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lein2709さんのクロノクロックの長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
クロノクロック
ブランド
Purple software
得点
87
参照数
62

一言コメント

強烈なヒロインとお届けするドタバタラブコメ、時の神を添えて

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

個人的には「アマツツミ」より好き。
平均値でとるとあっちの方が上なんだけど、
満ルートがぶっ刺さったのと、そこから、クロ⇒みうの流れで一気に高まったのとで。

・全体的にラブコメ調で明るい&ヒロインの個性が強い
①ウサギでとろける巨乳脳筋娘
②0.5ALcotな盲目の駄妹
③ルー語を使いこなす謎の金髪メイド
④唯一まともなちっちゃい巨乳
もう面白いでしょ??
結構どのルートもそれぞれの味があって、キャラ特化の作品としてみても
普通に高評価になりそうな感じ。
ヒロイン同士の絡みも多くて、一つの物語としてのつながりがしっかりできているな感じた。
さらにここを全部攻略すると、クロとみうのルートが解放されるんだけど、
ここまでしてきたことがなかったことになるのではなく、
そこ引き継いだままに物語が続くのが新しいなと感じた。

・時計の設定はほどほど、でもそれを上回る面白さのあるルートもあり。
ぶっちゃけ時計の設定はクロを除くと真琴以外ほぼなしで完結する。
そこを期待してゴリゴリのSFを想像していると、あれ?ってなる、たぶん。
個人的に「5分だけ戻れる」っていう中途半端さがなんともいえず好きなので、
時計を生かしたSFとしての本作も読んでみたかったりもする。
ただ、それを上回る素晴らしいルートがあって、
それが妹である満のルート
こちらが家族愛と満自身の心の成長の物語になっていて、
兄と結ばれて、その先を兄妹ではなく、家族として生きていくようになるまでの
架け橋のように描かれており、個人的に圧巻だった。
まあ、面白ければいいよねというような気分

・満が強すぎる
同じ家に住んでいることもあって、
結構他ヒロインルートでも満が出しゃばってくる。
ヒロインとして凄く強いので、他のヒロインを食ってしまっているように感じた。
特に美咲ルートは本来彼女の見せ場であるはずの部分を
満が全部持って行ってしまうので、(さすがに最終的に結ばれるのは美咲)
なんかそれでいいの?という気分になってしまった。
それでちょっと満が嫌いになりかけた…すぐ盛り返しましたが、、
反面、別枠として描かれていた真琴は他ルートだとあまり出てこないので、
これくらい塩梅であってほしかった。
まあ、境遇考えると仕方がないのかって気もするけどね。

・なぜかシーンを完全分離
これはよくわかんない、VITA辺りに移植したかったのかな?
シーンってみるときによってエネルギーを使うので、
読みやすくはあったけど、
純愛要素も多く含んでいる物語でもあるので、
普通に挟んでもよかったのでは?とも思った。
次作以降やめてるとこみると不評だったのかな?
シーン自体は綺麗だった。
個人的にアマツツミより好みだったかも
だからこそ、もう1シーンずつくらい欲しかった。

・やたらネットミームやパロディネタが多い
これもなんでだろうね?
滑ってるとは思わなかったけど、
そっちに気を取られてしまうというか、、
パープルの御影先生の笑いってそっちじゃないよなあというような
妙な違和感があった。

・演出などなど
さすがのパープル色、特にクロルートのクライマックスはもちろん、
真琴ルートでの地面に滴り落ちるもので表現、街の雰囲気、
どれをとってもシナリオ以上にゲームを盛り上げる要素として有効に働いているように思えた。

以下個別ルート感想

D.Dルート 78点
思ってたのとは違ったけど、それなりに良かった。
テーマは「やさしさの使い方」かな
大切な人を悲しませないようにというような後ろ向きな気遣いとしてのそれよりも、
その人の今を最大限に満たしてあげたいという前向きな思いやりとしての優しさこそが、
結果として幸せな未来を呼んでくるってお話。
想像以上にキャラそのものの魅力にフォーカスした
いわゆるキャラゲーっぽい構成だと思う。
一見すると自由奔放なお嬢様なんだけど、
自分の境遇があるからと、一歩引いた位置から、
周りに楽しんでもらうことを考えている
幸福至上主義な優しい子だなという印象。
あとは意志の強さかな。
こうだと決めたことに対して逆らわずに受け止めるような強かさ。
それがいいところでも悪いところでもあり、
勝手に突っ走って自らの幸せになれるチャンスを逃してしまうような
危うさにもつながっているのかなと思った。
全体的にはそこそこ。
彼女と満だけの世界になったときに少しパワーダウンを感じたけど、
最後のD.Dの想像力を上回るようなハッピーエンドを!
って展開は好きだった。

真琴ルート 88点
短すぎるけどそれ以外は非常に高評価
シナリオも面白いし、真琴も抜群に可愛かった。
テーマは「馬を射んとする者はまず将を射よ」とでも言おうかな笑
やっていることがイカサマであっても相手の心を動かしてしまえば
それはイカサマではなくなるし、
力でかなわない強い相手に勝つためには、
相手に負けたいと思わせるのも手段の一つってこと。
当然、最後の掛けのことを言ってるんだけど、
これは掛けという名のお互いの気持ちの擦り合わせだと思った。
真琴は騙されてあげたのかもしれないし、
本当に自分から離れていこうとする澪に気が動転して見落としたのかもしれないし、
どちらにしても、澪の、「気持ちの勝利」なんだよね。
最終的に二人が付き合うという結末があればそれでよくて、
そこまでの結果はその結末への過程でしかないって部分にもかかってるのかなとか思った。
キャラとしての真琴だけど、化け物じみた腕力を除くと
本当にピュアピュアで可愛かったですね。
時計の影響ではあるんだけど、
要するにそれって普段身に着けている仮面の裏の「本当」なわけで
そう信じられるからこそ、澪くんは踏み込むことができたのだと思うし、
結局は時計の縁に助けられた部分もあったんだろうなと思う。
というわけで恋愛面に関しては時計の設定の大勝利って感じ。
短いのでもうちょっと色々見たかったと思うし、
デートから恋人になっていく過程を楽しみたかったと思うけど、
全体的にはとても楽しかった。

美咲ルート 70点
んー、んー。
なんというか美咲のキャラに寄り添っていないというか、
天才がもっともらしく描いた、凡人を姿を見せられているような
個人的にモヤモヤさせられる感じのルートだった。
満が美咲に発破をかける展開はまあいいけど、
満のやってることって引っ張ることではあるんだろうけど、
けして寄り添うことではないんだよなあ…
美咲の立場からするともっとドロドロしたものを持っていてもいいと思うし、
満の行動を美談みたいにして祭り上げる周りにもかなり違和感があった。
一方で主人公の立ち振る舞いは良かった。
無責任なことをいわずに、言葉を選びながら寄り添っていたり、
最後の場面でも、美咲の気持ちを受け入れたうえでその傷が最小になるように
頭を回していて最後まで好感だった。
エピローグの告白もいいね。
勝負や勝ち負けよりもただ隣にいて欲しいっていうシンプルな想いが伝わってきてよかった
これだったら、二人の世界で見たかったかな…
はっきりいってしまうと満の存在が邪魔だった。
美咲自身の想いも実に凡人らしいというか、
自分のために何かを成し遂げる自分を作りたい、
それで自分のことを自分で認めたうえで好きな人と向き合いたいって
とってもいいじゃないですか。
だからこそ、最後はライバルの情けではなく、
美咲が自分でつかみ取ったってところが見たかった。
総じてもうちょっと面白くなったんじゃないかな。

満ルート 96点
このルートだけ出来が良すぎません??
別のゲームやってるような気分だった。
ごちゃごちゃ言葉で語るよりもプレイして欲しいって感じのルート
満の過去の姿に似たミチルを交えた家族愛の物語
ミチルの正体はきっと、過去じゃなくて未来にあるね…
あんまり自分に構ってくれないみたいなこと言ってたから、
今回の邂逅を経て、そこが変わってるといいな。
満の成長っぷりがね、素晴らしかった。
駄妹寄りだと感じてたから余計にね。
共通で視力を失う前にやり直したいかって聞かれて、
それはないって言ってたけど、
それってのはそれによって兄がそばにいてくれる
そのやさしさに気づけたみたいな部分で、
戻りたいとは思わないけど、やり残したことや後悔ってのは
きっといっぱいあったんだと思う。
だから、ミチルが目の前に現れたときに自分と同じ後悔をしないようにって
気持ちになったんだろうなと思う。
そうしていくうちに今まで兄と自分だけが本物で、
外の世界に対して一本線を引いていた部分から抜け出して世界が広がって、
他の人も巻き込んだ幸せを考えるようになったし、
そのためには目いっぱいに今目の前にいる存在を幸せにしようって
与えられる者から与える者への一歩を
自然と踏み出すことができたんじゃないかなと思う。
そういう人を本気で想うことがもたらす成長とか変化を感じられる
本当にいいルートだった。
ミチルと再びに会うことができる日を楽しみに待つこと、
となりで一緒に待ってくれる人がいること、
そういう喜びをかみしめながら、
二人は時計の針を未来へと進めていくんだろうなあ。
喝采。手放しにいいルートだった!!

クロ(みう)ルート 91点
一言でいうとらしいルート
ああ御影先生だって感じ。
人の世界と神様の境界線、人の世界に神様が紛れるとどうなるのか、
この辺のテーマは十八番なんだろうなあ。
人間に興味津々な神様としてのクロが可愛かったですね。
そのクロが人として生きることを観察し、知っていく。
その様子は人間が当たり前のように認識している人の生き方について、
新しい視点をもたらしてくれるような気がした。
時計のような人生ってというのは、
同じような周回を繰り返していたとしても、
止まることなくその生は続き、一つの執着へと向かっていく。
それがいつであるのかは誰にもわからない。
だから、今日がいい日で明日がよい日であればなおよい
明日は死ぬかもしれないから、今日を楽しく生きよう、それだけでいい。
そうすることで
生のよろこびを知り、死の恐怖を知り、最後に人を好きになることを知る。
さらにそれらがそれぞれに人間を人間らしくしていく。
そんな感じのまとめにはなるのかなと思う。
そうして正しくクロは人間のすべてを理解したことにより、
人間として戻ってくることが許された、そんな感じかな?
クロルートの終盤からみうまで、綺麗につながっていて、
これから先も人生は続くのだから、変わらずに目の前にいる人を幸せにしよう
というような気持ちのよい終わり方になっているのもGOOD

今までは人間を見届ける側の観察者としてその営みを見てきたクロが
少しずつ人間を体感していく。
生のよろこびを知り、死の恐怖を知り、最後に人を好きになることを知る。
そのことが神としてのクロの役割の邪魔をして…
主人公のもともと死ぬはずだった運命の強制執行がされてしまう
というような内容だった気がする。
クロを選ぶことは主人公の死に繋がることは周知されていて、
それを止めたり止めなかったり、他ヒロインが奮闘するんだけど、
各々の死ぬこと、誰かを好きになることの考えが興味深かった。
特に美咲の好きになることは「自分から切り離せなくなること」だって考え方は好きだなあ。
自分の一部になるから、いいことも悪いことも共鳴するんでしょってことにもつながる
結構深い考え方だと思う。
あと、印象的だったのは、時計をモチーフにした
「人として生きるとはどういうことか」って命題
生きることは繰り返すことではなく、
時計の針のように止まらずに進み続けること。
続いた先に必ず死が待ち受けているけど、
いつそれが止まるのかを知ることはできない。

<総括>
御影先生らしさを感じる明るめキャラ寄りのラブコメ
設定をもっと生かしてほしい系のありがたい言葉が多く飛びそうではあるけど、
それ以上に満ルートが傑出していたので、これはこれでいいかな。
反面、当たりルートもあれば、正直期待外れだなというルートが
はっきりと分かれた印象。
終始前向きにヒロインそれぞれの心と寄り添わんとする主人公がナイスだったし、
近年のパープルだと読みやすい部類に入るのかなと思った。
シーンが分離なところは結構好みが分かれそう。
ここでの平均点数やパープルといえばみたいな場面で、
あまり本作が挙がることがないように思えるけど、
個人的には前後の作品にも負けないパワーがあるし、
もっと人気が出てもいいのになと思った。