シナリオ、演出、グラフィック、イラスト、コンセプトのどれもが作品の雰囲気にマッチしている。開発スタッフが連携できていないエロゲばかりが出回っている最近にしては、珍しく全てがうまく噛み合っている素晴らしい作品
□前書き□
プレイし終わってみて抱いた感想は、「最近にしては完成度が高い良エロゲー」でした。
自分はゲームに対しての評価を『神ゲー>良ゲー>何の感想も抱かない>ハズレゲー>クソゲー』とランク付けして評価するようにしているのですが、このゲームは自分にとって「良ゲー」の域に当てはまるゲームでした。
この批評空間の評価を見ている限りかなり高評価で神ゲーなのではないかとすら言われている作品ですが、なぜ良ゲーの域に留まったのか。その説明を兼ねて、感想を綴っていきたいと思います。
(なんか学校で提出する感想文の前置きみたいになったな・・・^^;)
□シナリオ評価□
はっきり言ってTRUEルート以外は普通でした。
しかしかなり変わった演出をするエロゲで、TRUEエンド以外の全てのヒロインのエンドが、多くの謎を抱えたまま終わるという、まさかのTRUEエンド一点特化型の作品。
これについては評価が大きく2つに分かれると思います。
1つはTRUE以外の全てのヒロインを踏み台にしているという評価。つまり、メインヒロイン以外をある意味ないがしろにしているということになりますね。
2つ目はTRUEに特化するための布石といいましょうか。つまりこの作品は従来のエロゲのやり方である「各ルートごとにそれぞれの作品がある」という、エロゲ一本につき多数の物語があるタイプではなく、「各ルートを含めて1つの物語としている」タイプの作品であるとする考え方です。
とするのであれば、各ヒロインが物語の布石となるのは至極当然。いわば「攻略はできるがサブヒロイン」という扱いになるわけです。
という考え方を踏まえて自分がこのやり方に対して抱いた感想は、「下手に各ヒロインのルートに力を使うくらいなら、それを踏み台にしてでもメインに全てを注ぎ込んでほしい」という考えですね。100ある力を各ヒロインにある程度分配した結果、メインに割ける力が60くらいしか残らない、なんて事態になるくらいなら、いっそ他に割く力は10くらいでメインに90使ってほしいというのが持論です。まぁその1000くらいの力があるなら他のヒロインにも力を割いていいと思いますが、そんな化け物みたいな人間はそういないと思いますはい。
なお、こう考えて抱いた自分の感想は、「このゲーム、ビジュアルノベルでやれば良かったんじゃね?」ですが(笑)。
□グラフィック評価□
minori並みの美しいイラストばかりで、CGが出てくる度にため息を吐いてしまってました。正直こういう綺麗なイラストというのは、エロには向いてない気がします。やっぱりビジュアルノベルとして売り出した方が良かったんじゃ・・・
エロゲに抵抗ある人でもこういうイラストの作品はぜひプレイしていただきたいです。大抵がシナリオ重視で、誰でも楽しめるような内容になっていることが多いので(なお、失敗例も多数あるので、購入の際は自分の直感を大事にしてください)。
□各ルート評価□※自分が攻略した順に行います。
個人的オススメ攻略順はこの攻略順。
●箒木日向子●
「ははきぎ ひなこ」。それがこのヒロインの名前です。こんなファミリーネームあるのかと思って調べてみたら、「ほうきぎ」の方の「箒木」が出てきました。一応「ほうきぎ」とも読むらしいですが、これを苗字に持つ人はいるのかいないのか・・・微妙なところですね。まぁ創作物なのでどんな名前であろうと問題はないわけですが。
このヒロインの人となり、置かれた環境、過去、そしてトラウマを知って抱いたのは共感でした。もちろん自分と日向子の全てが共通するわけではありませんし、プレゼンで気絶みたいなひどいトラウマを持っているわけでもありませんが、このキャラクターを作り出した方はすごい人だと思います。
というのも、箒木日向子というキャラクターを描くためには、それなりの経験を積む必要があるからです。どんな経験をしたのかまでは完全に予想することはできませんが、おそらくかなりの苦難を味わったのだと思います。
なんかこれ以上書くと日向子並みにポエミーなことをだらだら綴ってしまいそうなので自重します。とにかく、このキャラは簡単に作れるキャラではありません。正直自分が一番魅力的に感じたのはこのキャラクターですね。もう日向子がメインヒロインでよかったんじゃね・・・?
キャラ感想が長くなってしまいましたが、ルート感想としては、他の2人のサブヒロインと比較すれば、一番まともに終わったルートだったとだけ。
●海蔵もも●
主人公の存在について、一番核心に迫ったルート。このルートから一気に謎が深まり、同時にいろいろな予想が立てられておもしろくなる感じですね。
しかしこのヒロイン、この作品の中でのヒロインとしての完成度は最も低いように思えます。確かに萌えはありましたし、エロゲヒロインとして不合格とまで言うつもりはありません。しかし、ももはヒロインにしては強すぎる性質があります。友達がいない、親との仲が良くない、天才肌で孤独など、確かに弱さを持ち合わせているヒロインではありますが、その解決をほぼ主人公の手を借りることなくできてしまっているというのがこのヒロインです。トトとの喧嘩の仲裁については主人公の手を借りていましたが、やっぱりヒロインというのは根幹にある弱みを主人公が手助けすることによって解決する、というのが王道であって、主人公が些細な問題にしか手を貸せないというのはどうなのかと。あれ、これヒロインが悪いんじゃなくて主人公が悪いのでは・・・
●大館流花●
かわいい。
ボーイッシュな口調のお姉さんキャラ。しかしいざルートに入ってみると恥じらいをもって主人公に接してきて、恋愛には少し弱気。いやー、かわいい。
このルートで大体の人はトライメント計画に使われている世界がどういう世界なのか、という謎について確信を持てたと思います。
そしてこのルートはある意味バッドエンドと捉えることもできます。最終的に仮面を被った主人公は正義感から世界を開放し、自分は救われず、そして流花の背中を押しただけというなんとも残念な結果に。無論このルートの延長上に流花がなんとかして主人公を救い、主人公と結ばれてハッピーエンドという結末もあるかもしれません。しかし、もしそうならなかった場合、主人公はただ流花の背中を押して戻れなくするという、見方を変えれば呪いとも呼べるようなことをしてしまったことになります。
まぁルートの延長上の未来云々は関係なく、ヒロインを悲しませたまま終わるエンドなんてバッドエンド以外の何者でもないですよねって話です。
●TRUE●
さぁ物語の核心だ、と意気込んで始めたアイルート。
遂に明かされたトライメント計画の内容と、その計画に発生した事件。そして明かされる主人公の過去。うーん、これほど心躍る展開はないと思えるような文字列ですが、なんとまぁこれが全然心が動かないんですよね。
決してつまらなかったわけではないのです。実際マウスを動かす自分の手は軽かったし、先の展開は常に気になり続けていました。しかし、過去にプレイした神ゲーのシナリオを進めている時にあった高揚感が一切ないのです。
これが本当にTRUEルートなのか? と思いもしたのですが、この物語、すごいですね。シナリオ書いた人天才なんじゃないかと思いました。いや多分天才ですね。さて、ここでその理由を語っても良いのですが、せっかくなので総論で書かせていただきます。もったいぶるようなことをして申し訳ありませんがご容赦を。
□サウンド評価□
全体的に優しいBGMが多かったですね。この作品によく合っていると思います。
一番良かったのが「YoU」ですね。最初ユウが現れてこのBGMを聞いた時は死神を連想するような暗いイメージがあるBGMでしたが、最後のピアノ二重奏でこれが奏でられた時、そのイメージが一気に払拭されてこの作品で一番優しくて悲しいBGMなんだと、まさにユウにぴったりなBGMだと思いました。
OPも良いですね、個人的には終わり方が納得いかないところもありますが、サビの部分は何度聞いてもいいです。そしてまさかのEDがそのOPと対になるというか、アレンジというか、なんとも粋な演出をしてくれて憎らしいです。こういうサウンド面でも粋な演出があるのほんと好き。
□総論□
「優しい作品」。この一言に尽きます。
疲れて錆びれきったくそったれな現代社会において、磨耗してしまった人達を慰めてくれるような、そんな作品だと思います。
特にTRUEルートにおいて、その優しさは顕著に現れているように思えますね。一度はユウに甘えきりになり、堕落してしまった主人公。しかし、それでも彼の心のどこかにあった「前に進みたい」という意思を、優しく応援してくれる周囲。一見して、前に進むということは厳しいことのように思えますが、さりとて人間というものは停滞や後退を望まない生物であると自分は考えています。何もしていない時に湧き上がってくる背徳感や、後退し続けている時に襲ってくる無力感。それを黙って享受してしまう人は多いと思います。ですが、それが楽だと思っている人は誰もいないと思います。もしいるとすれば、そんなのは狂人の類です。誰だって背徳感とか無力感は味わっていたくないはずです。できるなら、自分はすごいことができて、周りからはいつも輝いた目で見られるような、そんな特別な存在でありたいと願っているはずです。でも、そうなるためには嫌な努力をしなければいけないし、何故か知らないけど今の日本はそういう嫌な努力を美徳とし、強制的に実行させるような風潮が強いですよね。多分この作品の主人公やヒロイン達は、そういったことで失敗してしまった人達ばかりです。
そんな失敗はどこにでもあるし、誰もが経験していると思いますが、乗り越えられた人はそういないと思います。そういった人達の背中を押すのが、この作品ですね。「やれ」という命令ではなく、「がんばれ」という応援。もし昔憧れた自分の理想像があって、それになりたいとするなら、失敗を乗り越えて「試してみるんだ、もう一度」と応援する。それがこの作品に篭められた意味だと思います。
こうして見ると随分ポエミーなことを書いてしまったなと・・・^^;
この作品を書いているのがこのゲームをプレイし終えた直後なので、若干気分が高まっているところはあります。ご容赦を。
まぁとりあえず一言だけ言わせていただくとすると、「トライメント計画の現実での採用はよ」と。
自分も学生時代もう一回やり直したいです。ちょっと落ち着いて考えを纏める機会がほしいです。というか多分、現代において失敗してしまっている若者に必要なのは、トライメント計画のような環境と時間だと思います。
さて、このゲームの評価が自分の中で「良ゲー」に落ち着いた理由ですが、ぶっちゃけていうと「知ってた」って面が大きいですね。「試してみるんだ、もう一度」とおっしゃいますが、まさにその通りだと思います。思いますが、自分には何をもう一度試せばいいのかわからないし、根本的な問題として、試すだけの時間がありません。それこそ蜘蛛の糸でも垂れてこない限りは、自分を含む現代社会に雁字搦めにされた人達は、何もできないと思います。そして、この作品はその蜘蛛の糸を垂らした前提で話を進めています。
つまりですね、「蜘蛛の糸が垂れてきたら試してみたらいいよ」と言っているのがこの作品で、そんなことは言われなくても自分はわかってたわけですね。偉そうなことを言ってしまって申し訳ありませんが、作品に篭められたメッセージを、プレイする前から頭の中に入れてしまっていた自分としては、この作品を100%楽しめなかったわけです。故に「良ゲー」止まり。作品としての完成度は間違いなく満点ですが、自分は満足できなかった、というだけです。多分世間一般のメガネに当てはめてモノを言うなら、「神ゲー」という評価になってもおかしくないんじゃないかと思います。
最後に少しだけ。
TRUEまでプレイし終わりましたが、まだ謎が多く残された作品だと重います。
日向子ルートにて、どうしてミリャは主人公と共に行くべき場所(おそらく電波塔)に向かったのか。おそらくミリャは主人公と同じような症状で、主人公と同じ治療を受けていたのだと思いますが、その詳細は不明。そして本名ではなく「ミリャ・ブランコ」という名前になった理由も不明。
ももルートにて、トトが消えた理由。そして、消えたトトが残した「アルゴリズム」というメッセージ。その後ももがどこかへ行ってしまって主人公が一人になり、そこにトトがやってきた理由。もちろんこれもいくつかの予想を立てることができますが、根本的には謎のままです。
そしてアイがいたあの廃墟。あれはどういった場所で、アイの言っていた「鍵」とは何か。
わからないことだらけですね。こういった事情に関して裏設定みたいなものがあると面白いのですが。FDか何かで出してくれるのでしょうか?(期待の目)
□総合評価□
※ランクはS~F
OP評価:A
シナリオ評価:A
グラフィック評価:S
演出評価:S
設定評価:C
世界観評価:B
システム評価:C
総合評価:A