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lein2709さんの明日の君と逢うために COMPLETE BOXの長文感想

ユーザー
lein2709
ゲーム
明日の君と逢うために COMPLETE BOX
ブランド
Purple software
得点
92
参照数
53

一言コメント

明日もみんなの笑顔に会えますように

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

【総合力の高い夏の傑作】
臨場感と解像度の鬼
とても2007年の代物とは思えない
今でも全然やれる

軽いポイント整理、気になった点から
・攻略ロック順
①まず、瑠璃子か小夜をやって、残り4人(メインヒロインズ)をやる
②里佳先生
③七海姉
④七海妹
⑤おまけ
って順番になるんだけど、
瑠璃子と小夜が最初である必要ないかなってのと、
明日香はロックを掛けた方がいいような気がした。
この明日香のルートが比較的に大団円って感じで終わるので、
これを最後に読めると気持ちよく終わることができると思う。
逆に里佳先生のルートがまるでグランドのように待ち構えてるけど、
このルートはあっさりしてるのでFD回しでもよかったような気がする。
さらにコンプリートボックスの場合は、
大団円のあとに3ルート続くことになるうえに
これらがシナリオ上の重要度はそこまで高くなく(クオリティが低いわけではない)
どうしても蛇足感が出てしまう。
その上それなりの分量があるため、結構プレイしていて疲れてしまった。

・里佳ルート以降の重み
繰り返すがクオリティが低いわけではない。
それぞれそのヒロインが好きならば、それなりに満足できる内容にはなっている。
それでもシナリオとしての重要度が高くなく、
どうしても「明日香ルートで丸く収まったやん」という気持ちになってしまう。
だらだらと3ルート延長戦をやるならば、
どれか一つをトゥルーのようにするなどして、
「この先何があるんだ」というような気持ちにさせて欲しかった。
反対に「おまけ」はよかった。
ギャグゲーでない作品が真剣にふざけたときの破壊力は凄いなと感じた。
軽快な下ネタ満載の会話と頭の狂ったトンでも展開は本編後だと
より一層の味わいと臨場感がある。
完全に自分の好みになるが、りんでトゥルーのも良かったのかなとも思う。

以上、一言でいえば構成部分と冗長さ、素材は悪くないし
FDを期間を置いて分離してやればだいぶ改善されると思う。

続いて良い点
☆本当に2007年か?といいたくなる演出面の強さ
めちゃめちゃ気合が入っている。
CGや立ち絵の差分はもちろんのこと、
雨や川のせせらぎ、電車のつり革や扇風機の首振りまでアニメーションが入っている!!
これらがこの作品における「島の夏の風景」を演出するのに役立っており
雰囲気ゲーとしては、現代基準でも最高峰といえると思う。

☆どこか懐かしさを感じる田舎の夏の空気
上の演出面に合わせて、街の看板や教室内のオブジェクトが非常にいい味を出している。
2007年基準であるので、よい意味で少しだけ古臭く、
まるで幼少期や青春時代に自分の身に起こったことを追体験するような
唯一無二のプレイ感覚があった。

☆魅力的なヒロインたちとの日々の追体験
ルート単体でみると、
個人的な採点で5人中4人は余裕で90点を与えられる。
日常のじゃれ合いから、やがてそれが恋愛になって、
本作のテーマである「神隠し」とか「過去と未来の選択」の絡んだ若干のシリアスを挟んで、
未来に対して答えを見つけ出してED
というのが基本的な構成だが、
全ヒロインそれなりの尺があり、ゆっくり関係性を深めていくため、
言語化できるよろこびとか悲しみなどから、
非言語的な「なんか変な感じ」とか「付き合いそうな予感」みたいなものまで伝わってきて、
シナリオの解像度が極めて高い。
気が付くとみんな大好きになっていたし、素敵な体験をしたような気分にさせてもらえた。
単純に面白い作品というのは色々あると思うが、
プレイ体験として強く心に残るっていうのは、
この時代の作品、あるいはノベルゲーらしい長所であるように感じた

☆細かなおまけ要素
個人的に気に入ったのがOP画面を放置していると流れる自己紹介映像。
垂れ流すもよし、ちゃんと聞いてあげるもよし。
さらに進行度によって内容が増えたりもする。
こういった当時のスタッフ陣のやる気が節々から伝わってきて非常に好印象だった。


以下 私のプレイ後の各ルートの感想
人に見せる意識のない駄文だが、生の感想として一応掲載(攻略順)

・瑠璃子 95点
穏やかな死の匂いが作品全体の雰囲気との相性として◎
ほぼ不満点はない。
常に身近に自分の死とその恐怖を感じながら、
明るく他人のために笑顔を振りまいて、いつか修二が帰ってくることを信じて耐えてずっと生きてきた
修二と再会したことで、自分のために生きることの喜びを覚えて、でもそれと同時に再会を目的として
頑張ってきた命が悲鳴を上げ始めるというジレンマ、、、
残酷な運命に負けない健気な姿が終始美しかった。
瑠璃子がかわいい、エロいのはもちろんとしてね。
単純にこんな素敵な子と過ごす毎日の時間に尊さとはかなさを感じる良シナリオ
結末はどっちも綺麗だと思う。どっちが好きかと言われたらやり直しの方かな。
「瑠璃」では「リコ」って名づけるところから、7年前とまったく同じ形で
新たな物語が始まるって素敵だなと思った。
もう一個の方も好き。
子供を作るってのは未来に向かう行為ですし、
運命だからと諦めるのではなく、その先しか見ていない感じというか、いや綺麗だ。
よくいう病めるときも健やかなるときもって、
いい意味で普通の幸せを追い求めてる、この二人にとってはそれが何よりも尊くて価値のあるものなんだろうなと
凄く幸せな気分になれた。

・小夜ルート 92点
・向こう側の世界の姉に囚われた心からの解放と再生の物語
彼女の姉であり、理佳の友人であった「咲」を中心に回るルート
全体的な雰囲気がとてもよい。
小夜のとげの裏にあるやさしさみたいなものが終始みられて好感しかなかったし、
主人公の小夜の心への踏み込み方も自然で良かった。
向こう側の世界に行った姉を追いかけようとするばかりだった
今の自分の生きている世界への興味を失った彼女が
修二とその悲しみを共有し分け合うことで
人間の世界で生きること、今生きている人と楽しく生きていくことの喜びへと再生していく過程
綺麗だと思った。
不満点を挙げるとしたら、咲の向こう側に行った理由がぼんやりしすぎてることくらいかな。

・あさひルート 80点
人間になることを願った少女との恋物語
恋愛としてみるとぬるっとしてる気がしたけど、
物語としては綺麗だった。
元神様のときに覚えた悲しみや寂しさを
乗り越えようとすることが彼女の行動の軸になっていて、
それを想うとこれまでの言動が健気にも思えるし、悲しく思える。
もしも年頃の女の子の心を持っていたらこうなるだろうし、
リンを見て、自分はどうしようもなく神様のままで、
人間にはなじめない、みんながあさひ先輩だと思っているのは
違う自分なんだって考えるのは最高に人間っぽいとも思うし、、ね。
神様って信仰されることでしか存在しえないから、
人間みたいに居場所を求めて生きているのかもね。
主人公の殺し文句もかっこよかった。
どんなにだましてても演技してても、
自分のその中に本物の先輩を見つけて居場所になってやるから、
ずっとそばにいてくれって、、
先輩が人間としてやってきたこと全肯定じゃん。
この辺りの感情表現が綺麗に包みこまれてる感じがして非常に読んでて気持ちよかった。
あと、七海。FD作ってもらえてよかったねえ…

・舞ルート 100点
めちゃめちゃ好き。これまでのergライフでもトップレベルに好き。
この作品全体を包む、神様とか過去を取り戻すとかそういうテーマの正反対いく感じ。
舞との日々の中で、自分の今の気持ちに気付いて、
自分が今まで大切にしてきたもの、これから守らなければならないもの
その二つを見極め区切りをつけて、
これからどう生きていくかをエピソードの中で丁寧に回収していく感じが凄く良かった。
明日香の三角関係でお互いの居場所がお互いでないことを無意識下に気付かされていく感じも切なかったし、
明日香によってもたらされた置いて行かれる悲しみの痛みが舞と向き合うトリガーになっているのも綺麗だなあ。
最後のリボンのシーンはずるいね…OPでなんだこれってなってたけど、
止まったままだった時間を動かす象徴のような行為なんだろうね。
明日香ルートが楽しみになった。どうやったって過去の出来事が付きまとう彼女と
どんな未来を描くのか

・明日香ルート 95点
追いかけてきた「あーちゃん」思い出を今につなげて、「明日香」と未来を目指す物語。
戻れない過去があるからこそ、亡くしたくない現在や未来の存在に気付くことができるって感じかな?
かつて「あーちゃん」の手を離したことが7年にわたる悲しみと後悔に繋がった
それを原動力に、「あーちゃん」にもう一度会うことだけを目的として生きてきた。
その思いが今そばにいる明日香を一度悲しませてしまったが、
島に戻ってきて明日香との新しい思い出や楽しさを積み重ねてきた。
そのことが過去しか見ていなかった修司の「今」や「未来」に価値を与えた。
その今や未来を「明日香」と積み重ねていきたいと過去を振り返るのをやめる決意をする。
「あすか」に囚われた心を解放したのがまた「明日香」であったというのが綺麗だった。
最終的に全員戻ってきて幸せになるってのはご都合主義極まれりだけど、
単純にこの光景が見たかったなあと凄く幸せな気持ちにさせられた。
本当にここまで嫌なルートが一つもなく、どれも読後感がすごくいい。

・里佳ルート 79点
グランドではなく、おまけとかファンサービスとかそういう類
マイナスになる要素はなく、里佳との恋愛模様がのんびりとした調子で描かれる。
物語の根幹に触れるものはないが、
修司より前に神隠しによって咲と袂を分かつことになった里佳が
どのような想いで島に残り、何を考えて島で教師として生きているのか
という想いに触れることができる。
置いて行かれたことに対して、咲が向こう側に行って戻らないという選択をするなら、
自分も自身の意思で島にとどまって、消えた人と神様と戻ってくるのを待つ人を
守り続けようという風に自分の生き方に投射をできる里佳が単純に素敵だと感じた。
個人的に年上ヒロイン大好物なので、時折年齢を気にしたりする描写が見られ満足。
欲をいえば、エピローグの時間軸が学園を出た後の仲間の様子が描かれていたので、
それをもっと見たかったかなと思うくらい。

・七海ルート 74点
ぶっちゃけサブの方がこの子の良さは光るなと感じてしまった。
シナリオ中盤でリンが退場してしまうので、あんまり物語の本筋と離れた位置にある物語のように感じた。
本編と同じクオリティの修司との漫才が基本的にずっと楽しめる。
ここまでやるとお腹いっぱいだし、恋仲になることで恋人らしくなるわけでもなくずっとふざけてる感じ。
あさひルートの彼女のテンションで恋愛してみたかった、どうせルートを作るなら、、
結構マイナスなことばかり書いてしまったけど、夫婦漫才のキレは健在だし、
真奈美がケガをしてからの展開は、お姉ちゃんとして背中で真奈美に見せる姉らしさ、
みんなに愛されるお調子者としての彼女のキャラの良さが出ていて普通に面白かった。
やってもいいし、本編で七海が嫌いならやらなくてもいいと思う。
ただ普通にプレイしてると七海を好きになるんだよね、多分多くの人が。

・真奈美ルート 87点
姉のルートよりヒロインらしくて良かった。
本編にほぼ出てこないのが
余計な属性がつかずに純粋な恋愛物語としてみられて逆に良かったかも
向こう側に迷い込むことが真奈美の中の本当の迷いと向きあって
解決するための要素になっているのがいい。
そういう風にして、どうしようもなくて向こう側に惹かれて、
自分の本当の心と向き合って戻ってくる人が真奈美以外にもいるんだろうなと思うと
すごくりんのやってることって神様っぽいなと思った。
姉よりおしとやかなのに、変なところに情熱的な感じが姉妹だなあと思わされたり、
短いながらも神隠しの要素もちゃんと入っていて、純度の高い恋愛も楽しめて、
結構満足度の高いルートになっていると思う。




【総合して】
ルートとしては順に舞、明日香、瑠璃子が好み
キャラはみんな好き、強いて言えば瑠璃子かなあ…
非攻略キャラだとりんが好き。いちいち可愛かった。
本作の武器はプレイ体験にあると思う。
たとえるならシェンムーのような、
それぞれが持っている原風景に触れて、
本当にその場所に自分がいた、ヒロインと仲を深めたような気持ちになれるはず。
最近のゲームに比べて良くも悪くも説明的でなく、
考えるな感じろという系統の作品なので、
あうあわないはあると思うが、
「あの夏」を思い出して懐かしくのんびりとした気持ちになりたいときに
ぜひプレーをしてほしい。