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meroronさんのトライアンソロジー ~三面鏡の国のアリス~の長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
トライアンソロジー ~三面鏡の国のアリス~
ブランド
07th Expansion
得点
60
参照数
2096

一言コメント

一流のクリエイターが集まったからといって作品が一級品になるのかといえば、そうはならないのが創作の面白い所ですよね。仲良しレースで一緒に走るだけじゃあ、その領域には辿り着けない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

今回のトライアンソロジーに参加している方々はみんな凄い方々だと思います。


都乃河さんはまだ単体での代表作がないので判断できませんが、竜騎士07、田中ロミオ、ナカオボウシの御三方は間違いなく過去に 『名作』 と呼ばれる作品を単独脚本で作り上げた方々です。

●竜騎士07
一大ムーブメントを巻き起こしたひぐらしのなく頃に、批難の的ではありつつも根強いファンを擁しつつ今では漫画版で高い評価を得ているうみねこのなく頃に、そしてプレイヤーの数の割に多くのファンを擁する魂の作品ローズガンズデイズ。
今年の初めには安定した評価を得ている祝姫を書き上げたことでも話題です。
まだアンチは多いかもしれせんが、名実ともに名作クリエイターでしょう。


●田中ロミオ
クロスチャンネル、最果てのイマ、家族計画……数々のエロゲ史に残る名作を生み出しラノベ界でも活躍する一流のライター。
これ以上説明するのも無粋なほどに、すごい人だと思います。


●ナカオボウシ
同人ゲーマーの中ではかなり有名なクリエイターであり、稀代のSFライターでありながら演出家。
圧倒的なスケールで構築される名作『MYTH』はもちろん、新作の『W-Standard Wonderland』での超越した演出力を魅せつけて来る。


いや、凄い人たちが集まった。凄い凄い。
けれども、作品の方は彼らの凄さに対し、完全に名前負けしていると思った。

過去の07th作品と比べて、熱量が足りないんですよ。
そもそも作品のコンセプトからしてキャラクターやテーマに魂が宿るようなものではなく、作り手が散漫していることにより一本の筋が通っているようにも思えない。

今作は07th作品の中で久しぶりに結構売れた部類だと思います。
だからこそ、これでこのクリエイターの方々の真髄が終わりだとは絶対思ってほしくない。

トンソロ単体ではみなさんの凄さって、絶対伝わりにくいと思います。
自分もこれが最初にやった作品だったら、それで終わってしまいそうだもの。
どうか、これで終わらず他の作品もやってみてほしいです。それだけが私の願いです。


以下、内容で思ったこと↓























●そもそもギャグがイマイチ

ナカオボウシ氏の参入により演出強化されてまずが、それでもライター3人全員がナカオさんのギャグセンスの域に追いついてないと思います。
W-Sと比べちゃうとやっぱり笑えないです。
これはもう演出だけじゃどうしようもならない部分でして、書き手の問題です。
演出はある意味で遊び心。その遊び心が発揮されるのは脚本あってこそであり、演出単体でも脚本単体でも十分な笑いは起こりにくいです。

特に学園恋愛アドベンチャーは一番ギャグに特化できそうなのに、笑いのポイントがそこまで多くなかったのが、なぁ……。
ベスピオもベスピオで下品なB級ハリウッドっぽい掛け合いしているだけで、笑えたのって映像演出の部分だけだしなぁ……。



●複数ライターにする必要あった?

結局伝えたいテーマが引きこもりから脱しようであり、こういう構成にする必要あったのかなぁ……という疑問。
ここまでしなくてもコンパクトに上手くまとめている作品が他に存在する分、余計に思います。

単体としてはカントリーガアルが一番良かったですが、これはこれで単体にしても引きこもりに対するアンチテーゼには十分なってますよね。
創作論的な作品としては竜ちゃん自身が過去にうみねこのなく頃にを作っていますし、竜ちゃん自身アレを超えるのは難しいでしょうに一体何を考えているのか……。



●結局ゲームの世界にしちゃうのって

田中ロミオのカントリーガアルは、それが元の世界であることは判明しましたが都乃河さんの学園恋愛アドベンチャーに対して「これゲームの世界でーす」ってなんか凄く失礼な気が……。

それが仕事だからと割り切るものかもしれないけど、他の人に依頼するシナリオの部分が丸ごと作中の虚構として作られるのって、なんか……その……。
そういった意味合いも込めて、これ複数ライターする必要あったのかなぁと。



●BGMの印象が残らない

これ07th系の作品で初めての経験だったんですけど、曲名覚えるまでに気に入るシーンが一つもなくてビックリしてます。
それまでは気に入って曲調べて……ってのをやっていたんですが今作はそれが一度もなくて、本来あったはずのシーンと曲のベストマッチが実現していないように思えます。


●そもそもアリスへの感情移入がだね

全くできません。
カントリーガアルはそれなりに描写してましたけど、アリスの場合それまでの描写全然なくて兎とお喋りしてただけじゃないですか……。
そんな素性も知れない引きこもりの少女の姿が急に出てきて、絶望してくださいって言われても無理な話ですよ。

しかもだねー! アリスの現実世界の姿見せるなら、最後ぐらいたつひこさんに描いてもらえればいいのになんで竜ちゃん絵なの!? 世界観もへったくれもないよ!?
あそこは現実に存在したことを見せつけるためにも、その世界観に一番適合した絵で見せるべきじゃないの……!?




最後に、どれだけの報酬支払ったのかは分かりませんが、せっかくの合同企画なら皆さんの作品とかをあとがきで紹介してくれてもいいんじゃないですかね……。
特にナカオさんとか……ナカオさんとか……ただでさえ同人ゲームは宣伝必要なんだからこんな時ぐらい……さ……。

ローズガンズデイズで同胞同士の助け合い説いてるんだから、それくらいやってほしかったなぁ………。戦友じゃないのかよ、チクショウ。