ErogameScape -エロゲー批評空間-

merunoniaさんの滅び朽ちる世界に追憶の花束をの長文感想

ユーザー
merunonia
ゲーム
滅び朽ちる世界に追憶の花束を
ブランド
郷愁花屋
得点
100
参照数
1275

一言コメント

この滅び朽ちる世界で、それぞれの花を込めて、追憶の花束をあなたに───。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

「あの薔薇のように、物語の主役になりたかった」
「どんな憂鬱な雲も吹き飛ばしてしまうような、力強い風になりたかった」
「わたしそのものが、必要とされる……そんな人間になりたかった」
「他愛のないことに、笑い、泣き、感動することができる、普通の人間になりたかった」
「子供の頃憧れたように、正義のヒーローになりたかった」
「目に見える人の全てを救う、慈悲深い人になりたかった」
「脇役じゃない、物語の主役になりたかった」
「生まれた意味を、愛された人間になりたかった」


そこには、人間たちが精一杯生きた姿がありました。
そこには、紡がれる物語がありました。
だからそこには、彼らたちの奇跡がありました。
だから、その永遠のために、だからこの滅び朽ちる世界に、追憶の花束を。
それこそが永遠の愛──。

『滅び朽ちる世界に追憶の花束を 』


この感想の形式は、前半ネタバレなしで良かった点。後半ネタバレありで、感想を書いていきます。


本作はサークル「郷愁花屋 」より2010年発売された、いわゆる同人ゲーです。選択肢のない一本道の物語が8つ用意されており、プレーヤーはその8つから任意に選んで読み進めていきます。

【シナリオ】
「このような人間になりたかった……」
そこで苦悩する登場人物たちは、どのような答えを見つけるのか。
それぞれの時代が抱える問題を前に、そこで生きる人間はなにを見るのか。
私たちプレーヤーは8つの物語、それぞれ8つの近未来の時代を生きたそれぞれの登場人物の物語を、それぞれの花と物語の普遍的テーマになぞらえながら見ていきます。近未来のため科学SFの要素も入りますが、そういった要素は薄め。むしろ人間模様を描く、設定よりも雰囲気ゲーです。

なによりも素晴らしいのは、それぞれ8つの物語にテーマとなる花と普遍的テーマが用意されており、各登場人物たちによって出された答えが、花と普遍的テーマに帰着する瞬間の収束。この瞬間が本当に面白かったことです。
例えば「永遠」を願う普遍的テーマがあった場合。私たちにとって永遠に生きたいのはなぜか、そして登場人物たちにとって「永遠」とはなんなのか。
そしてなによりも、なぜこの物語にはこの「花」と「タイトル」がテーマとして選ばれたのか。全ての要素に意味があったのだと繋がる瞬間は、ただただ圧倒されました。
このそれぞれの花の物語に対する主張の熱量と構成力、そして最後にそれぞれの花がさらに収束される最後の花束の構成力、一番この作品で素晴らしかった点ではないかと思います。

【絵】
淡いこの塗りはまさに世界観にぴったし。世界観の儚さにとても合っていた。CGは少なめだけれど、それがまたいい。だからこそ、感情的に訴えてくる表情を見せたCGには何度心を打たれたことか。むしろCGを見せるシーンを厳選している分とても良かった。まさに雰囲気ゲーの塗りだなぁと思います。
科学SF×哲学(というより主張かな)×自然、という要素を絡めた中でよくもここまでこれしかないという絵で統一感の出るものに仕上げることができたなぁと思います。

【BGM】
こちらも素晴らしかった。BGM一つ一つに込められている思いが本当に丁寧。淡い絵によく合った、まるで童話の物語のような、でも主張のしっかりした音楽といいますでしょうか……。
ボイスがないゲームな分とても良かったと思います。特にタイトル画面の音楽で、一目惚れ(?)した最初のあの衝撃は今でも心に残っています……。
musicモードにコメントが残されているように、全てオリジナルで一つ一つをその場面に合わせて作られている曲調は、それぞれの物語に上手にあっています。

【テキスト】
科学SFや哲学という要素を扱いながら読みやすいテキストだった。
言葉をよく選んでいたというのもあると思いますが、一番良かったのは「繰り返し繰り返し同じ意味合いを持つフレーズを言葉を変えながら重ねて書いていた」ことでした。
例えば
「私は~だったのだ」
「つまり私は~だったのだ」
など、重要なところは重ねて書くところで文章の流れにも強弱がついてて、とても読みやすかったです。

【演出面】
演出面も凝っている部分が多く見られました。
クリアごとに変わっていくタイトル画面。まるで花が増えていくように追加されていくrememberance mode。
特にとても良い演出だと思ったのは、物語の作中で、とあるターニングポイントのようなものに差し掛かった瞬間に鳴る「ポーン」というような音等。主人公たちの表情の変化や心情の変化に伴って鳴らされる演出は、些細なものでありながら惹き込まれた要因の一つだったのではないかと思います。

以上良かった点を上げました。
本当にどの要素をとっても素晴らしかったです。

以下はネタバレで各物語の感想を書いていきます。




























ここからはネタバレの感想になります。ご注意ください。
ネタバレ感想の構想は基本的に、
(1)普遍的テーマへの考察(つまりこのお話では何が言いたかったのか)
   考察の根拠となったシーンや、印象的なシーンの感想
(2)物語への感想
(3)好きなBGMについて
となります。

ここからの感想はどちらかというと、自分がこの作品にどのような想いを抱いたのか忘れたくないため、また自己解釈についてを記憶保持するために書く感想です。そのため、物語のあらすじを描いていく読書感想文的な要素を含む感想になります。
また、自己解釈のため見当違いもあるかもしれませんがご了承ください。

感想は自分が実際にプレイした順番を基本に書いていきます。
forever→melancholy→circular→lost→innocent→vivid→abandoned→dearです。
ただ、dear(pfy含む)による「永遠の愛」とはなんなのかを理解したほうが、ほかの物語でも見られた永遠の愛についてさらに理解が深まると思って、dearを最初の感想に持ってこようかまよったりもしたのですが……。
やっぱり最初のプレイ時の順番のまま、感想を書きたいのでdearは最後にします。
また、隠し要素?はまだ発見出来てない状態での感想です。
本編と、その後日談のpfyだけプレイしました。
pfyはまたそちらの批評空間で感想を書きます。



1. prologue
(1)
Welcome to the world end...…
And, I talk the story of remembrance.
Hello World!


(2)
今でも、あのタイムマシンに乗り込むときからの、それぞれの物語を駆け巡るBGMの鳥肌を覚えています。あのワクワク感、高揚感。一度っきり、一方通行の未来旅行。設定からしてこんなの面白いに決まっていると。
そして今、すべての物語を見終わったあと、present for you が終わったあとにもう一度prologueを見てみました。それぞれの時代の1シーンを駆け抜ける事に胸が締め付けられるような不思議な感じ。特にブルーの笑顔にやられました。
そして最後の文章の本当の意味。世界の果て。
この世界にようこそ!あなたに、永遠の愛のお話をしましょう。




2.forever

forever ・・・永遠に
薔薇 ・・・愛情、情熱
青薔薇・・・奇跡

【緋依】
『………薔薇の花のようになりたかった。
 何百何千と咲く花々のなかでも凛として主役の座につく、赤い赤い薔薇のように。
 花の女王たる彼女のように。
 あたしも、この永くはない人生を…、物語の主役として、生きてみたかった。
 …憧れと…羨望。
 たどり着かないその栄光に焦がれて、手を伸ばす───…。
 誰もが主役であることを疑わない真っ赤なドレスを身に纏って、多くの観客の視線を一身に受けて、
 スポットライトを浴びて……。
 ただただ終わりが来ることが怖くて
 ………そんな愚かな夢を見た、愚かな女の、愚かな物語。』


(1)
薔薇のように美しく、永遠の主役でいたいと願った彼女のお話。
その中で見つけた彼女にとっての「永遠」とはなんだったでしょうか。
その中でみつけた彼女にとっての「美しさ」とはなんだったでしょうか。
だからこそ願う「永遠」とはなんだったのでしょうか。


彼女がみつけた「永遠」それは今を生きる「一瞬の永遠」でした。

【陽子】
時間をかけて、限りなく美しい瞬間を移した一枚の写真。
その写真の中でね、その美しい時間が……ずっと時を止めて……永遠に続くの


一度きりだからこそ、この瞬間にはかけがえのない価値がある。
この一瞬が、自分の中で永遠に続いていく。これこそが永遠だと。
永遠に生きることはできず、だからこそ。
この今の幸せな時間一つ一つの永遠が、自分の中で続いていく──。
それはかつての写真一枚一枚がそこにあるように。
緋依は、永遠の一つの在り方を見出しました。




彼女にとっての美しさとは何か。
それは紅い薔薇のような自然界にある美しさなのか。(過去・本来の自分)
青薔薇のように自然界にはない、人工的な美しさなのか。(未来・整形)

彼女の答えは、過去の自分と今の自分を認めた、両方の自分でした。
整形して生まれ変わろうとした堂々とした態度、凛とした美しさ。
整形したあとの自分の姿に自身をもった美しさ。
そのどちらもが美しい。

【緋依】
「あなたはあたし
 昔のあなたがいて、今のあたしがいる 
 過去に受けた傷が、今の美しい自分を形作っている
 だからあたしは過去のあたしを殺すことなど、できない。
 それは今のあたしを殺すことにすら繋がる……。
 ……だからあたしはもう、過去を否定しない。
 本当はあなたは………、ずっと生きて、あたしの中にいた。

 認めてあげよう 昔の自分を否定するのは止めよう。
 あたしの中で変わっていない、…いいところもあったんだ。
 ……あたしたちは……本当は、ずっといっしょにいた。
 隠す必要なんて、……きっとない。

 あたしが自分に自信を持ちながら好きになりきれなかったのはきっと、
 ………過去のあたしを受け入れていなかったからだ。
 それはあたし自身なのに、あたしじゃないという矛盾。

 まるであたし以外の誰かがあたしを演じているような…
 そんな心とからだが別物になってしまったかのような、…おかしな状態。
 だから、あたしは過去のあたしを殺してしまうことで、
そのせいで、きっとあたし自身を完璧に好きになれなかったんだ。

 だから顕二といても、陽子といても、その愛情も友情もすべて
 偽物のように感じて、…二人を完璧に信じられなかったんだ。
 すべてを偽物のように感じてしまったんだ。

 それは整形したからじゃない。
 過去のあたしを隠して、あたし自身を偽ってしまったから

 醜いあたしも、ちゃんと受け入れよう。
 それもあたし自身なのだから………。
 醜いあたしも、美しいあたしも、………あたし自身。
 それこそ絶対の美。

 醜さと美しさを兼ね備えるあたしこそ、真の、…本物の美の体現だ。
 堂々としているあたしは、本来は過去のあたしのものだった。

 過去のあたしにだって、美しい部分があったはずなんだ。」




紅い薔薇も美しく、そして青い薔薇も美しい。
それは紅い薔薇は堂々とした今の美しさがあり、青い薔薇はそのような美しくあろうとした彼女の内面の強さだったから。
過去と今とそして未来、どの自分も受け入れて認めることで彼女は本来の彼女であり。
彼女は整形したから美しいのではなく、整形をして変わろうとした彼女、勇気を出して告白をした彼女、堂々とした彼女全てが美しく。だからこそみんなが惹かれたのだと。
まさしく彼女は薔薇のような存在であったと思います。
緋依は、自分の人生に何も後悔はしていませんでした。



最後に、だからこそ願う緋依の「永遠」とはなにかについて。
そもそも彼女はなぜ永遠を願ったのか。それは彼女自身が今が幸せだったからです。
親友がいて、愛する人がいて。
だから不老不死の研究によって今の幸せの永遠を望んだのだと。

つまり彼女にとって不老不死の研究を続けることは、今が幸せの証明であることに違いなかったのだと話します。

【緋依】
あたしはいつしか、永遠を願うほどに今このときを、愛し始めていた
何も終わらないで欲しいから、何も変わらないで欲しいから、永遠を願った。それほどまでに、自分の生を愛した。
「愛することで…………永遠を知った。あたしは……………とても幸せだった」

永遠を求めることこそが陽子たちの日常を愛していた証であり。
永遠を求めることこそが賢二への愛であり。
永遠を求める想いこそが、彼女の愛の証明。
だからこそ、彼女は不老不死の研究を続けたのだと。
だからこそ、彼女は最後の不老不死の薬を陽子に与えたのだと思います。
緋依の想いを陽子が受け継ぐために。
これは、賢二が緋依のために青い薔薇の研究を続けたのと同じ愛の証明でもあったのですね。
ここで全てが繋がった瞬間は本当に彼女が綺麗で美しくかっこよかった。


私は、最初は自分の努力して手に入れた美しさを永遠なものにしたいと、そう願って始めた「不老不死の研究」最初は自分のためだけであり、永遠を求めたのだと思っていました。
最後には永遠とは一瞬の美しさが自分の中で続くこと、永遠を求めることの証明、そして本当の美しさを知った彼女が続ける「不老不死の研究」の意味合いは、最初の意味合いとはまるで別のものでした。

悲観の「永遠」ではなく幸福の「永遠」
一瞬が、永遠になる。あたしの中で想いは在り続ける。そしてその想いは受け継がれる。
永遠なんてものはこの世の中にはないと知ってはいても、それでもずっと一緒にいたかったと。
そう願うことが、そう想い続けることが、彼女にとっての『永遠の愛』



(2)forever感想
まず8つの中からどのお話を最初に始めようかというとき、知り合いから教えていただいたのが、「foreverを最初に始めるといいよ」とのことでした。最初のテーマから「永遠とはなにか」「美しさとはなにか」と、普遍的なテーマだけど難しいテーマだなと0章で感じたのが今でも記憶に残っています。
他の章でも共通している点もありますが、こういった普遍的なテーマって、上手に中身が伴って書かないと所詮言葉だけ、綺麗事を並べただけで説得力に欠けてしまうことが多いと思います。特に今回は「永遠」と「美しさ」の二つは、連想される言葉としてはやがて終わりを迎えることと、「老化」への恐怖といった、永遠とは決してプラスな言葉ではなく、今を否定するマイナス要素になりかねない事象です。
しかし、この物語では違いました。永遠と一瞬の対比による肯定、そして真の美しさとはなにか、彼女自身の苦悩と答えを出した堂々とした姿があったからこそ、ここまで説得力を伴ったお話として完成がされていました。
 
青い薔薇が完成することは不可能なら、自然界に存在しない私のような存在は決して、認められるものではないのではないか。
「美人じゃなくてもよかった。ただ、平凡な幸せを掴みたかった。……あたしにも、 誰かに愛される権利を……。そんな当たり前の権利が、欲しかっただけなんだ
 ──。」

こうした彼女の苦悩と彼女自身の気づきがあったからこそ、最後にみつけた彼女の答え。その堂々とした姿。私自身の全てを受け入れ、一瞬の永遠を願う彼女。
本当に、本当に緋依さんかっこよかったー!!

またなによりも題材選びが秀逸ですよね。
赤い薔薇=自然界に存在する堂々とした花の象徴
青い薔薇=自然界に存在しない人工的な美しさ。完成されたことがない。
そして人工的な美しさの「整形」
彼氏の賢二の「青い薔薇の研究」
ほかの物語でも言えることですが、本当に題材が秀逸でした。

その他ですが、pfyのお話でしたが、賢二の人間らしさも好きです。
賢二の人間らしさがあったから、緋依がお似合いで。
pfyの会話では、forever組が一番大好きです。


そしてこの最後に提示された「永遠の愛」
私の中で一瞬一瞬の出来事が永遠に続くこと。これこそが永遠。
これって、「dear」さらには「pfy」で提示された「永遠の愛とはなにか」の答えそのものなんですよね。「forever」の場合では、過去の自分から未来の自分へいつまでも自分の中で一瞬一瞬の想いは永遠となって残り続ける……。ひとりの人間の中のミクロな視点ですが。ようはそれが、地球というマクロな視点の話になっただけで。地球の歴史という膨大な流れの中で、一人一人の人生、生き様、それらの一瞬一瞬の永遠が、続いて欲しいと想いが語り継がれることで永遠の愛となる──。
また、永遠を求める=つまり、もっと続けたかったと一緒にいたかったと願うこと。これはpfyにおける、最後の永遠の愛への答え。

foreverに始まって、dearで終わる。
すべての物語をプレイし終わった後で、すでに答えはforeverの段階で出ていたのだと思ったらとても素敵で素晴らしいと思いませんか。私は圧巻されました。

永遠はとても身近にありながら、でも手に届かない。
永遠なんてものは存在しないけれど、でも永遠はここにある。
不思議なもので、とても素敵ですね。


(3)foreverBGM
  foreverのBGMで一番好きなのは、「ブルーローズ」。
   日常的な風景の中でふと気づかされたようなイメージで不思議なメロディー。
   foreverはどれも日常のなかの気づきというイメージがあります。
   また、「僕の望む未来」も薪元くんの謎さが表現されてて好きでした。





3.melancholy 憂鬱な浮世

melancholy……憂鬱
紫陽花  ……元気な女性、辛抱強い愛情、移り気


【蒼子・紫亜】
『………風のようになりたかった。
 どんなに憂鬱な曇空でも、雲という雲を吹き飛ばし晴れにしてしまう。
 どんなに爽やかな青空でも、吹き荒み大気を巻き上げて、雨を降らしてしまう。
 この抑えきれないほどの強大なエネルギーを。
 やり場のない怒りや、焦りや、不安を。
 …世界を駆け抜けて、大空を舞い、全てを吹き飛ばしてしまうほどの巨大な風を引き起こしたかった。
 ………この憂鬱を。
 天気に振り回されるあたしたちの、憂鬱を吹き飛ばすだけの奇跡を。
 神様、どうか引き起こして。』


(1)
過去と現在を比較しあいながら、キーワードを見つける少女漫画のような恋愛物語。
元気な少女の蒼子(過去)と紫亜(現在)、人生をなんの疑問も持たずレールの上を歩く清二郎(過去)と清四郎(現在)。
そのレールの上を歩かされる男の子が、風のような少女に出会うことで晴れの美しさを知って、憂鬱という感情を覚えてしまい、同時に僕も風になりたいと願う物語。
未来を変えたい、自分を変えたいと思う祖父(清次郎)と彼の死してなお世界を変える姿を見て、そして紫亜と出会い自分も変わろうと思う清四郎。

話は一番ストレートで読みやすかった物語ではないでしょうか。

【蒼子(現在)】
今のほうが好きとか、昔のほうが好きとかは、分からないわ 。
でもわたしは、今の時代も好きと思えるのよ 。
探せば、楽しいことの欠片はたくさん落ちているのだから。
それは今も昔も、そしてこれからも…決して変わらないわ 。

明日の天気が分かっても、わからなくても。
この世は浮世と呼ばれ 人はその移り変わる世界で、浮かれたり、憂いたりする。
そういうものなのだ…。


薪元くんは、epilogueで世界の果てまでタイムトラベルをしました。そこで、どの時代でもその時代の社会問題を抱え、苦悩し、完全な科学の理想の世界はないと絶望し、そして理想の世界は実は私が生きていた時代に、そしてどの時代にも人々が一生懸命生きていたではないかと気付かされることになります。
ここのおばあちゃんのセリフ、実はどの時代でも浮かれたり、浮いたりするのがこの浮世。まさにこのセリフが合うのではないかなと思うのは考えすぎですかね。
だからこそ、その時代には楽しいことがあるんだと、一生懸命生きて笑顔でいるんだと思うと。楽しいことはそばにいくらでもあって、その人生を楽しく過ごせるかどうかは自分次第で未来を変えるのはいつだって自分だと。行動しようとした清二郎と清四郎の二人も楽しく過ごそうとした行動で素敵なことだと思います。
まさしく青春ですね。


次に彼、彼女たちにとって憂鬱とはなんだったのかか。
予想外のことが起きて欲しかったからこそ、晴れの日が憂鬱だった紫亜。
予想外のことが起きて欲しくなかったからこそ、晴れの日が憂鬱だった蒼子。
予定調和な人生も憂鬱で。予想外な人生も憂鬱で。
憂鬱な気持ちも自分次第、誰かと気持ちを共有することが楽しいのだと。
憂鬱だと思ったら、それを打ち破る楽しさを見つければいいのだと。
そのことを二人に教えてもらった清次郎と清四郎の二人は……。

甘酸っぱい。甘酸っぱい。甘酸っぱいです……。

天気に左右されるのが嫌で、蒼子と一緒にいたかったからこそ、天候でさえ自分が嫌っていた法則性のあるものにしてしまった清二郎の不器用さと、それを最後には自分で打ち破り未来を変え、虹をかけたパスワードがほんとうに素敵で。

『あなたと一緒だからこそ楽しいのだ』
最後のおばあちゃんの涙が大好きです。


○melancholyの異質さについて
ここで、私はmelancholyの話は他の話とは異質、というか独立していると感じます。それは、他の物語では物語同士が関連していることが多いのですが、melancholyではあまりそうった関連要素が薄い。
そもそもmelancholyって過去と現在を交互に見ていくために、そこで『この想いが受け継がれている』という要素がすでに一つの物語で表現されているんですよね。他のそれぞれの物語と違って。ここがその理由であったのかと思います。そういった意味で、melancholyはちょっと特殊なケースだったのかと思います。



(2)melancholy 感想
一番好きなシーンは某ハイキック(だっけ)シーン()
と冗談は置いといて……。

過去と現在を行き来しながら、ヒントを得て謎解きしていくっていうシステム。面白くて好きなんですよね。リンクさせながら予想しがいもあって。特にパスワードだったりも素敵で。
ある意味一番平和で、なんだろう安心して読んでいられたお話といいますか。一番その時代に左右されない元気なお話でしたよね。特に紫亜のキャラが憂鬱を吹き飛ばす!ってキャラで。テーマが憂鬱ながらも、どこから明るい、曇空に太陽の光が差し込むようなお話。

またなによりも魅力的なキャラなのが蒼子さん。反則かもしれませんが、彼女はPfyの言葉が一番大好き。それは、緋依の、昔の自分も今の自分も満足している姿を見ての一言。

【蒼子 pfy】
「うん、ていうかね、あるがままが一番かなって」
こんなかわいい孫に、もう一度会いたいから。
このままでいいかなって、思うんだ。
分かるんだ。
綾小路くんと別れて、分かり合えなくて、二度と会うことがなくなっても。
その未来でしわくちゃのおばあちゃんになったあたしは、きっと笑ってる。
紫亜ちゃんの未来のあたしは、いつも笑顔で穏やかなんだ。
緋依さんと同じように空を見て笑ってる。
それは紫亜ちゃんの未来のあたしでしか得られない、最高の笑顔。
一生懸命生きているんだ、今のあたしは。
それでいいんだ。」


おばあちゃんになった蒼子さんの姿を知ってるからこそ刺さった言葉でした。
きっと蒼子さんは、憂鬱を吹き飛ばすように過ごしていたんだなって。
読んでいる私自身も憂鬱な雲を吹き飛ばしてくれるような素敵なお話でした。ロマンチックでした。



(3)melancholy BGM
melancholyのBGMで好きなのは「マイナス×マイナス」
甘酸っぱい物語にぴったりの曲調。また題名が可愛いですよね。マイナス×マイナスでプラスになる。憂鬱なときも明るくなれるっていうのがぴったしで。素敵なBGMだと思います。
また、タイフーンも、シリアスなんだけれどどこかギャグのようで面白かったり。
憂鬱ということで、曇り空を感じさせつつも、どこか明るい不思議な曲調が多いmelancholyでした。




4.circular 巡り来る運命

circular……循環性、円形の、巡り巡る
蓮  ……清らかな心、神聖、救ってください
     ※蓮は「“蓮は泥より出でて泥に染まらず”」という言葉があるように、蓮は泥の中から清浄な美しい花が咲きます。

【マゼンタ】
『………慈悲深い人になりたかった。
 灰暗い泥沼の中でも手を伸ばし、救いを求める人の手を掴み、…手を取って助けてあげられる人に。
 人を愛し、人を許し…ともかく目に見える人全てを救おうと思える人に。

 かつて私の父と母が私を命懸けで救おうとしたように。
 わたしも……命懸けで救える人になりたかった。
 神様のように慈悲深い人になりたかった。

 …それは…自分の罪を悔い改めるために
 私自身が救われるために
 泥の沼の中で咲く、美しい蓮の花のように……私はなりたかった。』


(1)
マゼンタの独白から始まるcirclar。
圧倒的な性善説により展開されるお話。
まずは、蓮の花に例えて下記の二つの点から、「世蓮教」とはどのようなものだったかについて書いていきます。この性善説に対する個人的な感想はまた後述します。
また、別にマゼンタについての考察もこの感想では書いていきます。

①泥の中からでも咲き誇る蓮の花
②助け合い、全てがつながり巡り輪になり、蓮の花の形になる。

①泥の中からでも咲き誇る蓮の花
 世蓮教とは、世界の底辺とも言えるどのような経歴を持つ人でも救うことが一つの特徴としてありました。窃盗をしたもの、スピード違反で捕まったもの、詐欺師、殺人を犯したもと、どんな人であれ手を差し伸べ受け入れるお話でした。
 それは、どのような泥で濁った人でも、蓮の花が咲き誇るようにやり直すことができるのだと、その機会を与えるものでした。
その根拠となるのが、マゼンタ様の教えによる性善説です。

【マゼンタ】
でもわたしは、性善説を信じます。
だって私たちはみんな、自分にとってわるいことではなく、自分にとっていいことをしたいと、誰もが思っているはずです。
自分が悪いとわかっていることを進んでやる人は、きっといないはずです。
世間一般的に悪いと思われることをしている人のそのほとんどは、それを悪いことだと思ってやっているわけではないはずです。
わかってやってしまっている人は、ちゃんとその罪を感じ苛まされているはずです。
私たちは、善人になりたいか悪人になりたいかと聞かれれば、善人になりたいはずです。

人のためになにかしてあげたい、そのことで自分も満足できるということは
結果的に同じことではないでしょうか。
(※大吾の人によく見られたいというエゴではないかという質問に対して)

【大吾】(7章より)
今まで周りに責められてばかりで…心が疲れてしまっていたんだ。
そしてそのせいで罪を犯してしまった、俺たちと同じ人間だった。
罪を犯してしまったけれど………生きている人間なんだ。
だから少し心を落ち着けて休めれば、また頑張れる。
頑張ろうと自分から思える。
人間にはそういうちゃんとした心が…元から存在するんだ
生まれた時から悪人なんていない。
赤ん坊に罪はない。
だから俺たちは必ず…善人になれる。

②助け合い、全てがつながり巡り輪になり、蓮の花の形になる。
 ①により説明された性善説のこの考え方により、「互いが優しくしあい助けあうことができる」、「誰もが困っている誰かを救いたいと思っている」、そう信じ合えばみんなが手を取り合って連帯感を感じ、助け合うことに意味を見出す、蓮の花の形にように楽園がそこにある。という究極の助け合いの世界のお話でした。
最後の7章の大吾さんのセリフより。

【大吾】(7章より)
どうして人は親切にされると、それを疑いたくなるんだろう。
それはその親切が嘘である機会が、…今まで多すぎたから。

でも、人間は本当は優しくされれば自分も優しくなれる生き物だと、俺はそう信じたい。
本来はそういう心をもっていると。ただそれが…生きているうちに周りが濁って見え、互いの本質がわからなくなり……自己防衛の為に。嘘を嘘で塗り固めてしまう。
でも本当はだれもが思っているはずだ。誰かを救えるなら、救いたい。助けることが出来るなら、助けたい。嫌われるより、好かれたい。嫌うより、誰かを好きになりたい…。
だってそのほうが、きっと楽だから。楽しくて、素敵なことだから。
それは別に偽善でも何でもないだろう・・・?理想でも何でもないだろう?
本当はこんなこと、すごく当たり前のことだったんだ。
そう信じれば…目の前にそんな楽園が、あったんだ。

なんと言われても俺はこれからも誰かを救い続けていきたい。助け合って生きたい。
そうする自分が誇らしいと思えるから、俺はまた何度でも手を伸ばす。
その思いが……母さんのように、たくさんの人の心に残り、…それはきっと無駄に終わらないと願って。
ひとりがやれば、きっと皆もやってくれる。そう信じてる。
人には本来善き心があるという性善説を俺は…信じてる。

以上世蓮教の内容だったかと思います。
ただマゼンタと大吾の違いは、大吾は自分のすべきことを見極めることでした。
全てを救うという理想論だけでなく、目の前に救うことが可能な人たちだけを救う。
お金の貸し借りで人を救う大吾ですが、救う必要のある人だけ、可能な限り救うと、そこがマゼンタとの違いでしたね。
ここでの違いは、マゼンタが平等にしか見ることができないのが起因していると思います。詳細は後述しますが、彼女は未来が視えるがゆえに、誰かを選ぶことができません。

余談になりますが、大吾がお金の貸し借りについて、返せる見込みがありそうな人がなぜか見極めることができる能力に長けているという記述がありましたが、マゼンタの能力、人の因果関係を視ることで予知することができる能力がしっかり受け継がれてますね。


と今回の話で、一番の話の中心になる性善説による教えのお話について触れてきました。
が、正直私にとってこの性善説が共感できるかどうかについてはさほどそこまで大きな話ではないなと感じます。
むしろこうした「性善説による宗教的な普遍的な考え方が近未来でもあること」、「マゼンタのこうした教えが大吾をはじめとして人々に受け継がれていくこと」が面白かったです。

この誰もが人を救い合えば素敵な世界が広がっているという宗教の考え方、それこそ歴史を見れば昔から今まで形を変えてもずっと続いてきてることですよね。それこそ科学が発達した今でも、今後科学が発達する未来でも、きっとこの宗教的な考え方は問題になってくるのだと思います。
今回のお話でも、時系列から行くと、ええとinnocentの後だとしたら相当後になるはずです。それでもあえてここでこの宗教的なお話が持ってくることを考えたとき、どの時代でも変わらず宗教の問題があるのだと考えさせられたのは私だけでしょうか。
薪元くんは、完璧な世界を信じて未来へ飛び立ちます。こうした中で、宗教のような問題点が解決された世界というのはどのような世界なのか、可能なのかについて少し考えてしまうのは考えすぎですね()

またもう一つ面白かったのが「マゼンタ様の教えが、人々に受け継がれていくこと」
この滅び朽ちる世界に追憶の花束を、におけるdearの永遠の愛とは「思いを遺そうとすること」でした。それぞれの時代を生き抜いた、一瞬一瞬の永遠、それらが次の時代へ遺そうとする思い、今回のマゼンタ様の教えが受け継がれていくこともその一つであったのではないでしょうか。
また、その教えを受け継いで「自分もマゼンタの教えを広めよう」とした大吾。
彼の存在こそが8つの物語の中で一番「思いを遺す、永遠の愛を語ろうとした」人物ではないかとも感じます。
そしてこうしてまた、「蓮の花」は咲くのでしょう。

【大吾&マゼンタ】
産んでくれてありがとう。
16歳の俺に、メッセージを残してくれて、ありがとう。

私は、貴方を産んでよかった。

【大吾】7章
───俺を産んでくれてありがとう。
あんたと同じ運命をともにしよう。

この時代にも、dearでお話された愛、奇跡の一部があったのではないかと思うのです。
そして、ただ純粋に母親として子を思う、彼女の姿、母親の姿が素敵でした。
想いが受け継がれた姿がそこにありました。



○マゼンタについての考察
もう一つ感想で書くとしたら、彼女「マゼンタ」の存在。
マゼンタは緋色と紅の間に生まれた子供でした。そして、マゼンタの暴走(でしょうか)かそれか他の原因によって両親が死んでいます。凄惨な状況から生まれた彼女マゼンタが、なぜここまで性善説を持つ彼女になれたのか。
ヒントは、innocentのtips(闇ちゃんを救うシーン)とpfyにあります。

【マゼンタ】
こうしなければ、彼女が悪役になっていた。
彼女が人殺しになっていた。
私もあの人と一緒だった。
……正義の味方が駆けつけるのは、いつも誰かがピンチになってから。
だから、まるで、…これは私の過去の再現のよう。
私はようやく私の罪を償う機会に巡り会えたよう。
……。………。
………………ごめんなさい。
………ごめんなさい………。
………………誰にも許してもらえない罪を。
………もう、許してください………。



【マゼンタ pfy】
私はお父様のことを忘れたことは片時もありません。
お父様は私の救世主ですから。
お母様のことは、どうとも申し難いです……。
お母様は私自身のようなものですから。
ええそれはもう、生き写しのようなものなのです、私と母親はそっくりです。

【紅 pfy】
私の子はきっと…私の意志を受け継いで純粋な悪意そのものとなって、
この能力を強く受けて、不幸になるから。

もし言葉通りに受け止めるなら、マゼンタは生まれたときから未来が視え、そしてマゼンタは紅のように、まさに性悪説をもつようになるはずです。生き写しというほどですから。そこからなぜ性善説になれたのか。そこには、緋色が最後にマゼンタをかばったのでしょうか。
ここからは推測ですが、マゼンタが性悪説、未来が視えることで母親の紅を殺そうとし、緋色が庇い、マゼンタの罪を緋色が被ったのではないでしょうか。闇ちゃんの時のように。
だから、彼女にとって緋色は救世主の存在であったのではと思うのです。
そして彼女は、緋色のように正義の味方でありたいと願うようになったのではないかと思うのです。

次に、なぜ彼女が性善説であろうとするのか。
ヒントはcircular冒頭シーンのセリフと、pfyより。

『…それは…自分の罪を悔い改めるために
 私自身が救われるために
 泥の沼の中で咲く、美しい蓮の花のように……私はなりたかった。』

彼女の性善説には、「人のためになにかしてあげたい、それによって自分も満足するならそれでもいいじゃないか」という結果論があります。彼女の性善説の一つには、かつて自分が紅のように罪を犯そうとした両親の過去があり、自分自身が性善説になることで救われようとしたことがあるのではないかと、私は思うのです。
また、そこには同時に、紅から言われた緋色の自分の正義は偽善じゃないだろうかと苛む姿もあっての、マゼンタによる肯定だと思います。

そして二つ目の理由。なぜ彼女の性善説は、無差別に人を救うとしたのか。
それは、彼女が客観視による未来が全て視える存在であり、同時に正義の味方であろうとしたからです。

【pfyより】
正義の味方になるには未来が見えてはいけない。
なぜなら未来が見えて救うことは不平等の選択だから。
誰も救わない正義の味方こそが未来を見ることができる。

彼女は父親に救われて、父親のように正義の味方でありたかった。それこそが彼女にとって、父親の意志を受け継ぐことになるから。でも彼女には、未来が視えてしまう。そのような彼女が正義の味方になるにはどうすればいいのか。それは、主観性を持たず、それこそ神のような存在になり、だれでも平等に救うこと。
だからこそ、彼女はここまで圧倒的な性善説であったのではと思うのです。

【紅 pfy】
貴方と同じように彼女も、誰のことも救えないんだって嘆いているわ。
何もかも知って、世界の終わりを視て、どうしようもないことを悟って、
そのことを嘆く正義の味方。
だから、一緒ね、やっぱり似ているのね。
貴方の娘のマゼンタは、貴方の正義を受け継いでいるわ。


かつて、緋色は自分の正義が本当に正義であるのかと揺らぎ悩んでいました。紅に指摘され、結果的に誰も救えていないと嘆く緋色の姿がありました。
この姿はマゼンタも同じでした。
でも緋色もマゼンタも同じことがもう一つあります。それは、結果的に誰かが救われているという事実。緋色はマゼンタを救い、そしてマゼンタは大吾をはじめに大勢を救いました。緋色の正義の味方はマゼンタにより証明され、マゼンタの姿は後の世蓮教によって、証明されました。
こうした過去の人たちが、未来の人たちによって想いが受け継がれることで、証明されていく。この姿も、dearの永遠の愛の形の一つなのでしょう。


最後に、なぜ彼女は未来の予言を残したのか。
世界が滅びると、人々を不安にさせる予言をのこしたのか。
その答えはpfyにありました。
それは、ただそれでも、世界が滅び朽ちるとわかっていても、この世界を愛していて、どうかこの世界が続いて欲しいと願ったから。彼女の想い、彼女の永遠の愛でした。
唯物論ではなく、唯心論を信じた彼女。彼女の一つの願いの形でした。



(2)circular感想
circular考察長くなってしまいましたが、結論から言うとこの性善説の考え方全く共感できません。が、まぁこれは人それぞれ、私自身の考え方なので置いといて。
やはり面白かったのは、マゼンタと大吾の性善説VS性悪説の対論です。完全に大吾さんに共感していたので、マゼンタの考え方は私の中に入ってこずでしたが。同時にその性善説に納得してしまう大吾さんには、自分の中で彼と乖離してしまったのですが。ただ、永遠のテーマであるこの二つを互いにぶつけ合うシーンは面白かったですね。
個人的に良かったのは、考え方部分になりますが、やはり自分のエゴのために行動したとしても結果的に人を救うならばそれでいいじゃないかという考え方。さっぱりしてて、マゼンタ様もそう考えるのかと以外に思ったのが記憶深いです。

また、もう一つ面白かったのが信者たちの暴走シーンと大吾の説得シーン。信者たちは世界を救うために爆破テロ~と言いますが、大吾はまずは目の前の人々から救うためにと提案して説得します。この構図、まさにどこでも見られる宗教の暴走ですよね。(あえて暴走と表現しますが)
正直プレイ中はいきなりの爆破テロに唐突さを感じましたが、信者のある媒体の神聖化によるズレは簡単に起きるんだなーと感じます。宗教をテーマにした同人ゲーはちょこちょこ見られますが、(悪の教科書とか)こういった点でも面白かったです。

そして最後にはやはり純粋に、マゼンタと大吾の家族としての姿が一番好きです。産んでくれてありがとうと、そして8章のもしもの世界。こうして愛が遺されていくのだと、一つのテーマの現れを感じました。


(3)circular BGM感想
一番好きなのは「罪」
どこか独特なテンポがやみつきですね。
「虎と兎」だったりも好きだったり。不思議なテンポのBGMが多いなーって感じ。
あとはcircular─涅槃─ 解決シーンという音楽のイメージですが、悟ったような心境になれる、ピッタリなBGMでした。




5.lost

lost……失われた、滅びた
忘れな草……私を忘れないで、真実の愛
forget me not

『………物語の主役になりたかった。
脇役じゃない。
雑草じゃない。
名もない花じゃない。
私が主役になれる物語…。
それはとても小さな花だけど。
でも、それでも私は、この場所に咲いてるよ。
私は誰にも知られずに消えていく運命だけど…。
ここで咲いている。
小さな小さな青い花を咲かせている。 
ねえ、どうか。
ああ、だから、願わくば。
………私を忘れないで………。』


(1)
舞台は2999年7月。これはマゼンタが予言した世界の終末の年。
そしてループする世界のお話。
まずは、この物語の状況の整理から始めたいと思います。
あらすじをなぞっていくだけの文章になります。ご注意ください。

始まりはロストガーデンで目覚めるところから。ここからすでに世界はループをしていました。その回数は97回目。読み手の私たちはここから臆(茶色の髪の少年)の視点で物語を見ていきます。
そして100回目を向かえ、図書館の本の忘れな草の押し花が100個目を迎えたとき、終と呼ばれる少女によってループ世界から目覚めます。そこで明かされる真実とは、この繰り返される世界は臆(クリーム色の髪の少年)の頭の中で繰り返された理想の夢の世界でした。
(ここから臆と幾の表記が逆転します。臆が白髪の少年、幾が茶髪の少年です)
なぜ、このような世界を幾はループして繰り返すようになったのか。
始まりは臆が緑青校長に木っ端微塵くんの発明を発表しに行ったところから始まります。永遠の命を手に入れ孤独を恐れた校長は、神になろうとするがために隕石を呼び寄せ、世界を終わらせようとします。この事実を知った臆は、校長先生を止めようとします。同時に青緑校長に「願い事を一つ叶えてあげよう」と提案されたとき、「隕石を止めること」を願います。
しかし、青緑校長は「その願いが叶えられない」とし、代わりの願い事を叶えることにしました。それが「記憶を改変し、恋人と相思相愛になれるような、永遠と続くと思われる幸せな毎日が続いていくこと」
臆が本当にその願い事を願ったのかどうかは憶測でしかないですが、こうして校長先生に記憶を改変されたことで、幸せな日々と世界の破滅の瞬間の毎日を繰り返すことになります。

そして100回目を向かえ臆が目覚めた瞬間、大樹の枝が倒れてきたところを幾に助けられます。幾は物静かな人間ではありませんでした。
その後テレポートにより隕石まで移動して、木っ端微塵くんにより隕石を破壊することを提案。問題は誰が犠牲になるのか。臆が自分が主人公になると、自分がと主張します。忘れな草でも主人公になれるのだと。

と、ここまで話が進む中で、さらに真実が明かされます。それは、100回目からの臆の目覚めから枝が倒れてきて、臆が幾を助けたのは、翠(女の子)の妄想であったという事実です。真実は、目の前に枝が倒れてきたときに、幾は臆を庇おうとし、二人とも死んでしまったのでした。つまり、臆は夢から目覚めたと同時に、幾とともに死亡。
翠はその状況の中で、世界を救うために、運命を変えるために、物語の主人公になるために………。


さて、こうして展開されたlostですが、花子はこのお話を「臆病者の男の子がいた」としていました。この点から考えていきたいと思います。
臆病者の男の子とは誰のことか。ヒントは6章「青緑校長先生の言葉」でしょうか。

【青緑校長】
私も、君と同じ、臆病者なんだ。
生きることにそろそろ疲れてきてね。
けど、もうすぐ世界が終わるんだろう?
しかし予言によれば、あらゆる天災が起こっても人類はしぶとく生き残るらしい。
私はもうこれ以上生きるのに疲れてしまってね。
けれど私は臆病者だから、………ひとりで死ぬのは怖かった。
だから、この地球上の生物たち皆に一緒に道連れになってもらおうと思ってね。
         (中略)
君の望みは、孤独じゃなくなることだろう?
楽しい学園生活を送ることだろう?
好きな人と相思相愛で、それを羨ましがる親友がいて。
そんな毎日が永遠に続いていく。
君は私と同じだろう?
君と私はとても似ているだろう?
         (中略)
永遠だと思っていた、…あの幸せな日々……。
私がその望みを叶えてあげよう。



ここで考える臆病者とは、一人目は「青緑校長」です。
上記テキストから見られるように、永遠の命と同じものを手に入れ、30世紀の魔法のような発明品により人間にできないことがないとされた時代を生きた青緑校長。これまでずっと生きてきて、生きることに疲れた彼は世界の終わりを望み、それでも人類は生き残ることを知ったことに絶望し、神になることで世界を終わらせる。
ということでしょうか。
ただし、tips「神」を見ると、彼はこの世界を作り変えるために滅ぼすことを願います。
同時に神でも叶えられないことが一つあるとし、それは「死んだ人間は蘇ることなどないのだ………」というセリフ。これは緋依を指しているのでしょう。


「私はただ……。私が望んだ永遠は………
 ………こんな孤独などではなかったのに………」

彼の「生きることに疲れた」というセリフ。それは永遠を生きたことで生じる、様々な人間に出会いそして別れ、繰り返される世界に疲れたのだと思います。それが彼の孤独でした。

青緑校長先生が過ごした日々は、foreverにおいての、緋依が最初に望んだ永遠と同じもの、そしてそれは陽子によって否定された永遠です。またabandonedのブルーによって否定された永遠でもありました。


【陽子】(foreverにて)
不老不死になってはいけない。
生きることは死ぬことだから。
死をもってしか生を証明できない。
決して逃れることのできない死を恐れて、怖がって、それで必死に生きるから、人は人でいられるんじゃないかって。

foreverで出された「永遠」とは、その一瞬一瞬が自分の中で永遠に続いていくことでした。
「永遠とはなんなのか」
lostは、その一つの答えとなるヒントを提示していたのではないかと思うのです。
それが「臆病者」の一つの姿だと私は思うのです。

またpfyでも、青緑校長先生については触れられていました。


【永原】
……そんなところでも、永遠が受け継がれていた。
その青緑校長とやらの苗字も、たぶんそういうことだろう。
緋依の永遠を彼は受け継いだのだろう。
密かな想いを隠し続けて、彼は孤独な永遠を過ごしたのだろう。
その想いの、名は。

彼は緋依の永遠という形を違ったもので、受け継いでいきました。
これも一つの永遠の愛の形でしょうか。


さて二人目の臆病者とは「臆」(6章より白髪)のことです。
彼は本編中の姿では臆病者として描かれません。というのも、ほとんどループされる世界
は臆の繰り返される世界で、目覚めたあとはすぐに死にますので。
彼が臆病者と記述されるのは、まず一つ目は7章より。

【翠】
………臆病だけど心優しい臆のことが、私は好きだった。
けれど臆は、…終の死によって変わってしまった。
暗くて、他人との接触をなるべく断つような子に変わってしまった。

もう一つの記述は、pfyの彼の姿。
pfyの臆は、世界の終末の予言を極端に恐れる臆病者の姿でした。

このような彼の姿、それは終末思想を恐れる姿。この姿はどの時代でも見られる普遍的な姿ではないでしょうか。科学が発達したそれこそ30世紀という世界でも、世界の破滅を恐れる姿があるのだと、そう思わされることに、完璧な世界を求める薪元くんの理想の世界との矛盾を考えさせられます。
ただ、そのような彼でも、精一杯に生きたことは事実です。彼は世界の破滅を止めようとしました。また、記憶で読み取ったとはいえ、6章の主人公であろうとした彼の姿は本物であったと、勇気の姿であったとそう願わずにはいられません。


【臆】(6章より)
……告白してよかったじゃないか………。
…俺はもう臆病者じゃない。
忘れな草を恋人に贈った、………大昔の騎士も。
恋人の幸せを願いながら死んでいったんだ。
俺は弱虫で。臆病者で。
……ちっぽけな存在だけど………。
そんな俺が初めて勇気を出した。
明日世界が終わるから。
だから今まで出せなかった勇気を、…俺は出せた……。
   (中略)
人は誰しもが何らかの役割を持って生まれてきて。
そして俺に与えられた役割が、…こんなにも大きなものなら。
………素晴らしいことじゃないか。
俺が世界を救うんだ。俺はだから、世界にとって必要な人間だったんだ。
小さな小さな忘れな草の花のように、ちっぽけな存在の俺も………。
何かを変えることのできる、大きな力を、持っていたんだ………。


忘れな草のように。歴史において例え小さな存在であったとしても。
それでも役割はあるのだと。dearでも解説された、世界の一部である現れでした。
そして運命を受け入れようとした、覚悟した。
臆病者が出した一つの答えでした。
今更ですが、臆の由来は番号とありましたが、臆病者の臆でもあるのでしょうね。

さて、上記のように忘れな草の例えにより、「小さな存在の役割」について触れました。
今回のお話ではもう一つの場面があります。
それは、「翠」、7章より。


【翠】(7章より)
人の死は、………こんなにも呆気ないんだ。
こんな風に、…こんなにも呆気なく、……これからたくさんの人が死んでいくんだ。
けれどそれを、同じくらい呆気ない私自身の死で、……救うことができる………。
        (中略)
「私を忘れないで、…か……」
私みたいな花だ。この、忘れな草の花。
絶望的に小さくて、限りなく無意味。誰にも知られずに、この場所で、静かに咲いている。
        (中略)
「………私、………死ぬんだ………」
「………それが私に与えられた役割」
私たちは人工生命体。
決められた運命に従い、決められた通りにこの学園に入学した………。
それは何もかもが誰かによって決められているような、無意味な人生だった。
花は咲く場所を選べない。滅び朽ちる時代に生まれた私だって、もう………。

───逃げない。
私は、逃げない。
………それはひょっとすると、復讐なのかもしれない。(校長の陰謀阻止による)

空を舞う木の葉。朽ちる枝木。茶色く変色して、花が枯れる。
そんな風にして、呆気なく、………私という存在は失われていくのだろう。
世界から忘れ去られていくのだろう。
誰も私という存在を知ることなく、…私はこの世界から消えるのだろう。
私からは何もかもが、失われてしまった。
…けれど私は受け止めなければ。運命を。
私に与えられた、その、大きな役割を。
小さな小さな忘れな草のように、ちっぽけな存在の私でも。
………主役となれる物語があってよかった。

───失った。
………世界は………。
…………私を忘れていくのだろう…………。



人の死は呆気なく、世界は簡単に私を忘れていく。
これまでの時代はマゼンタと大吾をはじめとして、受け継がれていくものがありました。
彼女翠自身も、小さな存在だとしても、誰にも知られることがなかったとしても、彼女が隕石を破壊することで、世界を存続させようとした事実は受け継がれることになります。
例え死んだとしても、その事実と想いが受け継がれる限りなくならない。遺そうとする意思、それは『永遠の愛』となり続いていく。lostで見られた永遠の愛とはこの想いではないでしょうか。
同時に、運命から逃げずに受け入れようとした彼女はとても美しくかっこよかった。



○翠の想い
彼女は臆に恋をしていました。
しかし、終が死んでしまい変わってしまった臆、臆病者になってしまった彼。
そのような臆にtips「忘れな草」より明かされる想いがありました。

【翠】(tips「忘れな草」より)
………ねえ、臆………
私が、…傍にいるよ。
……私を忘れないで……。

私のことを忘れないで欲しい。私が傍にいることを忘れないで欲しい。
孤独だと思い込む臆に、そう強く願う彼女の想い。切ない。
忘れな草をテーマにした一つの物語の一部であったと思います。



○終の存在
ここで終の存在についてもまとめておきたいと思います。
終とは、彼女とはどのような存在であったか。
彼女は、臆が助けることができなかった少女でした。

【臆】
火の手が回っていたあの場所で100を数える女の子を、俺は、助けてあげることができなかった。俺は忘れてはならない。

また、tips「99」、「100」より
彼女は、かくれんぼ中に爆発事故によって亡くなったのだと推測できます。
作中に出てきた終は、臆が作り出した概念の存在、罪の意識と世界が滅びる運命から逃げようとした楔のような存在であったのではないかと思います。
彼女を思い出すことは、運命を思い出すことと同義であるから。
運命を受け入れることと同義であるから。
また、何度も夢を繰り返す回数が100だったのは、このかくれんぼの100を数える回数と同じように合わせてきているのだとも同時に思います。



○8章の考察
ここからは8章の考察。ぶっちゃけよくわかりません。が考えていきます。

【8章】
………その世界では、………私は幸せで。
世界は緑に包まれていて。生命が芽吹いていて。
何もかもが自然のままに、全てが在り続けている。
…けれどそんな世界だっていつかは滅び朽ちるのだろう。
花が枯れるように。木が朽ちるように。葉が舞い落ちるように。
いつかは全てが滅び朽ちる。滅び朽ちるために、生まれる世界。
…そしてその世界の最果てで、また誰かが、また新しく世界を創る。
それが何度も何度も続いていく。
失っていく。失われていく。忘れ去られる。
その度、たくさんの物語を紡いでいく。
空を舞えるなら落ち葉でも構わない。海を渡れるなら枝木でも構わない。
求めるのは自由ではない。ただそのときまでの、幸せな腐敗。
滅び朽ちるその運命を、天に向かい真っ直ぐに伸びる一本のあの木のように、………受け入れよう。


今までいろんな時代において、8章とはifの世界が描かれてきました。
その中でlostの8章。これは異質です。
それは世界が作り直されることが前提で描かれていることです。
もう一つのヒントとして、tipsの「学園の噂」「滅び」と「世界創造」より

【滅び】
…こんな世界、滅んでしまえ……
こんな、…誰も俺のことを認めてくれない世界なんか
滅んでしまえ
みんなみんな、滅んでしまえ。

【世界創造】
この世界の記憶を
長い長い歴史を
全て失わないように
何もかもなくなってしまう前に
………この地球の物語を、一冊の本にしよう
物語にしよう。
3次元の世界を、2次元的に保存する
だって、…ここは科学の発展の歴史の終着点
もう人類にできないことなんてない時代
人が、神になった時代
なら。こんな時代なら。
………世界を創ることすら、………容易いのでしょう………?
データを量子化。宇宙を再構築。ビッグバンの再現。
…神様の奇跡を、もう一度。
………もう間違えないように。
また滅びてしまわぬように。
永遠にその世界が、続くように。
また繰り返す。緑溢れるその世界を、…また創りだす。


そのままなのですが、ifの場合だと、世界が何度もやり直されてる可能性があるのでしょう。それこそ、この滅び朽ちる世界を何度も何度も何度も。
滅びると知りながら、ただそれまでの幸せを享受するために。次こそは滅びないように。
だけれど滅びてしまうその運命を受け入れるために。
だからこその『幸せの腐敗』を享受するために。

この世界は何度目なのでしょう。考えたくもありませんし、考える必要も私はないと思います。

はっきり言って、怖いです。
なぜなら、この可能性が肯定されることは、一つの永遠の形の可能性が示唆されるからです。
この滅び朽ちる世界に追憶の花束を、では、pfyも経て、終わりを迎えない永遠など存在しないとしました。同時に、一人一人の永遠の想いは受け継がれることで存在するのだとする素敵なお話なのです。

しかし、ここで、ループすることによる永遠が存在する可能生が示唆されることは、この永遠とは違った形で永遠を肯定することになりかねないからです。
きっとパスワード入力による、これも一つの可能生とは。
この物語の話のテーマにおける、永遠とはなにかによる、これも一つの答えということを言いたかったのかなと思います。


○まとめ
上記のようにさまざな要素が詰まったlost。
その他にホムンクルスと人間らしさとか、他の要素もあったのですが割愛として。
一番何が言いたかったのか、それはやはり「運命を受け入れる」勇気だと思います。
例え世界が滅びようとも。例え世界が私を忘れようとも。その世界から逃げずに、立ち向かう、勇気。遺そうとする意思。これこそが永遠の愛。

dearより、地球には数え切れないほどのたくさんの物語があるとしました。
この世界の一部であることが、とても素晴らしいとハルは言いました。
世界の一部であれた彼、彼女たちの物語。主役であった物語。
そんな私たちの存在をどうか「──忘れないで」

○lost 感想
lost、はっきり言って難しいです。よくわからない。けれど、ループ物のトリックとしてはなかなかに面白かったのではないでしょうか。ただ、短いがために、登場人物などの感情移入はなかなかに難しかったところ。さらに終わり方が異質なため、どこかこの世界の不気味さを後味に引く終わり方。
正直に言えば、私はこのお話がとても怖いです。
このすべての物語の前提条件が覆されそうで。
行き過ぎた科学は、魔法と変わらない。とはよく言ったものです。
マゼンタ様がもし、このもし世界が繰り返されていることすら知っていたとしたら……。と考えるのは妄想のしすぎですね。
foreverの前の時代がlostだとしたら……やめましょうか。
どうにかうまくまとまりませんが、lost感想はここまでです。
最後に、一番好きなシーンは、TIPSの「忘れな草」です。



6.innocent
innocent……無罪の、潔白な、無害の、無邪気な
百合…………純潔、無垢

【百合】
『………正義の味方になりたかった。
子供の頃、憧れたヒーローのように。
誰かのピンチにいつも駆けつける、誰よりもかっこいい彼らのように。
今度は私が誰かを救える人になりたかった。
揺るぎない意思。
世代や時代を超えても普遍的で共通の、たった一つの正しい答え。
間違っていると思うことに立ち向かうことができる、勇気。
何にも汚されていない純粋な正義を、私は子供の頃からずっと、
……探していた』


(1)
正直innocentは本編もさながら、TIPSこそ考察することが多くあるのですが、まずは本編から整理していきたいと思います。

本編中のinnocentのテーマ、それは『正義とは何か』
よく物語の題材に取り上げられる普遍的テーマの一つでもあります。

まずその大前提として、このお話がされる舞台について整理します。
この時代では、「真実の眼」という嘘発見機が活躍しています。
仕組みは、人は嘘をつくたびに記憶を修正する必要が出てくる、こうした矛盾をついて判定する機械だそうで、緋色さんが開発したそうです。緋色さんすごいな。
(真実の眼の開発は、冤罪になる人を救うために開発されました)
この「真実の眼」によって嘘ではないと断定された場合、例えそれが嘘だったとしても、それが真実になるということ。
つまり、科学技術が発展したこの未来において、機械が示した真実は絶対意見になる、という未来でした。

innocent作中のセリフより

「科学って魔法みたいだけど、全然そんなことないんだ 。
何かしら代償にしていて、犠牲にしていて、…きっと何かを奪ってる。
発明されればそれが悪用される(真実の眼)
でもあったほうが便利だよ」

「真実の眼がないと何が嘘で何が本当かも見極められないのか?
機械に頼ってばかりだと人間の能力そのものが落ちるって兄貴も言ってたけど本当だな」


この物語では、こうした科学技術が一番になる世界の中で、私たちの道徳観念を問いかける、SF×哲学の要素が一番色濃い物語であったと思います。


さて、本編において『正義とは何か』について。
物語では、闇ちゃんと緋色の二人の討論によって見ていくことになります。
多少の論理、主題のすり替えはあるものの、それはご愛嬌。
討論の経過内容は割愛するとして。
重要なところは最後の百合が出した結論とマゼンタの闇ちゃんへの教え。


【百合】
「本当の正義は、数なんて左右されない 。
だから私は私が正しいと思うことを貫くよ 。
私が正しいと思うことを、貫く 。
自分の正義を振り翳すのに理屈も理由も理論も要らない!
私は私の中の意思に正直に従うわ!
私は、私がやりたいと思ったことをただやるまでよ!
これが私の正義だよ!!」

「もっと大事なことがある。それは常に己の中の天秤を揺らしていること。
 揺らぎない意思とは、ただ頑固なだけと同じ。
 自分が正しい、相手が間違っている、それじゃなにも解決しない
 自分は間違っているかもしれないと素直に思えること。」


【マゼンタ】(マゼンタから闇ちゃんへのセリフ)
「自分の正しいと思うことを正しいと信じず、常に疑い続けてください。
 本当の正義がなんなのかを常に考え続けてください」


この考え方って実は矛盾してるんです。
①自分が正しいと思う正義を貫くこと、信じぬくこと。
②同時にその正義が本当に正義なのか、自分の中で迷い続けて考え続けること。

そしてこれは同時にアテネの学堂にも置き換えることができると思います。

①自分を正しいと想い信じ抜くこと=討論を行う人(陳述人&抗弁人)
②自分は正しいのかと迷い続けること=審議記録人

つまり、正義とは何か、それは自分の中に『アテネの学堂』の場を自分の中で持ち続けることではないかと思います。
この矛盾を抱えながらも考え続け、それでも自分が正しいと思うことを行動し、その行動をさらに考え続けること。
正義の暴走はいつでもありうることで。
それこそcircularに見られた信者の暴走もその一つであって。
それだけ、正義を固執せずかつ自分の芯をもったものを見るには大事なことかも知れないと考えさせられます。

上記では『正義とは何か』について、それぞれの正義の持ち方について触れました。
以下は『正義とは何か』の正義はどのような特質を持っているかについて触れます。


【闇】(マゼンタへの言葉)
「私にとって殺人という罪を犯したあの人は、正義の味方なの。
あの人は命懸けで私を救ったの 。
命懸けで、殺人という罪の重さを説いたの。

あの人を庇うために、私は悪になろうと思った。
あの人を正義にするために、私は悪になろうと思った。
そのためにずっと悪のフリをしていた」

教祖ことマゼンタは、闇ちゃんの未来が見えていて、いずれ彼女が殺人を犯すことを知っていたがために、マゼンタが悪役になることで、闇ちゃんに見えない楔を打ち込み救ったがゆえのセリフになります。


【マゼンタ】(tips目隠しより)
私が悪となることで、闇ちゃんは、正義の味方です。


【闇】(tips悪役より)
正義の味方は常に、自分が正義となるための悪役を探している。
この世界は思い込みの正義感ばかり。
正義の味方なんて最低だわ。
みんなみんな、偽物の正義ばかり。
正義の味方なんていない。…もうどこにもいない。
わかってるよ。わたしも、…ただがむしゃらに反発したいだけ。
何が正しくて何が悪いかなんてわからないから。
善人のような顔で、正義の味方を目指していたあいつが。
善人そのものなのに、悪となったあの人が。(マゼンタのこと)


正義には対になる悪がある。
悪があるから正義という概念があり、正義があるから悪という概念がある。
あなたにとっての正義は、別の人の悪かもしれない。
あなたにとっての悪は、別の人の正義かもしれない。
当たり前でよく問われるテーマでもあるのですが、闇ちゃんの言葉が深く刺さります。

誰かを正義にしたいから、だから悪を正義にする。そのために私が悪(正義)になる。
正義とは誰かが見た一面的なものではなく、観測者がいるからこそ正義か悪かという話が出てくるのであり、この考え方はなかなか見たことなくて面白かった。
だからこそ、純粋な正義などないのではないかと。

さらに純粋な悪こと紅さんより。緋色さん頑張れ。


【紅】tips もう一つの正義VS悪より
貴方の言う正義なんて所詮、誰かの真似事でしょう?
正義の味方っていう概念は、テレビの向こうの巨像でしょう?
貴方は誰かの為に正義の味方になろうと思ったのでしょう?
対して、私の悪意は特に理由なんてない、私の中の本能によるものだわ。
誰の為でもなく、誰にも依らず、自分の中の意志に従うのみ。
ある意味そっちのほうがよっぽど正義だと思わない?
何にも染められていない、純粋な悪意よ。
対して、正義という概念は決して純粋なものではない。
人の為になることをしなさいとか、困っている人がいたら助けてあげなさいとかという概念は、人間同士が勝手に造り上げて伝えてきた紛い物でしょう?
誰かの真似事でしかないでしょう?
理屈ある正義なんて、きっとただの偽善よ。
そして、私たち悪人の中に正義や悪という基準なんて存在しない。
同じ人間として接しても無駄なのよ。
だから早く殺してしまえばいい……。
…でも、貴方も私も、誰かの真似をして生きていて。
それが人間らしいとも思えるから。
そして、貴方の正義感がたくさんの人を救っていることも事実だから。
…まあ…深く考える必要はないんじゃない?
貴方はそのままでいいんじゃない?
馬鹿のままでいいと思うわ。
私は馬鹿で愚かでお人好しな貴方のことが好きだわ。


【紅】(ダークヒーロー)
貴方も正義を翳すというのなら、誰かの悪となることを覚悟して臨まなければならないのよ。
貴方はずっと綺麗事を言い続けていればいいと思うわ。
その手をずっと綺麗なまま、汚さずにいればいい。
その手は人を救うのだから。
汚れ役なら私が引き受けてあげるわ。

理屈をもった行動は、純粋な気持ちから生まれた正義ではなく偽善となる。
誰かを救いたいということは、差別をしているかもしれない、こっちが悪でこっちが正義だと決め付けることになるからだと。でも同時に、人を救っているという事実もそこにはあるのだけれども。

人間でありたいと願った、人間であろうとした紅の言葉はあまりにも重くて。
紅と緋色のコンビは本当に上手に成り立っているのだと思います。
決して綺麗事だけでは済まさない。紅の一つ一つの言葉。
だからこそ、正義は矛盾に満ちていて。
最初にあげた、自分の中で考え続けること、天秤を持ち続けること、揺らし続けることが大切だとより思うのです。


正義のヒーローこと緋色は自分の正義に疑問を持つこともありました。


【緋色】tips 正義の味方 より
………なあ、玄兎。
…おまえと百合はさ……俺のこと、…正義の味方だと思っていつも慕ってくれたけどさ。
そんなおまえらに救われてたのは、実は俺のほうだったんだ。
       (中略)
そしたらあの場所で、おまえと百合が、俺のことを正義の味方として必要としてくれて。
…俺よりずっと辛い境遇にたたされてるおまえらを見て。
俺は、甘えてたって思ったんだ。
だから俺は、もっと強く生きようって思ったんだ。
………本当は俺のほうが、おまえたちに救われてたんだ。
不思議な話だよな。救おうとしていたつもりが、気がついたら救われていた。
俺は本当は、…おまえらが思い描くような立派な正義の味方なんかじゃなくて。
………もっと情けなくてちっぽけな、ただの人間なんだ。
そんなことないですよ、兄貴は立派な人物です(玄兎)
それだって、おまえらの目に立派に映りたくて俺は、頑張ったんだと思うよ。
そんな偽物の姿が、いつか本物になったらいいなって。
だから俺は、偽物の正義の味方だ。
そ、そんなことないですよ。少なくとも俺と百合の中では、兄貴は、本物の正義の味方です。(玄兎)
…………玄兎。………………ありがとな。

決して相手のためだけではなく、自分のための正義であった緋色。
このお話、マゼンタの性善説のお話とかぶることがあるのです。
自分のための性善説、自分のための正義、それでもいいじゃないかと。
同時に大吾の言った、信じることで思うことでそれが本物になる。
偽物への肯定をしたマゼンタと大吾の二人の考え方が、緋色への答えじゃないでしょうか。

実際に緋色の偽物の正義は、玄兎と百合にとっては本物の正義の味方でありました。
もしかしたらこの正義も、誰かにとっては悪かもしれない。それでも、正義だと思ってくれる人がそこにいる限り正義ではないかとも思うのです。



最後に、innocent、意味は純粋です。
この純粋とは何か、それはまさしく百合のことでしょう。

何にも染まらず考え方に染まらず、純粋な姿でいられること。
己の中に、純粋な天秤を持ち続けること。


【闇】
お姉さんが純粋だったから。
自分の意見を述べず、素直な目で、濁りのない目で。
私の告白を受け止めてくれるのでしょう?


【玄兎】(恐竜と正義の味方)
………何も知らない百合が本気で怖がってんの見ててさ。
なんかそういうこと、どうでもよくなったんだよな。(恐竜が子供だましだという事実について)
私的には、わたしだけが知らないって事実にショックだったんだけど。(百合)
はは、いや、………それでよかったんだよ。
百合はいつでも純粋な子供で。
純粋な目で、世界を見ていて。
………それがお兄ちゃんは、内心羨ましかったりしたんだ。
おまえの純粋さがきっと、俺や兄貴の心を救ってたんだ。


正義とは矛盾に溢れたもので。
だからこそ、純粋な気持ち、純粋な疑問を持ち続けることが大事で。
正義はこれだと決め付けるのではなく、考え自分の中で結論を見つけ、かつその結論が正しいかを純粋に考え続けること。

純粋であることの難しさ。同時に純粋であることの尊さ。
まさしく正義の味方になりたかった百合、彼女の一つの答えがあったのだと思います。


【玄兎】pfyより
俺はいつも百合の純粋さや無垢な精神に救われていて
汚いところなんか何も知らないような彼女が心の拠り所だった。
けれど百合は汚いところなんか何も知らないわけじゃない。
どんなに薄汚れた現実を前にしても、百合ならそれに染まりきらずに
いつまでも真っ白でいられる気がした(=正義)
百合は真っ黒な現実を知らないわけじゃないのに、俺とは違っていつも無邪気な感情
を忘れない。


無邪気な感情を持つということの難しさ。
正義の矛盾を知り得ながらも、純粋な気持ちを持ち続ける大切さ。
同時に、その無邪気さは、自分が本当に純粋な気持ちで行動できているのかについて、肯定をしてくれる存在となります。それが緋色と玄兎にとっての百合の存在でした。



○innocent 感想
「正義とは何か」
このテーマって、様々なノベルゲーや、小説で扱われてきました。
弱者を救うのが正義。困っている人を助ける正義。戦隊ヒーローのような正義。
誰かを殺してでも、小より大を取る、ダークヒーローの正義。
正義によるストレス解消。正義による執行。……etc

正義とはそれぞれの自分の中の尺度で描かれてきました。
今回はどのような正義論が語られるのか……。純粋と正義がどう結びつくのかをワクワクしながらプレイした記憶があります。
実際プレイし終えて、私が一番良いなぁと思ったのは、「正義とは迷い続けること」
すごく良いなぁと思います。
「揺らぎない意志とは頑固なことと同じ」
誰にも説得されない正義ってかっこいいかもしれないけれど、それって融通がきかないんですよね。
だから違った見方からの正論を無視してでも正義を貫こうとする。
だから、今回出た純粋な天秤の正義ってすごい大好きです。

また、今回innocent、私innocent→vivid→abandonedの順でプレイしているため、初見時はtipsが本当に意味不明でした。それが、今回全部終えて、改めてtipsを見てみると、すべてが繋がる。
マゼンタ様の笑顔の意味合いが変わってくる。
innocentのtipsって一番考察要素があって、一番えぐってきます。
特に紅の言葉。vividをやってきているだけあって、彼女のまっすぐな言葉がまたえぐる。
でもだからこそ、綺麗事じゃすまさないのが面白い。

そしてだからこそ、百合の純粋さがまっすぐでまぶしいんですよね。
なんでなの?どうしてなの?正義ってなに?
その純粋さこそが正義には必要だという。
紅の言った、闇ちゃんの言った、「純粋な気持ちからの正義」ってないんですよね。
誰かを救いたいってことは、つまり、こっちが悪だと決め付けることだから。
だから、正義という行動に正義の味方は悩む。緋色は誰も救えていないと嘆く。
そのための一つの答えが「純粋な天秤を持つこと」

また、最後の闇ちゃんの「ごめんなさい!」も純粋な彼女だからこその言葉だと思うのです。
そう信じます。だからこのシーンがinnocentで一番大好き。

あとは、innocentの7章最後、あれには笑ってしまいましたwww
毎日徹夜続きのお仕事、百合さんお疲れ様です。
玄兎お兄ちゃんとはいつまでも仲良く過ごしてください。ほっこりです。
単純にこういった討論の舞台も面白いし、月の上の裁判って設定もロマンがあって。
一番ワクワクした物語でした。


○innocent BGM
やっぱり「ジーザス」
討論開始された時のワクワク感が本当に楽しかった。
このBGMのテンポが好き。宇宙を舞台にしたようなBGMで、まさに月の上の裁判。
ワクワクしますね!
また、BGMにある「─いつまでも子供じゃいられない─」と「─わたしたちのヒーロー」が百合の内面を表しているようで、不思議な気持ちになります。


7.vivid
vivid……鮮やかな、生き生きとした
彼岸花…情熱、独立、再会、あきらめ、転生、思うはあなた一人、また会う日を楽しみに


【紅】
『………人間になりたかった。
他愛のないことに笑い、泣き、感動することができる。
そんな、ごくありふれた …普通の人になりたかった。
生きれば生きるほどに離れていくように感じるこの世界で。
それでも、…私をつなぎ止める何かを……私はずっと探していた。
すべてが反転している世界で。
生こそが死で、死こそが生のこの世界で。
何もかも断ち切られてしまう私の世界で、それでも決して断ち切れることのない何かをずっと探していた。
誰かの為に、涙を流せる、優しい人になりたい
決して断ち切られることのない絆を誰かと結べる、繋がりを持ちたい。
……私は人間らしい人間になりたかった……。』


(1)
まずは、この時代で明かされた真実などを記憶保持のために整理します。

○赤い薬による、第6感に目覚めることによる予知能力。

circularのマゼンタに見られた予知能力。
この能力の仕組みとは、「全ての物事には因果関係があり、この因果律を読み解くことにより、結果的にすべてのことが見通せる。」それこそ、世界の終わりまで、という能力でした。
(例えば、日陰にあるここの花は枯れる、なぜなら光が当たらずに栄養を作り出せないから等。)

この能力について、vividでは、「なぜそのような能力者になれるのか」についての真相が明かされました。まず、この能力を扱う前提条件として必要なのは、限りなく自分を殺して客観性に物事を見ることでした。

「すべての物事を究極的に客観的に見る。
 自分の存在を限りなくゼロにすること。(主観性を殺す)
 すると世界の全てを俯瞰することで、世界の流れが見えてくる」

この主観性を殺し、客観的に見るためにはどうすればいいか。
その答えは、「感情のない人間を作り上げること」でした。
「自分には感情が理解できない。なぜ笑うのか。泣いているのかわからない。」
こうした人間を作り上げることで、世界の全てが作り物のように見え、客観的に見ることができる。
つまりそれは、神様になること。

この感情を殺すための薬が、陽子が開発した赤い薬でした。
赤い薬により、脳の作りを長い年月をかけて造り変え、かつ記憶の改竄により感情の理解できない人間を作り上げ、予知という超能力に目覚めた人間の完成です。
(紅の場合は先天性で感情が理解できないため、記憶の改竄は施されていません)
ここで陽子について触れておきます。


【陽子】tips紅い薬より
わたしは別に、誰かを苦しめたくてこの薬を作ったんじゃないの。
わたしはね、わたしの周りにいた人たちのように…わたしも同じ場所を目指そうって。
その意志を引き継ごうって。科学に対する情熱を引き継ごうって。
わたしが最初にしていた研究は、脳の病気の解明だったの。
わたしは最初はね、………たくさんの人を救いたいと思って研究をしていたのよ。
それがどうして、………………。
………どうしてこんなことになってしまったのかしらね………。


【陽子】tips 赤い空より
………だから、………嫌だったのよ………。
こうなるって分かってたから、嫌だったのよ。
………みんな遠い場所に行ってしまうのね。
やっぱりわたしを置いてけぼりにして、遠い場所に行ってしまうのね。
…置いてけぼりにしないって、言ったじゃない。
………うそつき。
…ねぇ。…わたしもあなたたちと同じ場所に、行けるのかしら。
わたしも、あなたたちと同じように…遠い場所を目指せるかしら。


foreverの中で、一番平凡な日常を望んだ彼女。
ただ一瞬一瞬の幸せを願った彼女。
永遠の命を嫌った彼女が。それでも親友の生きた証として不老不死になり。
そして、彼女も緋依や賢二、薪元くんのようになれるのかとあろうとした姿が。
紅い薬でこのようなバトルロワイヤルを引き起こすような薬になってしまうのはなんて皮肉なことか。
ただ、そういった感情を抜きにして、事実として、紅い薬によって時代がつながっていく、こうした事実があることは、それも永遠の愛の一つだとは思うのです。

本編の話に移ります。
ここからは、好きなシーンを紹介しながら感想を載せていく形式でvividの感想を書いていきます。
なので、(今までもそうでしたが)よりシーン抜粋による、あらすじを載せるような感想文になります。ご容赦ください。

○一日目「運命について」
沙乎華と紅。二人は似た者同士で、人間の感情を理解出来ない人間でした。
序盤から、殺し合い……ではなく、「人間になるとはどういうことか」を試していこうとするお話。
どうせ死ぬのなら最後くらいは人間になりたいと、二人で人間を演じる一週間のゲーム。
作中の彼岸花の意味合いには「行きながら死んでいるよう」というたとえでこの華が序盤に使われていました。

人間とはどのように過ごすのかの実験のような始まり方は、そうきたかと、ちょっとびっくりしたのが記憶に残っています。殺し合いで殺戮スタートかと思いましたので。

さてこのような始まり方で印象的なシーンは、彼女たちが運命について語るシーンでした。

【紅&沙乎華】
  紅:私たちが生まれてきたのは決められていたことなのか、そうでないのかわからないわ。
沙乎華:そしてそれを証明することは、三次元生命体である私たちには不可能ね。
    たとえ過去に戻ることが可能なタイムマシンが発明されたとしても、不可能だわ。
    過去に戻って自分の運命を変えた気になったって、 【過去に戻って自分の運命を変えるこ
とが、決められた運命だったかもしれないから】
   けれどだからこそ、私は人は誰しも意味を持って生まれてきたのだろうということを
    強く信じられるの。
  
ここのロジック、運命を変えようと願うことこそがすでに運命で決まっている。
残酷なロジックですが、好きです。
沙乎華は、だからこそ、誰しもが意味を持って、役割を持って生まれてきたことを信じていました。
lostの忘れな草を思い出します。
相対的に紅は純粋に客観性にしか見ることができませんでした。
「何をしていても、何を言ってみても、あらかじめそうしなさいと誰かに命令されたからそうしているような気分になる」と。
『運命を肯定的にとらえるか、否定的に捉えるか』
ここは後天性の記憶改ざんと先天性の違いでしょうか。
このように似ているようで相反的な、白と黒の二人は、すでに1日目から色濃く出ていました。

○感情の仮面(二日目)
二日目に語られたのは、人間の感情についてでした。

【沙乎華】
笑うことで自分を騙す。
この仮面さえ死ぬまで付け続けていれば、この仮面こそが私の本当の顔になる。
墓の下まで持っていく嘘はきっと本当になる。
私はそれを信じている。そして私は普通の人間になれる。


表情が豊かなのは人間の証。ただし嘘の感情だとしても、最後まで貫き通せば本物になる。
この考え方、似たようなものに、circular7章で出てきた、マゼンタの教えがあります。

【カンナ】circular7章より
でも他人に優しく優しくって思ってると、気が付くとそれが本当になってたりするんだよね。
最初はそういうふりだったはずなのに…気が付くとそれが自分の本当の気持ちになってたりするの。
マゼンタ様が言いたかったのって…そういうことでもあるんだろうね。

沙乎華の場合とは少し違うかもしれません。
ただ、この沙乎華の考え方がマゼンタの考え方に受け継がれてるとするなら、素敵なこと。
そう考えるのは少し都合が良すぎるでしょうか。

そしてだからこその沙乎華の最後の笑顔。少なくとも彼女の最後の笑顔は本物でした。

もう一つ。

【沙乎華】
私たちが見ている太陽は常に過去のもの(私たちに届く太陽光は8分前の光の話より)
私は今貴方をみているけれど、私の目に映る貴方は常に過去の貴方 。
光の速さは恐ろしく早いけれどそれでもゼロじゃない 。
だから私の目に映る物事はすべて過去の残骸 。
私の目に映るものはすべて偽物。


全てが偽物の虚構の世界。(いや本当に仮想現実の虚構なのは皮肉ですが)
私たちは、本当なのかどうなのかを知る術はない。
隣の人が本当に何を考えているのかわからない。

このvividでは、物事の本質をイデアとして、イデア論が展開されますが、こうした目に見えるものがまやかしで、目に見えないものこそが真実。だとした考え方が、予知能力の根源にあるのかもしれません。

【沙乎華】
私たちの世界はすべて偽物で塗り固められている 。
でもね、それを本物と思えばそれは本物になるの。

意味のないものに無理やり意味を見出しているのが人間なのかもしれない。
予知能力も、そこに因果関係を見出そうとすることで発現するものですが。
この意味を見出そうとする能力が、あまりにも発達しすぎたものが予知能力だとしたら。
予知能力を使える彼女たちは、あまりにもある意味人間らしいと思うのは考えすぎですね。

○真相(3日目)
明かされる沙乎華の真実。
走れメロスの話が『好き』な自分と、共感できるはずがない自分の矛盾。
記憶の改ざんの事実。

ここでは、知ってしまった沙乎華の姿が印象的でもありますが。
それよりも、その真実を知ってしまった紅が印象的です。
紅さんにとって言えば、彼女は実は本当に「独り」であったということ。
ただし、同時に「刹那」という存在を知った彼女も印象的です。

【紅】
………私だけじゃ………ないのね。
私だけでは、なかったのね。

ここの………に込められた複雑な感情。
会って何かを得るわけではないとわかっていながら、会いたい思う彼女。
アナザーエピソードが読みたいです。



○仮想空間の真実と最後の駐車場
話は飛んで、最後の駐車場シーン。
一番大好きなシーンです。引用も長くなります。ごめんなさい。
それは沙乎華が真実を知って、立ち直りながらの初めて紅に告げる独白。

【沙乎華】
まだあと1日あるもの 。
私、貴方と最後まで友達ごっこを…やり通すわ。
もう嘘でも偽物でも虚実でもなんでもいい 。
私は人間らしく、死んでみせる 。
私は………最期まで笑いきってみせる。
私の人生はどうやら無茶苦茶にされたようだけど。
私はもう人間ではなくなってしまったようだけど、それでも。
見る人全てが、あぁきっとこの子は素晴らしい人生を送ってきたんだろうって。
思ってしまうくらいに、綺麗な笑顔で死んでやるの。

そしてこれが私が昨日悩み続けて考え出した、もうどこへ当てれば いいかも分からない私の復讐心の、行き着いた場所よ。

貴方は私と違うけれど、でも私と一緒ね 。
でも貴方は、私と全く違う生き方を………しようとするのね。

だから紅も、笑って 。
私ね……貴方にいろいろ言ったわね…、笑顔の仮面を死ぬまでかぶり続ければそれは本物になるって。
その言葉、いまの私が言っても…説得力が感じられないかもしれない。
けれど。
たとえ私が貴方と同じように生まれてきていたとしても、……それでも私はきっと笑っていたと思う。
だから、私の言葉は本物なのよ、紅
私の言った言葉は…全て、もし貴方と同じように生まれていたわたしがいたとしたら言っていた言葉なの 。

だから笑って、紅。
私たち………もう、友達でしょう。




この最後の独白。どれだけ紅の心に響いただろうか。
きっとこの時点で、予知により沙乎華は知っていたのでしょう。
生きる紅と、死ぬ沙乎華。此岸と彼岸の二人。
「私と全く違う生き方」をする。

でもだからこそ、それでも私たちは一緒だと。
友達だから。
沙乎華は言いました。
『信じられるものは唯一の自分であり。そしてあなたを信じる私を信じるから』
だから、紅が笑うことで、沙乎華の笑顔は本物になり。
だから、沙乎華が言った言葉は、紅も言うことで本物になる。
だから。
『だから、笑って』

この時の初めて見せた紅の笑顔。
彼女によって世界に「赤」という色が付き始める。
彼女によって「人と触れ合うことで世界が変わる」


そしてもう一つ大好きなシーン。
【沙乎華】
私、もしここが本当は現実世界だったとしても、あなたに殺されてもいいと思う。

これは、紅が沙乎華を殺すということは、現実に帰っても紅が沙乎華と友達になりたいという証明。
つまり、殺す=友達になる、証明でもありました。

ここの二つのシーンが見せる、二人で一人のような、独特の関係性を現すセリフが本当に大好きで。
紅と沙乎華の二人は似ているようで違うけれど、でも似ているのだと思います。



○脱走

沙乎華には、すでに脱走の時点で予知により捕まることが見えていました。
(紅も見えていたはずだけど、あえて見て見ぬふりをしていたと思われる)
この時のセリフ。

【沙乎華】
貴方の私に対する友達っていう想いが、………私を殺すのよ 。
だから紅、………どうか悔やまないでね 。
私ようやく気づいたの 。
貴方に鮮やかな命を魅せつけることが………………私がここにいる意味なんだって。

紅が、自分のことを友達だと思ってくれているから。
だからその結果、紅は沙乎華を庇うなどで、結果的に沙乎華が死んでしまう。
ならば、どうせ死ぬのなら「生きている意味を見出して」死にたい。
紅に死ぬ姿を見せることで、紅に「生きる意味」を与えて死にたいと。

最後まで笑顔で。
最後まで嘘の仮面をかぶり続けて。


紅の目の前に広がるは鮮血の赤。
彼岸花の色。
それは、紅の世界に色付けた色。
こうして彼女によって生きる意味を与えられ、彼女の代わりに生きていく。
彼女の代わりに生をこの世に焼き付けるために。

またこうした彼女の死に、涙を流せなかった彼女。
感情がない紅は悲しい感情による涙が流せない。
だからこそ、涙を流すために、自分の目をナイフで切ることで涙を流します。
「これで許して」
一週間を過ごしてきたナイフで。紅自身を映す鏡のナイフで。

8章のifが、とても切ないです。


以上長文で、好きなシーンを抜粋していきました。
ほとんど引用なのは申し訳ないです。ただ備忘録としての感想でもありますのでご容赦ください。
以下はその他をまとめていきたいと思います。


○彼岸花の意味合い
滅花では、花をテーマにして、それぞれの物語を描いていきます。
今回のvividでは、彼岸花をテーマにしていますが、どのような意味合いで描かれていたかをまとめます。
①序盤 感情を失い、常に死を見続けた「行きながら死んでいるようだ」とした彼岸花。
②中盤 まるで他人の感情を理解できない、「彼岸」の意味を込めた彼岸花。
③後半 色のない世界に、生命を象徴する赤の華、「赤」をテーマにした彼岸花。

そして、vividの意味は、生き生きとした、鮮明な。
彼岸花の花言葉、一つ選ぶなら、思うはあなた一人。
人間になろうとした、彼女の、彼岸から此岸に至る物語。
あなたがいるから私は生きるのだと。
彼女の代わりに生きる。
自分が生きることは、つまり沙乎華の想いを引き継ぐことになるから。
人間のように。

この物語は、人間になろうとしてなった物語というかは、なぜ彼女が人間のようになろうとしたのか、という過程が中心に描かれているように思うのです。
だからこその、その後の紅が気になります。
vividnessを読みなさいという天の声が聞こえたので、読みます。はい。

○紅と緋色とマゼンタと
紅と緋色、その後はどのような二人でいたのか。
ヒントはvividの7章と、innocentのtipsぐらいですが。
そもそもpfyでもあったように、紅が緋色と一緒にいた理由が、沙乎華のことを知っているのが緋色だけだから。沙乎華のために緋色と一緒にいるというほんとry
同時に緋色も、始まりは母親の紅い薬が原因とはいえ、沙乎華と関わり、正義の味方として彼女のことがほっておけなかったとか。
二人の間にできた子供、マゼンタ。これもきっと、沙乎華が生きていた証明として産んだのではないかと思います。マゼンタさん、沙乎華と似ていますしね。(似てますよね?)

また、前述でも書きましたが、紅と緋色、常に傍にいるとするならば、緋色はいつも自分の正義について揺らぎまくりでいるでしょうね。
もう一度、pfyの1シーン。

【pfyより】
正義の味方になるには未来が見えてはいけない。
なぜなら未来が見えて救うことは不平等の選択だから。
誰も救わない正義の味方こそが未来を見ることができる。

客観性で未来が視えるということは、客観性であるがゆえに誰も救わない。選択をしないということ。マゼンタ様が救う相手を選択しないのは、むしろできなかったのではないかと。
こういった意味で、話の中では沙乎華は、紅のことを純粋な正義の味方としています。

【沙乎華】
あなたはきっと純粋なの。真っ黒な純粋。
正義の色。何にも染まらない。


百合は何にも染まらない純粋な白としました。
紅は何にも染まらない純粋な黒。
何にも染まらないとは、純粋な気持ちを持ったままでいられること。

正義とはなにか。揺らがない【正義】を持つ紅のそばにいた、緋色が掲げた正義とは何か。
きっと緋色は苦悩したことでしょう。
考えるだけでも妄想が広がりますね。早くvividnessを読めって話ですね。はい。


○vivid感想
とりあえず紅と沙乎華のいちゃいちゃカップルのきゃっきゃうふふが読みたいです。
pfyはそれを少し叶えてくれました、ありがとうありがとう、尊い。
vividですが、最初はバトルロワイヤルか!?と、ほかの話に比べて始まり方が異質で驚いた記憶が強いです。実際には仮想空間ということもあり、あぁいつもの感じだと納得しました。
どこか暗いようでなにか不思議な空間がただよっているようなvivid。
tipsもどこか歪でした。
特に「対岸の火事」
ただ、紅に投げかけられる言葉が無情でした。
未来が視える彼女にとっては、現実世界が、対岸の火事の出来事なのだとも思います。
視えてしまうがゆえに。

また、二人がバーチャル彼氏など、様々なことを試そうとする二人は面白くて、ある意味可愛かったですね……w 

だからこそ、歪な紅と沙乎華への想いが際立っていて大好き。
正直上記にあげた感想、もしかしたら作者さんとの思惑と違うかも知れない。
私の勝手な想いかもしれませんが。そんなこと恐れてたら感想なんて書けないので。
沙乎華の存在こそが全てな、ある意味不器用で、人間にはないような純粋さを持ち、
そんな彼女が人間でありたいと願い、そして生きるとした彼女が、大好きです。
完全に蛇足ですが、紅と緋色、あの二人がマゼンタ様を産んだということは、あの二人は子作りをしたということで、どのようにあの二人がしたのか興味津々という私の感想は完全に蛇足ですね。
ナイフで切られてきます。誰か、この二人の二次創作小説はよry
その前にvividnessを読みます。

○vivid BGM
一番大好きなのは虚無でしょうか。
暗い場面によくあっていて、いびつな世界感のBGMが綺麗でした。
バーサスのテンポもかっこよくて好き。最後の音の終わり方が好きですね。
でも一番好きなのはvivid。
言葉にうまくできないのですが、これが二人の出した答えなのだ、と思わせてくれるBGMでした。


8.abandoned 
abandoned……廃棄された~
ひまわり………私はあなただけを見つめる、恋慕、崇拝

【ブルー】
………必要とされる人間になりたかった。
誰かの代わりじゃない。
わたしそのものが必要とされる、………そんな人間になりたかった
夏の間だけ、真っ直ぐに太陽に向かい咲くあの花のように
燦々と空を照らす太陽のように
わたしは、わたしという存在の、堂々とした存在証明を。
そしてわたしのこの命を、しっかりと世界に刻み付けたい
焼き付けたい。
ああ………もうすぐこの季節も終わるから。
暑い暑い灼熱のこの季節も、終わってしまうから。
壊し尽くせ。
わたしの中の全てを焼き尽くせ。
………何もかも壊れ、焼かれてしまっても構わない。
太陽に向かって、さぁ、堂々と咲き誇ろう。

季節は夏。
舞台はジャンクタウン。見捨てられた街。
主人公は会社に見捨てられた大人。
そこで出会う子供たち。咲き誇る造形のひまわり。

今回の感想も、話を追っていきながら、各テーマに分けていきます。

①大人と子供、大人の役割(序盤~中盤)
序盤は、ジャンクタウンで繰り広げられる子供たちのはしゃぐ姿と、それを見守る大人たちのワイワイアットホームな日常が描かれていました。
それは、見捨てられた街でも元気に咲き誇るひまわりのように、暑い夏に負けない元気な姿はこちらにも元気を与えてくれる姿でしたね。

【日向】
ブルーちゃんの笑顔
その笑顔は…まるで向日葵のようだ
前向きに、真っ直ぐ、太陽の方向に向かって咲くヒマワリの花。
ここはスラム街で…ふみしめる土もなくコンクリートで固められていて、。
花などどこにも咲いていないけれど。
彼女という花がそこに咲いているのだ。

ひまわりも、ブルーが作り出した造形のものではありますが、そこには本物のひまわりのような笑顔が咲いていました。だからこそ、この子供たちのためになにかをしてあげたい、そう思う純粋な主人公日向の想いはとても共感できるものでありました。

【日向】
あの子達のためにしてあげられることはないか
ごっこ遊びをさせてあげよう。
架空の悪を作り出し、3人に夢を見せてあげよう。
彼らに、私たちが夢を教えてあげよう。
それこそ私たち大人の役目だろう?

大人だからこそ、子供たちに夢を見せてあげたい。希望を見せてあげたい。プレゼントをあげたい。
綺麗事だったとしても、主人公にとって娘へのかつての贖罪だったとしても。
それでもこの時の主人公は、大人としてかっこよかったです。

まぁこの寸劇もバレていたのですがry
百合ちゃんが信じていた純粋さがあったのでいいのです!

○正義の味方
ちょっと話はずれますが、innocentなどで見られた「正義の味方」とはについて触れられてたシーンがあったので補足。
それはショーの時に、主人公からブルーへのセリフでした。
恐竜はこの街を襲う悪役の設定。その恐竜に対しての一言。

【日向】
見ようによっては恐竜さんは、正義の味方さ 。
恐竜さんのおかげでこの街は救われる、…そういうシナリオなのだから。

こうしたちょっとしたテーマをほかの物語に混ぜ込むのがありますよね。
こうしたちょっとした共通点があるのが、心地よくて、彼らの物語は受け継がれているんだなって感じます。

○ブルーの真相 自我の芽生え、存在証明。
ブルー、なぜ彼女だけ時々「ワタシ」とカタカナ表記だったのか。
なぜ彼女は主人公のことをオトウサンと呼ばず、オジサンと呼んだのか。
それは、彼女が失敗作の娘の代わりとして開発されたロボットであったから。
そうした彼女が一番恐れたのはなにか。それは彼女自身の自我を否定され、本来死んだはずの娘とみなされることでした。

【ブルー】
ねえオジサン、ワタシが一番コワかったことはね
オジサンに、ワタシのことをアサヒさんとして見られることなんだ。

ワタシは、ワタシとして生きたかった。
ワタシというジガが生まれたの。

abandonedの冒頭のセリフ、「必要とされる人間になりたかった」という言葉が結びついた瞬間でもありました。見捨てられた街で、彼女自身が代替品ではなく、私自身が必要だと。
朝日ではない、ブルー自身ができることがある。

【ブルー】
アサヒさんは………あの日、……この場面を訪れるコトは、…なかったんだね…… 。
………ワタシは、訪れることができたよ 。
アノ日アサヒさんが訪れるコトができなかった場面に。
……ねえオジサン、……元気でた………?

例え創りもののひまわり畑だとしても、オジサンに元気を与えられたのはブルーでした。
同時に、朝日は父親に元気を与えたかったから、ひまわり畑に生きたいと願った事実を知った瞬間。
朝日の純粋な願いと、ブルーの純粋な願い、二つが感極まった瞬間。私は泣きました。

○生きる定義、永遠、ロボット。

ロボットであるブルー、彼女は生きていると言えるのか。
永遠の命を持つ彼女は生きていると言えるのか。
日向、ブルーどちらも主張します。

【日向】
ブルーも朝日も生きているんだ
ロボットに命なんかない。
生きてなどいない。そう見せかけているだけ。
それでも。
生きている。こんなにも生きている。
私が生きていると認めれば…もう彼女は生きているって、……それでいいじゃないか。
朝日の代わりではない、ブルーという…一個人として。
一つの人格として。

【ブルー】
ねえオジサン 。
生きているってさ………どういうことなんだろうね。
ワタシはあの街のガラクタと同じ、不良品で、ゴミで、ロボットで。
無機質なものをツギハギして造られた物でしかなくて 。
死ぬこともないから、生きてもいない………。
それなら、ワタシがワタシを破壊することで、ワタシは生きようって。

止めないでね、オジサン 。
無機質なワタシは、…そんなワタシを殺すことでやっと、生きていることを証明できる気がするの。
アサヒさんの代わりじゃなくて、ガラクタじゃなくて、不良品じゃない 。
………ワタシっていう存在を 。
ワタシは何かを壊しているんじゃない………。  
……壊すんじゃない………、……創っているの……… 。
壊すことで、ワタシという存在を、創っているの。


ブルーはロボットとしてのエラー、「破壊衝動」を持っていました。
それは、自分が生きている、存在証明のためでした。
生き物は死ぬから生きている。
無機質なものが生きていると証明するには、死ぬ=壊れる、ことで生きていると定義できる。
ブルーは自分が自我が芽生え、生きていると思いたかったから。
だから、無機質なものを分解することで、自分が無機質でも生きていると証明していたのでした。

「ワタシを壊すことで、ワタシという存在を造っている」

壊すことで、生きていることを証明した彼女。
彼女は、根源にあるものとは違いますが、紅と似ていますね。
人を傷つける、殺すことで生きている実感をした彼女。

主人公日向は、ブルーの破壊衝動を止めることができませんでした。
なぜなら、彼女の破壊を止めることは、彼女の存在証明を否定することになるから。
その破壊の姿は、造形のひまわり畑の中で、燦々と輝く夏の終わりに、最後に咲き誇るひまわりのようでした。自分の存在を作り出す、生きている姿でした。
あの時のCGは本当に鮮明に記憶に残っています。
同時に冒頭の0章のセリフがまさに思い返されます。

pfyになりますが、pfyでもブルーは登場しませんでした。
もちろんロボットというのもあるとは思いますが、彼女が登場することは、彼女の一生懸命に生きた愛を否定することになります。
pfyでここが触れられているのが、何よりも嬉しかったです。

ひまわりのようにまっすぐに咲き誇る姿、とても誇らしい姿でした。

【ブルー】
血が繋がってなくても、人は………カゾクになれるんだよね。
オジサンは、………ワタシのたったひとりのカゾクだよ。
……(笑顔)

何かを壊して、何かを新しく創り上げることが、ワタシの存在証明なの。
だからオジサンも、オジサンの中のワタシの存在を壊して。
ワタシの存在も、アサヒさんのことも、…もう断ち切って。
………新しい日々をやり直してね。


もうね、アホみたいに泣きましたね。
見捨てられた街で、もう一度咲き誇るように。
ブルーの存在を壊すことで、アサヒの過去を断ち切ることで、新しい日々を踏み出してほしいという彼女の優しさに、泣きました。
血はつながってなくても家族になれる。
主人公は物語中で、この破壊される光景は自分に対する罰だと描写され、止めることができなかったとありましたが、同時に見届けることこそが彼女のためになったのではと思います。


○子どもたちと大人

【日向】7章より
あの子供たちの明るい笑顔を見ていると、見失っていた何かを再び思い出せるような感覚がする。
 ヒマワリの花が太陽を追いかけるなら、
 …私は子供の笑顔を追いかけて、……そして何も見失わないようにしよう
 あまりにも眩しすぎて、目が焼けそうになることもある。
 でも、ずっと目を離さないでいよう。
 今度こそ。

abandonedの世界は、きっと負の面もありふれた時代だと思います。
でも、だからこそ、子供たちがいるから頑張れるのだという純粋な想いがとても伝わってきます。

【日向】
たとえ世界に何もかもがなくなっても。
世界が、滅び朽ちても。
………そこから何かが生まれることも、あるんじゃないかと思う 。
…ゼロから何かが生まれることもきっとあるんだ。

人はどんな場所からでも夢は見れるんだ 。
花が咲く場所を選ばないように きっと。

ひまわりのように、真っ直ぐに咲き誇る元気をもらえた話。
同時に、ロボットによる「生きるとは」について、存在証明を堂々と見せてくれたお話でした。
科学が発達して、創る側となった人間の物語。
素敵なお話だったと思います。

○abandonedにおいての「永遠」とは
 他の物語でも見られるテーマとして「永遠とはなにか」がありました。
 こういった点から、abandonedではどのような位置にあったかについて触れます。
 この物語は、forever(結末)やdearにおいて肯定された永遠の否定側になります。
 物質、生きるものに永遠など存在しない。死なないとは生きているとは言えないと。
 この世界ですら滅び朽ちる。だから生きているのだと。
 このような物質の永遠がないからこそ……。と対比した想いが描かれたのが、pfyでした。
 詳細はpfyの感想に書きますが、そういった意味でもこのabandonedは必要な物語であったのでは と思います。
 pfyにブルーが登場しなかったのもこの一つだと思います。

(2)
abondoned感想
いやぁとにかくブルーやレッド、ゲントにユリがほんとにみんな可愛い……www
子供たちが大騒ぎする姿にはほっこりしました。何度日向の「可愛いなぁ……」という笑顔に自分自身がシンクロしたことか……。レッドの「子供扱いするなー!」という姿には父性本能がくすぐられるものがありました。
だからこそ、寸劇などの、ビール片手に子供たちの反応見る大人の姿がなんというか大好き。おっさん達の、社会人で子供たちに癒される姿が、シンクロしました。
まさに太陽のようにまぶしい子供たちだったなって思います。
だからこそ、後半のブルーにはまた泣きました。詳細は上記に書いたので省きますが、こういったロボットのお話に弱いです。家族との絆のお話に弱いです。

本当に一番笑って泣いたんじゃないかって思うくらい面白いお話でした。
そしてこういった大人の姿があったから、緋色がさらに正義の味方でありたいと思ったのなら、それはとても素敵だなって思います。

(3)abondoned BGM
追憶─明るいガラクタ市場─、が一番このジャンクタウンの日常!って感じで頭に残ってるなぁと思います。
一番好きなのは、abandonedですね。冒頭シーンでも流れましたが、太陽に負けないように、夏が終わるこの季節に、最後に咲き誇ろうとする姿がイメージされて。堂々とあろうとする姿がこのBGMからイメージされて。とても好きです。



9.dear
dear………親愛なる~へ
タンポポ…真心の愛


【未黄】
『愛される人になりたかった。
生まれた意味が欲しかった。
愛されずに生まれて生きた私を愛してくれる存在が、必要だった。
伝えていく。遺していく。
………この世界へ………。
私に怒りも苦しみも、喜びも悲しみも教えてくれたこの世界へ。
最愛の、この世界へ。それは愛しさと、………ほんの少しの憎しみと。 
さあ、私も、愛を受け継ごう。溢れんばかりのこの星の愛を。
………愛を。』

(1)
lostによる世界が崩壊後のお話。すでに世界は、90%近くが荒野。人類は現在の地球を諦め、遠い未来にまた復活すること、春が訪れることを願い、全員で冷凍睡眠に入った。
こうした中で、ひとり目覚める「未黄」という少女。 そして出会う「春」という少年。
すでに終わりを迎え、いつ来るかもわからない「春の訪れ」を願う世界で、少女はこの世界になにを思うのか。

永遠の愛を誓った恋人がいた 。
この世の憂鬱を嘆いた女の子がいた。
救いを願った少年がいた 。
娘を失った父親がいた 。
人間らしく生きたかった少女がいた。
臆病者の男の子がいた 。
正義の味方になりたかった子供がいた 。

かつて紡がれた世界の一部、7つの物語。
それぞれの時代によって紡がれてきたこの地球の物語。
最後に紡ぐ彼女の物語とは。

『愛される人になりたかった。
 生まれた意味を知りたかった』
物語は、この終わりを迎えた世界での「愛」がテーマでした。
それぞれの場面からこの「愛」について感想を書いていきます。

○愛とは「遺す」こと
実は、この愛とはなんなのか、その回答は1章から春によって出されています。
この物語は、その回答の真意を未黄が理解していくお話です。

それは以下の3つだと思います。
①愛とは、それぞれの登場人物の物語、それらの想いを次の世代へ遺すこと。
②僕たちは、地球を舞台に展開される壮大な物語の一部であり、愛の結晶である。
③愛されることは、つまり愛することである。

ここで、愛=想いを遺すこと、と言い換えれば、③については意味が変わってくるのではと思います。答えてしまうと、愛し愛されるとは、受け継がれた物語を次の世代へ伝えることです。

以下は、その根拠となるシーンを列挙していきます。
始まりは、二人で見る映画「356」より始まります。
356の映画の内容は、主人公たちは世界が好きだから、愛しているからこそ、自分たちをなかったことにしてでも、何もなくしてしまった地球を元に戻して遺そうとしたこと、これこそが地球を愛した証明であり、地球への愛なのかもしれないと語ります。
さらにこれは、これまで歴史を残してきた歴史資料館、そして今まで継がれてきたこの街そのものも、遺してきた、愛なのだとします。
そこで、この愛に対して、春と未黄が対立したのが、歴史の「年表」でした。

【未黄&春】
未黄:年表を見てるだけじゃとても愛なんて感じられない。年表は客観的なものでしかない。
   客観的なものに愛は存在しない。
 春:年表を見てるだけじゃとても愛なんて感じられないよ。年表は客観的なものだから。
   でも、…その記されていない歴史の中には沢山の愛がある 。誰もがいろんな想いを抱いて誰もが一生懸命生き
   た 。
   その一瞬一瞬が今に繋がってる。 なんかそれってすごいことだと思わない?
   地球を舞台に展開される壮大な物語の、僕らはその一部なんだよ 。
    想像すればするほど…この地球の歴史の中には数え切れないほどのドラマがたくさんあって
   この地球にあるのは無機質な歴史の年表じゃなくて、 いろんな人がいろんな想いをしながら築き上げてきた愛の
   結晶なんだ 。
   そのことを想像すればするほど、愛は無限大に増えていく 。
   僕はそう思えるから…あの年表が愛に満ち溢れて見えるよ 。
   (中略)
 未黄:でも私には歴史がない。長く紡がれ紡いでいく歴史の流れが私たちにはないの。
    (試験管ベビーのため)
    私には一体私は誰に必要とされて生まれてきたのかわからないわ。
  春:きっと君が君を必要として生まれてきたんだ。
    愛されるために生まれてきたんじゃない。愛するために人は生まれてきたんだ。
    誰かを愛すれば、自分自身も愛されると、愛することも愛されることも、とても簡単なことなんだ。

 この地球を舞台にして、様々な物語がありました。その物語は読み手の私たち自身も経験してきました。その事実がわかるのが、その後に登場する過去映写機です。

○過去映写機
地球の過去の映像を見ることができる機械。仕組みはvividでも登場した、太陽の光が8分前のものしか届かないものを応用した機械でした。
その映像を見た未黄は。

【未黄】
ここにはかつて、たくさんの命があって。
たくさんの人が生きていて。
そしてそれぞれが一生懸命生きて、…その命を燃やして……死んでいった。
いつの時代も、人は同じで。
同じことを何度も何度も繰り返してきて。
誰もが己の身を訪れる死と立ち向かって、受け入れて、死んでいった
誰もが自分の人生を…きっと精一杯生きていた。
 
そうやって想像してみれば、…何も聞こえなくたって、………
たくさんの命の脈動が聴こえてくるような気がする

この地球の長い歴史を、私は想像してみた
それは年表のように客観的な事実を書き連ねたものではない。
その、客観的な事実のそのむこうで。
人々は苦しんだり悲しんだり、辛くて膝を抱えたり。 
喜んだり楽しんだり些細なことに嬉しさを感じたり。
泣いたり笑ったり。
…そんなふうにして歴史は紡がれてきた。


未黄は、過去映写機によって、自分が物語の一部であると、気づきます。
歴史にはそれぞれの物語があり感情があり。

【未黄】
目を閉じれば、…感じる。
まるで巨大な波のようにたくさんの想いが押し寄せてくる
そんな気がする
耳を澄まして、目を瞑って、想像してみれば…。
笑い声が聞こえる。
足音が聞こえる。
命が芽吹く音がする。
遠い昔に想いを馳せ、気持ちを同化させると…胸がいっぱいになるような奇妙な気持ちになった 。
今まで感じたことのない感情がこみ上げてくる。
こうした気持ちを感じることで、今ここにいることこそが奇跡であり。
必然の連続であり。今ここにいることこそが愛しいという気持ち。
そしてこの気持ちを、想いを受け継ぎ遺したいと思うことこそが「愛」だと語ります。

○孤独
ただし、前提として、彼女が孤独なことには変わりありません。

【未黄】(2章より)
春、少なくともあなたがいてよかった。
世界にひとりって思うことがこんなに恐ろしいことだって思わなかった。
誰ひとりとして僕の存在を知っている人がいないことは、
…とてつもなく恐ろしい 。
二人以上で、…互いの存在を確認できる存在があって、……存在できるのね」

3章より。過去映写機はただの映像であり、私たちは過去の映像を見ている傍観者であると。
抑揚のない日々。
春は語ります。
「あなたも登場人物である、過去の映像を見ている登場人物である」

孤独をずっと、長い時を味わってきた春はどのような気持ちで、この未黄のセリフを聞いたのか。
そして、その後の話になりますが、春がいなくなった彼女はどのような気持ちで孤独を味わったのか、計り知れないものであったと思います。

○春の愛情と憎しみと。父親の愛情と憎しみと。
ここからは、冷凍睡眠による真相解明編。
冷凍睡眠の彼らは既に死んでいて、春により真相が語られます。

春の正体、それは春は未黄の弟の存在であり、ロボットでした。
春は父親に愛を教えてもらったのでした。

まず春より語られる父親について整理します。
父親は自分の好みに造ったロボットしか愛することができず。(恋人ロボット)
自分の頭の中で完結している物でしか愛を感じることができず。
父親は自分の中の虚しさに襲われ始め、孤独を思い知ります。
こうして生まれたのが未黄でした。
孤独の中で、せめてなにかを遺したい、その証明として生まれたのが彼女でした。
この遺したいという意志と孤独は、未黄にもみられた感情でもあります。

【父親】tips最愛より
こんなにもどうしようもない人間である私が、子供を育てることなど出来ると思うか…?
私はいずれあの子に恨まれる。私を蔑みの目で見る。
私を、脅かす。私はあの子が怖いんだ…。
歪な私の姿を見抜かれそうで、責め立てられそうで、私のような者が父親で………失望されそうで怖いんだ。
ああ、ならばどうして生み出してしまったのか。
だって私は…私も私の想いを誰かに伝えたかったんだ。
私自身が生まれた証をこの世界に遺したかったんだ。
彼女もきっと私と同じ苦しみを味わうんだ。
誰からも愛されない、苦しみ 。でも私は彼女を愛している
彼女は私の、最愛の、


だからこそ、父親は未黄を自分の精子によって生みました。
同時に、自分と同じ立場に境遇にたたせることになったことで、子供は自分を恨むだろうと、憎しみに恐れ、遠ざけます。しかし同時に未黄を守りたいと愛しているため、そのためにその想いを伝えようと、春に愛を想いを告げることを託します。臆病者の自分の代わりに。
これが父親の【愛情】


次に春について整理します。
春とは、父親によって愛を教えられて、未黄に愛を伝える存在です。
春は、この永遠の孤独を過ごすきっかけとなった父親に憎しみの気持ちがあります。

【春】tips憎しみより
どうしてお父さんは、僕にこんな苦しみを強いるんだ!
どうして僕は生まれなくちゃいけなかったんだ………。
憎い。憎い。…お父さんが憎い……。
だって。お父さんが本当に愛してたのは僕じゃない。
…僕じゃなくて……。

しかし同時に、彼は言います。
「僕に愛することとはどううことなのかを教えてくれた。
 実際に僕を愛してくれた、僕はお父さんが大好きだった」
これが春の【愛情】と【憎しみ】
愛情と憎しみは表裏一体。

そして、最後。未黄の愛とは、憎しみとはなんなのかについて。
それは6章より語られます。

○未黄の憎しみと、愛情と。
未黄の憎しみとは、それはこの孤独という境地に追い立てた春。
そして、このような孤独を強いた地球です。それは彼女の慟哭の叫びにも現れます。

【未黄】6章より
………けれど私たちはもう、………ここでしか生きられないのに
どんなに遠くへ種を飛ばそうとも、私たちはこの待ちの中でしか生きられないのに!
意味ないのよ! もう意味なんてないのよ!!」
 
………声が枯れそうなほど大声で泣いた
誰も私の鳴き声を聞いてくれないのに。 誰も応えてくれないのに。
それでも誰かに応えて欲しくて。 目を真っ赤にして、泣いた。

私は地球の歴史のバトンの受け渡しの、…アンカー。
ゴール地点で歓声を上げてくれる人は誰もいない。
私はたった一人だった。

未黄の愛情とは。それは愛とは何かを教えてくれた、遺してくれた春への感謝。
そして、父に必要とされたことへの愛されていたという愛。
そして、地球を舞台にした物語の一部として、今ここにいることへの愛 。
誰もが必要な存在であり、誰もいない今だったとしても、世界が私を必要としてくれているとした、憎しみをも受け入れる愛です。

【未黄】6章
私は何かを遺すために生まれてきた。
この愛を、…また受け継いでいくために。
まるですべてがつながっているような奇跡を感じる。
なんて壮大な物語だろう。
…そして私もそんな物語の一部となっていて。
だから…憎しみも苦しみもすべて抱きしめることができる。
すべてを受け入れて、素直な心で、…この世界は素晴らしいって思える。
何もなくたって、ここには何もかもがある。
  
私は今………自分の生命を謳歌していた。
確かにここで生きていると感じられる。
愛することができるから、すべてを受け入れられる。
全てを受け入れて、与えられた役を演じ切って、私も世界の一部となることができる。



ここで言う「愛」とは、憎しみや悲しみ、感謝の気持ちを全て含んで遺すことこそが「愛」
だと思います。
最初は対比のために「愛←→憎しみ」としましたが、想いを遺すことの愛とは、これらの
感情を全て受け入れたうえでの、未黄の「愛」なのでしょう。


未黄は、こうして地球を舞台にした物語の一部として今ここにいることで愛されていて。
だからこそ、これらの愛を遺すこと=文字にして伝えることで、この地球を愛するのだと。
愛されるためには愛することが必要で。それはとても簡単なこと。
『今この物語の一部であること、そしてこの想いを遺すこと』
美黄は地球を愛するとして、自分の人生の15年間をこの地球に宛てます。

それは、タンポポが綿毛を飛ばすように。
次の時代へつなげるために。
私の意思を遺すかのように。

Dear 親愛なるこの世界へ
………最愛なるこの世界へ………。
感謝を込めて。

○foreverの「永遠」とdearの「愛」
さて、このdearの物語。私は、pfyをクリアすることで、初めてdearは完結すると思っています。
そのpfyで問われる「永遠の愛」とはなんなのかについて。
pfyでその回答は出ていますが、それとは別に、foreverとdearからみた「永遠の愛」について触れます。
foreverで語られた「永遠」とはなにか。それは、それぞれが持つ一瞬一瞬の幸福な時間が心のなかで永遠に続いていくこと。
dearで語られた「愛」とはなにか。それは、この想いを遺したい、次の世代へと遺したいと願うことでした。
ここで、二つを合わせると、「永遠の愛」とは。それは、幸せだと思う一瞬一瞬を、終わらずに続いて欲しいと、願い遺すこと。それこそが答えだとしました。
pfyにおいて、永遠の愛とは、「終わりたくないって願う、私たちの心が、この歴史を紡いできたのよ」と、未黄は答えます。
この愛が、ずっと続いていけと願うこと、これが永遠の愛だと。
滅び朽ちる世界に追憶の花束を。この物語は時系列から行くと、foreverから始まりdearに終わります。それは「永遠」から始まり「愛」をテーマに終わる物語。
すでに、foreverの時点で、永遠についてのテーマはすべて触れられていたのですね。
foreverの永遠では、それぞれ一人一人のミクロな視点で。
dearの愛では、地球を舞台にしたマクロな視点で。
この二つが繋がり、最後の回答、「永遠の愛とはなにか」について繋がるpfy。

とても壮大です。すべての、本当にすべてが繋がる瞬間でした。
だから、この永遠の愛を込めた花束をあなたに送りましょう。語りましょう。
ようこそ、この地球に!!

また別にpfyの感想も批評空間で書く予定です。
そこには、未黄が見出した、「永遠の愛」についてもう少し深く書く予定です。
本編のこちらの感想ではここまでにします。

○未黄と8章
………ひとりじゃなければ、私は、………もうそれでいいよ。
私はただ、誰かと、…一緒にいたかったよ。

その彼女が発明した作品。
それは。 そして、彼女が見つけた答えは。

(2)dear 感想
dear lostの世界崩壊後ということで、もう始まりから、悲壮感がただようのかと思ったら。
主人公や登場人物たちはそこまで悲観的でもなく、ただあるがままに受け入れている感じが
不思議でした。ただし、背景やBGMの哀愁感は凄まじいものでして、この終わる世界で彼女
たちは何を思うのか、見事に描ききってくれたなぁと思います。

個人的に面白かったなぁと思うのが、作中に出てきた映画「365」
foreverの場合は「恋人同士」の関係を語るために出てきて。
vividの場合は「人間的な感情」の起因を語るために出てきて。
dearの場合は、映画の性質でもある「傍観者」と、全てをなかったことにできる決断と遺すこと
で使われました。

このつながっていく世界観の中で、一つのものがどのように作用していくのか。
この仕掛けられた設定が本当に上手でとても良かった。
本当に今回もうまかった。

そして最後。やはり今回のテーマとタンポポという花に込められた意味合いも良かったですね。
春の訪れ。綿毛としての想いを遺すこと。生命力の強い花。
そして世界に愛を込めて。

これまでの歴史があったからこそのお話でした。
愛とはなんなのか「愛する」とはなんなのか、一つの答えを見せてくれました。
プレーヤー側も実感することができました。

【未黄】
タンポポの綿毛も一緒に飛ばす。
タンポポの花は強いから。
ひょっとしたら街の外の世界でも……生きていけるかも知れない。
そして世界を変えてくれるかも知れない。
そうだといいなと思った・・・。
またこの星にかつてと同じように春が訪れますように。
生命が芽吹き、花が咲き乱れるあの季節がまたやってきますように。

未黄が風船を飛ばすCGが大好きです。
そして、一番残酷な物語出あったと思います。
ただし、pfyがあったことにより、救われた気持ちにもなります。
あのpfyの彼女の笑顔が何よりも大好きなのです。

(3)dear BGM
dearです。
滅び朽ちる世界の物語。
冒頭の彼女の涙。


10.エピローグ
理想の世界とは

【薪元】
私は、素晴らしい世界を追い求める必要などなかったのだ。
愚かな私は、理想を求めて、全て失ったのだ。
私の幸福は、わたしが生まれたあの時代に、全部、あったのだ。

あなたが将来なりたいものはなんでしたか?

tips君がのそむ世界にて

薪元くんと、陽子さんは出会えたのでしょうか。
続きは、present for youで……。



10.総括。
(1)
薔薇、紫陽花、向日葵、彼岸花、百合、蓮、忘れな草、そして蒲公英。
それぞれの花には、それぞれの時代を一生懸命に生きた登場人物の愛が込められていました。

そしてその中には、どこかそれぞれに共通点が見られたように私は思います。
例えば、「純粋な白の正義を見出す百合」と「純粋な悪であった紅」と、そして「正義の味方を迷い貫こうとした緋色」から見た「正義」の姿。
人間でありたいと願う「紅」で他者を殺すことでしか生きている実感を見いだせない彼女は、自分を壊すことでしか生きることを証明できなかった「ブルー」と似ています。
マゼンタや紅といった、未来が決まっているとした未来予知の存在がありながらも、melancholyの紫亜や、lostの翠たちは、未来を変えたいと願いました。
他者を救いたいと願う緋色とマゼンタの姿、そして緋色の姿は、親子で想いを受け継いでいるからなのはもちろんではありますが、似ています。特に緋色の自分のために正義であろうとした姿は、マゼンタの自分のために他者を救おうとした姿に似ていると感じます。
一瞬一瞬の永遠に気づき、だからこその心の中に永遠を願った緋依の姿は、想いを遺すことで愛を地球へと宛てた、未黄の姿に似ています。同時に、abandonedではブルーが物質、生き物の永遠を否定しました。
こういった、それぞれの時代にも共通して見られる姿が、この物語で見られた、永遠の愛の形の一つではないかとも思うのです。

こうして似ているのはなぜか、それは誰もが一生懸命に生きていたからだと思います。
その誰もが共通して、必死に生きて、そしてこの幸福な時間を、この想いを最後まで貫いて、そして永遠に続いて欲しいと、遺していく。
誰もが「なりたい自分」を目指して、地球の物語の一部として、登場人物として生きていく。
薪元くんも例外ではありませんでした。彼も、最初は科学でみんなを笑顔にしたかったからと。
彼はやり方を間違えてしまったけれど。気づくのが遅すぎたけれど。不器用だっただけ。
完璧な世界を見たかったのも、好奇心の奥底にはこの「最初になりたかった自分」がいたからこそだと思うのです。

"あなたが将来なりたいものは、何でしたか?"

最後に残したこの言葉。
そしてこのセリフには、私の妄想でしかありませんが、裏に付け加える言葉があると思うのです。
それは

「あなたは、そのなりたかった自分になれていますか?」
「そのなりたかった自分に近づくために、一生懸命生きていますか?」

この物語で描かれたように、例え迷走したとしても、なりたい自分であろうとするために必死で生きることの素晴らしさを、この物語は教えてくれたように感じます。
そして、同時に、こうして必死に生きた想いは、受け継がれていく奇跡を教えてくれました。

私自身、子供の頃なりたい自分であった姿は漠然としてはいるものの、あったような気がします。今の自分がその自分になっているとは胸を張っては言えませんが、でも近づく努力はしているだろうかと回顧する気持ちになります。

ただ、このかっこいい登場人物たちのようでありたいとも同時に思います。
そしてこの幸福な時間が永遠に続けばいいのにと思えるような人生を送りたいものです。

『必死に生きた彼、永遠のような幸福な時間を過ごした彼女たちの姿を花束にして。この地球に、あなたに、贈りましょう。語りましょう。滅び朽ちる世界でも、この、彼らの愛は永遠に続いていくのだと証明するために。永遠はここにあるのだと。』
──そして永遠にこの想いは、この愛は、続いていく……。

         『Hello World!!』



(2)総括、感想
いやぁぁぁぁ、面白かったよォォ。
本当に素晴らしいお話でした。どれもがどれも大好きで。順位なんてつけられないくらい。
最初はSFものと思って、そういう意味でワクワクしていたのですが、いやぁ良い意味で裏切られた。なんて言うんでしょう、幻想的な雰囲気といいますか、どこか少女漫画に近いといいますか。
設定は深くまで語られないのですが、でもどこかこのゲームの作風がふんわりしていて、どこかストンと心の中に入ってくる不思議なテキストと物語。どこか未来的で、でも物語風なイラスト。さらにその雰囲気を助長させる素敵なBGM。ここぞという場面で描かれる一枚絵。そして魅力ある登場人物。起承転結で描かれるテーマ。
どれもが、どれもが本当に素晴らしい。
語彙力がなく、上手く感想を伝えられない自分がもどかしいです。
世界感の設定から構成力から考察すべき点から、どれもが楽しく面白かった……。
そして何よりも、この物語のテーマ「永遠とは存在するのか」という話が何よりも素晴らしかった。
また、このテーマの考察についてはpfyの方で書いていきます。

最高のゲームでした。
こんな素晴らしい作品に出会えたことに本当に感謝したい。
ありがとう。

またこのような素晴らしい作品に出会いたいと願ってやまない。
そう思わせてくれるゲームでした。

このような自己満足の感想をもし読んでくれた人がいたなら、ありがとう。
そして郷愁花屋さん、本当に、素晴らしい作品を作ってくれて、本当にありがとうございました。
続きの感想はpfyにて。

PS.一番好きなお話はdear。(pfy込)
  一番好きなキャラは緋依さんです。