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lein2709さんのトリノラインの長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
トリノライン
ブランド
minori
得点
90
参照数
90

一言コメント

人として限りある人生を生きていくこと

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

夏空のペルセウス その日の獣には、 ときて3作目のプレイ

全体的に重めのシナリオ。主人公の実妹が亡くなっていることが物語の発端となっており、
その面影を引きずるような形で入っていくので、まあ重い。
その日々の中で、ヒロインの一人の沙羅が、亡き妹をベースにしたアンドロイドを主人公に持ち込み…ってとこから物語が始まります。

全体を通じてテーマが一貫しており、
・アンドロイドと比較した場合の人間らしさとは何か、またそれは人間に何をもたらすのか
・それを踏まえた上でアンドロイドは人間のパートナーになりうるのか
・限りある人生のなかで幸せに生きるにはどうしたらよいのか

こんな感じです。

いまいちだった点…
あんまりないかもです。強いて言うなら
①テーマが一貫しすぎているので、2ルート、3ルートと進めていくうちに「ああまたこの話か」となるかも?
②ときどき主人公やヒロインの言動に違和感があった。
特に夕梨ルートで、沙羅の作ったユウリと結構な時間仲良くやってしまう主人公とか
(あんなのむなしくて3日で気が狂うと思います)
シロネルートで、シロネとアンドロイドとの共存に対する答えを見つけるために
他のすべてを捨ててアンドロイドになろうとする主人公とか…
なんか主人公ばっかですね…別に嫌いじゃないんですけど、
全体的に登場人物の思考がピーキーで、
受け入れたと思った突然爆発したり、あれってなる部分が結構あったかな。
③minoriのコンフィグ周り
まあいつものことですし、今更どーなることでもないので無罪放免です笑

良かった点
☆テーマの一貫性
これは素晴らしかった。
それぞれ違う物語のはずなのに伝わってくるメッセージは一貫しているように感じました。
どれも深く、考えさせられる、そして現代を生きる我々に勇気を与えてくれるよいものだった

①人間にとって死の存在とそれがもたらすもの
アンドロイドには永遠がある、レストアされ続ければ朽ちることなくその日々は続く。
それに対して人間には終わりがある。どんな人でも人生でも終わりが用意されており、
そこに向かって人は進んでいく。
だから、アンドロイドにとって人間の劣等種なのかと言われればそれはそうではない
限りがあるからこそ
「今日できることは今日やろう」とか
「生きている間に人にものに自分の価値を遺そう」とか
「今愛することのできる人を精一杯愛そう」とか
となれる。
それをかなえようとすることがアンドロイドには感じ取れない「生きがい」であり、つかみ取ることが「幸せ」であると。

②アンドロイドと人間の関係性
恋愛としても、パートナーとしても中立的な視点から上手く書かれているなと思いました。
特に好きなのが夕梨ルート
なんでも思い通りに動く理想的な「ユウリ」とそうではない持病を抱えていつ死ぬかもわからない本物の「夕梨」として関係性の対比がなされておりこれが凄く良かった。
「ユウリ」に没頭していく舜はどことなく、閉ざされたネットの世界に心よりどころを求める現代人への風刺の見えて胸が痛くなるように感じた。
アンドロイドは理想を簡単に届けてくれるけど、それは人間を完全には幸せにはしない。
思い通りにならない他人に対して、働きかけること、そのなかで進んだり戻ったりしながら、分かり合うこと、
そうしてできた「理想に限りなく近いもの」こそが本当に人を幸せにしてくれる。そしてその過程は生きがいとなる。

この二つがとにかく好き。
綺麗に人間の欠陥のように一見思えるもの(死んでしまうこと、分かり合えないから理想的でないこと)を人間の感じられる幸福の根源として括り付けているのが、本当にメッセージとして美しい

その他の良い点
この辺はまあいつものminoriのアレです、さらっと
・圧倒的グラフィック
・没入感溢れる演出の数々
・実用性の高いRシーン
この辺は語るまでもなくというか、発売から7年経った今でも、
minoriに比肩するブランドを見たことがない。
他のブランドができなくなる…笑

まとめると
比較的に暗い展開が続く、人を選ぶ作品ではあるものの、
アンドロイドという存在を後ろ盾に、人間にとっての人生とは幸せとは
そんな感じの強いメッセージ性と生への肯定を感じる
良作だったと思います。

好きなキャラ
全員(綾花さん攻略させて…)
推しルート
夕梨>沙羅≧シロネ