名作には及ばないが…よくできた作品
設定がよくできているうえに、分量以上にシナリオに読み応えがあり、あと一歩で名作だったかなというような印象でした。
いまいちに感じた点から
①綾音に関する情報の不足
メインといってもいいくらいに重要なキャラなのに、なんで立ち絵も何もないんでしょう。
手抜きだからいけないとかではなく、登場人物たちはわかっているけど、プレイヤーからすると「なんかよく耳にするあの人」みたいになってしまって没入感が損なわれる、
これがこの作品の最大の個人的マイナスポイント
②交際後の描写の不足
付き合うまでは凄く丁寧だと思います。反面交際後のいわゆるデートの描写がほとんどなく、取ってつけたようなRシーンが3-4回挟まれて、次の展開…というのがねえ。。
せっかくいいキャラなのでもっといちゃいちゃしたかったなあと思いました。
③シナリオの構成が全部同じ
中身は違うんですけどね。
障害を乗り越えて付き合う⇒回数稼ぎのようなRシーン4連発⇒新たな障害⇒エンディング
もれなくまったく同じ構成で、だんだんと腐食気味になってくる感が否めなかったように思います。
ここから良かった点です。
①全員主人公と言わんばかりの多視点から紡がれる物語
これでしょう。凄く視点が変わります。主人公だけでなくヒロイン、サブキャラみんな主人公みたいです。
それだけにそれぞれのキャラの心理描写が厚みが出ており、読み応えのあるシナリオに仕上がっていたと思います。
特に葵ルートでは、心の内側にため込みまくる彼女の心情がこれでもかと描写されており、「罪悪感」というものに説得力があったなと思います。
②結ばれなかったヒロインたちの物語もしっかりと描写
①に関連しているんでしょうけど、他ヒロインのルートに入ったときのそれぞれが「そこでは結ばれない理由」のようなものがしっかりと描写されており、矛盾が出ないように丁寧に作っているなという印象を受けました。こういったゲームの八割が他ヒロインのルートに入った際にまるでヒロインがNPCのように恋愛感情を無くしてしまうように思えます。その点本作はキャラの性格の整合性がルートごとで取れており、あくまで同じ世界線から生じた可能性であるように感じられ、そこが凄く気に入りました。
③山場の盛り上がり
いわゆる「泣き」のシーンがよく作られているなと思いました。
各キャラがよく練られているからなんでしょうけども、どのルートでも他ヒロインサブキャラ含めて物語を盛り上げてくれます。
特に好きなのは日輪ルートの告白前のシーン。伊月を自分に押し付けようとする日輪に対して、藍魚が怒りを示すシーンがあるのですが、ヒロイン3人それぞれの強い心情が伝わってくるようで素晴らしかったです。そのあとの日輪の言葉もよかったですし、それぞれがそれぞれに一生懸命なんだというのが伝わってきて…凄く胸を打たれました。
④メイン3人のルートの味付けがそれぞれに違う
構成は同じなんですけども、メイン3人内容についてはそれぞれがテーマがはっきりと分かれており、作ったキャラ設定や要素を余すことなく使ってやろうという気概を感じました。
葵ならば、過去からの脱却と自分にとって絵本の存在意義と夢
日輪ならば、幼なじみという存在との恋愛とそれを未来に持続させるためのあれこれ
藍魚ならば、綾音を加えた疑似三角関係のような想いの交錯と彼女が陸に来たこと意味
一応藍魚がメインっぽくはあるのですが、それぞれに異なったテーマを扱っており、ちゃんと3ルート分楽しむことができる、その上に読後感が大きく変わらず等しく未来に希望持てるものになっているのも加点ポイントかなと思います。
⑤U35先生による原価、グラフィック等
ここは多くは語りません。さすが人気イラストレーターだなと思いました。
総合すると、主人公からサブキャラまでキャラがよく作りこまれており、それぞれが何を考えているのか、誰を想い、何を大切にしたいのか、そういった背景・心理描写に優れています。丁寧に編まれている印象もあり、「あれ?」と思うことも少なかったように思います。反面、何か重大な秘密を抱えているように思わせて、蓋を開けてみるとこの手のゲームでよくあるような話や問題であったりするため、そこを期待する人にはあまり向かない作品なのかなと思いました。
ルートのお気に入り:葵 キャラのお気に入り:日輪