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lein2709さんのオトメ世界の歩き方の長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
オトメ世界の歩き方
ブランド
Orthros
得点
91
参照数
259

一言コメント

扱いにくそうなテーマを上手く料理した、「今っぽい」良作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

発売当初の印象として、
全体的に某ソシャゲを彷彿とさせるような世界観で
話の仕掛け的な面白さに重きを置いていそうという点で
「今っぽい」作品だなという印象がありました。
あんまり自分が好んで手に取る類でないなってのと、
フェミニストというテーマ
一筋縄ではいかぬ感じがしたのと、
そもそも戦闘ものにあまり興味惹かれず、
一旦スルーした作品。
ひと月経って前向きな評判が多かったので、
手に取ってみたといったところ。

簡単にまとめるとすれば
この扱いにくいテーマを
エンターテインメントとしてうまくまとめたなってのと、
すっげーパッケージ詐欺だなって印象です。
パッケージ詐欺の方は激しくネタバレになるのであまり突っ込んで触れませんが、
前半後半で雰囲気がガラッと変わりますとだけ。
フェミニストとそうだし、
結構現代社会に対する風刺みたいなものを感じる場面が多いわりに
あくまでエンターテインメントとして消化されていて、
登場人物に嫌悪感を抱いたり、世界観に馴染めない感じがなかったのは
大いにプラスというか、いい意味で期待を裏切ってくれたなという感じです。
それどころか、非常に仲間内の雰囲気が良くて、
メインキャラみんなある程度好きになれたなあと。
さらに2部構成なっている部分が効いていて、
違った角度から物語を楽しむことができる関係で、
非常に主人公だけでなく、他のキャラにも愛着がわく作品だなと思いました。

ここからルートごとの感想(ちょっとスペース多めに取ります)


























アカリ編(前編?) 85点
単純読み進めてて楽しいかって言われたら楽しかったかな。
ただ矛盾というか飲み込めない部分が結構あった印象
シンプルに思ったこととしてアカリに色々背負わせすぎかなって。
サキがアカリにこだわるのはわかるんだけど、
(色々とゆがんだ思念を持っていそうだし、諦めてしまうこと自体が
彼女のしてきたことの失敗を自分で認めるようなものだから)
性同一計画や女性だけの世界の成立を第一目的とする
(正確にはガイアからの救出であり、人類の保護だけど)
マザーやそれに付随するAIが
生身の人間であるアカリ一人にその計画の命運のすべてを委ねるようなことはしないと思う。
これだけ技術が発展していて、人口精子云々が未完成なのもそもそも不自然だし
女性の胎内を模したアンドロイドを作ることだって普通にできそうな気がするんだよね。
嫌だって言ってる人間を無理やりに従わせる、洗脳させるよりも
その感情的な部分を技術で補ってしまう方が遥かに合理的で
そっちの選択をしそうなものだけどなあ…。
その辺の物語の根幹となる、
「こうせざると得ない」みたいな悲しい必然性みたいなものをあんまり感じないというか、
AIの思考が上滑りして他の選択をつぶしてしまっているように映った。
わからないけど、サキの逆恨み的な見栄みたいなものを拾いすぎた結果とかいろいろあるけど。
あと、アカリがな…。
可愛いっちゃ可愛いんだけど悲劇のヒロインぶりすぎかなと。
ユイが手を差し伸べてくれるのをこみ込みで
「私のこと嫌いになったよね」ってごり押してくるのはどうかな…と。
まあ、なんか文句ばっかりだけど、先が気になる展開の連続ではあったし、
最初どうかなって思ってたサブキャラや学園の仲間たちも
みんな魅力的に思えたので、楽しく読めたことには間違いない。
個人的にルリコは本当に好き。
ノブレスオブリージュを最期まで貫くというか、
人間らしく他者の感情に共感して、寄り添って
その心が救われるために自分にできることを全部やろうとする、
前向きで素敵な子だと思った。
あと、ミク先輩も言わずもがな、AIに宿るエンパシーのようなものを
感じる温かみのあるいいキャラでした。
流れからして、後半は彼女の物語になりそうですね。楽しみ。

〇〇編(アカリ編以後) 94点
アカリルートを踏まえて、
マザーが望む世界、壊れてしまった日常を取り戻すために
もう一人の主人公が奮闘するルート(ネタバレになるのでアナザーと言っておきます)
アカリルートから感じていたことだけど、
若干無理筋やちゃぶ台返しが多いなとは思ったけど、
すごくすごく面白かった。
アナザーの視点から物語が描かれる
恋愛をすることを通じてアナザーにもたらされる心の変化や
それによってがアカリルートを上書きするように、
物語が大きく違う方向へとシフトしていく感じが
恋愛をすることの意味として表現されていて、
ずっと楽しく読むことができました。
このアナザーの立場って。
絶対に人に言えない秘密を抱えた状態で
目的のために一人で進まないといけない、
たとえ目的が達成されたとしても誰もそれに気付かない
認めてくれないっていう
ちょうど女装してなんとか生き延びようとする
ユイの立場と同じなんですよね。
だからそういう秘密の一部を分けあってユイと結ばれる形は
協力関係の成立であり、主人公同士の橋渡しであり、
非常に印象的だったなあと思います。

他にも好きな印象的なシーンがいくつかあって、
ひとつがアナザーが自分の任務の遂行中に
ユイに不意に「疲れましたか」と言われて
涙を流すシーン。
アナザーは自分の抱えるいるものや立場のために
一人で戦わないといけなくて、
当然そのことを知らないから、誰かがそのことを讃えてくれるわけではない。
ただその役割であるだけだと思われてしまう。
でもアナザーにとって、その行動自体が他者への思いやりそのものであって、
色々な痛みに耐えながら守るべきもののためにやっている。
そういう自分の中にしか目的のないゴールのない活動の果てに、
誰かに認めて欲しい、可能ならば愛して欲しいという気持ちが
表出してしまう。
アナザーが恋愛を通して得た
貪欲に誰かに(たった一人に)認めて欲しいと願う気持ちの
発露みたいでそこまでのアナザー一人の闘いが集約されているみたいで
凄く好きなシーン。

あとはクライマックスのアナザーともう一人との邂逅のシーン
恋愛によって得てきたものが全て無駄だったという現実をたたきつけられたアナザーが、
その無駄にしたもののために死にたいほどの絶望にかられるが、
これまでの日常で築いてきた関係性や誰かの中に自分がいることに気が付き
自分が自分だけの存在でないとして踏みとどまるシーン。
誰かと一緒にいるということはその人との間に歴史ができることであり、
自分がいなくなったらそれが終わってしまう。
そういう気持ちがたとえ絶望を感じても、辛いと思っても
なんとか生きたいと感じる気持ちの原動力になってくれるということを
伝えてくれるような印象的なシーンだった。

その後の自我の発露の答えのシーンもいい。
どうしてアナザーが道具であることをやめることができたのか
恋愛をすることによるネガティブな感情を楽しむことができたのか、
ひとつはそのネガティブな感情を受け入れてくれる人がいたから
もう一つはユイの存在があったから、
自分ではなく他者の幸せを願う気持ちがあったからこそ、
ひとつの「ループ」を抜け出して、打ち勝つことができた。
恋愛をすること、相手の幸せを願うことは、
人間とって生きていくうえでの行動原理になり、
自分実現以上の力を人に与えるっていう
作品全体テーマなのかなと思う。
こんな感じで作品全体を包むテーマを内包しつつ、
ユイや仲間の幸せのために奮闘し、
心を変えながら恋愛を受け入れていくアナザーのことが好きになれる
そんなお話だったと思う。

<全体の感想>
アカリのヒロイン性が弱い…というか
後半が印象的すぎて、食われてるなって感じがしたこと以外は
凄く丁寧に作られたいい作品だったなという感じです!
アカリルートもそのアカリじゃなければいけないみたいな必然性が薄いのが気になるけど、
そこそこ面白いし、
何よりそこからのアナザーのお話が非常に面白い。
ユイとの恋愛を通して、アナザーの認識の変化につながり
そのことがアナザーの思うトゥルーエンドを引き寄せるパーツになっていること。
恋愛すること、それを通じて誰かを幸せにしたいと強く願うことは、
苦しみや絶望の最中で耐える力を与えて、一人で越えられない壁を打ち破る奇跡を起こす。
という本作テーマである
男女が交わり恋愛をすること、誰かと繋がりを作ることの意味
というところの答えというか証明みたいなものに繋がっていること
この辺にライターの手腕が光っていて、非常に読み応えがあった。
あと、めちゃめちゃ雰囲気が良かった。
二つの展開から物語を描くことによって、
展開ごとにスポットライトの当たる人物が違うことで、
まんべんなく主要人物に活躍の機会があって、
全員のことを好きになれるようにしている
その辺のバランス配分も素晴らしいなと思った。
自分のように、テーマやこの「今っぽさ」から一歩引いていた人にも
十分におすすめできるし、高評価なのも納得の一本という感じ。
個人的にもこういうあえて避けてきた今風のジャンルで
楽しめた作品ができたことは、
まだまだノベルゲームをやっていけるなというような自信にもなった。
これだけ雰囲気がいいし、終わり方も終わり方なので
FDなどの今度の展開にも期待したいし、
ブランドの今後についても追いかけたいなと思いました!
素敵な時間をありがとうございました!

推しキャラ:ルリコ、ミク
基礎点 44/50
熱中度 28/30
システム音楽等 14/15
補正得点 5/5
合計 91/100