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meroronさんのCHAOS;CHILDの長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
CHAOS;CHILD
ブランド
MAGES.(5pb.)
得点
94
参照数
1889

一言コメント

最善の方法が幸せというわけではない。どうしようもない彼らが愛おしいからこそ、 どうしようもないくらいに辛い。構成、キャラクター、演技、演出……あらゆる要素が一級品であり、だからこその悲痛さなのかもしれない。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『この作品はシュタインズゲートを超えたのか?』


なんて挑戦的なアオリ文なのか。
自らを代表とする名作を引き合いに出して、それを上回ると自負するそれは一種の賭けに近い。
けれども、自分が実際にプレイして、感じたのはまさにその通りの気持ちだった。




ネタバレです ↓







・Over Sky

期待に胸を膨らませてみるものの、途中までは『スラスラ読める面白い作品』ぐらいに思っていた。
キャラクターの立たせ方は巧いし、不快になるような場面も少ない。ハラハラドキドキが常にあって気になって読み進めてしますが、それくらいだった。

そう、非実在青少女までは。

あの事件は本当に胸糞が悪く、グサリと来て、だからこそのこの構成が見事だと賞賛せざるを得ない。
あの瞬間こそが、タクが完全な当事者になった瞬間であり、我々もただの観測者として平静を保っていられなくなる瞬間だった。
立ち絵では結衣ちゃん一番好きだったんですよ。性格もいい子で結構気に入ってたんですよ。そして死ぬわけないと思ってたんですよ、最初は一般人だから。
けれども能力者であると判明して嫌な予感がして、伊藤くんと一緒にいるというのを見て安心したのもつかの間、タクと一緒にどん底に突き落とされる。


関わりのないモブだったらここまでならなくて、身近な者として描かれていた結衣ちゃんだからこそ、悲痛さが襲い掛かる。
他人ごとのように囃し立てる行為がこれほどまでに残酷であるのかと、思い知ることになる。猟奇的な殺人がこれほどまでに憎たらしく感じるのかと、思い知ることになる。

「死んでいること自体は変わらない」
かつては自分もそんなようなことを少し思っていた。けれどもそんなことはなくて、猟奇殺人は通常の殺人よりも罪深い何かであることが分かる。

これが当事者になることであり、当事者になったゆえの苦しみ。
タクの本質というのはどこか理解できるところがあるが、けれども当事者というのは悲痛過ぎる役回りに他ならない。

それは些細な、ちっぽけな望みに過ぎなかったのかもしれないが、それが現実化することによる結果はただただ本人を苦悩に陥れる。

悪趣味すぎる皮肉めいた構成。吐き気がするほどのゲーム。
だからこそ、この展開には賛辞を送らなければいけない。
ここまで心を掻き乱すようなシナリオ、なかなかあるもんじゃないのだから。

(世莉架に関してはTRUE感想で)



・Deep Sky(華編)

個人的に結構好きなルートでした。
結衣ちゃんは死なないし、なにより超強い力士シールが面白すぎた。

むちゃくちゃだけど能力の理に叶っているような展開は大好きなので個別はあんまり期待していなかったけど良かったです。
その後としては全然ハッピーエンドじゃないんですけどね。
波乱しか無いアフターが予想できるわけですが、世莉架が見るにタクが楽しそうにしてるってことなんだろうなぁ。
確かに刺激だらけの退屈しない世界なんだろうけれども。



Another Sky(うき編)

ルートの中では一番退屈だったかもしれない。
結局、結衣ちゃんは死んでるし延々と夢を見ているだけ。
たしかにこれがリアルブートすればハッピーエンドになり得たかもしれないけれど、カオチャはなかなか純粋なハッピーエンドを見させてはくれない。

最終的にはタクが植物人間となったうきの子守りをする形に落ち着くのですが、これも世莉架からすれば楽しいことなのだろうか。
ううん、どちらかといえばこれは使命感に駆られるからこその「やりたいことが与えられた」状態か。



・Dark Sky(雛絵編)

雛絵ちゃんはキャラクターとしてすごく好きで、とても人間味のある子。
カオチャの大きなテーマのひとつである『嘘と真実』についてもかなり深く描写されていて、真実だけが優しいものではないというのがよく分かる。

最後の最後でようやくハッピーエンドかと思ったらまさかのビターエンド。いやこれバッドでもあるよねどう考えても。
あとは三森さんの演技がすごくよかったなー。ころころと態度や声色を変えるのをとてもよく表現できていて、だからこその雛絵ちゃんの魅力だと思う。



・Reak Sky(乃々編)

最初は乃々の小言を鬱陶しく思うけど、Over Skyをクリアする頃には乃々の小言がありがたく思えて、RealSkyをクリアするころにはその小言の優しさを感じる。

個別の中では一番面白かったルートでした。真相のひとつがここで明かされ、泉里vs世莉架は作品屈指の名場面だと思う。
乃々のルートにしながらも、世莉架が光るルートでもある。
とくに上坂さんの演技がすごく良くて、空虚な喜怒哀楽とはこのことか! と言わんばかりの熱演は感極まる。
このルートに関しては世莉架が登場するたびにゾクゾクしました。

そして泉里の嘘って、後半でも言われてるように大したこと無いと思うんですよね。
タクを支えてくれたことには変わりないし、その思い出が事実であることは変わりない。
けれどもきっとそれは当事者だからこそ分かるショッキングな真実でもあり、嘘をつかれ続けていたというのは辛いものでもあるのだろう。
二次元だから可愛く見えるが、きっと現実に置き換えたら泉里の外見というのは世間一般的に可愛くないのだと思う。他のキャラと比べて明らかに目が小さいし。
そうやってきれいなお姉さんが、実は根暗な外見をしたもさい子になった瞬間、果たしてその現実に耐えられる人はどれだけいるだろうか。
嘘の中にある真実と本質を見つけられたからこそ、タクは泉里の元に帰ってこれたのだ。

そして結末は、一番平和な終りを迎える。(結衣ちゃんはいないけど……)
TRUEで明らかになる和久井の思惑や、治らないCC症候群がありますが、なんだかんだでタクと結ばれて一番平和を築けるのはやっぱり泉里なんだろうなぁ。

世莉架は当然のこと、雛絵もうきも華も、タクと結ばれても平和は迎えられなかった。
それはきっと、タクの本質を変えられるのが乃々だけだったという事実に他ならないのではなかろうか。



・Silent Sky

非実在青少女の衝撃は凄まじかったが、このSilent Skyの衝撃と悲しみも凄まじかった。
まずはCC症候群による老化現象。
前作のカオスヘッドの知識が全くない状態でやったせいか、早老症の可能性を全く考慮していなかったから本当に驚いた。
確かに伏線らしきものはあって、けれどもそれを考えるまで至らなくて、完全にやられたと思った。
そしてそれを踏まえてこその、澪と佐久間の態度があったんだと腑に落ちる。
逆にそれを目の当たりにしてなお、態度を変えない神城さんの人の良さもよく分かる。
というか仮にもギャルゲのビジュアルなのによくあのCGと設定をやったな……。
かのものべのはその批判に屈して見せない選択を用意したけれども、これはこのまま現実を目の当たりにすることを強制したままだと良いなぁ。

また2点3点する真実の変遷も見事。
ニュージェネの再来はゲーム → 佐久間の研究を続けるためのアピール → ゲーム → 世界統一政府への布石

と、どれもその場その場では真実味をもたせるだけの下積みが成されており、それがまたひっくり返されるのには唸らされた。
なにより、陰謀論好きの自分としては最終的に世界統一政府の実験場というオチがとても好みだった。
TPP問題が騒がれる昨今ではタイムリーなネタだし、今どきの社会をそのまま象徴しているかのような物言いがとても強く響いた。
現代の問題を直接的ではなく、ストーリーで指摘するこの作品は本当に巧い。


さて、自分はこのカオスチャイルドを名作以上の傑作だと考えているが、これまでの感想だけでは決して傑作とは思っていない。

シュタゲも好きだし名作だと思うが、自分にとって傑作とはならなかった。
それは人の心の暗部を描写していないからだ。

けれどもこのカオスチャイルドは、SF要素に社会的要素を持ちながらも、人の心に関して痛いほどの展開を見せてきた。
人の本質を抉ってくるからこそ、自分は本作をまぎれもない傑作だと言いたい。

人は複雑である。その目的も、望みも、意思もひとつに定まるのは難しく、迷いながら生きてゆく。
それを象徴しているのが主人公のタクであり、その逆として生み出されながらも複雑さを内包したのが尾上世莉架だ。

タクの場合は、それぞれのエンディングこそが彼の複雑さを表している。
彼の心が読み取れる世莉架が身を引いているからこそ、それは彼の本質が変化したということに他ならない。

当事者でありたいというのは本当で。
目的がほしいというのも本当で。
やりたいことが見つからないというのも本当で。
けれども身近な人が殺されてもいいなんて、思っていなかったはず。

世莉架に対しても
一緒にいてくれる仲の良い親友というのは本当で。
感謝してもしきれないであろうのも本当で。
一緒にいたいというのも本当で。
彼女を縛り付けたくないという気持ちも本当。

本当の気持ちは1つじゃない。いくつもある。
けれどもその中で矛盾するものが含まれるから、人の心は難しい。

それに対して優先順位をつけ、冷酷に最優先事項を実行しようとしたのが世莉架である。
けれども、乃々ルートでの泉里との舌戦からするに、世莉架の中でも自身の優先事項というのが生まれてしまっている。
それはタクに対する愛情。たとえそれが作られたものだとしても彼女のその気持は本物であり、TRUEでそれが残滓として残っている様子がとてつもなく切ない。

タクの望みと世莉架の生き方はどうしようもないくらいに歪んでおり、決して噛みあうことはない。
けれどもお互いが想い合う気持ちもまた本物であり、気持ちと相性が同等でないというのが突き刺さる。

あー、どうにかできなかったのかなこれ。
それまでの展開でタクと世莉架にはすごく感情移入させられて、どちらも大好きなキャラクターになってしまったからこその、ラストシーンはすごくキた。

なにより松岡くんとすみぺ(上坂すみれ)の演技は凄まじく、この二人の演技あってこそのタクと世莉架だと思う。

「おっけい」というすべてを肯定してくれるような優しい声
自分のこれまでの行動を否定しかねない乃々という天敵に対する狂気の声
タクに自分の目的を奪われようとして泣き喚く声
すべてを忘れて日常を送る普通の声

これらをすべて表現しきったすみぺの功績はとてつもなく大きいと思う。
特にOverSkyの終盤は何回も聴きたくなるほどの名演っぷり。

SilentSkyはなるべくしてなった終わり方だと思うし、2人は別々の人生を歩んでゆく。
タクも、世莉架も、そして我々プレイヤーも。このSilentSkyの呪いに苦しめられ続けるのだろう。
一緒にいたいけれども、一緒になってはタクは世莉架への愛情を示すことが出来ず、
一緒にいたいけれども、一緒になっては世莉架はタクへの気持ちがプログラムされたものへと暴走してしまう。

切ない。切なすぎる。
けれどもこれって、現実でもどこかにあるような、いっしょにいたいけれども一緒になってはいけない人たちを象徴するかのような、実はどこかにある構図でもある。

だからこそ、どこかにあるものを描いたからこそ、カオスチャイルドは傑作なのだ。



●追記

PC版が出て再プレイしてみましたが、これキャラゲー要素が強いせいか初回プレイよりも涙腺にきますね。
衝撃は確かに初回プレイで全て奪われますが、代わりに感情移入度が更に深まります。
周回プレイしても楽しめるなんて………本当に面白い。