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lein2709さんの神様のような君へ Extended Editionの長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
神様のような君へ Extended Edition
ブランド
CUBE
得点
85
参照数
117

一言コメント

平均点が高く、入口としてもおすすめできる良作

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

物足りなさと期待してたものと違った部分もあったけど、まあまあ面白かった

ポイントとしては
・メイン3人のシナリオはどれも良かった
そのうえにテーマが重複しておらず、どれか一つ読んで、またこの話かよというのが
他のゲームと比べても少なかったように思う。
どれもオーソドックスな話で癖が少なく非常に理解しやすく読みやすい。
かといって平坦かというとそうでもなく、
程よくシリアスやヒロインごとの問題が提起され、飽きることも少ないように思う。

・反面サブは退屈に少し感じた
ツクヨミ…玲音 霧香…愛彩梨 ラナ…ソフィア
とそれぞれメインヒロインに付随する形でサブヒロインがいるのだが、
そもそも物語の本筋と関係なかったり、メインヒロインのシナリオを焼き増ししたような展開が多く
個人的にはあまりのめりこめなかった。
あと、ペアということを意識したのか、
やたら3Pによるサービスシーンが多く、好みじゃない人にとってはがっかりポイントになるように感じた

・とはいえ、ソフィアルートは個人的に良かったと思う
サブはいまいちと書いたが、
ラナの姉であるソフィアのルートは個人的に好きだった。
ここだけルートロックがかかっているだけのことがあり、
ラナルートで起こっていたことをソフィアの側からの視点で描かれており、
妹に対する愛情とそれを阻む黒幕との関係性、そこに生じるジレンマが見られる。
まさにルートを裏側から見たような作りとなっていて、
ラナルートを一層楽しめるものに仕上がっていると思う。

・SF(AIモノ)を期待して買うといまいちかも
どっちかいうと策略的な明確なロジックよりも
キャラ同士の想いや彼らが抱える問題が軸にした
ヒューマンドラマだと思ってプレイするべき作品だと感じた。
ロジックの部分に関しては基本的にツクヨミもカイトもチートキャラなので
たいてい二人がなんとかしてくれる、、、
この辺のパワープレイを割り切ってプレイできるかが結構ポイントになるように感じた。

・若干のルートごとのキャラ(価値観)のぶれ
複数ライターなりにすり合わせて上手くやっているとは思うが
なんとなくこのルートの主人公が雑だなとか、
重きを置いて描く部分がばらついてる印象を受けた。
ヒロインが抱える問題についてもラナが圧倒的に重いというか
どうしようもない感じで、相対的に霧香の問題が軽く感じてしまった
(もちろん彼女なりに重要なことと向き合ってはいるんだけどね)

・癖が少なく、入口となりうる要素満載
冒頭に述べたように全体的に癖が少なく、広く好まれる作品だと思う。
終わり方もどれもすっきりしていてやりやすい。
さらにイラストにはカントク先生、
一部シナリオには三河ごーすと先生
を惜しむことなく起用する豪華さ。
どちらも全年齢対象コンテンツでも大変成功している方なので、
とりあえず知っている人が手掛けている作品をと
手に取った初心者にもやりやすい内容となっていると思う。
日常会話も不快にならない程度に貞操観念の終わってるツクヨミ、
プロのぼっちをきわめてリア充への僻みを連呼する霧香をはじめとして
よく笑える内容になっているのも非常に高評価。

以下プレイ時のルート感想

ラナルート 89点
色々矛盾してる部分を指摘していくとあるんだろうなと思いつつ、
単純面白かったかと聞かれたら、はっきりとイエスと言えると思う。
テーマという、メッセージは「何が正義か、何が正しさかその人の心にだけある」
「正しいとされていることが本当に正しいかはわからないけど、自分の中に正解に手を伸ばせば、自分にとって幸せな答えが見つかる」
カイトが何気なく言ったラナへの言葉が、
ラナの閉ざしかけていた道の先を示してくれるものになっていたって話が、
ラナにとってデリケートな部分である他者依存の記憶って設定に結びついているのが秀逸。
カイトの言葉ってのはラナの生きてきた証そのものであり、
それを失ったら、過去も未来もラナでなくなってしまうんだろうなと思ったし、
それをバッドエンドで拾っていたのもよいなと思った。
あとは、霧香との対比かな。
カイトがノラハムとしてやっていたことが、
霧香の視点からすると自分の生に火をともしてくれた希望の光になり、
ラナ(というかソフィア)にとっては職や生活を脅かして、苛烈な運命を姉妹にもたらした。
これもテーマに直結していて、カイトのしたことが正しかったのかは主観によるってところなんだろうね。
(そもそも汚職はよくないので運が悪かったとしか言いようがない気もするけど)
ソフィアとカイトのそれぞれのラナへの想いがぶつかるところも
まさに正義バーサス別の正義って感じだったよね。
最後にカイトくんが記憶の扉にたどり着けたのは、自分が辛かったころの思い出を
ずっと大切に持ってきていたことを知っていたからなんだよね。
都合よく利用されてしまったソフィアさんが不憫すぎるので、
彼女のルートで報われてほしいと願うばかり。

ソフィアルート ラナルートとセットで92点
女神だ…この人は。
ラナルートで裏側に追いやられていたソフィアさんのラナへの想いを
表側から見ることができるルート
どこまでも妹を救うことが一番そのためにずっと闘い続けてきていた。
テーマはAIとは人間に対してどういう存在であるべきか、その理想とはって感じ
ハイライトはなんといっても伊澄博士にAIの可能性を訴える場面。
冷静に答えを出すのがAI 人の心や愛や成長を見ないで最適な解を出す
そういった全能のツールとしてAIをとらえたうえで、
伊澄博士一人のための理想世界をAIによる「つまずかない世界」を語る博士に
ずっと違和感があったんだろうなと思う。
でも妹のことで脅しを掛けられたらどうすることもできない。
だって、一番の目的はラナがチップを取り戻し救われることなんだから。
その中でカイトとツクヨミの関係性をみて
どんな高度な技術であっても依存ではない、それを使って成長し共存していくことこそが人のあるべき姿
だということに改めて気が付いた。
ラナだってそうだった。記憶装置を手に入れてそれに頼るのではなく、
どう活用してやろうかということを考えて成長してくれた。
そういう人を助けて成長させる関係性がAIと人間の関係性の正解だと気が付いたのだと思う。
人間が自分で成長できるのであればAIによる洗脳などあってはならない…
AIをそして人間を信じ続けてきた彼女らしい結論だと思う。
本当に女神だと思った。
4人で探偵やるアフターストーリーとかみたいですね
未来の描き方が一番きれいなんじゃないかな。

愛彩梨ルート 65点
まあ…サブだね。退屈ではなかったけど、印象に残る部分があったかというとないかも、、
日常パートというか、霧香との絡みはドタバタラブコメという感じで面白かった。
というかぶっちゃけ愛彩梨のルートのはずなのに霧香に喰われてたって感じがした。
ここだけなら70点以上つけられる。
ストーリーとしてはVtuberを題材として、リアルに居場所のない彼女が、
バーチャルの世界で自己表現をして、それが道を開いていくが、リアルがリアルなので、
それを面白く思わない輩がいて、、という王道なお話。
リアルでダメだからと完璧主義になりがちな彼女に
対して自然体であることを求めて、
それが問題解決(リアルで自分がされていることを着飾らずにさらけ出すこと)に
繋がっている点はGOOD
ただ、いじめてた連中に対する「仕返し」がね
そいつらそっくりのアバターをつくってバーチャルで倒すって、、
しかも似せた姿とはいえ顔をネットにばら撒くって…
この手の善悪がはっきりとしたことってネット民って敏感だし、
だめでしょう…
もうちょっとなんかなかったかなあ…
ここがすかっとした解決方法、愛彩梨自身が言っているように、
みんながそれぞれに仲良くできる方法だったらなあと、、、
ここまでトータルしてサブならありかなあくらいの感じの印象。

霧香ルート 88点
オーソドックスなAIが出てくるタイプのSFにありがちな話ではあったけど、
なかなか仕掛けが色々とあり楽しいルートだった。
テーマは人に寄り添うとはどういうことか、
それはAIによってとってかわることができるのかってとこかな。
くろえさんの話を聞きながら、一瞬納得しかけた自分がいたのよね。
悲劇的な状況を観察することで、その時にどんな言葉を投げかければよいかを学習させ、
人を導く神様としてのAIを作るって言葉にするといいなって思うんだよね。
でも、それって人に真に寄り添うってのとは本当は違うんじゃないってのが、
このルートの言いたいことなんだと思う。
人生に迷ったり、孤独を抱えていたりする人が求めているのって、
そこに対して痛みの少ないルートを示してくれるナビゲーションではなくて、
「一緒に迷って悩んで考えて、自分の幸せをわからないなりに問い続けてくれる存在」
なんだってこと。エンパシーとでもいったらいいのかな。
だからこそ完璧な神様であってはいけなくて、
神様の「ような」不完全な道しるべが相談役が必要なんだって感じかな。
その答えにカイトと霧香の様子からツクヨミがたどり着くのがまたいいよね。
なんとなく彼女ルートにそのまま直結しそうで楽しみ。
本当はもう少し点数あげてもいいんだけど、サメを先にやってしまったせいで、
人の人生をドラマのように切り取って、それをエンターテインメントとして
第三者に見せつけるって舞台設定が丸被りしてるなということと、
病院の爆発で霧香は瀕死状態なのにカイトはぴんぴんしてたり、
若干全体的にご都合主義かなと感じなくもないのでこれくらいで!
あとこのルートから入るべきだった…くろえさんの苗字聞いた段階でピンときちゃった…
全体的にはメッセージ性が暖かく、いいルートだったんじゃないかな。
あと、ツクヨミルートが楽しみになった。

玲音ルート 70点
かみ合っていないようでかみ合っている二人の関係性は面白かったかな。
シナリオは…どうなんだろう??
家族の絆みたいな話になるのかと思いきや、
お兄さんも結局はっきりとは出てこないし(結局死んでる??)
研究所での秘密裏の研究を題材にした勧善懲悪モノになるわけでもなく、
なんか何も解決しないままに、あとはC-AIがやっておきますので、
的な感じで終わってしまったなという印象。
これだったらどっちかに振り切るか、
玲音との恋愛劇として書いてほしかったかな…
この玲音も関係性があまり発展していかないというか、
最初から根本的に好感度は高いし、簡単にやらせてくれるし、
でも普段は女王様気質ってのが最後まであまり変わらない印象で
ヒロインとしてみると正直あまり魅力を感じなかった。
微妙な距離感で分かり合い認め合ってる感じは相棒っぽくていいんだけどね。
なかなかそれ以上の感情が湧いてこなかったってのが本音かな…
あと、これは作品が悪いんじゃないんだけど、さんぴーがどうも苦手…
どこみていいのかわかんなくなるし、この子のルートそればっかりだった気がしてそこも残念かな。

ツクヨミルート 92点
令和、というかAI時代におけるセカイ系というべきか。
元々は不正に入手した(とはいえC-AIは不正とは思っていないのだけど)ツクヨミとカイトの関係が
本当に世界を丸ごと救うための存在として、人類にとっての「正解」になるまでのお話。
このルートに限らずなんだけど、
この作品はSFとしてよりヒューマンドラマとして考えた方が楽しくプレイできるんじゃないかな。
AIを用いたバトルに関してはツクヨミもカイトもチートすぎるので…笑
秘密裡に作られたはずのツクヨミとの逃亡生活は緊張感がありつつ、
二人なら何でもできるんじゃないかっていう全能感が楽しかった。
玲音の存在がいいよね。
彼女って特に敵でも味方でもなくて、義兄のためにならなんだってするっていう
一本の軸のために動いているんだよね。
立場として、カイトを追い詰める場面もあるけど、
ツクヨミのためならなんだってしようとすカイトともめちゃめちゃ相性抜群で
ツクヨミとカイトの関係性を誰よりも理解し、寄り添うことができる存在として
凄くいいキャラだなと思った。
不正に入手されたものだから、
どこかでカイトとツクヨミの関係性は終わるんだろうなとおもってたんだけど、
凄くいい感じにその関係の永遠性が保障される形で締まってて満足。
カイトとツクヨミが結ばれると世界が救われるなんて、
極上のハッピーエンドじゃない??
ラストシーンで冒頭部分で出てきた、「ごはん、お風呂、ツクヨミ」の選択が再登場するところもにやり。
戸惑いながら始まったツクヨミとの関係が、いろんなことを経て、
カイトの中でも大切なかけがえのないものになったんだなって感じた。
このルートが一番面白い、今のところ

葉月ルート 82点
グランド、のようなもの
前半戦はここまでのダイジェストというか、
攻略ヒロインそれぞれの問題に軽く決着をつける感じで
葉月と付き合い始めてからが本編って感じ。
ざっくりいうと、日陰者でもいいけど、
自分に自信をもって、せめて自分の好きな人が好きって言ってくれる自分のことは
肯定してやろうぜって話。
キーとなる性格改変アプリの正体は過去にカイトが手放したノラハムなんだけど、
最終的にはカイト自身が過去にやってきたことを清算して、
出会った仲間と新しい毎日を送っていくよみたいな、
闘いの終わりみたいな感じを演出してるのかなと思った。
葉月については個人的にはダウナーモードの方が好きだけど、
カイトと相性がいいのはアクティブモードなのかなと思った。
ツクヨミルートも描かれていなかったけど、
最終的に罪人の出ないハッピーエンドになっていたので、
グランドっぽいエンドを二回見た気分。
正直、最後のヒロイン大集合のカイトハーレムとマスターのもとに戻るノラハムが
やりたかったのかなという気もする。


<総評>
全体的に読みやすく、有名な作家を使っていることからも
はじめの一本としてもおすすめしやすい良作
SFはあまり期待せずに
キャラの掛け合いに笑いながら、その背景にあるものに触れ、
存分に愛おしくなれる、そんな作品

個人的にはリデル・ハート姉妹が好き。
ツクヨミを混ぜた4人の暮らしをずっと見ていたい。