平坦なテキスト、陳腐な展開、ご都合主義の嵐。その勢いのままに駆け抜けた、若さの塊のような物語。/――そしてこの感想もまた、勢いのままに書き残してしまったことを、今は心より恥じる。
正直、何度ギブアップしようと思ったか分からない。心理描写の掘り下げは浅く掛け合いにもセンスを感じない、
おそらくギャグかコメディのつもりらしきシーンは恐ろしいほどに寒く、登場人物は息を吐くように「うん?」と思う行動に走る。
共通部分も中々の苦行だったが、何より見た目と声から一番の目当てにしていたりむ公ルートが一番の核地雷だったことは致命的だった。
加えて言えばキャラクターとしても地雷だった。マスコット的な立場で愛そうにも毒が強過ぎる。せめて笑いに繋がる行動を取ってくれれば…。
また、個人的にはかなでルートも外れ。理不尽な不幸展開でキャラクターを無理やり押し潰す系の個別は私が最も忌み嫌う類のルートである。
出来が良ければまだしもね。ただキャラクターの魅力が死んでるだけだからね。そこを悲しめばいいんでしょうか。確かに悲しかったですが。つまらな過ぎて。
一方、感想欄でよくりむ公と一緒くたにされて最初に消化しろ扱いされている弥生ルートは割と嫌いではない。
シナリオ自体の内容は確かにあってないようなものだが、ジャングルジムの上で軽やかにギターを掻き鳴らすギター女王の帰還は良いシーンだと思ったし、
またラストの振り袖姿ライブ参戦『アイムギタープリンセス!!』からの翔一、
ひいてはプレイヤーただ一人だけに向けられた『"& Your Princess"』は正直ちょっとドキッとした。
そんなドキッとした感情を持たされたままにシナリオが終わるのだから、そりゃあキャラ自体も好きになる。
騎乗位の時に髪解けてるのエロいしね。脈絡が無くてすみません。一つでも弥生ちゃんの魅力をアピールしたかったんです。お許し下さい。
そう、終わり方というのは重要だ。終わり良ければ総て良しと昔の人も言っている。
ルート固定物でトゥルーが腐ってクソゲー判定されたエロゲは数知れず、最後にクリアしたルートの評価はそのままゲーム自体の評価に繋がると言っても過言ではない。
で、今作において最後にプレイすることを推奨されている芳谷律穂のルートなのだが、
結局のところ彼女のルートにおいても一言感想で挙げた欠点が解消されることはない。
それでも私はこのルートを評価し、『DEARDROPS』というゲームに99点を付ける。
理由は単純である。芳谷律穂という少女が好きだからだ。
そして彼女の存在というのは、『DEARDROPS』というゲームそのものであるからだ。
おいおい弥生ちゃん推しはどこへ行ったんだとか他ヒロインはその他扱いかとか思われるかもしれないが、そういうことではない。
芳谷律穂という少女の性質――傍若無人、拙い表現力(詩とかぶっちゃけ歌とか)、それでもがむしゃらに、前へ前へと突き進んでいく意志の塊。
恥も外聞もなくひたすらにやりたいことをやり続けるその有様が、この『DEARDROPS』というゲームと奇跡の調和を果たしているというか、
彼女を好きになれるかどうかが、そのまま『DEARDROPS』というゲーム自体を好きになれるかどうかの試金石になるのではないかと、私は思っている。
彼女は何処までもひたむきで、真っ直ぐで、止まることがなくブレなかった。
その前向きなエネルギーを肯定したとき、私は自然とこのゲームに対しても好意的になってしまった。
TATSUYAのライブで律穂の下に権田を含めた四人が助けに来てDEARDROPS再集結は普通に良いシーンだと思ったし、
何より今作は『キラ☆キラ』と比べて曲と展開のマッチ度が高い(なお『a song for…』は別格とする)。
嵐のスターダストフェスに差し込んだ一筋の光、晴れゆく空に調和するギターイントロとバイオリン、
そして響き渡る渾身のシャウト「Don't stop music!!」展開補正で200点の『My dear stardust』。
ドイツへと旅立つ翔一に送られた再会を誓う歌、軽やかで楽しげに鳴る小刻みなバイオリンが明るい気持ちで物語を終わらせてくれる『Noisyスイートホーム』。
芳谷律穂が『DEARDROPS』を表す存在であるのなら、芳谷律穂を表す存在がこの曲。続編プレイ後はより味わい深くなる『No music, No future』。
自己紹介ソングで言えば『Be loud!』も弥生ちゃんソングとしては満点なのだけれど、
それだけに弥生ちゃん歌唱版とかがあればもっと良かったかなあと思う。タミーならいけたでしょう。
ところで、同メーカーから出された同ジャンルの作品ということで何かと『キラ☆キラ』と比較されがちな今作であるが、
私がこの二作を比べて思ったのは、『キラ☆キラは厳しく、DEARDROPSは甘い』ということである。
まず登場人物の境遇からして甘い。『DEARDROPS』主人公の菅沼翔一は金持ちのボンボンだし、高価なバイオリンを手に入れるのに何の苦労もしていないし、
律穂ルートで取ってつけたように買い直したけど分割払いという名のぶん投げだし(バンドで成功しても払えるのか?)、
海外で犯した罪(と本人が思っていただけで実際は勘違いだったというのがこれまた甘い)に罰が下ったのもかなでルートだけで、
律穂ルートではなんか懺悔っぽいことをテレビでやったら許されてしまう。一度捨てたバイオリンの腕もあっさりと戻ってくる。
律穂ルートでは翔一に代わり権田が罪人の役割を果たし、こちらは割とどん底の状態まで追い込まれるのだが、
肝心の許されるシーンがあっさりなのでどうにも消化不良である。寝取られたギターの人の心理や背景をもっと書き込んでおくべきだったかもしれないが、
そんなもん律穂ルートでやる話でもないというのがこれまた。
さて、かなでルートを批判しておいて甘い展開にケチを付けるのはダブスタではないかと思われるかもしれないが、
私が嫌いなのは『キャラクターがシナリオに飲み込まれるシリアス』である。瀬戸口作品の言葉を借りるならば、
『災害の後では誰も彼もが『被災者』になってしまうのが気に食わない』というやつだ。確かこんな感じだ。
言っていたのが司君だったかクワガタだったかは忘れた。クワガタだったら良いこと言うなああいつ。クワガタの癖に。
まあとにかく、かなでも難聴になったり無能な女社長や無能な男の…プロデューサー? マネージャー?
もう忘れたがとにかく無能に振り回されながらもなんか爆音で音楽聴いたりとかなんかそれなりに必死こいて状況に抗おうとしていたような記憶はあるのだが、
その姿がどうにも魅力に繋がらなかったというか胸に響かなかったというか…うーん、これはもっと以前の問題かもしれない。
単にシリアスもキャラも薄かったから響かなかったというだけの話かもしれない。
まあとにかくかなでの話はいい。二枚看板かと思わせて実際ただのハブ枠だったことには同情するがとにかくいい。
甘い世界に住む金持ちの話をしたので、今度は厳しい世界に住む貧乏人の話をしよう。言うまでもなく椎野きらりのことなのだが、
父親は人生に悲嘆し飲んだくれ、本人はバイト漬けの生活を送り、それでも首が回らなくなって風俗堕ちの危機、
END1ではそのまま焼死、END2では父親は死に恋人がその仇(だと恋人が思い込んで罪の意識に囚われる)。
うーん、人生ハードモード。そんな彼女と人生イージーモードのスガショー君が共演するところから始まるのが、
今作のFDである『d2b vs DEARDROPS』なのだが…この流れでいくと合体事故の予感しかしない? 私もそう思う。
ライターもそう思ったのか、次回作ではスガショー君に代わって『DEARDROPS』の象徴たる芳谷律穂が実質的な主人公として、
椎野きらり、そして『キラ☆キラ』の主人公だったある男と密接に絡んでいくこととなる。
男の名は前島鹿之助。
END2において、パンクロックの魂を失ったはずの男である。
――『Don't Stop Music!!』
『このクソッタレな世界』の外からやって来た無鉄砲で無茶苦茶で無遠慮で無作法な少女の存在が、止まっていた男のハートに再び火を点ける。
ライターは違えど、そこにあったのは紛れもなく私の見たかった、『キラ☆キラ』END2のその後の物語であった。
~『d2b vs DEARDROPS』の感想に続く...~
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(2019/06/08追記)点数を99点→評価なしに変更しました。
何があったのかは『d2b vs DEARDROPS』の感想をご覧下さい。
大変有難いことに票を頂いているので非表示にはせずそのまま残しておきます。Atoraさん、ありがとうございます。そして申し訳ありません。