前作をプレイしてキャラクターに思い入れのあるプレイヤーにとってはたまらない作品である。大きな物語の転換はなくとも、愛着あるキャラたちの日常と恋愛を存分に楽しめると思う。
マジ恋Sは、前作マジ恋のFDとして登場したタイトルであり、正統な続編というよりは、アフターストーリーと新ヒロインたちのルートを楽しむことが主眼となっている作品だ。舞台は引き続き川神学園で、前作の熱い青春と戦いの日々を踏まえつつ、より日常や恋愛にフォーカスが当たった構成となっている。
本作の魅力は何といっても、豊富なヒロインとのルート展開だろう。前作で攻略できなかったサブキャラクターたちがメインヒロインへと昇格し、それぞれに独自のストーリーが用意されている。中でも、九鬼紋白や弓張誠など、前作ではあまり語られなかった人物の内面が深掘りされ、ファンにとっては非常に嬉しいサプライズとなっている。一方で、新キャラクターも数人追加されており、シリーズの世界観をより広く、より奥行きのあるものにしている。キャラごとのテキストボリュームも十分で、それぞれの恋模様にじっくりと浸れるのは嬉しい点だ。
物語のテンポは前作よりも緩やかで、シリアスな展開よりもコメディと甘い恋愛描写が中心だ。そのため、熱いバトルや重厚なストーリーを期待してプレイするとやや肩透かしを食らうかもしれないが、ファンディスクとしての立ち位置を考えると妥当な内容と言える。前作の後日談が丁寧に描かれていることで、キャラクターたちの“その後”を見届けたいプレイヤーの期待にはしっかり応えてくれている。
また、演出やボイス面でも相変わらずのクオリティを保っており、キャスト陣の安定感ある演技が物語に厚みを加えている。特に、主人公・直江大和のコミカルな掛け合いと内面描写は健在で、シリーズの魅力をしっかりと支えている。日常パートの掛け合いは相変わらずテンポがよく、思わず笑ってしまうシーンも多い。選択肢によってルート分岐が発生する構成も良好で、周回プレイの楽しさを損なわないよう工夫されている。
グラフィック面も引き続き高水準で、キャラクターの立ち絵やCGも美麗に仕上がっている。ただし、あくまでファンディスクである以上、前作未プレイの人にはおすすめしづらいという側面もある。登場人物たちの関係性や背景にある設定が既に構築されているため、今作から入ると感情移入しづらい部分があるだろう。
総じて、マジ恋Sは、前作をプレイしてキャラクターに思い入れのあるプレイヤーにとってはたまらない作品である。大きな物語の転換はなくとも、愛着あるキャラたちの日常と恋愛を存分に楽しめる構成は、ファンディスクとしては非常に優秀な仕上がりと言える。シリーズの空気感をそのままに、より甘く、穏やかな時間を届けてくれる一本である。