R-18フリゲ。百合ゲには親しみがない私ですが、それでも他の百合ゲがしてみたいなと思うくらいには楽しめました。
杏奈の器用だからこそ不器用で、だからこそ毅然としたかっこいい一筋の想いと
雅の二人への想いと、
そして絢子の気持ちと 百合という一般的には受け入れられない同性愛への抵抗と、
それでも想いを打ち明ける描写がとても丁寧でした。
以下感想を。
LGBTが声高に叫ばれる今ではありますが、この作品が公開された当時は、今のようなセクシャルマイノリティは世間に公開されることは今よりも少なかったと思います。
この作品である登場人物も、同性愛(百合)というセクシャルマイノリティの葛藤に悩まされます。
その葛藤の中で、過去の一般常識とずれたトラウマから前に踏み出せない中で
言葉拙いながらも、勇気を持って打ち明ける絢子の姿がどれほど綺麗だったか。
杏奈の場合。
相手に好きだと伝えたい、しかし同性愛という一般的には受け入れられない性癖。
ならば、まずは相手が性癖の抵抗をなくせばいいじゃないかと。
同時に、絢子のことが大切だから、相手を快楽に墜とす、ではなく、
まずは認識を変えるために、周りの女の子とHをして(相手には一番になれないと同意済)常識を変える。
なんて、器用なようで不器用で、同時に毅然としてかっこよくて。
そして雅は、かつての過去があるから。
せめて杏奈には、二人が大好きだから幸せになって欲しいと。
こうした中で、最後に絢子の告白と、それに応える杏奈の姿。
周りのキャラも魅力的でした。
生徒会書記の万理乃さんは、上記のような杏奈の姿がかっこよくて見ていたいから。
例え一番でなくてもとなりに有り続けるその気持ち。
杏奈のかっこよさに同意できるから彼女の気持ちがよくわかるんです。
娘を肯定する母親もとても重要なキャラでした。
母親は本編中でこのようなセリフがあります。
『ただ、言わせてちょうだい』
『──絢子、私は、あんたを信じてる』
『あんたはもっと、自信を持っていい。
胸を張っていい。思うままに生きていい。
あんたは強い。あんたは絶対に負けないし、絶対に間違わない。
私が保証する。』
『世界の誰が否定しても、私は絶対にあんたを否定しない』
『あんたのすることなら、殺人だって肯定してみせる』
この言葉に絢子はどれだけ勇気づけられたことか。
こういう親子愛、そして主人公を肯定してくれる存在って本当に大好きなんです。
WA2の武也を思い出します。
例えそれが間違っているのだとしても、私はあなたを肯定しますと。
正直百合ゲはあまりやったことがありません。
その中でもやった中で、「きみはね」は、百合という葛藤を描くのではなく、
ただ、ただそこにある優しい日常、当たり前のようでただ愛おしい平和な日常を
見ていられる優しい世界がありました。
http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=21349&uid=merunonia
今回の『彼女と彼女と私の七日』は、方向性が違ってて正直驚いたのがあります。
セクシャルマイノリティの葛藤を描くとは思わなかった。
同時に、私の中でこういった葛藤を描く作品ってあまり楽しめない記憶が多くありました。
例えば、姉弟、兄妹物で、兄弟だから恋愛してはいけないという世間体を気にしてシリアスに入る作品は
作品によるかもですが、どうもしらけてしまう自分がいる。
というよりも、そんなことを今更気にするなよ!と思ってしまう自分が居る。
ただ今回の場合は、なんというかその葛藤も含めて、受け入れられるというか
見ていて愛おしいというか。
というのも、特に杏奈ですが、この物語、セクシャルマイノリティへの抵抗感が、
世間体ではなくて、相手を想うからこそのシナリオなんですよね。
同時に、母親、雅と周りには自分の意見を持ってしっかり肯定なり主張して支えてくれる人がいて。
だからすんなり受け入れられたといいますか。
だから、こういった『きみはね』や『彼女と彼女と私の七日』のような作品があるなら
他の百合ゲもやってみたい と思うようになりました。
※以下作品引用文。未プレイは閲覧非推奨です。すみません。
絢子『───杏奈』
名を舌に乗せると、高揚していた意識がスっと落ち着きを取り戻していった。
これだけは冷静に伝えたい。この場限りの気の迷いでないと証明するために。
どれだけ真剣なのか、わかってもらえるように。
同性の私たちには、結婚する未来なんて無い。無いし、必要ない。
なぜなら、私たちは、この身とこの心、ただそれのみを以って、
互いのぬくもりを伝え、確かめ、そしてその想いを信じ合えるのだから。
ならばこの告白は、通過儀礼であると同時に、何よりも尊い、誓いの儀式でもある。
そう、私は本気なのだ。きちんと、明確に、自分の意思で宣言する。
だから、聞いて、杏奈。見ていて、雅。
これが最後のひと呼吸。ゆっくりと、息を吸い込む。そして。
絢子『──杏奈。私は、貴方と一緒にいられる今が、すごく、幸せです』
しんと静まった二人きりの部屋。特別な感情を浮かべず、静かにこちらを見据える。
澄み切った瞳。じっと見つめ返して、一言一言はっきりと噛み締めるように、私は心情を形にしていく。
絢子『──この先も、卒業したあとも、まだまだ見えない将来も、貴方と一緒に幸せでいたい』
『だから私は、ただの友達じゃなくて、貴方の、特別になりたい』
ずっとずっと胸にあった想い。長い間、心の奥に封じ込められた気持ち。
それなのに消えずにいてくれた、あたたかなあたたかな、偽りなき本心。
絢子『網城杏奈さん──私は、貴方が好きです』
瞬間、時が止まったかのような錯覚に陥った。
静止した室内の空気。静寂が耳に痛い。ごくりと喉が鳴る。
しかし、胸中は不思議なほどに凪いでいた。
視界の中心に杏奈を捉え、私は両の足で立ち続ける。
カチリと、時計の秒針が夜気を揺らした。
杏奈『……絢子。私がどれだけ待ったか、貴方は知っている?』
呟くように、杏奈は言った。
杏奈『でも、長かったからこそ、今がこんなに嬉しいのね。どうしよう、涙が出そう』
こらえきれないように緩んだ頬が、柔和な笑みを作る。
目にはうっすらと雫が浮いていた。
一歩二歩、杏奈は歩み寄ってくる。
杏奈『ねぇ絢子。私からも、言いたいことがあるの』
柔らかな女の子の体が、ぎゅっと私を抱いた。
杏奈『──好きよ』
2018年の今、同性婚が認められる世の中になりつつあります。
こうした動きは世間の常識を変えるものであり、私も良いことだと思います。
ただ、当時、より隔絶されたセクシャルマイノリティであり、常識ではなかったからこそ、
面白かったお話でした。
今の世の中を否定するわけではありません。
ただ、貴方を肯定する。あなたを好きだ、という感情を
不器用ながらも行動し、そして叶うこの杏奈と絢子の物語が。
そして二人を見守る雅の3人の関係が。何よりも暖かくて好きでした。
そして最後のタイトル画面。感慨深いと同時に、きっと二人は幸せに、そして3人目を見つけるための生活を続けるのだと
妄想して終わります。
当時の風潮だからこそこの作品をフリーで出してくれたことにありがたく思いつつ。
ありがとうございました。