ノベルゲームの新境地。荒削りながらも見るべきところは多く、今後に期待したかった作品。
【プレイ時期】 2024年1月〜3月
【グラフィック】 3.5/5
キャラクターや背景は綺麗に描けていると思います。やや不満なのは塗りでしょうか。同年代の他作品と比べても、やや劣っているように感じました。もっとより良くなれる伸び代を感じるところでもありました。
【サウンド】 BGM 4/5 ボーカル 3.5/5
BGMについては、安定して高クオリティだったと思います。曲数自体は20曲とそれほどの量ですが、シナリオを読んでいても場面と合わない曲もなかったです。お気に入りは「空の青さを知る」。
ボーカルは、OPとEDの各一曲ずつ。
OPの少女の空白プリズンが好きでしたね。
全て終わってから聞くと、タイトルも歌詞もなかなか深いなと。
【システム】 4/5
プレイする上での支障はありませんでした。ギャラリーの差分が、なぜかシナリオの時系列と逆向きになっており、時間が遡っていくのには笑いましたが。
【シナリオ】 60/80
<Chapter1…序章〜つぐみ編> 14/20
仲間。
美しい単語です。
そして、寂しい単語でもあります。
かつて仲良しだった人たちのことを思うと、胸が締め付けられる思いです。
そんな、後悔にまみれた主人公の物語。裏切り者としてクソミソな扱いの中、優しくしてくれるつぐみはまさに聖母。優しさの中に譲れない一線があるのも、キャラクターとしての魅力に繋がっているでしょう。
つぐみの物語としては、「今川焼きの屋台、なんとか軌道に乗ったぜヤッター」で終わっちゃいます。特殊な舞台設定であり、説明が必要なのは理解できますが、やや量が多かったかなと。その割に冗長な場面も多々ありましたし。序章としては、あくまで及第点といった感じです。
<Chapter2…凪編> 17/20
目のあったもの全てに噛み付く、まるで気性の荒い野犬のような凪くん。Chapter1でもさんざんに貶されてきたわけですが、いざ蓋を開けてみると…
こんなにも可愛い女の子だったとは!
照れてクルクルな目になった凪くんは、まあ微笑ましいこと。想い出を大切にし続け、集結の日に向け力を蓄えていたのはホントにすごいなと思います。
章全体で見ても、本作で1番経済ドラマしているといって過言ではないです。もちろんフィクションなのは承知の上ですが、それでも楽しめるものでした。
強いて難点を挙げれば、株等の知識が多少ないとちんぷんかんぷんかもしれないところでしょうか。TOBとか、分かるの人口の何%くらいなんでしょう。
それでも、お気に入りの章です。
<Chapter3…和彦編> 13/20
昔の仲間と言えど、ここまで敵対されるとあまりいい気分はしませんよね。
そんな和彦くん。ようやっと仲間に戻るかと思えば、まあひどい目に遭うこと。取引には敗北し(しかも複数回)、あげくずっと慕っていたリコの死を知らされるという。
自暴自棄になっても仕方ないよね。もう、シテ…コロシテ…ですよ。
そして間一髪助けて大団円。めでたし。
書きたい結末(和彦が仲間になる)に振り回された印象です。もちろんプロットは必要ですが、前面に出過ぎていてかなり鼻につく展開でした。なんなら和彦編というよりリコ編だったような気もしますし。
悪くはないけど、「転」としてはインパクトに欠ける章でしたね。
<Chapter4…白亜編> 16/20
ハゲタカ。
聞いた時の印象は、どうでしょう。
とことなく、悪いものじゃないですかね。
そんな名前を冠せられた少女の物語。
裏切りとその対抗は、本作を締めくくるにふさわしいものだったかと。暗躍する理事会と戦うというのも、良いシナリオでした。
最後の最後で冗長になったのはいただけませんが。ええ、逃亡のところですよ。長すぎませんか?
ハゲタカを脱ぎ捨てた素の白亜。ずっと一途に主人公を想っており、本作はやはり白亜の物語だったといって良いのだろうなあ、と。それだけの器であり、可愛さも兼ね備えていた良きヒロインでした。直島を離れても、間違いなく幸せにやっていけるでしょう。
兵どもは夢の跡。インターネットを代表とした、実体のないものの価値が高まっている現在。実物、というものに回帰していくかもな、と思ったりしたりして。
みんな仲良く。いのちだいじに。
【総評】 75/80
経済系ノベルゲームとして名高い本作。ただのノベルゲームとは一線を画しているのは間違いないですね。その特徴にピンときた人は、ぜひやって欲しい作品です。
反面、かなり荒削りなのも事実。特にシナリオは、壮大な舞台設定に振り回された印象もあります。伏線は回収されなかったと思われるものも多く、また主人公も行動指針がブレがちでした。
それだけに、次回作に期待!と言いたいところなのですが、ライター、ブランド共に10年以上作品が出ていないあたり、望み薄なのでしょうね…。寂しい限り。
長々と書きましたが、結局のところ惜しいと思う気持ちが強いです。もっと評価される作品になり得たと感じます。
それでも、一定以上の完成度はあるので、まずはプレイしてみましょう。今なら500円セールで安く手に入れられますしね。