この作品で描かれてるのはハッピーエンド? それともハッピーのエンド?
まさかこんな話だとは思わなかった、というのが正直な感想です。
コットンソフトの作品としては『アンバークォーツ』とはまた違った意味で詐欺的な作品なのかもしれません。
まず、この作品では主人公がプロローグにおいて
『この世界がいかにして終わりを迎えたのか、その経緯を伝えようと思う。』
と言っています。
この時点で、私はこの「終わる世界とバースデイ」は限りなくバッドエンドに近い作品であると認識していました。
基本的には各ルートはバッドエンドであり、最後のグランドエンディングで今までの伏線を回収して物語が収束するか、
もしくはご都合主義的な展開で無理やりハッピーエンドにするのだろうと思っていました。
この手の結末が先に提示されている系統の作品では、どうしても最後には結局そうなるのは分かりきっているので中盤の展開が飽き飽きとしがちです。
例えば、最初に「ラスボスと戦っている場面」がいきなり出てきて、「ここに至るまでの戦いの系譜を記そう」などと言って物語が始まったとします。
そうすると、その話の途中でどんなピンチがあったとしても、主人公がラスボスまで辿り着くことは確定しているのでピンチに対する緊張感が薄れるのです。
つまり、この作品は最初に世界が終わる結末を提示している時点で、
「どうあがいても結局世界は終わるんですね分かります」的な心理が働きがちなのです。
したがって、この作品はそのある種の期待をどう裏切るかが鍵であった作品だと思います。
そして、ライター陣は見事にその期待を裏切るシナリオを描いてくれました。
この作品のオチは「疑似現実」です。
主人公たちは疑似現実の中で9月の初めから世界が終わると予言されている9月29日までを延々と繰り返していました。
その理由は人工意識体である入莉を育成するためでした。
無論、そのような目的を持っていたのは主人公と入莉の兄である陶也だけであって、
他の人物たちは疑似現実の中に生み出された過去で今までの後悔を払拭するという目的で集められたプレイヤーだったわけですが。
主人公は自分である時点までの記憶を消すように設定したがために疑似現実の中を実際の現実と思い込んでいました。
しかし、あることがきっかけでここが疑似現実だと理解することになります。
そして、長い間疑似現実の中にいるプレイヤー達を開放しようとします。
ですが、プレイヤー達は現実に戻っても後悔するだけだと自ら疑似現実を出ようとはしません。
そこで、主人公は悩みます。
このままこの疑似現実の中で生きることが幸せなのかどうか、自分のやっていることはただのおせっかいなのか、と。
最終的には主人公は疑似現実を壊そうとするわけですが、この終盤の展開は素晴らしかったです。
主人公の葛藤が冗長ではなく、だからといって淡白でもなく、しっかりと描かれていました。
そして、この疑似現実、そしてその疑似現実を壊した展開こそが私をいい意味で裏切ってくれました。
前述しましたが、この作品は、
「世界が終わりを迎えてバッドエンド」
「世界が救われてハッピーエンド」
の2択しかないと考えていました。
しかし、この展開にしたおかげでハッピーエンドともバッドエンドともとれるエンディングが生まれました。
現実に戻ることができたのは幸せな終わりだったのか、疑似現実を失ったことは幸せの終わりだったのか。
私の期待を裏切り、その上で決してご都合主義ではないこの作品の雰囲気にあった終わり方をしたのは非常に評価したいです。
ここまでは、シナリオに関して評価してきました。
此処まで見るとべた褒めしてるっぽいんですが、それは序盤の引き込み具合と終盤の展開だけです。
はっきり言って、中盤はシナリオがそこまで面白いわけではないので若干だるかったです。
この中盤のカタルシスがあったからこそ、最後に感動したとも言えますが。
シナリオの悪いところはその辺りです。
もちろんその他の部分で悪いところはあったので、次はそれについて書いていきます。
まずは、絵ですね。
嫌いではないんですけど、コットンソフトだったらあんころもちさんの方が好きなので、そちらに描いてほしかったです。
司ゆうきさんの絵はなんかバランスが悪く感じるんですよね。立ち絵の頭身とか。
あとは入莉ルートにおいて入莉が若干うざかったこと、
各ルートにおいてミカが予言のことでネガティブ全開でこちらもうざかったことがマイナスポイントではありました。
まあ、これぐらいですかね。
システム周りも不便ではなかったですし、音楽は主題歌含めて良かったし、総合的に見て悪い点は少なかったように思います。
【まとめ】
テキストの読みやすさにシナリオの良さが相まって非常に楽しめた作品でした。
発売から2日後ですが、この時点でクリアしてることが私にとっては異例なのでそれだけ面白かったんだろうなと思います。
あとは、今作は複数ライターなわけですが、読んでいてそれほど違和感がなかったのも良かったと思います。
というか、各ルートでライターがよっぽど変なことしない限り、多少突飛な展開でも許される設定の作品だったのが勝因でしたね。
『アンバークォーツ』の悲劇を繰り返さなくてよかったです。
とにかく、今作はコットンソフトの中でも世間的な評価が一番高くなるであろう作品だと思います。
私は未だにレコンキスタが一番好きですが。
【戯言】
この作品のメインライターは海富一(通称、ウナトミー)ですが、今作品は彼には珍しく比較的新しいものをネタとして使用しています。
それは作品内でのギャグのネタや使われているアイテムもそうなのですが、作品を構成する要素を見てもそうです。
例えば、「終末」「SF」「ループ」「タイムトラベル」と蓋を開けてみれば近年評価の高い作品に見られる傾向を取り入れています。
しかし、だからといってこの作品が何かの焼き増しだというわけではありません。
そこにはしっかりと独自の世界が描かれていて、読んでいて楽しめました。
そして、今回に関してもウナトミーは相変わらず終盤の風呂敷の畳み方は安定していました。
要するに、私はウナトミー作品がかなり好きなのですが、今作にはウナトミー特有の古臭い雰囲気が無くて少し残念でした。
いや、ライターとして新しいものを追い求めて、いい意味で時代に迎合していくことは必要だとは思うんですけどね。
ただ、あの古臭いギャグテキストを読めなかったのは少し寂しかったです。