作り手の粘り強さ AAA
前半の4編で大筋は決まっていたのがわかる展開です。
非常に満足いく内容でした。
エゴイスティックな期待はしない主義なので、筋違いな反感を持たずに終始受身でここまで読み進めて来ましたが、ライターさんが本当に信頼できる書き手である為に、凡百の書き手に期待しないレベルの期待を常にしつつ、それに応えてもらいました。
まあ、自分には相性がよかったという事かもしれませんが、そうは言いたくないですね。
多くの読み手と高度なコミュニケーションが取れる素晴らしい作品だと言い切りたい。
この作品は他の作品に無い長所が沢山あります。
まず、書き手が沢山の視点で話を展開できる事。
正直、一人称が急に変わったりするのはキツイですが、なんとかわかる範囲です。
慣れていくと、立ち絵が出た時にそのキャラの目線で事態を見る事が習慣になるので、色々なキャラの目線で同じ事柄を違う視点で捉えられるようになる。
これだけ展開に厚みを持たせられる書き手は、有名な作家にもほとんど居ないといっていいでしょう。
特に、サウンドノベルでは多くの人間が同時に一つの場に現れて言葉を発し合う事が少なく、その上にこの作品は多層になっていて、各キャラクターの主観で物事を見てきているだけに、文章だけの小説と比べても、さらに濃密に登場人物の思考を追っていける。
次に、読める展開を飽きさせずに読ませる事が出来る、という事。
高いレベルのコミュニケーションを読み手と行うならば、必ずどこかで読める展開を通さなくてはならなくなると思いますが、そこでも飽きさせずに左右に揺さぶる事が出来る。
事柄だけではなく、主観のキャラクターの心情を丁寧に扱うので、展開だけでなく、感情で物語りに起伏をもたせられる。
品性。
読み手の感情の変化を予測して書かれている事は勿論ですが、残酷な展開を扱う場合は作者の持ち前の品性が重要になる。(笑いに関しても品性が重要になると思います)
こういう事は後天的というより、もって生まれるものだと自分は思うのですが、ここでも竜騎士さんの書き手としての資質が現れているように思います。
音楽。
非常に良いです。
やり終わってから、音楽室を見てここまで曲数があったのかと驚きましたが、BGMとして役目を果たしている証拠だと思います。
100点ですが、最後の命令文の羅列より、大石が殺されてからの梨花の感情を丁寧に書いた方が良かったと思いますね。
総理の話とかは鷹野と部下のやりとりで伝えればよかったと思います。
前作は正直、回答編の前編だったと思います。
目明しは個別の回答だった感じがありますが、今回は罪滅ぼしの後編という印象が強く、前編の終わり方がああいう感じなのも納得がいきます。
評価は印象でつけましたが、ひぐらしは前編やり終えるまでは感想だけにして、評価を下すべきではないのかもしれません。
扱うテーマは一貫して「可能性」ですが、今回もまた、非常に勇気付けられる内容でよかったと思います。
展開やトリックがメインに来ないのは、名作では当たり前です。
キャラクターが舞台より上位に来るのは当然で、そうすると、次回は鷹野の描写を丁寧にやってくれると思っています。
書ける主観視点の多さといい、切り口の多さといい、未だ底の見えないライターさんなのです☆