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lighthouseさんの恋×シンアイ彼女の長文感想

ユーザー
lighthouse
ゲーム
恋×シンアイ彼女
ブランド
Us:track
得点
85
参照数
927

一言コメント

多様な解釈を受け容れてくれる秀作。「星の音」とは何か、先輩ルート、後輩ルートで星奏ちゃんが転校しなかったのは何故か、等々。一見ルート間の不整合や唐突感が目立つ雑なシナリオのように見えて、実のところは緻密に考え抜かれているように思います。自慰行為といわれようと、色々書きたいのですが、まだまとまらないので長文感想もメモ書きです。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

感想を改訂する前に、私は、「星の音」=「洸太郎くんの星奏ちゃんに対する今の気持ち」であり、星奏ちゃんが洸太郎くんの手紙に返事を出さなかった理由を「洸太郎くんに両想いだと伝えるとかえって洸太郎くんを苦しめるし、かといって嘘はつけないし、一人で御影ヶ丘に戻ることも出来ないというジレンマに苦しんだため」と予想していましたが、外していたようです。

「星の音」は、直接には「星奏ちゃんの内なる創作意欲」ということのようです。自分の名前が「星が奏でる」だし、創作対象は音楽だし、ということで、「星の音」と彼女は表現したのでしょう。「星の音」は、洸太郎くんの処女作が用いていた表現であり、星奏ちゃんもその作品を読んで、この言葉を気に入ったのでしょうか。洸太郎くん(&ゆいちゃん)以外の登場人物は、自身の心情を馬鹿正直にそのまま表現しない傾向があるので、洸太郎くんが使った表現だということが、星奏ちゃんが「星の音」という表現に拘った理由になっているのかはまだ読み解けないのですが。

ところで、星奏ちゃんにとっての「星の音」の源泉は、「初めて友達が出来、初恋をした御影ヶ丘の地」ということであろうし、「洸太郎くんが今でも星奏ちゃんを想ってくれていること」なのでしょうが、この作品が興味深いのは、星奏ちゃんが、「星の音」の源泉に留まりながら創作を続けられるほど器用でない、という設定がされていることでしょう。星奏ちゃんは、「星の音」を取り戻すたびに再び創作の世界に舞い戻ることを2度繰り返すのですが、結局、どちらも直ぐに挫折しています。他方で、星奏ちゃんが他の女の子に完敗させられる(星奏ちゃんの目の前で「君にはもう興味が薄い」と明示する選択肢を選ぶ必要がありますしね。)凛香ちゃんルートとゆいちゃんルートでは、星奏ちゃんは転校することもなく、おそらくグロリアスデイズでの活動も諦めて、平凡な女子学生生活を楽しんでいるようです。彩音ちゃんルートは、なかなか解釈が困難ではありますが。
同じように、例えば奈津子さんも、精華ちゃんも、主人公である洸太郎くん自身も、完璧超人は一人もおらず、皆が自分の限界の中でお互いのためを想い合っているところに、地に足のついた感があり、私には好印象です。

本作で一番気に入った彩音ちゃんと、黒髪ロングちょっぴり年上という私の趣味嗜好直撃かつ最も笑えた凛香ちゃんについても書き加えるつもりです。ゆいちゃん、ごめんなさい。

最後に。終章最後のシーンは、「終章は徹頭徹尾洸太郎くんの主観である」説と「ここだけは俯瞰視点である」説とに分かれると思いますが、私は後説です、ええ、希望を込めて。