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lein2709さんの旭光のマリアージュの長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
旭光のマリアージュ
ブランド
ensemble
得点
93
参照数
1261

一言コメント

どうせいつものensembleでしょと思ってる人ほど、ぜひプレイして欲しい

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

前提として自分はめちゃめちゃensembleが好き。
乙女シリーズ、お嬢様シリーズの悪役のいない平和な世界と
あくまでキャラゲーなんだけれども主人公とヒロインが一体になって目的に向かっていくような気持ちのいい読後感がとても好きで、この界隈の清涼飲料水だと思ってます。
そんな中で「ダークファンタジー」と銘打って出た本作。
「おおっ」と思いつつ、心のどこかで
「まあ蓋を開けたらensembleなんだろうな」と思っていた。
体験版の時点でおや??となってはいたけど、フラットな視点から「どっちにも転びそうだな」ってのもすごくあって、なんとなくで発売を待っていた。




…やってくれましたねえ。ちゃんと仕上げてきたって感じ。
15年やってる仮にもまあまあの老舗ブランドでここまでブレイクスルーした新しい作品を作ってくれたことに、
推しブランドとして最大限の敬意を示したい。

表題に挙げている、復讐と花嫁という要素を上手く取り入れながら、
絶望の一歩手前くらいのぎりぎりの温度感で描いた快作。
一貫しているのは過去の悲しい記憶とそこから延びる復讐という想い。
それと平行線上に居座る一見平和的で秩序的な世界。
自分の中で燃える復讐の炎をヒロインや他の人物を巻き込み巻き込まれながら、
どうにかこうにか現在の爪痕につなげる、その暗い過去を「なかったこと」にさせないために、と。


本作の推しポイント
・テーマの一貫性、わかりやすさ
結果的に「つながっていく人の想い」みたいなものが過去の未来の双方向に向けられているように感じた。個人の物語として完結するのではなく、作品を包み込むものすべて舞台装置して動いていくような、よりよい明日を迎えるためにみんなみんな想いをつないで生きているというような無垢な感情に心が洗われるように思える。

・たえまない多種多様な感情の濁流
ヒロイン含め登場人物全員が何かと後ろくらいものを抱えていて、そこに自身への罪悪感だったり、周りへの復讐心だったりがあり、話の中でそれがずっと絶え間なく登場してくるので、息をつく暇がない。もちろんいい意味で。
でも、ここはensembleらしいというか、それぞれのキャラの深堀をしていくと、根っからの悪ってどこにもなくて、その元となってるのは人間愛やどうしようもない悲しみに対する反骨心であったり、それぞれのキャラを深追いできる仕組みになっている。きっとヒロインサブキャラ全員好きになれるはず。

・心に残る「ベストエンド」
全体的に雰囲気が暗い作品ではあるが、読後感はどれもいい。というかご都合主義のハッピーエンドにくぎを刺すような、いわば「ベストエンド」のような形が多い。
起こっていることだけを羅列するだけでは語れない、それぞれの想いが果たされた先の暖かな光景が描かれており、どれもすごく気持ちよく終わることができ、彼らのその後の幸せを心から祈りたくなるような温かい気持ちになれた。



以下ルート感想


















リアルート
これはハッピーエンドだと思った。
リアの、スレンの、それぞれの過去と今に至るまでの気持ちを想うと、
これはきっと復讐でしか晴らされないんだろうなと思う。
過去をなかったことにしないために悲しみや怒りを忘れない、だから絶対に「赦し」はしない。
死んでしまった仲間のためにずっと一人で走り続けてきたスレン…というより、アルドと
スレンの人格が変わっても彼を信じぬき、最後には光として彼が復讐から解放されたあたたかな世界に逝くまで
隣で添い遂げ続けたリア。
どちらも大切なものを守るために、できることをして旅立った。
きっとこうしなければ、悲しい過去の続きである「今」のままでは
二人の心は報われない。それに失ったものが戻る奇跡も起こらないのだから
繰り返すようにこれはハッピーエンドだと思う。
復讐や悲しみから解放された、幸せだったあの頃のままの家族たちと
いつまでもいつまでも旅立ったその先で仲睦まじくいて欲しい
そう心から願う。

プレイ感としては本当に息をつく暇もないくらいに怒涛の展開の連続でまったく飽きることなく突き抜けた感じ。
特にミラ先生にリアを一度奪われてからの展開は本当に圧巻だった。
最後の最後までどんな終わりが用意されているのか、
どうしたら二人の心は救われるのかそんなことをずっと考えながら読み進められた。
あえて思うこととしては、ルシエラの扱いが雑かな…。
ラビィは文句なしにいい子だと思うんだけど、
そのラビィの気持ちに最後の最後まで気付かずに
かっこつけて偉そうなこと言って死んでいったように見えてしまって
このキャラに好感を抱けなかったのが唯一残念。
(クロエルートでしっかりと彼女の心情も書かれてますね、丁寧だ)
全体としては本当に今年の覇権になるくらいのシナリオパワーとカタルシスに満ちた
美しい憎しみと愛の物語だったと思う。



クロエルート
明けないと感じた深い悲しみの夜を夜明けまで歩き切った
そんな感じ。
いきなりリアルートと全然違う展開に驚かされた。飽きないシナリオ作りという観点で非常に好感
死んでしまった人を生き返らせる魔法の奇跡により
生きていてほしい人を生かせば生かすほどにその人から遠ざかっていった悲しみ。
引き返せない場所に来てしまったという気持ちに向き合いたくない弱さ故の諦め。
それらを抱えてずっとずっと一人で生きてきたクローシェの想いが形になってよかった。
エピローグでアラドくんが復讐のために生かされていたと思っていた日々を
「幸せだった」と言ってくれたのは嬉しかっただろうなあ
もともとは花嫁に選ばれなかった、その上に生きてしまったことから始まった悲しみが、
花嫁となり、好きな人と最後を迎えられて自分とアラドの幸せに変わって終わるのも凄く綺麗だった。

リアルートではこれからの幸せが続いていくということが示唆されたところにくぎが刺された感じだったけど、
このルートは逆でお互いが妖精卿にいったら「終わってしまう」ということ自覚しているがゆえのはかなさが
伝わってきて、幸せな光景のはずなのにどうしようもなく彼女の笑顔に泣きそうになってしまった。
個人的には礼拝堂で子供のようにはしゃぐクローシェの姿が本当に眩しくて仕方がなかった。
なんで笑ってるのにこんなに悲しいんだろうって。
正直戦術云々は中二病すぎてよくわかんなかったけど、
とにかくクローシェの想いがちゃんとアルドを幸せにできていて、二人を終わりまでちゃんと運んでくれて、
そうやって報われてよかったなと思う。
個人的には、個人的にはオンベルトのいう「正しくやり直す」のもありなのかなとも思わなくもない。


フィーネルート
国のためにあろうとする王女の本当の姿と物語全体を包み込む復讐のお話。
前半はフィーネ自身のこと。
フィーネ自身の抱える罪が軸になってるんだけど、
誰かの上に立つ命って結構メタ的で、誰だってきっとそうなんだよね。
過去の出来事から自分が生きていくほどに心に傷を負って、
それでも立たされた場所で増えていく影に怯えながら王女で在り続ける彼女の姿は
第一印象のイタズラ好きのおとぼけ王女様の印象とは全然違うものだった。
主人公との立場関係もよかった。
リアやクロエとの関係性をすべて奪ってだけの道具がもたらしてくれる
唯一自分でいられる素敵な場所
でも、過去ばかり向いていても幸せになれないから前を向いてほしいと離れようとするスレン
ありったけの勇気と愛で主人公が引こうとした線を飛び越えるフィーネ
そういう色々を乗り越えて最高にも最低にもなりうる関係として結ばれる二人
そして二人でいることがそれぞれが今までしてきたことへの答えとして見つかるってのが素敵だった
他の二人に比べるといちゃいちゃしてた気がする。
甘えん坊モードのフィーネちゃんがとにかく可愛くてえろかった。
後半はその過程で起きた彼女の身体の異変からの物語と舞台装置と本当に憎むべき相手は誰なのかって話。
そもそもミディール自体が、、、ね??
総力戦で「ラスボス」に向かう感じはJーRPGっぽさを感じた。
闘い自体はあまり語ることでもないんだけど、
何よりもフィーネが罪悪を重ねながらつないできた命の使いどころを見つけて「覚悟」を決めたってところかな。
偽物は本物よりも本物らしくじゃないけど、
自分の心の苦しみを乗り越えて、それよりも大切な未来をつかみ取るためにって
ずっと変わらない「誰かを幸せにできる存在」であり続けながら「フィーネ」でもあったというか
どこまでも彼女はかつての彼女のままで英雄になったんだなあと。
後日談もいいよね。必死で守り抜いたからこそ、存在が消えても魂が残って、そこに火をともし続けている人がいるというか。
命の限りでない、ずっと続く人の想いみたいなのがこの作品の一貫したテーマだなと思った。







総括
ほぼ不満点がないといえるくらいの今年のナンバーワン候補が出てきたと感じた。
ルートとしてはリアが綺麗で、キャラの好感度の上り度でいうとフィーネ、切なく胸を討たれるような感傷でいうとクロエとすべてのヒロイン&ルート、あまることなく素敵な作品だった。
強いていえばルシエラの扱いが若干雑だったかなと感じた。とはいえ、この不器用さも彼女の魅力の一つではあるのかな。サブキャラ陣もどこかしらのルートで見せ場があるように丁寧に作ってあるので、キャラから入ってもきっと楽しめると思う。
ぜひ、ensembleの底力を一人でも多くの人に体験してほしい。