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lievremanさんのKing Exitの長文感想

ユーザー
lievreman
ゲーム
King Exit
ブランド
深爪貴族
得点
100
参照数
3

一言コメント

燃えあり泣きありの凄いシナリオでした。内容は英雄譚で熱量が素晴らしい。今までプレイしてきた同人ゲーの中では1番好きなシナリオです。レベ上げ作業も少なくエンカウントもちょうど良いぐらいでゲームバランスも良かった。もっとこの手の同人ゲーが流行って欲しいところだ

長文感想

King Exitは、救国の英雄ゲオルイースが主人公となり、ある目的のために仲間を集めて動き出すダークファンタジーRPG。登場キャラの異様さと、善悪の境界が曖昧な世界観、そしてそれを貫く強烈なテキストの力で、ただの同人ゲームに収まらない衝撃と没入感を与えてくれる作品だ。

冒頭からすでに異様な雰囲気が漂う。ゲオルイースは過去に英雄として名を馳せた存在だが、今では牢獄の中に幽閉されており、プレイヤーは彼女の脱出から物語を追うことになる。最初の仲間となるのは、盲目の聖女スティアラ。彼女は外見も口調も清楚で敬虔な印象を与えるが、その内面は一筋縄ではいかない。スティアラとの会話は終始、不穏な空気をはらんでいて、彼女の発言や行動には宗教的な狂信性が垣間見える。だが、その狂気はただの悪ではなく、彼女なりの信念からくるものであり、プレイヤーはそこに複雑な感情を抱くことになる。

本作は、見た目だけでキャラを判断できない構成が非常に巧妙。ゲオルイース自身も「英雄」と呼ばれるにふさわしい精神の持ち主かどうかは、プレイを進めるうちにプレイヤー自身が考えさせられることになる。彼がなぜ投獄され、何を求めて戦っているのか――その答えが明かされるにつれ、「正義」と「悪」の概念がぐらつき始める。

戦闘システムはターン制コマンド型で、難易度はやや高め。敵の状態異常を利用したり、キャラごとのスキルを組み合わせて戦術を立てるのが重要。特に、ボス戦では敵の行動パターンを把握し、バフ・デバフのタイミングを見極めることが求められる。スティアラの補助魔法や、後に仲間になるキャラの攻撃支援スキルは強力だが、MP管理がシビアで、無計画な連発は命取りになる。油断すれば全滅もあるため、歯応えを求めるプレイヤーには嬉しい設計だ。

ビジュアル面も印象的で、ドットグラフィックの演出と手描きの立ち絵が絶妙にマッチしている。イベントごとに変化する立ち絵の表情や、狂気に満ちたシーンでの背景演出は、心理的な圧迫感を生み出し、キャラの感情がプレイヤーに直に伝わってくる。また、BGMも秀逸で、場面によっては不協和音や静寂を効果的に使い、不安や緊張を煽る。反面、美しい旋律が流れる瞬間のギャップが心に残る。

「King Exit」の最大の魅力は、狂気と信念、正義と偽善が交差する重厚な物語だ。登場人物たちは皆どこか壊れているが、その壊れ方が個性的かつリアルで、誰もが自分なりの「正しさ」を信じている。その中で、ゲオルイースの選択が何をもたらすのか、プレイヤーはその目で見届けるしかない。

決して万人向けではないが、倫理観を揺さぶるような物語や、ダークで深いキャラクター描写を求めるプレイヤーには強くおすすめできる一本。鬱屈した空気の中に光を探すような感覚を、プレイヤー自身が体験することになるかも。