ErogameScape -エロゲー批評空間-

meroronさんのパコられの長文感想

ユーザー
meroron
ゲーム
パコられ
ブランド
ゆにっとちーず
得点
88
参照数
2802

一言コメント

分かる。 惇の選択も、紗倉の心も、樹里の言葉も、どれも共感してしまうだけの豊かな表現と気迫に満ちていた。 救いのなさすぎる物語というのは本来自分には合わないと思っていたが、それを覆す力をこの作品は持っていた。 なにより桃也みなみさんの名演技は必聴。 体だけではなく心も苦しくて苦しくて、痛くなるような声が響き渡る。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

一言感想に 『分かる』 と書いたが、この作品的にはその短い言葉ですらも暴力になりかねないだろう。

世の中に蔓延った悪意、または擦れ違いから生じる悲劇がこれでもかという程、紗倉の身に振りかかる。


世間とのズレや、自分を蔑ろにする人を殺したいと思うなど、私自身も幼い頃に感じていたことが語られていて 「はっ」 となりました。

しかしそういったものは年齢を経ていくごとに薄れてゆき、以前よりはマシになれたかもしれないという点で自分の心は主人公の惇に一番近いのかな、と思いました。

だからこそ、沙倉という人物はどこか他人のように感じられないのです。
自分自身が、一歩間違えたらこうなっていたかもしれないという転落人生の映し身。

助けてあげたいと思う反面、自分では支えきれない、耐えられないと思うからこそ私は例のエンドが最も胸を抉られてました。

「弱い物同士で慣れ合って、変えられない現実の恨み事を吐きながらずっとその場に留まってる」
「罪の意識、涙をながすことでのカタルシス……そんなものに酔いしれて、自分を雁字搦めにしていったのは誰よ」
「他人の悪意を受け流す、己を強くして他人と折り合いをつけようとする! そんな人間として当たり前の努力を怠ったのは誰!?」


沙倉は弱い人間です。 でも彼女が悪いとは思えない。 だけれども樹里の言葉はこれ以上にないくらいの正論に聞こえる。

普通、あのように次から次へと悪意をもった男たちが一人の女性の前に現れるってあり得ることなのでしょうか。
恐らく、そこら辺がこの作品のファンタジーであると思うのですが、『そんなのありえない』と断言することも出来ません。

僕らが知らないだけで、このような人はいるのかもしれない。 だけれども、それに引きずられたくはない。

同情と、距離をおきたいという2つの気持ちがよく表現されていたなと思います。 そこは主人公とシンクロしてしまったと同時に、やはり自分もまた醜い人間であることを再確認させられました。




言いたいことがうまくまとまりませんね………。
いろいろな心情や言葉を肯定しているが故に、言葉がまとまらない。

例えそれらが相反していても、どれも否定できるようなことではないというのがうまく描かれています。


※2013/08/22加筆
恐らく、私はこのような不憫で融通の聞かない少女をどうやったら救済できるのだろうという点で注目していました。
もし私が90以上の点数をつけるとしたらそこを納得の行く形で書き上げた場合だと思います。

しかし、本作はそれをしない。 なぜなら 『救えない』 から。
そしてそれこそが本作で最も描きたかった点なのかな、とも思いました。

例え救おうと思っても惇は紗倉に引きずられ、共に破滅を歩んでしまう。
どうしようもないくらいに、彼女は自滅型のヒロインから抜け出せないのです。

樹里の言うことを実践できていれば、彼女は自分から立ち直れるんだと思います。 でも出来ない。
人には抜け出せない心の柵というものがあり、それを打破するのはとても大変だということ。 分かっているのに自分自身を変えられないやるせなさ。

誰かの力で一瞬、事態が好転したとしても、結果的には自分が変わらなければ結局何も変わらない。
主人公の力で事態を解決するヒロインのギャルゲーとは正反対の作品ではないでしょうか。
そしてだからこそ、リアリティがある。