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melo1009さんのd2b VS DEARDROPS - Cross the Future -の長文感想

ユーザー
melo1009
ゲーム
d2b VS DEARDROPS - Cross the Future -
ブランド
OVERDRIVE
参照数
568

一言コメント

それは、前島鹿之助が決して口にしない筈の言葉。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

たった一つの、しかし決定的な解釈違いを見つけてしまいました。
100点付けるつもりで書いた長ったらしい感想も全部消しました。
一体何が引っ掛かったのか。もしかしたら引っかかっているのは私だけなのかもしれません。
しかし、一度気になってしまったらもう頭から取り除くことが出来ませんでした。それほどまでに無視出来ない一文でした。
それを晒します。



>今でもたまにあのときのことを夢に見る。死にかけたきらりのお父さんを見つけたときのことだ。
>死にかけた人を目の前にして、僕はすぐには人を呼ばなかった。
>それがきらりのためになると思ったから。それできらりが解放されると思ったから……
>でも、すぐに後悔した。
>そんな、すぐに後悔してしまうようなあやふやな決心とも言えないようなもの……そんな曖昧なもので、僕は人1人を見殺しにしてしまった。



はい、今作未プレイでも『キラ☆キラ』プレイヤーなら何の話か理解出来るはずです。きらりEND2の話です。
大分当時の鹿之助君の心理を端折ってますが、まあここまではいいとしましょう。問題は次です。



>すぐに人を呼んでいれば、助かっただろうか? 『たら・れば』は、人ひとりの命の前ではどれほどの意味もない。
>その命を僕が救えたのか、それとも僕が失わせてしまったのか……それはわからない。そのことで僕に罪があるのかどうかも。



>そのことで僕に罪があるのかどうかも。



この後、僕の本当の罪は見殺しにしたことを一人で抱えきれずきらりに話してしまったことだーみたいな話の流れになります。
父親を見殺しにしたこと自体が罪なのかどうかはわからないのが今作の前島鹿之助君だそうです。
この一文に気がついた途端、私は今作の前島鹿之助君と『キラ☆キラ』の前島鹿之助君を同一人物だと見ることが出来なくなってしまいました。
ライターが違うからだろとかそういう話ではないんです。私が幸せになるところを見たかった前島鹿之助はこんなことを考える人間ではないんです。
脳味噌がバカになっていたのかプレイ中には気が付きませんでした。
待ち望んでいたEND2の先にあるハッピーエンドが拝めたと思うあまり盲目になっていたのかもしれません。
見なかったことにして賞賛を続けようかとも思いました。でももう駄目でした。
だって、この前島鹿之助を肯定してしまったら、『キラ☆キラ』の彼が背負い苦しんだものというのは一体何だったのかという話になってしまいます。
きらりの信頼を裏切ったことに気付いた瞬間の彼の懊悩が全て茶番になってしまうのです。



>僕は暗闇に背を丸め、今にも息絶える人間を心の中で死ねと言いつつ、見守っている。
>僕は、不意にきらりの顔を思い出した。
>僕が父さんを看るからと言ったときの、嬉しそうな、ほっとした顔。
>彼女は自分の父親のために夜も寝ずに病院でつきっきりになっていた。それほどに心配していたのだ。
>それなのに、僕が看ると言ったら、素直に譲ってくれた。
>それほどに僕を信頼していたのだ。
>なのに、僕はいま、彼女を裏切ろうとしている。そして、大事な父親を殺そうとしているのか?
>その構図がイメージとして頭の中にはっきりと浮かぶと、それまで堅固だった意志が、ボロボロと崩れてゆくのを感じた。
>父親がいなくなればうまく行く、という、僕自身の考えはかわらない。だけど、今ここにいる僕は、きらりから信頼された代理だったんだ。
>そして、彼女がここにいたら、見捨てるはずなんかない。
>僕は大きく息を吐いた。いつの間にか空気が薄くなっている。
>いまここにいる僕がきらりの身代わりなら、なんとしても、父親を助けなくちゃいけないんだ。
>僕は、きらりが信じてくれたのを知っている。
>そして僕は、何を裏切っても、自分の好きなものだけは裏切りたくないんだ。
>信じる気持ちは儚いものだ。
>僕は大切にしたいんだ。



前島鹿之助は、きらりの父親を見殺しにしたことをきらりに対する裏切りだと思っています。そのことが彼を苦しめているんです。
父親が助かったか死んだかどうかの話ではないんです。悩みのポイントが違います。
今作『d2b vs DEARDROPS』の前島鹿之助は確かに、自責の念に囚われ続ける罪人として描写されていました。
だからプレイ中は騙されました。騙されたままでいたかったです。
一言感想なんですが、これ実は100点付けたときのものと変わっていません。その時に想定していた台詞はこっちなんです。



>「俺は、幸せになるよ」



それは、前島鹿之助が決して口にしない筈の言葉。
けれど、私がずっと聞きたかった言葉。
それを聞けたから、END2の前島鹿之助がそう言ってくれたことが嬉しかったから。あのEND2をようやく、前向きな気持ちで受け止められると思ったから。
私は今作に100点を付けようと思い、そして『キラ☆キラ』の点数も99点まで引き上げました。
100点にしなかったのは、『キラ☆キラ』と『DEARDROPS』は両方99点、そのFDである今作で初めて100点…みたいな、
そんな感じだとなんか欠けたもの同士が合わさって完璧になったみたいで美しいかなとか思ったからです。今思うと本当に馬鹿馬鹿しい話ですね。
瀬戸口信者めんどくせえなとDEARDROPSファンの方々は思われるかもしれません。
ですが、一度は確かにDEARDROPSにも99点を付けたんです。今は付けられません。自分が付けた99点を信じられなくなりました。
ただ、今作の目指していたもの自体は否定しません。きらりEND2への、そして『キラ☆キラ』へのリスペクトは確かにあったと思います。
END2の鹿之助ときらりを幸せにしたいという気持ちも確かに感じました。それ故に0点付けるのは思い留まりました。評価なしという形で一つ。
こんな風にその場の勢いで気軽に100点とか0点とか付けようとするレビュアーが一番タチ悪いって話ですね。
次はなんかもっと脳味噌空っぽにしてプレイしたゲームの感想書こうかなあ…プリンセスラバーとか…初エロゲだし…。