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lein2709さんの秋色恋華の長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
秋色恋華
ブランド
Purple software
得点
89
参照数
71

一言コメント

ただの恋人同士の関係にとどまらない、心の関係の物語

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

さすがに古臭さを感じる部分もあったけど、
今でもやる価値のある純愛ゲーの良作だと感じた。

全体的にただ恋人として好きだーってので終わるのではなくて、
お互いの生い立ちだったりとか境遇だったりとかから生まれる
心の空白みたいなものに丁寧に向き合っている印象を受けた。
例えば、伊吹のルートだと、
彼女の「普通の女の子になりたい」って気持ちは、
一見してみると、ただのプロテニスプレイヤーによる
有名人コンプレックスに見えるんだけど、
本当に求めているのは、テニスをしている間に無くしてきた
家族としてのぬくもりとか「ただいま」って言える暖かさだったんだって
シナリオを進めていくと分かってきて、
ヒロインそれぞれの抱えているものとその本質を的確に描いているようで
全体的にとても好印象だった。
演出もこの時代にしては凄くいいし、
日常パートの飾らない会話も凄く楽しくて良い。
強いて気になる点を挙げるなら、
英里子さんの設定が色々教師っぽくないというか、
元カノだし、でも担任だし、なぜか窓から入ってくる変な人だし、
属性をつけすぎてバラバラな印象を受けたのと、
ルートによって味付けがだいぶバラバラな印象を受けて、
出てくるヒロインからその性格まで、
整合性が取れていない印象がちょっとあったかな。
あー複数ライターだなってのは見なくてもわかるってくらいに。

以下各ルート感想

香澄ルート 87点
古典的なお嬢様ヒロインによるラブコメ。曇ることが少なく面白かった。
結構強引なタイプのヒロインなので好みは分かれると思う。
個人的には単純に一緒にいると、楽しいタイプで結構好感。
色々あって、半同棲生活になるんだけど、
お嬢様らしく何気ないものに対しても新鮮なリアクションを返してくれて、
銭湯とかコンビニとか印象的なエピソードが多い。
一緒にいるうちに日常が彼女の色に染まっていって、
いつの間にかお互いの存在が大きくなっていくタイプの
恋が育っていく過程を体験できるのはとてもよろしい、想いが唐突でないというか。
主人公が落ちるタイミングにすっと入っていけた。
それに加えて、はじめは導かれるばかりだった彼女が、
妹のことでブルーになってる主人公を遊びに連れ出すシーンだったり、
告白シーンで格の違いに戸惑う主人公に、
これからは自分があなたの格になるんだと勇気づけるシーンだったり、
素直にめちゃめちゃいい女だなと思うシーンもあって、
ただよく笑ってよく怒るだけが彼女の魅力じゃないことも
十分に伝わってくる。やっぱりこのヒロインのこと結構好き。
惜しむらくは、普通に修学旅行回る物語も見たかったのと、
シーンが少ないことかな…二つだしPズリないし…
あと、シナリオが微妙なところで、それもおふざけで終わってしまうので、
もうちょっとちゃんと締めて欲しかったかな…

英里子ルート 85点
ちょっといろんなことがうまくいきすぎかなあとは思う。
泣きの場面をあえて作らなかったって印象。
ただその辺に目をつぶれば普通に楽しいルートだった。
この手の属性で「憧れのお姉さん」で収まることが多いけど、
そこに元カノって属性が加わっていることが新鮮で印象的だった。
過去に果たせなかった未練とか、葵とのちょっとした三角関係とか
それがなければ存在しえない気持ちや関係性もあると思うし、
なんとなく、この三角関係が葵のルートにもつながっていくのかなと思った。
ルートのメッセージとしては、
人を好きな気持ちに遅いも早いもなくて、
たとえそれが後ろめたいものを帯びていたとしても、
本当に好きならば、その罪悪感や世間の目にも勝てる
って感じかな。
葵が自分の果たせなかった思いを打ち明けて、
英里子を焚きつけるシーンは
幼なじみ同士ならではの積み重なったものから、
お互いが通じ合っている感じが良かった。
反面、年上感がもうちょいあっても良かったのかなとは思う。
全体的には満足。

真由ルート 80点
なんかライターが違う??
なんか変なシリアス展開があって、
そのわりにさらっと解決するし、妙にねじ込んだような違和感があった。
付き合うまでの過程は良かったし、
翼ちゃんと二人三脚で厳しい環境のなかで生きている彼女自体は
応援したくなる要素満点。
そういう風に自然と守りたいなという気持ちにさせてくれる。
それでそのままお互いの気持ちを確かめ合ってハッピーエンド…
とはならずに、この先の進路の話になって、一悶着。
ここで真由の性格がすげーピーキーになるのがね、、
好きだから離れるってのもわかるんだけど、
そういう器用なことができないタイプのように見えてたから
ちょっと展開に置いてけぼりになりかけた。
その後の交通事故といい、これは無駄シリアスだなと感じてしまった。
なんというか進学とかそういった要素が薄い作品なので、
ねじ込まれてもなんだかなあという感じ
一方でエピローグで「写真を撮ったあの日」に戻ってくるのと、
告白寸前の翼が想いを確かめているところに真由が現れるシーンは結構好みで
出だしと終わり方はまあよかったかなとは思う。

伊吹ルート 93点
ここまでだとダントツでこのルートが好き。
天才テニスプレイヤーだけど、普段がぽわぽわしすぎてそれを感じさせないって
設定がばっちりハマってた。
留守番電話のシーンが良かったね、あと。
本作屈指の名シーンだと思う。「迷ったら電話してこい」を
あんなに綺麗に回収するなんてね…
彼女のいう普通の女の子みたいな生活がしたいって望みは
素の自分を見てくれる帰るべき家族のぬくもりを求めていたということ。
志伸もまた、家族と離れて葵も仕事の影響で離れていくことに寂しさを感じている。
立場のまるで違う伊吹と志伸だけど、
お互いがその同じ光を求めて寄り合っていく感じがとても感動的だった。
本作のテーマが秘密らしいけど、
このルートは結構それを強く感じられたなあ…。
世間からみて凄い人だと、どんな凄い秘密を抱えているんだろうってなるけど、
案外その悩んでること、隠していること、求めていることってのは
ありふれたものだったりするのかな。
だから、喜びとか嬉しいことを分かち合うこと以上に、
悲しいことや辛いことを打ち明けて共有できることが
真に寄り添うってことなのかなと思った。

葵ルート 91点
今でこそいろんなタイプの妹キャラがいるけど、
それらに引けを取らないくらいに完成された妹だった。
このルートは最後にやるべきだね、明らかに気合が入ってる。
やっぱり英里子の元カノ設定が効いてるなあ
一度、英里子に負けてしまっているからこその
妹のままでいたくないって気持ちに説得力があるし、
変わった自分を見せたいし、変われない部分を自覚すると病む。
でも、実は変わらなくていい部分もあって、
その部分にある幼いころに手を引いて自分の孤独を吹き飛ばしてくれた
そのときに感じた暖かい気持ちこそが、
変わりたいってきもちよりさらに土台にある、
葵と志伸の原点なんだろうなと思う。
それが分かるから、「兄がいれば何もいらない」って言葉が
生半可なものでないと伝わるし、
家族だからこそ分け合えるもの、
恋人だから感じられる気持ちの両方を大切に
幸せに生きて欲しいなと思った。
締めとしても凄くいいルート

<総括>
今でも全然やる価値がある
ヒロインの属性は結構現代的だし、
古臭い考え方みたいなものも少ないので、
原画とシステム周りに拒絶反応が出なければ馴染んでいけると思う。
丁寧に作られた純愛ゲーをやりたい
ちょっと懐かしい雰囲気の秋ゲーをお探しの方はぜひ!

推しヒロイン:伊吹、香澄
推しルート:伊吹、葵
シナリオ 44/50
熱中度 29/30
絵・システムなど 11/15(この時代にしてはかなり頑張ってる)
その他加点 5/5
合計 89/100