絵で魅せ、音楽で魅せ、登場人物に感情を持っていかれながらも最後は心地の良い読了感を味あわせてくれる至高のビジュアルノベル。
私が最初にファタモルガーナの存在を知った時、『良作』っぽいなと思いました。
リアル寄りの絵柄、そして不幸な物語を語られるというオムニバス方式を匂わせる作り。
なぜだかよくわかりませんが、恐らくその様な作品を数本やってきたせいなのか・・・私の中には別々の物語が個々に語られていく作品は傑作になりえない、という偏見があったのです。
--------------以下ネタバレ全開です。 未プレイ者は引き返したほうがいいです・・・!--------------------
【1章】
まずプレイをして、楽曲のクオリティの高さに驚きました。 ふと、うみねこのなく頃にを思い浮かべて、それと同等か、それ以上かと思いました。
作曲陣はどちらも複数いますが、楽曲の雰囲気の統一性でいったらファタモルガーナの方が上手のように思えます。
お話の方は・・・いたってありがちな、ブラコン妹からいかに逃げ切るか!? 的な内容です。
一般・大衆向けな作りで自分にはあまり合わない作品かな・・・? と思いました。
しかし、それでもサクサク読み進めることができたのは美麗なグラフィックと楽曲による演出の力でした。
この1章では感情移入できるキャラクターがいなかったので、少し退屈な思いをしてしまったかもしれません。
【2章】
そして時代は変わり、また別のお話へ・・・。
女中さんと白い髪の少女は変わらず登場し、自分はこの時点で「あぁ・・・この2人だけが登場し続けてあとはこういう不幸な話が繰り返されていくだけなのかな・・・」という失望感が生まれ始めます。
とはいえ、この2章では「あっと驚き!」な展開が待っているのですが・・・。
プレイしてた人の何人かはそれに気づいていたのに、私はまんまと騙されてしまいました。
最初に殺された男を貿易商の男だと勘違い(見間違い)してしまうという有様・・・w
そのお陰か、結構楽しめたような気がします。
やり終わったあとは『ひ、ひでぇ話だ・・・』という感じです・・・w
【3章】
ここまで来ると私は諦めていました。『あとこの不幸な物語何回あるんだろうなー』と。
なにかしらのスパイスとなるものが欲しいと思っていましたが、この3章ではヤコポがいい味を出していたような気がします。
一言で言うとツンデレ。 ツンデレ。 男ツンデレ。
ツンが95%を占めているぐらいのツンデレではないでしょうか。
こういう苦悩する男の気持ちというのは、そこそこ共感できる部分があったので楽しめました。
また某聖女さんの清々しいまでの変わりっぷりはついつい笑ってしまいますw
もはや別人だろw っていうまでの顔の変化具合は何度やっても笑ってしまいそう・・・w
【4章】
さぁここで物語に変化が訪れます。 なんともうこの段階で物語を聞かされていた『旦那さま』の正体が分かってしまうというのです。
まんまと騙されていた私は『えっ!? オムニバス形式じゃないの!? ここで正体明かしたら残りのプレイ時間はどうなるの!?』と、もうこの時点でファモルガーナの世界に取り込まれていました。
そしてその正体は、ミシェル 男性 年齢不詳 引きこもり ニート 童貞・・・というなんともネタにされるために生まれてきたかのような人物でした。
しかし、この4章のミシェルは悲しい呪いを背負っており、引きこもり童貞になるのも仕方のないものでした。
これまでにない特殊能力を授かるという設定に多少の疑問は抱くものの、女中さんと白い髪の少女の存在があるのでファンタジー世界なのかなと思いました。
話の内容はとっても綺麗なものです。 可もなく不可もなく・・・、ミシェルはただ美しくその生命を散らしてしまいました。
と、ここまでだったら。 この繰り返しだったら・・・私はここまでの高得点をつけませんでした。
次の5章で、自分のこの傲慢な考えは粉々に打ち砕かれていくのです。
【5章】
アレですね。
私はプレイしている途中に『旦那さま = 白い髪の少女』だと思ってました。
だから女中さんにそう言われたときは「やっぱりな~」としたり顔してましたよ、ええ。
しかし選択肢を選んだあと「何かが引っかかる。 今語られた物語に。」と・・・この文章を見て『!?』となりました。
ここはBGMも相まってすごくドキドキワクワクしましたw
そして極めつけの「存 在 し な か っ た」。
自分が最も好きなスチルである白い髪の娘のCGは黒髪の女性にと変わっていきますw
「返せよ! 俺の大好きな白髪娘ちゃんを返せよ!」と思いながらも、この展開にはゾクゾクしました。
まさか まさか まさかあの魔女だと思わせていた女中さんが
あんな天真爛漫な純朴少女だったなんて・・・!
もうこの時点でオムニバス形式の作品という前提は崩れ落ちました。
まさか一章分丸々を引っ掛けに使うなんて・・・。
4章とは一体なんだったのか・・・。
女中さんの真の姿、ジゼルはそりゃあもう白い髪の娘とは似ても似つきません。
おっぱいも大きいです。 もう乳房がハミ出しそうな服装には正直ドキっとしました。
また、真の主人公であるミシェルも4章とは性格が変わっていますw
年齢不詳 引きこもり ニート 童貞・・・だけではなく、モヤシ、根暗、陰険、早とちりとネガティブな面が追加されていきますw
まるでこれが作者に計算されたかのように、今までの登場人物と違ってこの2人は人間味があってとても魅力的でした。
お互いに欠点があり、弱さがあり、それでも2人が徐々に距離を縮めていく様は心が暖かくなります。
この5章で特筆すべきは恋心の描写の上手さです。
他に居場所のないこの2人がお互いのことを好きになっていく心の変化はとても共感できて、どっぷりとこの主人公とヒロインに感情移入してしまうのでした。
しかし、結末はまた悲劇・・・。 5章のラストでは楽曲効果もあってか早々に涙目になってしまいました。
【6章】
この章ではジゼル視点で過去の悲劇を見ていきます。
ミシェルを待ち続けるジゼルの悲痛な思いは見ていられませんでした。
明るかった頃のジゼルを見てしまうと、女中さんのことをもう普通の目で見れません。
そしてジゼル視点からみる1~3章はさらなる謎を呼びます。
白い髪の娘・・・ミシェルとは一体何者なのかと。
魔女モルガーナとは一体なんなのかと。
すべての物語は繋がっていると思わせるような展開が続いていきます。
脱出してハッピーになるのかとおもいきやこれだよ! なんだよモルガーナ!
【7章】
ここまで来るともう、自分もミシェルと同じようにまたジゼルの笑顔が見たいと思ってしまいました。
く、悔しい・・・あんな引きこもりと同じ気持ちになるなんて・・・(ビクンビクン
そしてモルガーナに口頭で自身の悲劇を伝えられます。 なんともまぁ酷い・・・。
しかし、ここで伝えられる登場人物は「おや? どこかで似たような奴らいたな・・・」と思うようなのが3~4人ほどいます。
「ああなるほど、1~3章もただのオムニバス形式ではなく何かしらの繋がりがあるんだな」と、ここでようやく気付かされました。
キャッチコピーの一つである「彼らの魂に永劫の呪いを」はそういう意味だったのか、と。
これだけでもビックリしたのですが、更に続きます。
なんだかんだで今まで隠されてきた、ミシェルの過去・・・その始まりの言葉は衝撃的でした。
「男じゃなかったんですね」
ミシェルが僻地に幽閉されていた理由は、単純に白髮で目が赤いから・・・そう思っていました。
しかし、それだけではなかったのです。
この7章をやってしまったらもうミシェルのことを馬鹿にできません・・・(よくネタにしますけど)。
個人的にはこの章が一番感情揺さぶられて好きでした。
好感の持てる2人の兄、自分の体に苦悩するミシェル、そして成長すると共に居場所がなくなっていく絶望感。
なによりあのエメとかいう女はとんでもないですね。 ゲロ以下の臭いがプンプンするぜーーーーーーーーーー!!!
そうして孤独となったミシェル視点でのジゼルとの出会いにまた泣かされました。
また3兄弟の描写がとても好きだったので、だからこそ最後の結末にも涙なしには読めませんでした。
ジョルジュ兄さんが笑っている3兄弟の一枚絵が・・・泣ける・・・。
もうこの時点で今までのプレイ済み作品の降水量を超えてたような気がします。
極めつけは『諦める』の選択肢のあとの展開でした。
もーーー一枚絵も楽曲も、展開もずるいんですよもーーー!
みっともなくボロ泣きしました。
酷く辛い展開の後にああいう救いの手が差し伸べられると泣かずにはいられませんでした。
そしていよいよ魔女モルガーナとの対面・・・。
ここで流れる楽曲が一番のお気に入りです。 いよいよ最後なのか・・・と思わせるような熱い展開を匂わせてきました。
こっからのヒキコモリ・ニート・ミシェルくんがイケメンです。 かっこよすぎます。
痛みの分かるミシェルはなんとモルガーナを倒すのではなく救うと言い出すのです。
物語はいよいよ最終章へと入ります。
【8章】
まず、いきなりミシェルとジゼルによるイチャラブコメディが始まってびっくりしましたw
「え!? そういう展開!?」と、さっきまでのドシリアスさが嘘かのように進んでいきますw
これがまた、面白いんですね。 ミシェルとジゼルに感情移入してしまった今ではそのやりとりがとても楽しく感じられるのです。
そしてあの3人の男たちと+αβγが登場します。
一度見ているせいか、最初に比べて彼らにもどこか愛着を持ってしまっていました。
1~3章とはまた違った感覚で、八方美人、サイコ男、ツンデレ大馬鹿野郎を見ていきます。
この最終章は、進むにつれ次々とピースがはまるように謎が解けていきます。
何より、領主・・・つまりはヤコポの正体には最後まで気が付きませんでした。
3章のストーリー展開がそのまま伏線になっているとは・・・気づかなかった自分が情けないです。
ヤコポが好きだったので嬉しかったですけど、彼はもうモルガーナに振り向いてもらえないことを考えると悲しいですね。
結局のところ、前半である1~4章すべてが伏線だったのです。
このシナリオ構成の大胆さには脱帽しました。 すべて無駄ではなかったのです。
どの章も欠かせない、必要なものだったのです。
これが分かった時のカタルシスはもう言い表せないほどのものでした。
今までやった作品、創作物には・・・どうしても『無駄』と思ってしまうところがあります。
冗長な会話や、必要あるのかと思う説明や、無駄に長い文体。
この作品にはそれが・・・完全にないというのは言いすぎですが、それでも、私にとってはほぼなかったのです。
自分の歩んできたものが無駄でなかったと認められるような充足感を味わいました。 ひとつの作品によって、そう思わされてしまったのです。
白い髪の娘の正体についても明かされます。 これについても特に違和感もなくスッキリと納得できました。
そしてようやく、ファタモルガーナの館はエンディングを迎えます。
ミシェルは、男の体よりも、ジゼルと出会うことを選びました。
性行為を求めずとも、そのひとりを求めて、彼はその様な選択をしたのです。
これには賛否両論ありそうだなと思いましたが、私はこれほどの純愛を見れたことにただ感動しました。
その選択に一体どのような意味が込められていたのか・・・その様なことを思いながら私はこのゲームを終わらせました。(当然最後の一枚絵でボロ泣きしました)
【その他】
最初は『良作』っぽいなとか思ってて申し訳ありませんでしたと土下座したいです。
紛れもなく自分の中では『傑作』であり、現時点でこれほど入れ込んだビジュアルノベルはありません。
シナリオ、楽曲、絵・・・全てにおいて妥協しなかった本作は同人作品における歴史的な一作だと思います。
【余談】
モルガーナさんがかわいいです。 かわいすぎます。
まさか最後の最後であんな萌えキャラになるとは思いませんでした。
舞台裏で彼女の出番多くて歓喜しました。
にしても白い娘の発言と4章を考えると・・・モルガーナは口では否定しててもちょっとミシェルに惚れていたのかな・・・?
ミシェルとジゼルに対するイチャイチャにもうんざりしてたし・・・w
※追記
改めて考えて、自分の中でこれ以上のビジュアルノベルが現時点で想像できないので最高点の99点にします。
(死ぬ前まで100点は付けない方針なので……)