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melodicarcさんの暁の護衛の長文感想

ユーザー
melodicarc
ゲーム
暁の護衛
ブランド
しゃんぐりら
得点
72
参照数
582

一言コメント

テキストが面白い、CGが綺麗、ヒロインたちが魅力的など良い所はたくさんある。 でも、悲しいけど、これ未完成なのよね。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

まず書いておかなければならないのは、私はこの作品を完結編である「暁の護衛 ~罪深
き終末論~」が出ると分かってから―――
もっと言うと、そのOHP(オフィシャルホームページ)を見てからプレイしたということ。
そのおかげで後述する『とある秘密』を先に知ってしまったので、そこは失敗したなと思います。
この作品で「前編をやらずに後編のOHPを見るな」という新たな教訓を学びました。当たり前だけど。

で、内容ですが、非日常を生きる主人公たちの日常を面白おかしく描いているというのが一番の印象でした。
ライターの衣笠氏のテキストはかなり笑えたし、こういう笑えるギャグを描ける力量があるのは素直に凄いと思いました。
特に選択肢の使い方が秀逸だったと思います。
またCGが非常に綺麗で、トモセシュンサク氏が原画のゲームは初めてでしたが、好みの絵だったので良かったです。

ヒロインを含めた登場人物たちはどうかというと、キャラがしっかりと立っていてそれぞれが魅力的に感じました。
特にツキと尊は素晴らしいギャグ要因でしたし、前述したテキストの面白さも相まってこの作品を大いに盛り上げてくれたと思います。
私がヒロインの中で一番好きなのは妙で、馬鹿でチビで可愛いというなんともどのエロゲにも居そうなキャラでしたが、ルートに入ってからのデレっぷりに心を掴まれました。
やっぱりツンデレよりデレデレの方がいいよね!と改めて思わせてくれるキャラでした。
このキャラの声優である如月葵さんはちょっと知らなかったのですが、この声は結構好きかもしれません。
他にはやはり主人公がなかなか良かったということでしょうか。
「主人公攻略ゲー」と誰かが言っていた気がしますがまさしくその通りで、ヒロインやその他の女性キャラがどんどん主人公に惹かれていきます。
それもこれも主人公の強さと心にスッと入り込んでくるようなそのキャラクターがあるから―――というわけではなく結局イケメンだからってことなんでしょうね。
主人公は適当なようでしっかりと自分なりの理念を持っているので私は結構好きでした。

ではこれだけ良い所がありながら何が評価を下げる要因だったかというと、それはシナリオの構成です。
この作品は個別ルートに入ったあとは
「個別ルート」→「共通ルート」→「個別ルート」→「共通ルート」→………
という形で進んでいきます。
これは個別ルートの間に共通ルートを挟むことによってそのルートには関係ない他キャラとの絡みを見せて、個別ルートでの主人公たちの「孤立感」を無くそうとしたのだと思いますが、
結局、共通部分は2週目以降ではスキップで飛ばしてしまったのであまり意味はありませんでした。
むしろ各話のオムニバス感というか尻切れトンボな感じを助長させただけな気がしました。

また各ルートについて触れていくと
「シナリオが良かったルート」
「シナリオが気になる所で終わったルート」
「シナリオが少し酷いルート」
の3つに分けられます。

「シナリオが良かったルート」は萌とツキです。
まあ、それぞれ伏線は(私が見る限り)回収されていたし、屋台のくだりにしても禁止区域関連の話にしてもしっかり展開されていたと思います。
ただシナリオはこの作品の中では良かったというだけで、間違ってもPOVの「シナリオがいいゲーム」にAをあげたりなどはできません。

「シナリオが気になる所で終わったルート」は妙と薫です。
妙の方はどうやって侑祈を救っていくのかというそのプロセスも提示しないまま終了。
薫の方では萌ルートからの分岐ということもあり、あのシナリオの長さでは明らかに薫に関して描ききれなかったのが分かりました。
そして最初に書いた私がやる前から知ってしまった『とある秘密』というのは薫が女だということでした。
だって「暁の護衛 ~罪深き終末論~」ではメインヒロインの一人になってるんだから、薫が女ということは自明の理ってもんですよね。

そして、「シナリオが少し酷いルート」は麗華と彩です。
まず麗華ルートというのはこの作品の核心に触れるルートであり、海斗の父親の過去が分かることでどうして海斗が源蔵に嫌われているのかが分かります。
そしてこの話の中で、海斗が禁止区域の中にあるかつて自分が住んでいた部屋の金庫に、父親が昔の思い出を大切にしまっていたことを知って驚くというシーンがあるのですが、
ここがあまり感情移入できませんでした。
何故かというと、禁止区域でどのような生活をしていたか、厳しい父親を海斗がどれだけ恨んでいたかという部分が具体的に描かれていないからです。
抽象的には海斗が語っているのですが、この作品には「過去編」とも言える部分が抜けていたと思います。
彩ルートの方はというと、この作品の謎の一つである「海斗の過去」という部分にあまりにも触れてなさ過ぎて、印象の残らない地味なシナリオになったのが残念でした。
しかも他のルートに比べたらシナリオが短かったように感じます。

そして一番残念なのが全てのルートをクリアしても多くの謎が残っているということ。
麗華ルートの最後に出てきた謎の人物や、名前が出てきただけで姿を見せない人たち、
ちょっと出てきただけだった杏子とか鏡花にどのような秘密があるのかなどいろいろと伏線を回収してなさすぎです。
FDで回収すればいいや…というにはあまりに多く残しすぎで、結局「暁の護衛 ~罪深き終末論~」とう完結編を出すに至っています。
もう少しこの作品に色々と詰め込んでいけただろと思うのが正直なところです。
他にもタイトルの割には護衛してねーじゃんとか思うところはありましたが、その辺は些事でしょうか。

あとここで書かせてもらいますが、この作品のHシーンは一人につき3回あります。(1つはシナリオ中で、あとの2つはED後の選択肢でそれぞれ選べる)
ただ、Hシーンは尺が少し短いです。まあCGが綺麗だし声優の演技も上手いのでそれなりには使えるんじゃないでしょうか。

長々と書きましたが、言いたいのは良作ではあるが名作と呼ぶにはあまりにも弱点があるということ、
そして、良いところも多いので非常に評価しにくい作品であったということです。
完結編がどうなるかわかりませんが、この作品単体では今付けている点数ぐらいの作品かなと思います。

もしよろしかったら「暁の護衛 ~プリンシパルたちの休日~」の方も感想書いているので読んでもらえれば幸いです。