フルプライスなのにフルコンプまで10時間では短い。内容もゲーム開発ADVとしては主人公たちが苦労していないため、内容はスカスカ。ライト層に受けるためのサクセス・ストーリーとはいえ、期待はずれの部分も大きい。テキストは良かったとは思うが、企画がそもそもロミオの長所を抑え込んでしまっていて、ファンからすると物足りないものになってしまった。
このゲームの一番の失敗は、いったいどの層に向けてのゲームだったのか?ということに尽きると思います。
エロゲ制作をゲームにする場合、方向性はざっくり分けると2つに分類出来ると考えています。
1.ゲーム制作・業界の重い(辛い)部分はそこまで触れず、
キャラ同士の明るい掛け合いや日常、あるいはエロがメインのストーリー。
2.ゲーム制作・業界の重い(辛い)部分をしっかりと描き、
その上で各キャラたちがどうしてブラックなエロゲ制作をしたいのか、あるいはすることになったのか、
主人公達のエロゲに対する想いや業界の闇、今後どのように生きていくのか等をメインにしたストーリー。
「1」はエロゲ制作はおまけで、他の「日常」「エロ」が中心です。
clock upの「えろげー! ~Hもゲームも開発三昧~」は後者の「エロ」メインの例です。
「2」はまさしくエロゲ制作が中心のゲームです。
「らくえん」は代表例でしょう。
この作品はどちらかと言えば「2」に当たるのでしょうが、
あまりに矛盾点が多く語らない点も多すぎて、しらけてしまうのが難点です。
この作品を見てエロゲ制作をやってみようと考える方は少ないと思いますが、
ちょっと考えてみれば詐欺に近いと感じてしまうかもしれません。
作中のメインは「エロゲ制作」による「ビジネスとしての成功」です。
作中では絵師の知名度&現役学生のみで作成したというアピールで成功とのことですが、
ビジネスで考えれば、一番のコストである制作陣の人件費が無料というのが一番の強みです。
将来、主人公たちが大人になりエロゲ制作で生活することも匂わせておきながら、
一般的なエロゲ業界に関わっている人間の一人あたりの給料がどれだけ酷いかという点を触れないのは、
さすがに片手落ちでしょう。
苦しい業界で成功したというサクセス・ストーリーなのですが、
借金抱えていた黒田沙雪以外は生活が掛かっていないという意味ではお遊びですし、
苦労したシーンがほぼ無く共感もし難い。
※例えば「らくえん」では主役の絵師が納期がせまっている中、
血を吐き、低体温症になりながらも必死に絵を描こうとするシーンや、
間に合わないという不安と絶望感から自殺一歩手前まで行くシーンがあります。
そういった、「お金」の重さへの理解と、「仕事」に対する責任感の薄さは(学生なので仕方がないとはいえ)、
仕事というより、学生たちによる《ごっこ遊び》を見ているような気さえしました。
正直「エロゲ制作って楽しい、すごい儲かった」という印象を強くユーザーに与え過ぎていると思います。
一応作中でもブラック9割とかは出ているものの、
どれだけ苦しい業界無いのかをもっと端的に表す数字があるのに触れていません。
その数字とは社員の平均給与です。
具体的には30代、40代でも年収300万以下が多く、
年収200万以下で何年も働き潰れていった人間も多いと聞きます。
お金を持ち逃げのエピソードは少し出ましたが、
責任者が失踪というのは実際にあるようです。(FlyingShineの社長失踪騒等)
おまけに潰しが効かない為、人生が詰む可能性も大ということです。
※トップクラスのライターや絵師などは別ですが。
エロゲ業界の闇は極端な人件費の削減と過労働を強いる体制が大部分を占めます。
作中でも語られたように、大体制作会社に入る金額は半額×売れた本数です。
ソフ倫による調査では、パッケージの1本あたりの売上本数は急速に落ち込みました。
2010年度
10万本以上2 7.5万本以上1 5万本以上3 3万本以上9 2万本以上17 1.5万本以上13 1万本以上54
2013年度
10万本以上0 7.5万本以上0 5万本以上0 3万本以上10 2万本以上7 1.5万本以上14 1万本以上51
2014年度
10万本以上0 7.5万本以上0 5万本以上0 3万本以上8 2万本以上6 1.5万本以上9 1万本以上28
あくまでパッケージによる売上本数ですので、DLによる売上は不明です。
エロゲの市場規模も2007年度300億だったものが一昨年(2014年)は200億をわったという話もあります。
そういった点にあえて触れないのは、エンターテイメント性に欠けてしまうから、という意見もわかります。
最初に戻りますが、この作品はどの層に向けて作られたものなのか?ということです。
しつこいくらいに何度も「荒野」のセリフを連発する癖に本当の苦しい実態は見せず、
ご都合主義(後述)によるサクセス・ストーリーはどの層に向けて作られたのか?
ライトな楽しい部活を通した学園物を期待した人も、
エロゲ制作のガッツリとした内容を期待した人も、
どちらにとっても「中途半端」な作品として写ったのではないでしょうか?
どちらかにしっかり話を寄せていれば、もっと楽しめたと思います。
ちなみにこの作品を冷静に見ると結構ひどい話になります。
黒田沙雪はコミュ力が高い友人でもないクラスメイト(主人公)に声を掛け、ゲーム制作に勧誘。
主人公のツテでゲーム制作の人材を集めさせる。
(選抜に対して駄目だしこそするものの、結局残りのメンバーを集めたのは全て主人公)
自分(黒田沙雪)の企画を見せ、ゲーム制作に賛同させる。
メンバー(安東 テルハ)のBL作品を作りたいという意見はビジネスとして成功するためという理由で却下。
(黒田は自分の兄が借金を抱えていて、返済のために利用していることは言わない。
ヒットしたら2作目を作るという話をしつつ、利益配分についても触れない)
ゲームが成功し利益を使い、兄は無事借金返済。
2部で2作目(一作目のFD)も制作し成功。人件費がかかっていない為、さらに稼ぐ。
2作目は一部をメンバーに還元したものの、自分の管理下に大量の資金を集め、無事エンド。
※
1本目が初日で8000本。2本目は1本目以上に売れ、
かつ1本目も2本目発売にあわせてさらに売れたということなので、
1本目の追加(3000本程)と2本目(9000本以上)のあわせて、
おおよそ少なくとも12000本以上×1900円=2280万-メンバー5人にボーナス
ボーナス一人平均150万としても1500万程が管理下にある計算になります。
※上記はあくまで予想ですが、相当にうまく資金を貯めることができたのは事実でしょう。
税金があるので、もちろんその金額が自由になる金額ではないでしょうが。
部活という名目での無報酬労働をさせ、利益を全部奪い、
2作目でさらに成功した後に不満を抑えるため一部の金を与え、
金と金になる手駒達をしっかり管理して終わり……。
(最終的にはメンバー全員納得していますし、プロデューサーの腕も確かで、
コネも黒田沙雪が持っていたものを十分に活用できた結果、成功したことは間違いないですし)
六波羅メンバーの優秀さ(ご都合主義度)も客観的に改めて確認。
小説を書いたこともないのに学業をしながら数ヶ月で850kbのシナリオを佳作レベルで仕上げるエロゲライター。
pixiv上位ランカーで絵も塗りも出来、度々の仕事追加(宣伝に使う描きおろしイラスト等)にも対応できる絵師。
仕事の早さもプロ並みのプログラマー兼スクリプター。
全く業界の知識を知らない初心者でありながら徹夜のサポートや、嫌がれながらもしっかりと進捗を管理し、納期に遅れずに完成させた制作進行。
上記が全て同じ学園の1~2年生に揃っていて、なおかつ手も空いていたという奇跡。
さすがにご都合主義(夢物語)すぎるとは思います。
★なぜ中途半端な作品になったのか★
一つはアニメ化を両立したうえでの販売戦略のせいだと思います。
重い話をしてはアニメでは厳しいですし、突っ込んだ話ができないのに、
テーマはエロゲのビジネスという無茶な企画。
タカヒロの長所は会話メインで地の分を薄めにして、明るいノリのまま作品をまとめることだと思います。
恐らくタカヒロにとっては上記のような企画でさえ、
ノリで明るく矛盾を無視して一気にまとめることができてしまえるのでしょう。
対してロミオはしっかりとした世界観とキャラクターの重みを活かした作品が多い。
ロミオにとって、この企画は長所を活かすどころか非常にやり難いものだったと思わざるえません。
キャラゲーの企画をシナリオゲー得意なライターに渡したわけですから、うまくいかないのも不思議ではありません。
もしも今後タカヒロが有名ライターと組むことがある場合、ちゃんとライターの長所を考慮して企画を立ち上げてほしいものです。
あるいは、企画自体もライターに任せて好きな作品を作れる環境を整えるとか。
★おまけ 作中に出てきたエロゲで資産3億は可能か?★
・結論は可能です。
・みなとそふとのHPの中にはデカデカと、
【マジ恋10万本突破】、【マジ恋Sが売上10万突破】、【マジ恋A10万DL突破】と書いてあります。
マジ恋とマジ恋Aはフルプライスです。
マジ恋は制作費が1億円くらいらしいので、
売上4000円×10万本以上=4億円以上
制作費1億円ですから、ざっくりとした計算になりますが、ソフト1本で3億円以上の利益を出したことになります。
タカヒロがインターハートを退社し、みなとそふとを作ったのが2006年。
マジ恋を出したのが2009年ですから、素晴らしい実績だと思いますが、
これは例外中の例外であることは言うまでもありません。