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meroronさんの蜥蜴の尻尾切り ~切れないしっぽ~の長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
蜥蜴の尻尾切り ~切れないしっぽ~
ブランド
CYCLET
得点
86
参照数
2660

一言コメント

蜥蜴の尻尾本編に比べて、切れないしっぽは至ってシンプルである。一風変わった仕掛けなどはなく、どこかにあるような物語なのだが……だからこそ胸が打たれる。 健やかなるときも、病めるときも、愛せることを誓えますか?

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

猪上秀という主人公は本当に凄いと思う。
本編では荊への妄執に取り憑かれ、人体切断と人食という凶行に走るがそれは荊が好きすぎたことの裏返しである。

本編で叶は「一緒に堕ちて」と秀を誘惑するが、秀が本当にしたかったのはそれだったのだろうと感じる。
彼は荊に寄り添い、一緒に堕ちていったのだ。

たとえ彼女が病魔に侵されようとも、自分がそれに感染しようとも、彼はすべてを捨ててでも彼女といることを選んだ。


病気のヒロインっていろんな作品で出てきていますが、彼女を想って自分も一緒に病気にかかりながらセックスをする作品には初めて出会ったから、すごく心打たれた。
至ってシンプルだし、驚くようなことではないんだけど、その選択をする秀の愛情があまりにも深すぎる。

最初は泣いてなかったのに、段々と皮膚が腐っていきながらも愛のあるセックスをするシーンはだんだんと涙が出てくる。
もうすぐ死ぬヒロインに対して、「奇跡が起こって治る」のも「悲しみを乗り越えて生きていく」のもしっくりこなかったのだが、これは想像以上にしっくりくる結末だった。
ああ、これぞ純愛。
一般的な倫理観や忠告を無視してでも、彼女のそばにいて愛する秀の生き様は、紛れも無く純愛であった。


彼らは共に腐り朽ちたが、お互いの尻尾を守り切ったのだ。
お互いの心が、「切れないしっぽ」となっていたのだ。