喪失を恐れる者と、喪失しようとする者と、喪失を埋めようとする者と。BlackCycを髣髴とさせるグロ描写に加えて、「ヤられる」側の心情を描いているから読んでいてとても痛い。けれども痛みを超えて何かを求めようとする彼女たちは、確かに狂っているのだろう。
狂いの始まりには、理由がある。
蜥蜴の尻尾で強調したかったのはこの部分なんじゃないかなと思いました。
この作品の構成は全て、狂った様相を見せたあとにキャラクターたちの過去を見せています。
それはヒロインだけではなく主人公にしても同じでです。
具体的に作品の構造を読解してみると、
●猪上秀
切っ掛け : 最愛の幼馴染が目の前で自殺
狂気の形 : 切断と再生への異常な執着
狂う過程 : 切断することで生き残れるかも知れなかった幼馴染の妄執に囚われているから
●美濃町叶
切っ掛け : 最愛の弟との死別
狂気の形 : 愛するものを喪失することへの強すぎる恐怖と自己犠牲の肯定
狂う過程 : どのような形でも失うことを恐れ、自分がどうなろうとも手段を問わなくなった
●物部智秋
切っ掛け : 厳格な家庭の抑圧と、父からの性的虐待
狂気の形 : 自分の体を壊してしまいたくなる自己破壊願望
狂う過程 : 自分を苦しめる家庭から解放されたい一身で、自分自身を壊してしまいたくなった
●和泉真菜香
切っ掛け : 人生を掛けようとしていたバスケができなくなったこと
狂気の形 : 自暴自棄。体内の血を見たがる。
狂う過程 : 体内の血が人の本質であることに結びつけ、自分の本質を見たいがために血に興味を示す。
真菜香が最も分かりにくい上に智秋と狂気の形が被ってるように見えちゃうんですよね。
ココらへんをもうちょっとハッキリさせて描写を増やせば構成ゲーとしてかなりのものになったような気がします。
他には、所々の台詞がエッジ効いていて良いなと思いました。
「だから……謝らないで……! ケジメつけようとしないで……! 許されようとしないで……!」
「平等になったら……叶は秀に依存できなくなる……叶が付け入る隙を……埋めないで……!」
「一緒に狂ったままオシマイにするんだよ――」
これらの叶ちゃんの台詞がふとハッとさせられます。
本当に愛しているのなら、それは謝ることじゃないんですよね。
謝ることは突き放すことと同じで、そんな事実にふと気付かされるこれらの流れはすごく良いなと思いました。
そして、エピローグでの荊の台詞
「人間の心も……一度壊れたら元には戻らない。
蜥蜴の尻尾のように、生え変わることはないんだね」
結局は殆どの人がこれなんですよね。
蜥蜴の尻尾のように生え変わる強い人もいるけど、生え変わることなんて、なかなかないのだ。