夢と現実の距離感
REverでプレイしました。
パープルの代表作であり、いまだに根強い人気を誇る本作
個人的にこのころの塗りや絵の感じが一番好みだなあってのと、
キャラゲー、シナリオゲー両方としてかなりレベルの高い作品という前評判を元にプレイ。
全体値としてみるとそこそこなんだけど、気合の入った作品だし、人気が出るのもうなづけるなというのが、
ひと言の感想かなという感じです。
全体でみると面白かったといえる作品ではあるし、
得点もかなり高くつけているんですけど、
シナリオの難解さと日常パートの冗長さが足を引っ張っているなという印象です。
シナリオの難解さについて
小難しい話ではないんだけど、夢をテーマにした作品というだけあって、
読んでて引っかかる部分の解釈がどうしてもふわっとしてしまいがちで、
理解に及ばない部分が結構多かったなという印象でした。
クリスマスパーティーのとことかめちゃくちゃだし、
夢とはいえこんなに大暴れしていたら、どこかほころびそうだよなあとか、
細かいところを「まあ、夢だから」と無視するような勇気がないと、
考え込んでドツボにハマるタイプのシナリオだと思いました。
シリアスと日常パートのすみわけ自体はよくなされているので、
肩の力抜いて読める部分はとことん緩く読むことをお勧めします。
似たような話で、いわゆる推奨攻略順があるんですけど、
その通りにいくと、人物によってはこいつは何者なんだって状態のまま
他ヒロインのルートを進めることになるので、
その辺りに座りの悪さを感じてしまう人もいるかなと思います。
日常パートの冗長さについて
まあ、パープルの伝統ですよね。
本作共通パートがかなり長くてその中でこのいつものグダグダをやるので、
かなりダレる印象を受けました。
しかも大したことしてないくせに、話の流れ的にスルーできない部分も多いので、
何周しても既読スキップで飛ばすとわけわからなくなることが多く、
結果なんども読み返すことになって、かなりテンポの悪さを感じました。
こんなとこです。
逆にこれらを我慢できるのであれば十分楽しめる
ハイレベルな作品ではあると思いました。
以下個別ルート感想
共通ルート(最後の選択肢まで) 88点
引き込まれはするけど、なんだかよく分かんないってのが正直なところですね。
ここまでで気になること、わかっていることの箇条書き
・なんで咲は透を救うために妹になったのか
・舞亜との本当は舞亜のいる夢を必要としているという対話の後に全員妹になったのか
・咲の夢は透が咲との恋人関係を望まないことで終わった、選んでしまったらどうなるのだろう
・弥生の夢は根本からは終わっていない、なぜならその悪夢を糧として今の弥生があると思っているから、だったら終わらせたら弥生はどうなるのか
・有栖が現実で面識がないのにずっと夢の分岐点にいるのはなぜ。彼女は実在・生存しているのか?
・景子の夢は咲と同じかな?現実での景子のリベンジに期待
・舞亜はよくわかんない。舞亜自身が透の悪夢の象徴で、彼女と結ばれるルートはどう考えても現実に回帰しないけど大丈夫?
・そもそも舞亜は何がしたいんだろう、共通の印象だとただ夢の世界に引きずり込む邪魔者にしかなっていないけど、自分のなすことは兄のためのものだという言葉が気になる。
こんなとこかな?
シナリオ全体としては夢に取り込まれることを逃避、現実でのバッドエンドとして、
そこに終止符を打って脱出を図るような話なのかなという印象です。
夢の中で自分の願いを叶えようとすることは自己満足にもならない。現実を放棄して他者に迷惑をかけるだけの行為という考え方がよく伝わってきました。
ヒロインとしては有栖が圧倒的に好きです。
引きとしては、夢による現実の浸食かな?
今までは誰の夢と分かる世界が描かれていて、そこから逃げることが最適解だったけど、
そうではない、もっと大きなものに包まれたような夢とも現実とも見分けのつかない世界
そういう世界だからこそ、たとえその本質が夢であっても、
全員が気付かないで「現実」と定義してしまえば、それは逃れることのない「現実」になる。
ずっと言っていた夢に取り込まれた状態が完成しつつある、ということなのかな?
舞亜が夢を選んでみせている、だからそれがいなくなったことで起こる現象なのかなとも思います。
さらに今まであれだけ現実があやふやになっていた有栖が普通に現実世界っぽいところで
姿を現していることもこの世界が夢であるように思わせる要因になっている気がするなあ。
景子ルート 88点
誰かに必要とし認めてもらいたい心と一人で生きていこうとする心、
臆病ゆえの矛盾を抱えている彼女の「真ん中」を探す長い物語。
夢の世界という設定上何をやってもB級感が出ることと(これは恐らくどのルートでもそう)
父親のくだりがベタなわりにかみ合ってないなと感じたこと以外は面白かったです。
夢の中で景子自身も気づいていなかった景子自身の本当の気持ちに気づいていくというか、
一見バラバラに見えるそれぞれの言動が、ちゃんと景子っていう一人の女の子から
生まれたものだったんだなって感じさせてくれるようなキャラ造形、シナリオのまとめ方は
さすが代表作と言われるだけあるなと思いました。
心変わりを描く作品はごまんとあるけれど、
その人の中にあるもののうち表出するものが変わっていくような心情の変化を
これだけ巧みに描いた作品は少ないんじゃないかな。
わざわざ外を選んで自分の気持ちを誰かに伝えるように歌っている。
その行動には歌を聞いてほしい、自分のことをわかって認めてもらいたいという気持ちが出ています
その一方で一人で生きていくことも望んでいて、そのために学問を先取りしたり、資格を取ったり、行動にまで移している。
一見すると矛盾しているんだけど、一つ目の願いが別の形で現れたものが二つ目の願いなのかなと思いました。それだけ人を好きになって、それがうまく行かなかったときに
自分が空中分解してしまわないように、自然と自分の願いに保険を掛けているのかなと思いました。
そういう臆病ゆえに生まれる矛盾した心みたいなものは考えさせられるものがありました。
さらに二つの願いを上から包むように共通しているのは
誰かに与えられた幸せではなく、形はなんであれ自分の力で幸せになりたい
景子が本当に望んでいるのはそういうことなのかなと思います。
だから父親から逃げ回っているのだし、自分の力で立てるようにと保険もかける
できるだけ傷つかないようにと怯えながらも、自分の力で確かな幸せをつかみたい
それがきっと二つの願いの「真ん中」にある生き様
そういう弱いけど強い部分が彼女の最大の魅力だと感じました。
現実の甘い悪夢に負けずに、
与えられたもの以上の幸せを目指す景子をいつまでもそばで見守っていたいなと感じました。
いやー可愛いぞ景子!
弥生ルート 84点
共通のいい女友達兼サバサバしているように見えて女っぽいところのあるお姉さん感がすきだったので、
ルート入ったら想像以上にめんどくさい女になって、
ちょっと好みと違う方向に行っちゃったかなあ…
特に両親周りの話が弥生のキーになってるはずなのに何も出てこなくてふわっとしてるんですよね。
まあ結局、自分がイギリスに戻るから会えなくなる!迷惑かけるから両親にも言えないっていう
弥生の一方的な思い込みってことなんでしょうね。
話自体はそこそこ面白かったです。
潔く夢を夢として手放すことによって、絶対に手に入らないものへの執着から解放される、
そうすることで現実の自分の新しい立ち位置が、向かいたいと思う場所がはっきりと見える
そこに向かうことでうまく行くことそうでないことが出てくる、
それを楽しむことこそが生きるを楽しむということなのだ。
主題としてはこんなとこかな?景子のルートはもう夢から逃げるだけという感じだったけど、
こっちのルートは弥生も透も現実で失ったもの、消えない傷があるからこそ、
夢に惹かれながらも現実を選ぶというような着地になっていて、
そこのかき分けは面白いなと思いました。
FDではぜひお姉さんスタイルの弥生とイチャコラしたいところですね。
咲ルート 91点
舞亜を中心として作られてきた咲との関係をやり直すのではなく、作り直すまでの決着のお話、ですかね。
現在地は変わらないんだけど、出発点が変わって、目的地が新たに設定されたって感じかな。
舞亜のことは忘れた、振り切ったと一行で書けてしまう部分を掘り下げて掘り下げて
何度も何度も夢のトンネルを抜けて、振り切ったと思ったらまた夢で、
どこまでが妄想で夢で、どこまでが本当なのかというのを、
まるで自分が透や咲になったかのように惑わせるようなシナリオ構成は圧巻だと思いました。
欠点としてはすんごい長い上にけしてその道中がすごく面白いわけでもない
(夢のグダグダ感なんでしょうね)のと、
咲が可愛いなと思う瞬間があっても、それが夢なんだろうなと頭の片隅で思ってしまう自分がいて、
いちゃラブというか、恋愛要素として幸せな気持ちに浸る隙がなかったってことかな。
あと、単純に舞亜に対して凄く複雑な感情を抱いてしまうというか、
なにがしたいのかがよく分からなかったです。
たぶん、透と咲それぞれにお互いに自分のことで縛り合うのをやめるか、
透をさっさとこっちによこして解放してやれ、そして咲も楽になれってことかなとは思うんだけど、
はっきり言って彼女の役回りってどうしても不愉快な要素に見えてしまって、、、
遠野そよぎさんの演技が上手いのもあって、
彼女の声を聴くだけでこめかみのあたりがうずくような感覚がしています。
舞亜のルート超気になるけど超やりたくないです…笑
現実で生きることをただ一つの解とする一般常識だったり、透たちがたどり着く答えだったりから
照らし合わせると、彼女のしていることは何も間違っていないのに、
それを否定されて、罪悪感を抱えて可哀そうだなと思ってました。
だからこそ、長い長い夢か現実かの格闘の末に、
舞亜という過去の対極としての現実の咲ではなく、
現実の咲を選んで、それをこれからの軸として生きていくことを決めたという結末は
凄く正しく報われたなというか、ああよかったなという気持ちになりました。
ヒロインとしても抜群に可愛かったです。今のところ最推しです。
舞亜ルート 得点なし(微加点くらい)
舞亜とその取り巻く世界が全てになる結末
要するにバッドエンドですね。
この結末に対して思うことはないというか、
まあそうだよねという感じだけど、
舞亜は外でのことを記憶したまま、この堕ちた世界にいるんですね。
共通で言っていた「夢だと気づかないまま一人で幸せになる」
ことすらこの子はできないんですね。
あと、最後の「どうして私を選んだの」という言葉
誰か自分以外を選んで、抜け出してほしいという意味にも、
自分を手放すことができないと分かっていたという風にも聞こえました。
恐ろしい子です。
有栖ルート 91点
突き抜けたという感じは正直しなかったけど、綺麗にまとめてくれたって感じでしたね。
あれだけ夢の中の改変を嫌っていた、透がこの子のためにはそのやり直しを使った
そのことに大きな意味を感じました。(咲のルートと対極と言えるかも)
本作の大きなテーマの一つである夢の存在意義と現実とのかかわりあい方について、
これがメインだと言わんばかりに色々語られていましたね。
幸せな夢を望むこと自体は悪いことではないけど、それが目的になってはいけない
生きることの目的は必ず現実にあるべきだ。
ただし良い夢はその目的のための助けや勇気になる。
それを上手く付き合って、諦めずに現実に立ち向かうこと、
そのことがより良い未来を開いていくきっかけになる。そんなとこですかね。
舞亜の存在を介して夢を否定してきたからこそ、光るメッセージだとおもいました。
ハイライトは有栖を追いかける透を笑顔で見送る舞亜と
最後の有子の携帯が鳴る場面ですかね。
遠いようで近い、夢と現実の距離感を象徴しているような気がして、
その二つはいくらでもひっくり返すことはできるんだっていう
ライターのメッセージを感じました。
<全体の感想>
完成度の高い、さすが代表作と呼ばれるだけあるなと感じる一方で、
やっぱり全体的に長ったらしく冗長な部分と
夢ということ免罪符にしたような意味不明さ、難解さがあって
名作まであと一歩という印象でした。
少なくとも代表作ですが、初心者向けではないです。
ある程度ノベルゲーを読むことに慣れてきた人で、
手抜きのない、萌えもシナリオも両立したボリュームのある作品をしたい!
そんな需要にはぴったり合うのではないかなと思いました。
個人的に要所要所にかなり好きな場面もありますし、
本作で語られる夢と現実の距離感のとらえ方は個人的に刺さる部分もあり、
好きな作品の一つであることに間違いはないです。
推しキャラ:咲、景子
推しルート:咲、有栖
基礎点 44/50
熱中度 24/30(長くて少しだれた)
システム音楽等 14/15
補正得点 5/5
合計 87/100