駄妹の陰に埋もれて忘れ去られた一人の少女の話。
『春季限定ポコ・ア・ポコ!』
このゲームのタイトルを見たエロゲユーザーが真っ先に思い浮かべる単語といえば、そう、
『駄妹』
この二文字だろう。
今や裏の舞台に留まることなく第一線で活躍を続ける桐谷華の代表キャラにして、
エロゲ妹の歴史に確かな爪痕を残した少女、野々宮藍。
『春ポコ!』はルートロック方式を採用しているが、彼女は真ヒロインではない。
最後の攻略ヒロインである悠木夏海に辿り着くための、言ってしまえば前座である。
にも拘わらず、このゲームの最多数登録POVは『妹ゲー』。
まあ夏海も彼方くんのではないにしろ一応妹ではあるんですけど
誰もその意図でPOV登録してないだろうからその点は置いておくとして。
とにかく、『春ポコ!』は『妹ゲー』としてエロゲ史にその名を連ねており、
義妹は実妹に勝てないのか? 兄は義妹と実妹の二人をどのように愛すればいいのか?
という点に注力した藍ルートの完成度は正直言って高い。
野々宮彼方くんは楽器が上手い以外これと言って特筆することのない平均的エロゲ主人公だと思うのだが、
散々駄妹のブラコンぶりに押されておきながらいざ駄妹が弱ったタイミングではしっかりと
『お兄ちゃんのシスコン舐めんなっ!』とか叫べちゃうあたり主人公としても立派な方の平均だ。
平均的聖人系男友達の敦くんも藍ルートでは要所要所で彼方くんをアシストしてくれるし、
無駄に良い声している父親も電話で熱くルートのテーマらしきものを語ってくれる。
何より遥が出てきてからの迷走始めた藍ちゃんが面白過ぎてもう桐谷華オンステージ!!
「お帰りなさいませ、兄上」
「上着を」
「さあ兄上、わたくしにもっとしてほしいことを頼んじゃってくださいまし!」
(ここの『まし!』の声がすごい好きなのとテキストでわたくしの『く』が抜けてることを8年越しに知った)
「そんな! いけません!」
「お戯れを!」
ではい一日空けて
「そ、そんなことないよ!」
「――じゃなくて、そんなことありませんっ!」(ここの言い方も草)
「お兄様はわたくしにとって、とても素敵な兄です!」
「素敵お兄様です!」
「スーパーお兄様3ですっ!」(ここのお兄様三段活用は割と嫌いじゃない)
「じゃあ、わたし美味しいお茶淹れるね――って、またわたし甘やかされてる?!」
「お兄様、いけませんっ!」
「お慈悲を!」(テキストはこうだけど実際に訊くと「お゛慈悲をぉ゛ー!!」みたいな感じ。天才)
うん。素晴らしい。8年経った今でも聞ける。
最初0点で登録しようと思ってたのをこの感想書くためにやり返した結果
『藍ゲーとしては100点』という気持ちに逆らえなくて100点にしてしまったくらいこの魅力は色褪せない。
そう、私は最初『春ポコ!』に0点を付けようと思っていた。
『春ポコ!』には3人のヒロインが存在する。
夏海はルートロックが掛かっていたので最後に回さざるを得なかった。だから最初に藍を攻略した。
そして藍ルートは軽めのシリアスを挟みながらもヒロインの魅力を殺すことなく、
それどころか実妹参戦という藍にとってのピンチが上記の通り藍の底妹力を引き出す結果に繋がるという
一種の奇跡を見せてくれた。素晴らしいルートだった。
それだけに私は、今なお口惜しくてたまらない。
一桜。
彼女のルートは何故あんなことになってしまったのか?
彼女の話をする前に、私が『春ポコ!』を手に取ったきっかけについて語らなければならない。
ALcotハニカムから発売された前偶数作(ALcotハニカムには奇数ゲー=地雷、偶数ゲー=良作という風潮がかつては存在した)
『キッキングホース★ラプソディ』。
そのゲームには一人の攻略不可キャラクターが存在した。
槇之園出穂。キッキンプレイヤーからは『たいちょー』の呼び名で今なお…今なお? 愛されているはずの人である。
彼女が作中においていかなる役回りを担い、そしていかなるエンディングを迎えたのかはここでは割愛するとして、
ここで重要になってくるのはそう、彼女のCVが桜と同じ藤咲ウサ嬢であるということだ。
同一メーカーとはいえライターは違う、それでも同じ声、無気力そうな見た目、口調。
今でこそ100を越えるエロゲ―に出演している藤咲嬢であるが、
関わったゲーム一覧を見て頂ければ分かる通り当時の彼女はキャリアの初期も初期。
故に我々声オタは飢えていた。彼女の声に飢えていた。そこにあのたいちょーを生み出したALcotハニカムが、
再び藤咲ウサを起用する! しかも今度はそう、待望のヒロイン枠で!
私は全力で飛びついた。たいちょーが帰ってきた訳ではない、サンプル聞いた感じ演技も大分違う、
それでも私は、たいちょーが攻略出来なかった悲しみの全てを桜に癒してもらうつもりで『春ポコ!』を手に取った。
故に、私にとって『春ポコ!』は『妹ゲー』などではなく、『桜ゲー』でなければならなかった。
藍ルートクリアした頃には若干揺らいでいたけれど。
プレイ日記を読み返す。当時の私は既に一抹の不安を抱えていた。藍ルートが想像以上に神だった、
桜は果たしてこのルートを越えられるのか? いやこの際越えろとは言わない、
『藍ルート最高だったな! でも桜ルートも良かったよな!』と語れるレベルの出来であれば……!
そんな惰弱な想いを抱きつつ、夜の街へと消える桜を追いかける野々宮彼方くんと私。
そうして突入した桜ルートで私を待っていたのは――
悲壮な過去!
三下チンピラ!
茶番丸出しの音楽対決!
意味の分からないタイミングで突入する初体験!
震えだす右手!(シリアスのつもりらしい)
今度は左手も!(これもうギャグだろ?)
それでも桜は止まらない!(プレイヤーはもう冷めきってる)
でも怪我した!卒業演奏中止!(はぁ?)
引きこもる桜!(この引きこもり展開を夏海ルートでも繰り返すライターの引き出しの無さには言葉も出なかった)
卒業式の前にふらっと出てきてノルマだけこなしとけと言わんばかりのセックス!
最後の最後にようやくメンタル取り戻して野良演奏!
めでたしめでたし!
…………。
エピローグが終わって、死んだような目でロード画面から夏海ルートへと入っていく私。
彼女のルートは、このようにして始まりました。
「――では、ミーティングを始めます」
「本日の司会進行は一桜が担当します」
「ちなみに、星座はさそり座です」
「そう、私はさそり座の女」(例の曲のテンポ)
「一途なんです」
彼方「なんで、そんなことをここで言うんだよ……」(ここ=夏海ルート)
「アピール」
彼方「必要ないだろ」(あったんだよ!!)
「おだまり!」
「野々宮に私の苦労はわからない……!」
「妹でもなく……」(神ルートでもなく……)
「巨乳でもない……!」(真ヒロインでもない……!)
「そんな私の苦労が……!」
(まあ真ヒロインだったら救われたかというとそうでもないことが夏海ルートの出来で明らかになる訳だが)
桜はキレ気味に鍵盤を叩いていた。(俺もキレ気味にキーボードを叩きたくなった)
瀬尾ォォ!!
桜ルートでこの桜は一体どこに消えたんだよ瀬尾ォォォォォ!!
『春ポコ!』は私に大事なことを教えてくれました。
共通部で輝いているヒロインほど個別には注意しろ。
それまで身を潜めていたシリアス(笑)達がたちまち彼女の身に降りかかり、その魅力を削ぎ落とすだろう……。
案の定夏海ルートで夏海も死にました。
ご丁寧に桜ルートの焼き直しみたいな展開で死にました。
その頃には私はもう『ああ、このライターさんはこれが平常運転で藍ルートが一つの奇跡だったんだなあ』という
悲しく無情でどうしようもなく受け入れたくもない結論に達してしまっていたのです。
はあ……。
……これ100点のレビューじゃねえよなあ……やっぱ0点にする……?
0か100かで悩むってことはつまりそういうことだよなあ……。
そうした葛藤の上に付けられた最終得点がはいこちら。
2019年。発売から8年の時を経た今もなお、私にとっての『春ポコ!』は、
こうした愛憎入り乱れた捨てるに捨てられない存在として、エロゲ棚の一角にて鈍い輝きを放ち続けています。
そういやその後、ハニカム+瀬尾順でまたなんか出てましたね。
『あえて無視するキミとの未来 ~Relay broadcast~』とかいう。
駄妹がいて、桐谷華がいて、北見六花の真ヒロインがいて。
こっちはもうアンインストールしてプレイ日記も消してしまったので内容まともに思い出せませんが、
とにかく二番煎じ臭が酷かったことだけは覚えています。
これ以来瀬尾氏の作品には触れていませんが、少しは引き出し増えたんですかね。
関わったゲーム一覧の点数見ていく限りだと……お察し?