あえて『エロゲ』という媒体を用いながら、この結末を描いたことに敬服する作品でした。タブーギリギリに触れながらも、『リアル』妹がいる『全国のお兄ちゃん達』に捧げた物語。そこにあるのは、兄妹が互いに互いを想いあうがゆえの、素敵なお話でした。
リアル妹がいる大泉くんのばあい
ネタバレ全開感想です。
①あえてエロゲで語った『全国のお兄ちゃんに捧ぐ物語』
まず『リアル妹』って何だろうとプレイ前には思ったりしたのですが、
あえて『エロゲ』という媒体を用いながら、『リアル妹』を重視して語られたこの作品に敬服する想いです。
まず、この作品の特筆するべき点としては
『バーチャル(エロゲ)妹』の麻衣と『リアル(現実世界)妹』の栞が比較されながらも物語が進む点でした。
バーチャル妹である麻衣は、リアル妹である栞と主人公の二人の絆を見て、本当の兄妹である二人を羨ましがるとともに、二人の仲の良さを温かく見守り。
逆に、リアル妹である栞は、バーチャル妹である麻衣の、まさに理想とも思える可愛い仕草、素直な態度ができる麻衣のことを羨ましがるとともに、お兄ちゃんのことを褒めてくれる受け入れてくれる彼女のことを好きになり。
その中でも私の中で感銘を受けたのは、『リアルの兄妹』と『エロゲの兄妹』を同一視せずに、
現実にいる妹こそ一番愛する存在であり、本当の意味で兄妹になるのはリアル以外ありえないと描ききったことでした。
『エロゲ妹』と『リアル妹』をどちらも両立させて幸せにするハッピーエンドを描くこともできたんです。
でもこの作品を最後までプレイすると、それはありえないと思わせてくれる。
これを、あえて『エロゲ』という媒体を用いながらも語られることが何よりもすごい。
何よりも最後のテキストが刺さる。
───────
男性客A「リアルで姉や妹なんかいても邪魔なだけだよなー」
男性客B「まったくだ」
売り場でそんな会話をしている若い男性客に、同意はできなかった。
彼らも、きっといつかは気づくに違いない。
それは明日かもしれないし、両親が亡くなって、自分だけになったときかもしれない。
たとえケンカばかりしている妹でも、
無視をされて会話のない兄妹でも、
ただ、いてくれるだけでどんなに幸せか……。
そうだ、今度の休みに栞が遊びに来たら、俺もきちんと言っておこう。
真顔で言ったら笑われるかもしれない。
でも、離ればなれになった今だからこそ、心からそう思える。
子供の頃から、俺のそばにいてくれて、
俺の妹に生まれてきてくれて───
『ありがとう ありがとう』
──全国のお兄ちゃんに捧げる物語──
──────
リアルな兄妹は、決してエロゲ妹のような理想ではないかもしれない。
作中の麻衣ちゃんのように『理想な妹』ばかりではなく、それはいわゆるエロゲだけなのかもしれない。
それでも、私はこの作品を通して、不器用で、でも愛しいと思えるリアルな『兄妹』を見てきました。
涼さんと、栞さんの、互いに相手を想い合うがゆえに、お互いが素直になれない姿。
彰さんと、美紀さんの、お互い憎まれ口を叩きながらも、それでも家族として大切に想う姿。
その姿は、お互いにかけがえない大切な存在だと痛感しました。
大切な大切な僕だけの君 これからもずっと一緒にいよう
ありがとう ありがとう 僕の妹に生まれてきてくれてありがとう これまでもこの先も、変わらないこと
喧嘩して、また仲直りして 繰り返す日々の中 きっと僕らの絆はそう、もっと深くなれる
──ED曲 Dear My Precious より──
この物語を綺麗事だと片付けるのは簡単です。決して恵まれた兄妹だけではないのはわかります。
ただそれでも、この作品を読んで、多くの共感できる部分がありました。
互いのことを大切に想うがゆえに、リアル、そばにいるあなたのことを大切にしたいと思わせてくれる作品でした。
それを改めて『エロゲ』で描ききったことに敬服します。
面白かった。とても良かった。
②前半で描かれる涼さん視点と、後半で描かれる栞さん視点
そして、また良かったのが作品の構成。
前半は、お兄ちゃん視点で妹たちの姿を見てきました。
理想の妹である麻衣ちゃんの笑顔には、何度も何度も可愛い!と悶えましたし、
リアル妹である栞さんには、どうしても上手くいかないコミュニケーション。
それでもその垣間にあるきっと栞さんも主人公のことを大切に想っているんだろうなと思わせてくれる日常には、心穏やかになったのを覚えています。
『大切な妹だと思ってるから
だから、もっと俺に頼ってくれていいんだよ
俺たち、ふたりだけの兄妹なんだからさ』
なんといっても、お兄ちゃんである涼さんから栞さんへ向ける愛情の深さと言ったら。
球技大会の話は最高でしたよね。
決して、試合のためじゃない。古賀に対する思いでもない。ただ妹のために。
師匠である妹のために、努力は裏切らない姿をお兄ちゃんとして見せるために。
そして昔のような笑顔を、作中ではじめて見せてくれた栞さんの笑顔。
『さすが、わたしのお師匠さまだね』
ガッツポーズしたのを覚えています。
その後、最後に描かれる栞の章。これがもうほんとに最高だった。
主人公視点からは見えなかった、栞さん視点から見るお兄ちゃんへの想い。
主人公の前では見せなかった笑顔が、美紀さんや麻衣ちゃんの前では見せるその姿。
そして出てくる言葉、想いは全てお兄ちゃんのため。
お兄ちゃんの前でそっけなくしていたのは、やがて訪れる二人の離れ離れになった時、辛くないように予防していたから。
理想の妹姿である麻衣ちゃんの姿にはどぎまぎして。
お兄ちゃんにおんぶされたときの、昔の姿に戻るあの姿。
素直になった栞さんの可愛い姿。
「わたしにとって家族と呼べるのは、お兄ちゃんしかいない。」
「忘れるわけがない。忘れられるわけがない。」(幼少の思い出)
「わたしはもう単純でいいや。お兄ちゃんが好き。それだけ。」
「本当は子供の頃みたいに、ただこの人に甘えていたかった。」
その溢れるばかりのお兄ちゃんへの想いの深さといったらもう。もうもう。
前半でお兄ちゃん視点から見ていたからこそわかる、二人のお互いに想い合うがゆえにすれ違いの歯がゆさ。
それ以上にお互いに大切に想っているがゆえの微笑ましさ。
そうして高まった中での最後のバスケの試合ですよ。
栞さんと主人公のバスケの1on1。
もう心の堤防が崩壊しました。
幼少時代のバスケ、涼さんは栞さんのことを想うがゆえに手加減して。
そして現在の試合は、妹のことを想うがゆえに、『手加減はしない』
そして、何よりも、それを栞さんは知っていた。
『あの勝負は、絶対に手加減してくれないってわかってたよ。』
『そんなことないよ。お兄ちゃんは、やっぱりわたしのお師匠さまだよ』
涼くんと栞さんの兄妹の最高が描かれていた瞬間だったと思います。
互いに想うことは、互いを過保護にするだけじゃなくて。
最後には、栞さんの手紙の苗字は変わっていました。
それでも、彼らの繋がりはそんなことでは揺らがない存在だと思わせてくれました。
素敵な兄妹愛を見せてくれるお話でした。
それは何よりも実感させてくれる構成だったからこそです。そこが良かった。
③もう一組の兄妹である彰さんと美紀さん、良き理解者の存在。
またこの作品を語る上で欠かせないのが、もう一組の兄妹である彰さんと美紀さん。
彼らの兄妹像も素敵なものがありましたよね。
彰さんの『エロゲ最高!リアル妹なんて』って言葉は決して真実ではなくて、
妹である美紀さんのことをどれだけ大切に思っているかが伝わるシーンがいくつもあって。
美紀さんも、口では悪く言うものの、照れ隠しの裏返しで。
美紀「あたしって、幸せ者ですね。優しい兄貴と、大好きな先輩に大事にされて♪」
彰「でもな、子供だろうが大人だろうが、兄貴は妹の幸せを考えちまうもんなんだよ」
「お前は俺の、たったひとりの妹だからな」
美紀√は、親友の妹√でありましたが、同時に彰さんの兄妹愛が伝わる√でありました。
互いに喧嘩できるのは互いに心を許している存在だからで。一つの『リアル』な兄妹像でしたよね。
同時に、主人公がたとえ他のヒロインを彼女に選ぶとしても、妹を愛する気持ちは揺らぐことがないことを
示してくれる√でした。彼女たち2組の兄妹はこれから先も仲良くやっていくのだと思わせてくれる終わり方。
こちらも結構好きです。
最初は、ユーザーから文句を言われないために、作った√だと思った、ごめんなさい。
素敵な√の一つでした。
またもう一つの重要な点として、彼ら兄妹は大泉兄妹のよき理解者でもありましたよね。
特に、主人公が彰さんに栞さんのことを打ち明けた時の答え、栞さんへの美紀さんが本当にイケメンで。
彰さん作中セリフより──────
……俺はな、涼。確かに妹を愛してる。
でもそれは、あくまでゲームの中だけの話だ。
現実で妹と一線を超えちまうのだけはいけないと思ってる。
けどな、涼。
俺はわかってたよ。お前が栞ちゃんを好きだってことは……。
昔からお前は、栞ちゃんのために必死だったからな。
そんなお前をそばで見てて思ったよ。
こいつは、本当に妹が好きなんだなって。
お前のことだから、すべてを覚悟の上で妹とそういう関係になったんだろ?
(中略)
誰からも祝福されない?そんなの勝手なお前の思い込みだろ。
悲劇の主人公を演じてる暇があったら、さっさと結婚式の段取りを決めろ。
俺が華麗に友人代表挨拶を決めてやる。
美紀さん作中セリフより────
泣く前に、あたしに相談しなさいよね。バカっ……。
主人公にとって幸福だったのは、周りの友人に恵まれたことでしょうか。
全員に肯定祝福される必要なんて必ずしもなくて、
少ない人数でも周りから受け入れてくれるだけで見える世界が変わるんだと思わせてくれる彼らが
とても素敵な存在でした。
④麻衣ちゃんという存在について
そして、何よりも外せないのが彼女の存在。
彼女について語るのは正直難しい……自分の中でも整理しきれてないのがあります。
正直言って、麻衣ちゃんの笑顔や彼女のことがとても好きだったので、展開や立ち位置について辛かった。
栞さん√をやるまでは、彼女の存在はエロゲの妹という存在だと思い込んでいたし、そんな彼女と別れるしかない麻衣√はもう辛かった。あえて兄妹でいるのは大泉君だけしかありえないという答え。
──────────
『お兄ちゃんの妹は、栞さんだけだもんね』
ここでもし、この子のために嘘をついても喜びはしない。
だから俺は素直に頷いた。
それでも、麻衣ちゃんが大切な存在であることは変わりない。
(中略)
『麻衣とお兄ちゃんは、兄妹にはなれない運命だったんだよ』
『私はあなたの妹になれなくていい』
『あなたからもらった思い出だけで、私は生きていける』
─────────
『だから、ずっとふたりには仲のいい兄妹でいてほしいです』
正直辛かった。消えてしまうシーンは辛かった。
エロゲという媒体でありながらも、エロゲ妹の彼女と幸せにする展開はないのかと。
もちろん栞さんと涼さんの兄妹像は好きなんです。
でもその感情とは別に、麻衣ちゃんのことも好きなんです。彼女の可愛さはそのまま可愛くて。
笑顔がほんとに可愛い。だから彼女も幸せになって欲しい。
何よりも麻衣√の最後は、栞さんという存在がいるけれど、それでも麻衣ちゃんのことが好きで、ブログを立ち上げていくエンドなのが、嬉しいようなでも栞さんのことが放ったらかしのようで辛かった。
彼女への想いが変わったのは、栞さん√で真実を知ってからです。
実は、彼女は舞という病弱なリアルの人間であり、神様の気まぐれで妹である麻衣ちゃんになって家族に加わったのが真実。
妹という立場に憧れ、そして実際に家族の一員として兄妹としての日常を過ごす中で
気づいてしまった兄妹にはなれないという真実。
でも同時に、兄妹の良さ、家族の繋がりの良さに気づくことができて、自分と向き合うことができるようになった。
だからこそ、兄妹にはなれないがゆえに、涼さんと栞さんには幸せになって欲しいと願う気持ち。
これって、読み手である自分自身の想いと同じなんですよね。
この作品を通じて、兄妹って良いなと思わせてくれて、でもだからこそ幸せになって欲しいと願う気持ち。
確かに麻衣ちゃんが幸せになるという展開はなかったかもしれない。
でも、同時に『リアルな兄妹』が幸せになってほしいと思わせてくれる立ち位置のキャラだった。
だから、麻衣ちゃん√の最後の別れの言葉が今になってわかる。
それは、別れの言葉じゃない、作品だけじゃない本当のリアルな兄妹への気付いて欲しい言葉だと思えてならなくて。
『神様はいるよ、頑張ってお兄ちゃん』
本当に、本当に素敵な物語だった。
最後のエピローグとともに、BGMそのままにタイトル画面に戻る演出には、もう言葉が出ませんでした。
穏やかな気持ちになれる、このひと時。
本当に素敵な作品でした。
以上が、私にとっての「リアル妹がいる大泉くんのばあい」の感想でした。
新ためて、エロゲという媒体で、これだけ現実世界の『リアルの兄妹』へ捧げた物語を描ききったことに敬服します。
素敵な物語でした。ありがとうございました。
以下は、作品に関係ない、私自身の駄文なので、読まなくてもいいです。
私には、リアルな妹というものがいません。
なので、作中のように本当のお兄ちゃん像を現実世界で実感することはないです。
守るべき存在だと、愛すべき存在だという妹の存在はいないです。
けれど、リアルには姉がいます。
作中のように愛し合うだったり、憎まれ口を叩き合うなんて関係ではなくて、
一緒に買い物したりはあるけれど、適度に仲がよくて、今では子供を産んで、家に遊びにくるような存在です。
ある意味日常の一部になっています。
けれど、今思い返せば、姉がいてくれたからこそな日常がありました。
両親には相談できない、姉だからこその相談や話を何度もしましたし、逆にされることもありました。
一緒にゲームをすることもありました。
姉の姿を見て育ちました。私とはまったく違う人生で、こんな自分のようにエロゲをやるような人ではないですが。
それでも、姉がいて私がいるのは事実でした。
そんなふとした日常があったなと、思い出させてくれたのが、私にとってのこの作品のもう一つの感想でした。
ありがとうと伝えたいけれど、きっと直接本人には恥ずかしくて伝えられないので、胸の奥にしまっておくとして。
そんな当たり前の日常があることに感謝をと思わせてくれる作品でした。
以上です。
兄妹って良いですね。家族愛って良い。