環境周りはお世辞にも良いとは言えない・・・。 SRPGツクール95で作られた本作はそれだけでプレイする気を削いでくるだろう。 しかし30を超えるキャラクターたちが織りなす群像劇は見事なもので、少女たちの悲鳴により感情が揺さぶられる。 魔法少女というシンプルで、ただそれだけのタイトルだが・・・ファンタジーを否定し、奇跡を否定するかのような切り口は作者の昨今の魔法少女に対するアンチテーゼなのだろうか・・・。 前半は紹介になる程度の微ネタバレ、後半はモロネタバレです。
魔法少女の条件とはなんだろうか。
ひとつに、少女が超常的な力で戦うこと
ふたつに、少女たちをサポートするマスコットキャラがいること
みっつに、魔法少女らしい姿に変身できること
大雑把だがこの3つが必要な条件となるのではないだろうか。
この魔法少女はそれらの条件を満たしているが、その能力は魔法ではなく、科学によるもの。
身体能力の向上も、魔法や奇跡などではなく、注射を脊髄にうちこみ筋肉の構造を変化させるというなんともおぞましい人体改造の産物だ。
普通の魔法少女は、特に苦労することもなく、苦痛を感じることもなく、その変身能力を手に入れるのだが本作はまずその力を手に入れる段階で痛々しい。
そして戦いの痛みはより鮮明に描写されている。
敵に受けた傷は自然再生せず、回復役が必要だ。
しかしその治療も一筋縄には行かない。
手順を間違えれば治療する対象は激痛を受け、悲鳴をあげる。
40話構成で、3話という序盤でありながらもこのように苛烈な展開が繰り広げられていきます。
とある魔法少女アニメを思い出しますね。 あれも3話で酷い展開でした。(良い意味で)
あのアニメはインパクト重視の一撃必殺、って感じですが、こちらはじわじわとなぶり殺しにされるような展開です。
実はその例のアニメと同時期に作られたのが本作で、3話時点で誰か死ぬのではないかとヒヤヒヤしました。
作者のブログを見る限りでは、本作は製作途中にあのアニメの存在を知り視聴したそうです。
鬱な魔法少女がまさか同時期に作られるなんて誰が想像したでしょうか。
あれが脚光を浴びている影ではこのような魔法少女作品が作られていたのです。
グラフィックはほぼ自作。操作キャラも敵キャラも、戦闘アニメーションのキャラクタードット絵も自作です。
並大抵の創作モチベでできることではありません。
この作者の作品は『えるまに』の頃からずっと追い続けてきましたが、魔法少女は私に麻薬のような辛さと楽しさを与えてくれました。
だからこそ、私はこの作品と真剣に向き合って感想を書こうと思いました。
この作品はもっと多くの人にやってもらうべきだと。
このゲームのストーリー展開は、一流のノベルゲーに劣らないぐらいの魅力があると思うから。
エロゲーでもノベルゲーでもないけれど、B.B.ライダーのような作品も登録されているんだしいいですよね!
これより下は完全なネタバレ感想です。
未プレイの人は引き返しましょう。 そして感想の文章量で作品に対する気持ちを察してもらえればいいなぁ・・・なんて。
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一言感想でも書いたように、本作は群像劇としての色が強くでています。
多くのキャラクターがそれぞれの性格を持ち、それぞれが違う魅力を持っている。
それはノベルパートで現れますが、戦闘パートでも現れています。
このキャラクターはこういう性格だから、こういう能力の適性がある・・・と。
多くのキャラクターの戦いを描写するのは、確かにノベルゲームでは難しいです。
だからこそ、この作品はシミュレーションRPGでなければいけなかった。
(単に作者が使い慣れているだけかもしれませんが・・・)
さて、ここからはキャラクターごとに感想を述べていこうと思います。
群像劇はキャラクターを語らなければ始まりません。
・伊勢 朱莉(イセ アカリ)
適性は火の能力。
普通、火の能力というと元気で活発なイメージなのだが、この子はその固定概念を見事に打ち砕いてくれました。
明るい面があるのはあるんですが、年齢相応に怯えます。
序盤はキレるヒロイン、千代子と遥に対して恐れたりします。
根はとても優しい子で一度怖い思いを抱いた千代子に対して心を開き、歩み寄ります。
しかし実際は臆病な子で、千代子が酷い怪我をしたときは一度戦線を離れます。 それ以降も何度か戦線離脱します。
そういった自分を大事にするという当たり前の気持ちを持っているのが、朱莉の魅力です。
誰だってそうなる。 普通はそうなる。 だから我々は彼女に感情移入し、彼女を愛おしく思う。
時折ある心の声のツッコミはなんとも面白い。
怖いのは嫌、でも弱いと言われるのも嫌、自分が蔑ろにされるのも嫌。
そんな我儘だったり臆病だったりする気持ちを内心呟いているのはなんとも可愛らしい。
極灼熱ブロードフレアがあるからキミはいらない子なんかじゃないよ!
・榛名 七海(ハルナ ナナミ)
適性は水の能力。
彼女も朱莉と同じように水の能力を持つような性格とは言えません。
一見クールだが、その中身は子供。 年齢よりちょっと幼いぐらいの子供。
ヒーローに憧れて、こっそりと練習をしたり変身しちゃったりするのはなんとも可愛げがある。
遥に吹っ飛ばされたりなにかと可哀想な彼女だが、こういう子供っぽい面を持つキャラクターもまた共感が持てるし愛着が湧く。
七海・・・もとい、なななのお馬鹿な性格は朱莉を影で支えてたりします。
千代子や遥は振りきれる程の愛情をお互いに持っていますが、朱莉となななは程よくお互いの性格が共存し合っている感じで微笑ましいです。
自分も、こんな超常的な能力を手に入れたらこんなことしてしまいそうだなぁ・・・って。
終盤に入るといつの間にか腐女子化が進んでいる……なにがあったんだ……。
・石見 梢(イワミ コズエ)
適性は剣の能力。
初期の頃からいるのになんか地味な人。 能力も地味な人。
比較的まじめに頑張ってる良い人なのに地味な人。
他の面子のように怯えて逃げたり、精神病んだりしないしっかり者のはずなのに・・・。
特に仲いいのは唯だしなんかいろいろとストーリーの見せ場的には報われない人。
周りにうろたえる子がいるからこそ、彼女のような人間はしっかりと保つことが出来たのかもしれませんけどね。
・山城姉妹
適性は音の能力、雷の能力。
最もうざい姉妹なんだけど憎めない、そんな2人。
人型バイオモンスターが出た時も真っ先に逃げてく2人。
けれども、本作において彼女たちの存在感は強く、戦いにおいては索敵で活躍します。
会話の上でも場を盛り上げる要員として目立っており、馬鹿で常識ないところは多いけど、ついつい笑ってしまう。
ただ、最初は逃げたけど遥が死んだ直後の戦いではちゃんと参加します。
なんだかんだで古参のメンバーであり、2人とも責任を感じているのでしょうね。
彼女らが憎めないのはそういった根底は真面目だったりするからなのかもしれません。
・金剛 リリー(コンゴウ リリー)
適性は命の能力。
理想は自己犠牲心溢れる大和撫子………。
序盤は戦うことに悩みはするが、いざ決心したあとは屈指の覚悟で回復役という最も過酷な立場であり続ける。
唯が離脱した時に、彼女の身を案じたのは千代子と、梢と、月菜と、そしてこのリリーだった。
軽い気持ちで口にしたであろう『自己犠牲』という言葉だが、リリーはヒテリックを起こしながらもその理想像に近づこうとします。
後半、頭痛に苛まれる彼女の姿は痛々しい。 それに合わせて、朔也への甘えがも進行しているのがリリーの狂気を感じさせる。
そして遥の死の直前。 遥とリリーはお互いに自己犠牲で場を収めようとしますが、上手く噛み合わず、結果的には遥を死なせてしまいます。
その重荷に耐え切れず、狂ってしまった千代子を見てリリーの精神は決壊します。
しかし一度決壊してもリリーは挫けない。 伊万里を治療するという目標を決めて彼女はやり遂げます。
皮肉なことに、あの状況で遥が死んだからこそリリーは覚悟をし、伊万里を助けることが出来たのです。
そのようなやり切れなさを描写するために、リリーは犠牲になったといっても過言ではありません。
・中島 朔也(ナカジマ サクヤ)
適性は対の能力。
『魔法少女』というタイトルなのに序盤で彼が変身してからはビックリしました。
え、これ魔法少年もいるの!? と……。(過去作『昴の騎士』で男の娘がいたので予想できたことですが…)
彼の立ち位置は、リリーを支える役です。
リリーはあまりにも本作の中で悲惨な役回りであり、彼女には頼る相手が必要です。
朔也なしでは、きっと戦い抜けなかったでしょう。
普通の男だったらリリーのことを投げ出してる。 見た目はかわいいけど、中身は男の中の男でした。
・長門 琴音(ナガト コトネ)
適性は風の能力。
「どこに怒りをぶつけれら良いかわからないんだよ。 それでみんなギクシャクしてるんだから」
冷静に物事を分析できる琴音は実はチームの精神的支柱となっている(一番は千代子だが)。
しかし自由奔放でありながらも、実は寂しがり屋な面がある。 伊万里に冷たくされるとすぐ落ち込みます。
そんな彼女が最もリーダーシップを果たすのが30話付近での、遥が死んだ直後です。
指導者(千代子)が倒れたら、素質を持つ次の人間が先導するという集団の法則が上手く描写できています。
戦えないかと魔法少女たちを説得しようとし、また冷静に状況を分析する姿はとても頼もしいです。
草を食べたりする変人ですけど……(笑)
・陸奥 葉子(ムツ ヨウコ)
適性は地の能力。
この作品に優等生は複数人いますが、みなそれぞれが違う性格を持っています。
そして葉子の性格はなんとも複雑だが、それだからこそ人間味が有ります。
優等生の多くは誰かのために、だとか・・・見栄を張りたい・・・だとか、そういうのが動機になっていたりするものですが、葉子はそういう優等生としてのプライドを保ちきれずに途中で折れかけていきます。
転機は人型巨人が登場してから。 それまではクールで凛としていたはずなのに、それ以降はどこか弱気で、逃げ出したい気持ちと戦っていくことになります。
見た目は大学生で、一番しっかりしてそうなのに……。
中盤では精神安定剤を飲むまで病んでいたのに、追い打ちをかけるといわんばかりに例の蜂に刺されます。(あのシーンはなかなか怖かった・・・)
後半ではエレエス星に行くか行かないかで揉めてる最中、自分は行きたくないのに行かなくてはならないような状況のプレッシャーに耐え切れずついには泣き出してしまいます。
序盤と終盤で最も印象が大きく変わったのは彼女です。 戦いに放り出された少女の変化を描写するには欠かせない人です。
・鹿島 月菜(カシマ ルナ)
適性は紐の能力。
性格は抜け目なく、疲れたり病んでる人には気が使える小学生とは思えないような精神年齢を持つ変態。
彼女の立ち回りとして印象的なのは唯を慕うただ一人の後輩であることです。
多くは唯を脅威として感じたのに、彼女はそうじゃありません。
小学生だから、そのような危機感が薄いのでしょうか? いえ、この子は小学生とは思えない程の達観した精神年齢を持っています。
もしかしたら、一番年下であるにもかかわらず唯のことを放っておけない母性を持っていたのではないでしょうか。
遥が死んだ直後の戦いに参加しなかったのも、戦いが怖いのではなく千代子を見るのが怖いと言います。
他人のことをよく見ているのが分かる言葉です。 変態でふざけたことを言っているわりには、この子は誰かの悲しい顔を見るのが辛く思える優しい心を持っているのです。
そして想っている人が誰かのために怒ることもできる。 シナプスを紐の結界で捕えるシーンはかっこいいですね。
・香取 加音(カトリ カノン)
適性は爆の能力。
頭に血が上りやすく喧嘩っ早いが弱い。 悲しいことに弱い。
唯の殺人を目の当たりにして喧嘩を売るがトラウマを受け付けられるぐらいにやられるなんとも哀れな子……。
不良のような生活態度だけど、根は優等生。 ものすごくちぐはぐな性格をしていると思う……。
なんというか、弱いのがアイデンティティになっているような人。
・初瀬 もか(ハツセ モカ)
適性は氷の能力。
キレ方が尋常じゃなく荒ぶる人。 中盤の加入組では一番強い。 パノラマホワイト万歳。
彼女はなんというか、リーダーではないけど安定感があります。
古参組でないのに、遥が死んだ直後でも戦いに参加したり、これといって文句を言わなかったり。(よくキレるけど)
その性格が戦いへの適応力として影響しているのでしょうか。 ハッキリとした思考が、『戦わなければ生き残れない、だから戦う』という結論に結び付けられているのかもしれません。
そこの妙な頼もしさが彼女の魅力だと思います。
・摂津 玲奈(セッツ レイナ)
適性は銃の能力。
登場は遅いはずなのに、妙に目立っている人。 終盤の笑いどころの大半は彼女が占めていると言っても過言ではありません。
自尊心が高くて、負けん気が強くて、自分が大事で……そんな我儘な女を体現したかのようなキャラクターなのに彼女もまた憎めない。
後輩の面倒見るのが先輩役目、と張り切るはいいものの要には(あの人は頼りにしたらダメな方かも・・・)と瞬時に本質を見破られます(笑)
唯は千代子に嫉妬しますが、玲奈は琴音に嫉妬します。
前者は大切に想ってくれている人がいることに対して、後者は慕う人がいることに対して。
35話の中学対抗戦でもかが「潔い悪役は好感が持てるよ。 玲奈とちがって」と言いますが、玲奈をうまく表現している言葉だと思います(笑)
その小物っぷりが魅力になっているのがなんとも不思議なものです。 作者のキャラメイクが巧いのでしょうね。
・比叡 要(ヒエイ カナメ)
適性は吸の能力。
要は登場するタイミングも、その抱えている思いも含めて、巧いキャラクターだなぁと思いました。
千代子が神格化するタイミングで登場し、私は要と同じように千代子に対して憧れの気持ちを抱いてしまいました。
いわゆる、千代子の魅力を裏付けるキャラクターといったところでしょうか。
その信仰っぷりは怖いぐらいです。 でもそれもかわいい。
・タウ
フィーかタウか、どっちについて書こうかなと迷いましたがここはタウで。
猫型の生物で魔法少女のマスコット的な存在のひとり(一匹?)。
かわいらしい外見とは裏腹に、性格はかなり真面目で合理的だ。
猫のくせに仕事っぷりがなかなかに優秀でいいんですよね~。 冷たいやつと思われがちですが、説明好きだったり千代子に萎縮したりとちゃんと感情が存在します。
エレエス星の陰謀がわかった時も、タウは千代子たちの味方で居続けます。
合理的すぎるからこそ、ああいった悪事には加担できない性格なのかもしれません。
・アドレナ
適性は水の能力。
この人もプライドがあり、周りの評価をきにしたり意地があったりするのだが、エレエス星のキャラクターでは一番人間味のある人。
彼女のプライドはなんというか、高潔なんですよね。 玲奈と違って人を貶しめようとするのではなく、自分の努力で取り返そうとするのがいい。(決して玲奈が嫌いなわけではありません)
そして彼女の持つ気持ちはまっすぐで、素直に感謝を言えたり、謝れるのも魅力です。
エレエス星のキャラクターたちは37話という終盤の中の終盤で登場するのですが、過去話を交えながらも彼女らのドラマを短時間で描き出したのは見事。
要領が悪いんだけど、プライドにかけて頑張ったりするOLみたいなアドレナさん。 かわいい。
・赤城 烈(アカギ レツ)
いろいろといいところで邪魔しにくる人(笑)
魔法少女という作品でこんな体格のいい男だしてどうすんだよ!!! って思いました、ええ……。
いろいろとちょっかいをかけに来るのですが、肝心な所では引き際が分かっているのが彼のいいところですよね。
そういったイライラを感じさせないキャラ作りとしては非常に良くできていると思います。
遥は超えられないけど、千代子とのやりとりはどこか安心させるものがあります。
しかし、終盤に入るまでは『ムサい男が魔法少女になれるわけねぇだろ!!!』と言わんばかりの展開です(笑)
彼がマジカロイドになった経緯は奇跡と言われていますが、それはちゃんと理由付けのされてる偶然の連続。
納得のいく『奇跡』でした。
マジカロイド化した烈はどのキャラよりも使い勝手の良いチート性能になります。
攻撃力と耐久力と移動力の高さから切り込みにも囮にもボス掃討にも使える優れ者!
・八島 唯(ヤシマ ユイ)
適性は時の能力。
魔法少女は彼女を語らずにはいられない。 なんたって私が最も愛おしく感じてしまったのは他でもない、誰よりも不器用な唯という少女なのだから。
正直、彼女に感情移入しすぎて途中からは話を進めるのが辛すぎました。
一番かわいそうで、一番助けてやりたく思い、一番抱きしめてあげたい。 そんな感情を彼女に抱いてしまった。(なんの告白だ)
正義感が強すぎて、それが生き辛さになっている中学生って結構いるのではないかと思います。
正しいことをしていると信じてやまないその独善性、傲慢さ。 しかし中学生らしい感情。
家庭環境がそうさせたのか、彼女は悪と認識したものには容赦ありません。 それは悪評高い千代子に対しても同じです。
千代子は浅い付き合いは苦手なものの、一緒に戦う間柄のような深い付き合いは誰よりも強くて信頼を勝ち取っていきます。
しかし唯は逆にその融通の効かなさ故に、深い付き合いが苦手で、魔法少女たちの中でも強い疎外感を味わいます。
本当だったら優等生としてみんなを先導したかったのでしょうが、従う人は少ないのです。
だから千代子に嫉妬する。 唯という少女は、歳相応に黒い感情を抱え、それを吐き出さずにはいられないのです。
けれど、時間がいろいろなことを解決してくれたと思うんですよね。
もっと長い付き合いをすれば千代子とは親友になれると思うし、その面倒見の良さから月菜以外にも多くの人から慕われるはずなんですよ。(現に事件起こすまでは割りと馴染んでいたし)
そして精神的にもっと成長していけば、その頑固さも徐々に直っていくだろうし、彼女にはもっといい未来が待っていたはずなんですよ。
だからこそ、彼女があのような事件を起こしてしまい、あんな末路を辿ったのがどうしようもなく辛いんです。
「町に必要ないのよ、あんな奴ら」
極端な思考しか出来ない唯はそう言って不良どもを一瞬で殺します。
そこには正義感もあったでしょうが、根底にあるのは誰かに必要とされたいという気持ち。
だから周りによく見られたいと思って優等生するし、魔法少女として戦おうとする。
「時間を止めた時……私感動したの、『世界全体が私の味方になってる』って。 ほんの1秒足らずだったけど」
感情の起伏が激しいほど、魔法少女の力は真価を発揮する。
こんな台詞を吐いてしまうぐらいに唯は辛くて辛くて、そして止めようがないほど強くなっています。
孤立してからの言動はだんだんと怪しさを増してきて、特に琥珀を説得(?)するときにはもう手遅れです。
「私にも本気で想ってくれる人が欲しい……」
彼女の一番の望みはそれです。
唯がバイオモンスター化した時、テロメアは唯に人間に戻れるただひとつの注射を使います。
その選択は、ただ救える人を減らすだけの愚かな行為だったかもしれません。
しかし、人間に戻ったからこそ唯は自分の死に対して悲しむテロメアや加音、梢、リリー、月菜の存在に気づくことが出来ました。
それは遥の千代子に対する感情とまではいかないものの、自分のことを想ってくれる人がいるということに気づけた瞬間でもあります。
そして彼女は死を受け入れる。 それは自分を変えてくれた時の能力がもうないから……人を殺した罪悪感に耐えられないから……。
この2つが理由だと思うのですがそれ以外に、ようやく自分の望みが叶ったから……という理由もあるのではないでしょうか。
・扶桑 真千代(フソウ マチヨ)
適性は心の能力とその他諸々。
終盤の中の終盤の中の終盤から登場するんだけどものすごくキャラが立ってるマジカロイド。
ラスボスとして登場してきたと思ったのにまさか仲間になるなんて……。
自分の名前を『真の千代子』という意味で真千代にすることで、とてもユニークなキャラだと思いました。
エンディングでは社会に溶け込もうとし、千代子にライバル心を燃やすのですが、それがまた千代子への愛に見えてしまって見えてしまってしょうがない。
とてつもなく強いのに性格はどこか抜けていたり子供っぽいところがあるのがとてもいい。
・日向 遥(ヒュウガ ハルカ)
遥の千代子に対しての友情は、どこか変わっていて、不思議だ。
イライラしてしまうのに放っておけない。 ついつい許してしまう様はまさしくとても深い愛情を感じる。
「私のちよになにをする!!」 という発言がありますが、ものすごい独占欲だと思います。
彼氏がいるけど、遥の愛情の殆どは千代子に向けられているのでしょう。(章二が不憫だ…)
千代子と遥はお互いをお互いに大切にしようとしてて、それが行き過ぎて喧嘩をしてしまう。
息を引き取る際、最後まで千代子を心配する言葉がなんとも泣かせます。
そして死後も、烈が受け継いだ変身道具に彼女の強い意思が記録として残ります。
途中で消えてしまっても、その存在感は強いです。 メインヒロインというにふさわしいキャラクターだったと思います。
・霧島 千代子(キリシマ チヨコ)
適性は闇の能力。
梢は千代子のことを「かなりいい奴だよ。 ……いい奴過ぎてすぐ問題起こすけど……」と評します。
遥は千代子に「自己犠牲を他人に強要するな馬鹿ッッ!!」と叱ります。
千代子の性格もまた複雑なものですが、人間味を感じない面と感じる面があるという不思議なキャラクターです。
ドジでトロくて頭が悪い……はずなのですがここぞという時の集中力と冷静な判断力は群を抜いています。
最初にキレて負傷事件を起こしたのは遥のため。
実の母を犠牲にしたのは遥のためと、最小限の犠牲で済ますという冷静だが非情な判断をしたため。
自己犠牲の精神が強く、実は誰に対しても優しい反面、判断力があまりにも常人離れしている怪奇な主人公。
それでも彼女の最優先は、やっぱり遥なんですよね。
母親が死んたときはなんとか堪えたのに、遥が死んだときは自分を見失い、それはもう見ていられないぐらいに可哀想でした。
それまでの遥に対する信頼の様子や、大事にしたいという思いを見てきたからこそ、あの場面がとても重く感じる。(白髮になったときはかなりビビりました……)
遥が大事で、遥に消えてほしくないからと、自分という存在を犠牲にして遥を存在させようとしたのは見てて胸が痛みました。
「私の心の中には私だけいないの。 遥ちゃんと一緒に消えちゃったよ……」
千代子は戦士になっていろいろなモノを失います。 しがし逆に戦士になることで千代子は成長し、切っても切り離せないような仲間たちと出会っていきます。
そして、髪を白くして立ち直った千代子の姿はとても綺麗に思えた。(要ちゃんじゃないけど)
苦しみを乗り越えた女性の凛とした様はなんて絵になるのだろうかと。
最後に、千代子のことを上手く表現した言葉を伊万里が言ってくれたのでそれを………
「歩くブラックホールだもん。 何でも吸い込むんだよ、きっと」
他のキャラは割愛で・・・
結構、女の子同士でのカップリングが多くて百合厨にはウッハウハだと思うんですけどねこの作品。
千代子遥、千代子要、千代子真千代、千代子唯、千代子朱莉、朱莉七海、七海伊万里、梢唯、琴音伊万里、琴音葉子、唯テロメア、唯月菜、真千代テロメア、唯加音、テロメア加音、もか玲奈、もか琴音、アドレナルフィン、アドレアエピネフ、アドレナアルチル、玲奈琥珀、玲奈琴音…………(順番は適当)
妄想が膨らむぜぇ・・・げへへ・・・
千代子と唯と玲奈はほんとオイシイキャラですね。
この3人は妄想話の伸びしろが尋常じゃない気がする。
個人的には千代子真千代、唯テロメアの2組推し。
・その他総評
キャラクターごとの感想は全員ではないですが、ひとりひとりのキャラが立っており必要性を感じないキャラクターというのがほぼいません。
みなそれぞれが異なる性格を持っており、人によって差はあるもののドラマがある。
大好きなアニメ、『無限のリヴァイアス』を見ているのと近い感覚でした。
私が求める群像劇としてはほぼ完璧な出来です。
ひとつ不満を述べるとすれば、米子さんの存在だけがちょっと浮いちゃっていることでしょうか。
小夜は自分から浮いていますが、米子さんはどこのグループにも溶け込めていない印象が……。
キャラの掘り下げが不足している唯一の魔法少女かもしれません。
また、本作の魅力としてキャラクターデザインも挙げられます。
変身後の姿はどれも好き。 ああいうボディラインが見えるような格好は大好きです。 ぐへへ………。
もっと変身した魔法少女たちの絵が見たいです……。 金払ってもいいから見たいです……。
さらに魅力を挙げるとすれば、会話劇の面白さです。
この作者の過去の作品を通した良さだと思います。
このようなプレイ時間が10時間以上の長編SRPGは魔法少女で4作目となるのですが、ここにきて更に洗練されたように思えます。
キャラクターがこれまで以上に『生き』ており、感情移入がしやすい。
そして世界観をしっかりと決めた上での会話はとても身近なように感じてどっぷりと入り込むことが出来ました。
今まではカオス世界だったりファンタジーだったり、それはそれで面白かったのですがやはり魔法少女のような現代を舞台にした作品は緊張感が他と違います。
その緊迫した中での面白い会話だったり、笑える会話だったりは、とてつもなく心に沁みます。
また、この感想は2周目をプレイしながら書いたものです。
1周目の時点では大体89点ぐらいの気持ちだったのですが、(それでも十分高いけど)
2周目で話を進めて行くうちにつれて、90、91、92、と徐々に上がっていき、ついには93点になりました……。
認めましょう。 この魔法少女は私が今までプレイした全ての作品を含めてた上で、3番目に好きな作品です。(2013年6月時点)
それぐらい登場人物に心を持っていかれました。 この作品でいろいろな感情を引き出されました。
※ごめんなさい、やっぱりこれが一番”好き”な作品です。 ”面白い”なら他にありますが、”好き”だと現状これ以上の作品が私の中にありません。(2016年2月28日時点)
惜しむらくは、SRPGとしての機能不足。 そしてノベルパートでの演出不足。
プレイしていて思ったのが、もっと深く描写すればいいのに……というシーンが何箇所かあります。
(遥の死、千代子の復活、唯の死、最終戦に行くまでの流れなど)
SRPGツクール故に、あまりノベルパートを長引かせてはいけないという配慮からかもしれませんが、妥協しないで作ってほしかった。
それ以前に、ツールによる演出向上の難しさの方が問題かもしれませんけどね。
もし、エウシュリーあたりのシステムと、Leaf並の演出力をつけたら……多分とんでもない傑作になると思います。(その場合は96点ぐらいつけてるでしょう)
そして、どうして1周目より2周目の方が感動が大きかったのか……という事ですが。
実は一周目は未完成の小出しにしている時期にやっていて、ぶっ続けてプレイ出来なかったことが大きかったかもしれません。
また同時期に某アニメが終了しており、それと比較するような視点で見すぎてしまったからかもしれません。
演出力は当然向こうのほうが上ですが、キャラクターの魅力や話の構成や終わり方はこちらのほうが圧倒的に好きだと今なら断言できます。
最後に、魔法少女では千代子の力で死者を復活させないのかという問いがありますが、それを否定します。
「思い上がりだよ! 1000年の安寧? 知の結晶? 誰かの今を食いつぶして得るようなものにそんなものあるわけない!!」
これは千代子がエレエス星で言った台詞ですが、この言葉を自分で否定しないためにも、遥の死をなかったことにはしません。
魔法少女になってからの痛みや、悲しみや、怒りは、今が重なって過去になったものです。
それを作品の最後で無駄にしないように、なかったことにしないように千代子は過去と向き合って今を生きることを決意します。
キャラクターへの愛を持ちすぎたり、周りからの声に惑わされたりで、死人を復活させるような終わり方はよくありますが、それをしなかったのは見事だと思います。
・割りとどうでもいい感想
魔法少女のキャラクターはみんな好きですが、
唯>>>千代子=アドレナ>真千代=もか>朱莉=リリー> 以下略
てな感じで好きですね。
ついでに唯が辛そうにしているところや千代子が壊れたところはやっぱり泣いちゃいました。
演出力がアップしてたら多分、ボロ泣きになってる。