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lievremanさんの蒼の彼方のフォーリズム10th Anniversary Box(蒼の彼方のフォーリズム Ultimate BOX)の長文感想

ユーザー
lievreman
ゲーム
蒼の彼方のフォーリズム10th Anniversary Box(蒼の彼方のフォーリズム Ultimate BOX)
ブランド
sprite
得点
90
参照数
380

一言コメント

無印版では明日香を最後に攻略するといいみたいな感じだけど、UE版に限ってはみさきを最後にし、EX2をプレイした方が気持ち良く終われそうな気がする。なにせ無印版よりテキスト量が明らかに違って、明日香と大差ない仕上がりになってました。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

『蒼の彼方のフォーリズム』は、空を飛ぶことが日常になった世界を舞台にしたエロゲだが、中でも鳶沢みさきルートは特に心に残る物語だった。物語の中心となる「フライングサーカス」は、単なるスポーツを超えてキャラクターたちの心情や成長を映し出す鏡のような存在であり、その中でのみさきの葛藤と再起は、非常に丁寧に描かれていた。

みさきは当初、持ち前のセンスと運動能力でFCにおいても期待の選手として登場するが、ある試合をきっかけに一度は競技への情熱を失ってしまう。その理由が「負けたこと」ではなく、「勝ちにいけなかったこと」、つまり本気で向き合えなかった自分自身への失望である点が、彼女の内面を深く掘り下げていて非常に良かった。多くのスポーツものが「勝利」と「敗北」に重きを置く中で、本作は「挑戦する意志」そのものの価値を問いかけてくる。

主人公との関係も、そうした心の揺らぎの中で自然に進展していく。無理に引っ張るのではなく、みさき自身が「もう一度飛びたい」と思えるようになる過程を丁寧に見守り、時に背中を押す主人公の姿勢が非常に好感を持てる。特に、再びグラシュに挑戦しようと決めるシーンでの心理描写や空気感には、こちらまで胸が熱くなった。

また、みさきは基本的に明るく気さくなキャラクターであるため、ルート序盤の軽快な会話劇も魅力のひとつだった。しかしそれがただの「賑やかし」ではなく、彼女がどこかで無理をして明るく振る舞っていることを匂わせる演出もあり、プレイヤーとしては徐々に「本当の彼女」を知っていく過程に引き込まれていく。笑顔の裏にある不安や迷いを、繊細に描いてくれるシナリオの完成度は非常に高い。

最終的に、彼女が再び空に立ち向かう決意を固め、もう一度「自分のために飛ぶ」ことを選ぶラストは、スポ根ものとしても恋愛ものとしても非常に爽やかで感動的だった。みさきルートは、青春のほろ苦さと再起の尊さをどちらも感じさせてくれる優れたルートであり、『蒼の彼方のフォーリズム』の中でもとりわけ心に残る物語だった。

他のルートでは描かれない「挫折からの復帰」や「本気を出すことの怖さ」に向き合う内容が、プレイヤー自身の人生にも重なるように思える点が素晴らしく、単なる恋愛ゲーを超えた魅力を放っていた。