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meroronさんの露草ユーフォリアの長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
露草ユーフォリア
ブランド
7-FIELD
得点
89
参照数
434

一言コメント

特筆するような演出や物語を魅せる一枚絵はなく、ただただ立ち絵とテキストだけで進む物語。 が、それが面白い。20時間を超える長編であるにも関わらず……マルチ視点で同時系列を繰り返す構成なのにも関わらず……本作はぐいぐいと読ませてくる。ああ、人間はこれほどまでに、愛おしいのか。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

この初期設定で本当に面白くなるのか? と思ったのは自分だけじゃないと思う。
ゲームとはいうが、ただのニセモノ探し。 そして勝つ気のない模倣行使者。
この緊迫感のない設定で話が大きく動くはずが……と思っていた。

けれどもどうだろう。 中盤までは大きな山場もなく淡々と進んでいるはずなのに、なかなか読ませる。
悪い言い方をしてしまうと地味なのだ。とても地味。けれどもその地味さが上手く作用しているのか、彼らがとても身近に感じられた。
作者の思惑にまんまとはまってしまったのかもしれない。地味だからこその感じた親近感からの、中盤から動き出す物語の変遷に、心を持っていかれた。





-------------------------ここからネタバレ入ります----------------------------------






キャラクターにたいして目的を叶えて欲しいけどと思ってしまった。そう、あの観測者と同じように。
ここが露草の構成で一番上手いなと思ったところで、あの観測者の正体自体は早々に気付けたのだが、自分も同じように考えてしまっているじゃないか。

「あなたはこのゲームの七人目の参加者として」という言葉は、本当にその通りなのだ。
選択肢を選んで状況を最善に導くというロジックはAIがとる思考そのものであり、だからこそこのAIは自分自身なのだ、と。

AIを通して見える、人間賛歌。

最初はこの6人の行使者のことをよくわからず、どうでもいいと思っていた。
なにを考えているか分からない当初は、そこまで彼らについて考えなかった。
けれども、AIから見えてくる彼らの心情、思い、悩みが感情移入させてくる。

知れば知るほど、入れ込んでしまう。分かれば分かるほど、手助けをしたくなる。

ああ、人間はこれほどまでに、愛おしいのか。

人が持つ複雑性こそ人が持つ魅力であり、それをふんだんに表現した本作は人間賛歌の傑作であると思った。
そもそもAIが誰なのか、という問題で自分が真実に辿り着いた原因は、6人の行使者を見てきて彼ら全員に対し人間じゃないなんて到底思えなかったことだ。

ここまで悩み、複雑で、愛おしい彼らが人間でないなんて、あるのだろうかと。
そして明かされた真実。AIは、観測している者自身という結末。

けれども、本作において重要なのはその種明かしではなく、そこに至るまでの過程なのだと思う。
一見、騙し討ちのような答えではあるが、そうであって欲しいと願ってたからこその納得行く答え。
そもそも、冒頭で確かに「七人目の参加者」って書いてありますからね。

ある程度予想はしていましたが、それでもドキドキしながら選択肢を選びました。
もし、この6人のうちの誰かが人間でないことなんてあるのだろうかと。
そうやって自分を、「人間であってほしい」と思わせるほどの人間味を描き切っていることが、何よりも素晴らしい。


人の描写以外で見事と思ったのは、やはり篝さんの奥さんの死の真実でしょうか。
それまでは繋がっていないように思えていた事がすべて一気に繋がってゆく。
事件としての認識をプレイヤーにさせ、それを関係有るようには見えそうで見えないラインで留めておき、ネタばらしでそれとすんなりと納得させる。
この順序は書くだけなら簡単ですが、なかなかできることじゃありません。

「そんな事件あったっけ?」となったり、「いやそれ絶対関係あるじゃん」と確信づかせてしまったり、「いやその理屈はおかしい」と納得出来ない答えを用意してしまったり。
3つの内どれかが躓いてしまう例は非常に多い。
これが全部できれば伏線ゲーとしてかなり巧いと思います。


ともあれ、本作で自分が最も伝わったのはそれぞれのキャラクターの心なんですよね。
だからこれ以上の感想を書くのであるならば、キャラクターの感想を書くしかない。(いつもの)

以下、キャラクターごとの感想(これやるの久々だ…)





・礼堂 夕端
最初、6人の中では一番いけ好かない存在でした。
せっかくのゲームなのに、戦うつもりはないとゲームを面白くする気が全くないではないか。(六角教授と同じ気持ち)

けれど姉を探すという目的を捨てず、向き合いたいという気持ちを知ってからはだんだんと彼のことを憎めなくなってきた。

そして講義室での、六角教授とのTM論戦が彼の印象を大きく変えた。
面白い、面白いぞ夕端くん。
迷惑をかけながらも目的は捨てず、けれども誰かを傷つけたくない。その想いは青臭い。
けれども、そんな青臭さを持っていながらただ臆するだけでなくあの六角教授に対して適切な言葉を返せたのは、彼も成長した証であり只者ではないと思わせるに十分すぎた。

あとはスミレさんとのやりとりが非常に良かったですね。
6人同士の掛け合いって、それぞれの組み合わせによって変化していてスミレさんと最も相性が良いのはこの夕端くんだと思った。

どっちも直情で真面目なんですよね。普通ならぶつかって咬み合わないんですが、お互いの真面目な方向性がどこかズレていて、その微妙なズレが相性を良くしているんだと思われる。
それでいてお互いの真面目なところを理解して尊重しあっている。
間違いなくユーフォリア内で一番のベストカップリングだと思うんですけど脈はないのだろうなぁ……。
作品的には怜と夕端くんがフラグ立ってるかもですが、スミレさんとのほうが上手くいくと思うんだw




・四斗矢 怜
立ち位置も性格も一番ヒロインっぽいんだけど6人の中では一番地味だったかもしれない。
けれども、彼女がお母さんに向き合うシーンは不覚にも泣いちゃったんですよね。
それまでの彼女の苦悩というものを読んでいたから、どういう思いでもどかしさを感じていたのかを知ってしまったから。

そして彼女は非常に世話焼きだなとも思います。
なんだかんだで夕端のことを放っておけなかったり、四斗矢の姉貴分としても………母親からの愛情を上手く感じられなかったせいか自分が愛情を与えてあげたいという衝動に駆られるのでしょうかね。

スプラッター映画好きなりの、残酷なUR使用法はゾッとしましたけどねw




・鳥足 時雨
反抗期なイケメン。
彼も一見すると完璧超人のような設定だけれども、父親に対する気持ちを読んじゃうとやっぱり人間臭いと思うんですよね。

彼は浦門さんの気持ちを半ば受け入れていますが、実際はどうなんでしょうね。
助けられたからついつい、なのか。 実際に彼が浦門さんを好きだという気持ちは明確にされていなかったような気がします。
けれども、助けたいという気持ちは強く、彼は人間として成長していかなければならないという決意を固めていますね。




・浦門 日向
本作のヒロイン。可愛い。可愛すぎる。なにこの最強の母性キャラ。
いやもう最初の登場から「この子……なんかいいぞ」と思いましたが、あああなんだもう可愛すぎるじゃんよ。
まずね、生徒でありながら六角教授にタメ口なんだけどそれが許せるような話し方。
その温和な雰囲気はテキストと横顔だけでもよく分かる。ほんと素晴らしい子だ。

もう何から何まで可愛くて、どうして公式サイトはこの子をキャラ紹介に載せないんだ!!!! どうして横顔しかないんだ!!! と思いましたw

途中で時雨くんが好きだとわかり僕は半ば心の寝取られを味わった気分ですけど、それでも浦門さんは浦門さんなんだよね。
この大人びた雰囲気だけど恋心は歳相応なあたりも可愛らしい。
囮作戦が実はストーカーしたかっただけとか可愛いじゃないか。

もう中盤まででもかなり好きだったので刺された時は発狂しかけました。
いやいやいややめてよやめてよ殺さないでよと願いましたが、物語が勧めば進むほど絶望的な状況になり、この危機感は浦門さんの魅力あってこそなんですよね。

メイン6人でないながら、最もヒロインしていてる超重要キャラ。
他のキャラにはなかなか見ない、完成され母性と少女を両立させたような造形。

キャラメイクの巧さが伺えるような人物でした。




・金瀬 スミレ
社会人として一番駄目で、物語の中で最も成長したであろう彼女。
彼女はともかく青臭い、実直だ。
多くの人は「なんだこのクソ女」と思うかもしれないし「キチガイかよ」とも思うかもしれない。

けれども自分としては最初から彼女が嫌いになれなかった。
この青臭さって自分も日頃抱いている思いそのもので、彼女のように直接的な行動はしないものの共感できる部分は多くあったからだ。

彼女は決して割りきらない。納得がいくまで行動する。
今の時代からすれば、きっとそれは狂気だろうが、彼女のような強い意志を持ってこそ明らかになることもある。
強い風当たりを受けるのであろうが、彼女のような人を潰していいのだろうか。

おそらく最も賛否両論ある人物であろうし、最も好き嫌いの分かれる人物であろう。
けれども自分は今のまま、真っ直ぐなスミレさんでいてほしい。
終盤で他人の気持ちを推察するようになってからは、大きく成長しただろうが、本質は変わっていない。
夕端くんのような部下を持てば、彼女はきっと良い上司になると思うんだ。




・名倉 篝
このおっさん好きにならないわけないだろ……というようなあの中盤の展開! ずるい!
AIの正体は気づけたけど、奥さんの正体についてはまんまと騙されてしまいましたよ。
それまではちょっといけ好かないおっさんだっけど、真実を知ってからすごくこの人のことが愛おしくなった。
と、同時に篝さんが真実を知った瞬間が、露草の一気に面白くなるポイントでもあって物語の節目としても大きな活躍をしている。
始まった時から彼は絶望の淵にいて、救いはない。
けれども奥さんの真実を見極めようと奔走する姿はほんとうにかっこよかった。

時折見せる技術屋としての一面や、頭の回転の早さも魅力。
ここぞというときの頼もしさは六角教授と並ぶ。
弱さと強さのギャップがとても激しく、だからこその人間味だったのではないか。

女性プレイヤーとかは篝さん好きが非常に多そうw




・六角 秋燕
浦門さん可愛いと書いてきましたが、自分はこの六角教授が本作で一番好きだったりします。
印象に残る台詞、物語を掻き乱そうとする立ち位置、ブレることのない信念。
どれをとっても彼女の魅力は凄まじく、途中から六角教授のシーンをもっと見たい見たいと思いながら読み進めていました。

ああいった、物語を面白くしようとするキャラクター大好きなんですよ。
面白い話を読みたいと思う自分は共感できて、なにより自分も勝つ気のない模倣行使者に苛立ちを覚えていたから彼女は登場の時点ですごく惹かれた。

そして軽々とURを使いこなし、正体がバレても構わないといわんばかりの堂々とした態度、かっこよすぎる。

けれどもそんな彼女にも弱点はあって、礼堂姉には嫌悪を抱いていた。
自分はそんな弱点をみて残念だと少し思ったが、読んでいるうちにそれもまた愛おしくなった。
彼女が人間である証であり、そして最後には弱点を克服しようと考えを改める様はやはりかっこいい。
確かに伸びしろがないだけでは魅力的とはいえず、魅力的な人物がさらに成長するのだから、好きにならないわけがない。

中でも、スミレさんとの対話中に発した台詞がすごく印象的で、これこそ六角教授だなと思うものを抜粋した。↓

「人間関係なんてそんなものなんじゃない?
信じ続けるためにはある程度、疑い続けなきゃいけない。
疑い続けるためにはある程度、信じ続けなきゃいけない。
信じ過ぎても疑い過ぎても、どこかが崩れ始めるわ。」

「その通り。
自分の為に生きるという行為そのものが、集団の為に行われてると言ってるの。」

「個を尊重するという生き様も。
子を成さない生き方も。
誰とも関わらずに生きようとする態度も。
あるいは人を殺すことだってそう。
何故、私達はそうしたいと思い、そうする事によって快楽が得られるのか。
答えなんて1つでしょ。
種が、そういうデータを欲しているからよ。」

彼女のこの台詞こそが、露草ユーフォリアの本質に結びついているように思える。
彼女はとても人間が好きで、彼女は人間を深く愛しているし讃歌している。
最後の台詞は特に顕著で、いろんな生き方があることを認識し、それを否定しない。
人間でありながら人間に強い興味を持つ彼女は、神にでもなったつもりなのだろうか。
狂っているのかもしれない、まともではないのかもしれない。
けれども自分は彼女のそんなところに愛情を感じるし、人間的な魅力も感じる。

人間のことをより理解し、人間の関係性を適度に保つ彼女は、浦門さんを助けるために行動をした。
そういったことは柄に合わないと自覚しているけれども、行動してしまう。
だって彼女、本当は人が好きなのだから。
関係性の重みを理解しているからこそ、関係を築いてしまっていた浦門さんのことを放っておけないのだ。

人間に対する冷静さ、愛情、冷徹さ、好奇心、情……様々な感情が渦巻いて形成される六角教授という人物造形はとても素晴らしい。
複雑性こそ、人間の魅力。複雑だからこそ、人間。
彼女は人という生き物を語るに相応しい。

まさか30歳のおばさんでここまでハマるとは思ってもみませんでした。