「また、未来で」そう言って別れて始まる、時の超えた想いの物語
とにもかくにも、minoriクオリティで作り出される都会の冬景色が最高でした。
ホーリーで街が浮足立っているような雰囲気、見ているだけで優しくなれる気がしました。
ジャンルとしてはタイムリープを含んだSFになるんでしょうけど、
そんなにシナリオ読むの得意ではない自分でもつっこみたくなるくらいに、
SFとして見るには正直がっばがばではあると思います。
特に由紀に関する部分については、由紀と直人を無理やりくっつけるために
かなり無理をしている印象を受けました。
かといって、本作の価値がそれで決まるかというとそうでもないと思います。
骨組みの部分はしっかりとしているので、
終わりと始まりがピタッとはまるような気持ちよさがあります。
仕掛け自体はよく作られていて、
それを動かすトリガーが主人公とヒロインの信頼とそれによる行動になっている部分は
かなり高評価ポイントかなと思います。
細かい部分を気にするよりも、minoriの紡ぎだす極上の雰囲気と
最初と最後が綺麗にピースとしてハマるような、
物語総体としての構成の美しさを感じとることができるかが、
本作がハマるかどうか分岐点になるのかなと考えました。
以下個別ルート感想
みずかルート 84点
終わり方がいいですね、そこが印象の大半を持って行ったなと思いました。
最終的にみずかがどうなったのか、
統合して一つになったのか、あるいは二人目が一人目に近づいたのか、
いずれにせよ、石畳を上るように他の誰でもないみずかと一緒に幸せになっていくんだろうなと
思わせてくれるような綺麗な結末だなと思います。
失われてしまった過去に目を背けるのではなく、また会えると信じて
少しの間だけ忘れるというみずかの覚悟と、
その覚悟を自分の持つの記憶で支える直人くんの物語と言えましょうか。
なんとなく分裂した時点でそうなるかなってのは読めたので真新しい感じはなかったけど、
自分の記憶にない「自分のこと」に戸惑うみずかの心情だったり、
過去の自分を乗っ取るようにして自分が幸せになっていいのかという葛藤だったりは、
minoriさんの演出もあって、なかなか見ごたえのあるものでした。
でも、この運命だと由希が救われない。ということなんでしょうね。
由希のための物語としてどう進んでいくのか楽しみです。
杏鈴ルート 86点
杏鈴の家族として、母の決断を思いやる優しさが
杏鈴自身の未来を縛り付けている感じと、
本当はそのことを気付きながらも、真実と向き合うことで、
自分をなんとなく守っていたものがなくなってしまうことに怯えて
踏み出せないというような矛盾した気持ちや気の迷いが
よく伝わってくるお話だったなと思います。
たとえ優しい嘘であっても、嘘は嘘。その上に乗っかる日常に本当の幸せは存在しない。
それのもたらすぬるま湯のような優しい顔した運命に自分自身をゆだねてはいけない。
そういう風にして嘘を上手く使って真実と向き合い、
真実に立ち向かった経験の積み重ねが
杏鈴自身にとっての運命となる。
だから運命はもたらされるだけでなく、
人の心次第で書き換えることができる、こんな感じでしょうか。
全体を通して、杏鈴のツンデレまではいかずとも、
ちゃんと妹だなと感じさせてくれるような
甘えん坊な感じがとっても可愛らしかったと思います!
由紀ルート 90点
全体的に雰囲気がよくて、他の二人に比べるとちゃんと恋愛してるルートでしたね。
ずっと面白い、読み進める手が止まらんっていうよりは、
おだやかな雰囲気の中で進んでいくものの、
最後の最後に仕掛けがパシッとはまる…みたいな気持ちよさのあるルートでした。
さすがに親が変わったら、由紀は由紀として生まれてこないだろとは思いますけどね…笑
シナリオの中身に関しては、泣きゲーというよりは雰囲気ゲーというか、
訴えかけてくるものよりも、作ろうとしているものを感じ取って
おおすげーってなる系統の作品かなと思いました。
色々無理がある。由紀が直人から離れても由紀として生まれるのは無理があるし、
いかにももう死にます、このカプセルなくなったら終わりですってムードから
由紀が子供産むまで生きてしまうのもねえ…
シナリオ読むのがけして上手くない自分でもツッコミたいところが結構あるので、
そっち方面に明るい人だとぼろくそだと思います。
ただ難しいことを考えずとドラマとしてみるならば、
ループしたこと、その中でお互いを今まで以上に信じられたことが
ハッピーエンドに繋がるトリガーになっているのは凄く好き。
お互いのことを心から信じることができたからこそ、
一度手を放すという選択ができた、
そのことが由紀と直人を結んでいた親子という関係とそれに伴う、
由紀が死に続けるループを断ち切ることに繋がった、いいですよね。
意味深に何かあるだろうなと感じていた、プロローグの部分が綺麗につながっていて
ちょっと仕掛け的な部分で感動してしまいました。
色々つっこみたいところはあるけど、
個人的にはもろもろ含めて嫌いじゃなかったかな!
<全体の感想>
正直、道中は「ん?」ってなる部分が多いし、
凄く感動できる部分があるかというと、どうかなという感じではあるんですけど、
はじまりと終わりが綺麗なので、読み終わった後に胸に残るのが
「案外悪くなかったな」となるタイプの作品だと思います。
由紀ルートのお互いを信じて、手を放す、
そのことが由紀を取り巻くループから解放されるトリガーになるって仕掛けはかなり好きですし、
杏鈴ルートの電話ボックスを杏鈴自身の現実逃避の象徴として描いているような演出も、
いいなと思いますし、
要所要所でそこそこ好きな部分もありつつ、総体でみると案外悪くない。
そんな感じの作品として個人的には評価しています。
冬のminoriゲーと明確に言えるのはこれだけだと思うので、
それだけでもかなり価値のある作品だと思います。
基礎点 43/50
熱中度 24/30
システム音楽等 14/15
補正得点 5/5
合計 86/100