インレを代表する歴史モノ
あらすじ
主人公深海直刃(ふかみすぐは)は、意中の子に告白してはふられる怠惰な毎日を過ごしていた。ある日泉岳寺に行った際、おみくじで大大凶を引いてしまう、そして大大凶を引いたのは江戸時代以来だというお告げを聞いた次の瞬間直刃は江戸時代にタイムスリップをとげてしまう。そこは赤穂浪士が存在していたころの時代、そしてその年はかの有名な赤穂事件が起きた年と同じ年だった。以降直刃は数奇な運命に翻弄されていくことになるのだった。
感想
2023年現在インレといえば、まずこの作品と言い切れる位の代表作だと思います。まずかなり長い話なのですが、その辺りも書き手はきちんとわかっていて、読み手を飽きさせなないギャグやサービスシーンをふんだんにいれてきて、シナリオの緩急のつけ方が非常に上手いです。主人公は結局江戸時代を5周もループするわけだけど、ループするごとに核心に近づいてくるような内容ですね。歴史モノとしての観点からも非常によくできており、ライターの知識の豊富さが伺えます。ところどころで披露される豆知識なんかも人によっては押しつけでウザイと感じてしまうかもしれませんが、少なくとも私には非常に勉強になりました。あとはバトルシーンの演出はかなり見どころがありますね。テキストもテンポよく進んでいくのもあって歴史モノということもさして苦になりませんでした。
人によっては、4章以降は蛇足とされる考えもちらほら見受けられますが、4章はどちらかというとライターのメッセージ性が強く出ていて、『歴史』というものは、どうしても勝者側の都合の良い観点から作られていくため、あえて敗者(ここでは吉良)側からの側面も取り入れることによってはじめて歴史というものを深く理解できるのだということを伝えたかったのだと思います。
ただこの作品で唯一非常に残念だと思うのは、ラスト5章のヒロインの人選です。この物語は章ごとに攻略できるヒロインが決まっていて、1章・2章・3章と、どれもヒロイン力が非常に高いと思っています。
4章はどちらかといえば、5章のための布石として考えればいいとして、最後のヒロインの人選が右衛門七というのが非常に納得いかなかった点(ファンの方には申し訳ないけれど)。この手の作品は章ごとに盛り上がりを増していき、またヒロインも章ごとに魅力あるヒロインを用意するのが定石なはずです。(まああとはハーレムパターンを用意するというのもありだとは思うけど)。
簡単に言えば、この作品で人気投票をして1位をとるようなキャラが最後のヒロインとして用意されるのが理想です。さて右衛門七は一位だったのでしょうか?どう考えてもまだ小夜の方が人気があるのでは…?というかむしろ右衛門七より小夜の方を攻略対象にしてほしかったですね。
右衛門七事態可愛いとは思うんですが、それはどちらかといえばペットを愛でるような可愛さであって、はたしてシナリオのおおとりを飾るほどの魅力あるヒロインだったのかは甚だ疑問です。もし右衛門七をヒロインとして添えるなら、もっと早い段階で消化するべきなのではないかというのが私の観点です。例えるならレストランでコース料理を食べてていて、おいしい料理に舌鼓を打っていて、よし次は〆のデザート!だと予告され、身構えていたところに油こってりの豚骨ラーメンが最後に出てきた位の違和感を感じました。その豚骨ラーメンを背中を丸めてしょっぱい!”と感じつつ、涙ながらに麺を啜れ!というのが5章なんですよ。
私がこの作品を90点代にしなかったのは一概にこれが原因ですね。最後にふさわしいヒロインさえきちんと用意できていれば、ストーリーの素晴らしさと相まってもっと高い点をつけていたと思います。