というセリフが刺さるルートでした。
  むしろこのお話は、織塚さん視点のAfter 17th からが本番だと思う。

  おしっこハッピーエンド。

 ④Reverse End(ナルルート)

  真実解明編。
  この2012年の世界は擬似世界であり、精神転送を利用して入莉の人口意識体を育成するために作られた世界だと発覚する。
  表向きは10年前の後悔や未練を払拭するために作られたゲームであり、こうしたリアリティのある世界の中で、
  より入莉本来に近い人口意識体を作り出す。
  100人の意識を何度も犠牲にすることで作り出すという。
  しかも時間にしてまだ45分しか経っていないとか。すげぇよ陶也さん。

  ループものなんだなぁと思いつつ始めたこのルートですが、最初の研究室の背景にBGMの「re-birth」がとても良かった。
  
  このルートはナルルートでもありますが、ナルと郁の関係性が切ない。
  郁は擬似世界でしか生きられない(語弊がありますが)存在で、ナルにとってこの世界がどれほどのものであったか。
  彼女の思いが叫ばれる中、とても大きいものであったと思います。

  こうした中で最後のリセットまでの猶予の間に語られる「私はあなたの味方にはなれないかもしれない」
  でも、「あなたのことを独占できて嬉しい」
  
  と語られる最後は、郁の存在もあってほんとうに切なかった。
  「どうかお姉ちゃんを助けてください」と訴える、郁にとってはお姉ちゃんが現実世界に戻るのが望みで。

  ノーマルエンドが一気に回収されるルートでした。
  また小さな伏線が少しずつ触られていく心地よさもあったルート。

  話は変わりますが、ナルさん2022のこの世界も擬似世界だ!って見抜くメタ認知 どんだけ賢いんだろうと驚きました。
  その根拠として、確か、擬似世界は擬似世界として認知すること自体がおかしい、そのためこの世界も擬似世界だ
  とかだったかな。あまり覚えてないけれど。
  それで撃っちゃうのもすごい。 
  

 ⑤HAPPY BARTHDAY(前半)

入莉TRUE、真実解決編。
  もう一回ループするけれど、違うのはタイムカプセルにヒントの手紙を入れたこと。
  真相を知った主人公は、陶也の挑戦通り100人のプレーヤーを説得しようとするけれど。

  結局この場合擬似世界でしかないわけで、現実世界は「変わらない」
ナルルートでも言っていたけれど、結局変わらない世界に同調してもらえるわけでもなく。
  ルカさんたちにフルボッコにされかけるという。

  序盤でこのゲーム、モブ達の反応冷たいなぁと感じていたんですが、納得した瞬間でした。
  そもそも主人公たちに好意的でない立場だった。

  事実は「変わらない」という結論に主人公はどういう答えを出すのかなと思ったら、
  それでも「記憶」は思い出すかも知れない。現実世界でも、この擬似世界でもあったことが。
  というお話。


 ⑥HAPPY BARTHDAY(後半)

  入莉もその意見に賛成してくれることもあり、主人公は現実世界にみんなを返すことを決意する。
入莉の育成にほかの人が必要なら、主人公だけが残るようにすると。  
 
  ほんとうに入莉ちゃん、強くなりましたよね。
  Cassandra Syndrome(入莉ルート1)では、精神状態が不安定で、兄の存在が欠けると自我崩壊してしまう。
  主人公が入莉を守る、そうした中で、妹としてしか自分が認められないことへの葛藤だったりがメインでしたが。
  (これはこれで面白かった)
  今度は入莉が主人公を守ると。

  この成長ぶり、あまり強く表現されていなかったけれど、入莉と主人公の関係で序盤との変化は
  なかなかに感慨深いものでした。
  本作のテーマの一つに「成長」というキーワードがありそうです。たぶん。
  そして封印されたカサンドラを呼び戻すために、スカイタワーからアイキャンフライ。
  入莉が初めて自分の意志で踏み出す一歩。彼女の初めての成長からの行動。
 
  その後、主人公は残るつもりであったけれど、入莉は主人公も現実世界に返すという。
  なぜなら、入莉の本当の願い、それは「ただ、誰にも迷惑をかけたくなかった」 
  だから『終わる世界を終わらせる』 凍結させる。

  カサンドラは母親で、織塚はお姉ちゃんで、「ありがとう」と入莉が伝えるシーン。
  あのシーン、AFTER 17thをやった後だと余計にぐっと殺されます。
  何度も繰り返す中で、織塚が報われたとまで言わないけれど、意味を成した瞬間。
  主人公・織塚がいたからこその入莉がいるわけで、泣きそうになります。
  織塚はもうひとりのメインヒロインだと思います。

  ヒロイン達の後悔・未練への答え。
  夏越は友達と正面と向き合って。柊は素直に父親と向かい合って。
  二人とも、正反対なようで、似た者同士。だからこそ仲がいいふたり。
 この経験はきっと現実世界でもなにかをもたらすと信じてます。
  
  ナルは郁とのお別れ。
「私の弟に生まれてきてくれてありがとう」
 「私はあなたの姉になれて、本当によかった。」
 「お姉ちゃんが僕のお姉ちゃんで、本当に良かった」
 
  交通事故で唐突な別れの中で、擬似世界によって決別ができたナル。
  現実世界で、ナルが前を向いて進めると思います。願います。
 
  とここまでだったら、70点台後半くらいの面白さかなぁと思ったのだけど。
  その後のepilogueで殺された。
 
 ⑦epilogue
 
  終末に向かったほんの少しの最後の一時。
  入莉として人口意識体と育成され、そして誕生したもうひとりの「イリ」
  いままで主人公の傍にいたのは、入莉の代わりではなく、『彼女自身』であったのだと。

  もうひとりの存在がどれだけ大きいかを自覚した主人公は、今日を彼女の誕生日とする。
  9月29日。
  本当の意味で彼女自身は、主人公の妹になり、愛しい対象になる。
  ハッピーバースデイを迎える。イリの誕生した日。  

  改めて、終わる世界とバースデイは「兄妹ゲー」であると思った瞬間です。
  
  
  
  ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


  現実世界。EDソングとともに表示される「HAPPY BARTHDAY」
  この演出は卑怯。感動してしまう。

 



   >「今日からまた、新しいあなたの始まりですね
     誕生日が来るたびに、あなたがこの世界で生きていることを、どうか噛み締めてください。」
 
    「この世界はきっと、あなたが思っているより、ほんの少しだけ優しいと思うんです。 
     わたしはここから、あなたの為に、これからもハッピーバースデイを繰り返します。
     忘れないでください。わたしの未来はあなたと共にあるということを。」
    
     彼女の魂と呼ぶべきモノは、僕の中で受け継がれていたのだと・・・
  

     





  擬似世界であったことは、決して意味がないものではなくて。
  確かに残るモノがあった。
  柊、夏越、ナル、そして主人公。
  
  擬似世界で起こったことは「変わらない」わけではなく。
  確かになにか変化があった。
    
  このepilogueで本当にしてやられた。
  ただ未来を見て、励ましのエールを送るイリちゃんが本当に愛しい。
 



  ⑧なんの感慨もなくなった誕生日が、少しはまた好きになったような気がします。

   自分にとって、誕生日とは過去を振り返るものでもありました。
   なんとなく誕生日を迎えて、未来にたいしてなんの思いもせず終わるような日でもありました。

   本作品「終わる世界とバースデイ」を終えて。
   そんな自分のどこかいままでが認めてもらえたようで、不思議な気分でいる今です。
   いままで生きてきて、それはどんなことでも今の自分のモノになっていると。
   誕生日を区切りに迎え、生きていることを認めてもらえているようでした。

   本作のテーマは、
  「終わりとは、決して何も変わらないのではなくそこにもたらすものがある」ということだと思います。
   その中では、成長、モノなどがあって。
  
   この作品ではその素晴らしさを見せてくれました。

   だからこそ、改めて誕生日には、この作品をプレイすることで。
   今の自分を好きになれればいいなぁと思いつつ。

   社会人になって誕生日がなんの意味もなさなくなってくる中で、今プレイできてよかったです。

   コットンソフト、初めての作品でしたが、面白かったです。
   ありがとうございました。   

 
   >次の誕生日もその次の誕生日も、幸せな日でありますように

    胸を張って、生きていきたい。  
    そしてHAPPY BARTHDAY が迎えられますように。