「いいか、パンパン!!二回だ。銃を撃つ時は必ず引き金を二回引け。二度ずつ撃つことで、とどめをさす確率は飛躍的に高くなる。それができない時は・・・・・・、お前の命がないと思え。」 前作で撃ち抜かれた自分みたいな人は当然、終盤のアレで"とどめ"に至らなかった人もぜひやった方がいいと思う。バトルのテンポ、画面の見せ方、一部システムは改善し、相も変わらずくっそ熱い音楽と、意志を介したキャラの魅力にやられてしまうFDのようでFDじゃないゲーム。意図的かはわからないけど、むしろ二度撃たれたからこそしっかり心を掴まれてしまった。間が空いてる人は復習推奨。あ、ベルカ推しのヒトはやらないと最早罪ってレベルだと思いますよ。しかし、スキップ機能くん、君は何でそんなに頑なに次の選択肢に飛んでくれないんだ……意志もちなの?
※きゃべつそふとの作品を遊ぶのは、ジュエハに続いて二作目。
※本稿は最初からネタバレを含みます。予想を裏切るシナリオが大きな魅力の一つのため、未クリアの方はゲーム体験を損ねる可能性があります。ぜひゲームを遊んでからお読みください。
前作と比べて
タイトルに世界の終わりとあるとおり、状況はシビア。ただし、前作同様シリアスさはあるものの、深層での蟲毒の設定上感情を揺さぶるほどのキツさは控えめ。その点はFDっぽいといえばいいだろうか。
伏線回収の衝撃も世界観をひっくり返すほどのものはない。だから前作の感想で書いた『綺麗で気持ち悪い』要素はそれほど感じられない。あったのは、ルクリナが意志を発揮したときの仲間への対応と血飛沫の画の見せ方くらいだったと思う。
一方で、同じ感想で書いた『意志という設定の役割』は本作でもバッチリ効いていた。(もしこの感想で興味をもっていただけたら、前作の感想も読んでいただくとより両作品全体を通した「面白さ」が伝わるのではないかと思います。)
好きなキャラ・シーン
※これ以降は、物語の具体的な内容に触れます。ネタバレ全開ですのでご注意ください。
アンドロメダさん
「失われるのは――あなたがいなくなってからよ。金剛石の姫君」
「――――え…………………………」
一瞬、アリアンナの思考が凍りつく。
ここが精神世界でなかったなら、彼女は膝から崩れ落ちていたかもしれない。
アンドロメダの万能の能力。前作で何でもありの神に到達した話の流れは、今作でも維持されている。無敵状態ならどうやっても面白くならないだろうと思わせて、アリアンナの虚無感や噴火に対する不発といった不安要素もでてきて、この能力の本質に切り込んでいくかのように、みんなとは別の場所、精神世界(インナーワールド)でオフィーリアと対話する様子が描かれる。
シャーロット先生の姿そっくりな雷神様との邂逅から流れる1stOP『Addict of justice』は、「集え、争え、徒ども――」といったOP中にも作中にも出てくるテキストと、前作2ndOP『Will of Adamant』を彷彿とさせる激しくカッコいい曲調で、続編であること、緊迫した空気感から始まること、そして本当に静止画で構成されているか疑いたくなるくらい絵の見せ方が圧倒的で引き込まれるものになっている。
これだけよかった1stOPの印象は、でも全然別の角度から殴られたような、ここの2ndOP『Tragedy Night』とそこに入る話の流れの衝撃によって上書きされてしまった。
オフィーリアとのやりとりは、アリアンナの彼女らしいセリフで友達になろうとする距離を縮める感じも、自分の命や自我はわたしだけのものじゃない、みんなに訊いて決断したいとすでに前作の結末を一見超えているようにみえるやりとりでも惹きつけられる。そこに、明かされる代償の正体。アリアンナも読み手も、予想を裏切られたような、ハッとさせられるテキストの響きがあって、しっかり掴まれてしまった。
「神、アリアンナ・ハートベル――あなたの死と同時にこの世界は消滅する」
「死後の明日を失うこと」
「それが、あなたに架せられた――全能の代償よ」
イルザ・オーウェン・グウィン
「……許さねえ」
「あたしと竜がどうなろうと――おまえには……絶対に報いを受けてもらう」
イルザの不条理によるものか、理不尽に故障させられ大破してしまったゴードン。残骸は中心部と思しきパーツのみになってしまったという記述。
作中では、ハミハミも、喋り方や性格、口からビームを吐き出す一枚絵とともに能力も個性的に描かれていたから、こっちはこっちでかなり個性的な味付けをされていたにもかかわらずそこまで目立っていなかったと思う。けれど、洞窟内では掘削により道を切り拓き、自律型ロボットかつ人と会話できる高性能な機能、じっちゃんとの関係でミリアが大切にしているところなど、なかなかいいキャラに描かれていた。
だから、ミリアの上のセリフが熱く、怒りに駆られながら、でも冷静に、イルザの名前を推理しようとするところは彼女の魅力が感じられる。
その姿を見て、なぜこれほど不条理な目にあっても運命(シナリオ)に抗おうとするのか、自分のように心が折れないのか、自身について独白するイルザ。以降の場面も含め、二人の対比によって、『不条理』も『発見』も、それぞれの意志がより引き立つ書き方だったと思う。
「あたしにもやれ、ソーマ!」
ソーマとミリアの遊色。『記憶』を『発見』する。でもイルザの記憶だけでは名前はわからない。だから、ミリアにも撃ち込む。『Rebellion Tears』がかっこいい。
ミリアの記憶。前作の音楽はここまででも一部使われていたけど、使われないのも当然あるよなと思っていたら、ようやく『With Yours』が流れてくれた。たしか、本作では初出なはず。やっぱり大事なところではこの曲が活躍してくれる。
イルザの本名を記憶から見出す。シナリオどおりにならず、竜を前に諦めてしまう彼女。
「こんなもん――不条理でもなんでもない。いいや、どんな不条理でも、勝てるってところ見せてやる」
「――ミリアちゃ……あなた……」
「でも――無茶よ……! 運命の操作がなくっちゃ、相討ちすらできるはずがないわ!」
「いいや――そうとも限らない」
「ゴードンが言ってる――オイドンを使え、って」
遊色発動時に混ざった旧未来の記憶。伝説的な冒険家として名を馳せていたあちらのミリアが語るじっちゃんの言葉。『冒険家たるもの――地に足をつけ、最後まで諦めずに進まなくてはならない。とな』。
その言葉を体現するように、こちらのミリアも決して諦めず、冷静に、どんな状況でも打破するために頭を使う。
ここの展開は熱かった。三種の副葬品。竜玉=『心臓』。サンダーバード=人々の『魂』。そして、ゴードンの中心部を担っていた、うごめくトラペゾヘドロン=『脳』。なぜ冒険家だった祖父がロボットを開発したのか、生命の源を見つけたというその理由やあえてこの『脳』の部分だけ持ち帰ったことが伏線となっているのも、「ゴードンは――まだ生きてる」という『祖父に想いを馳せるようにぐっと拳を握った。』というテキストともに語られるセリフも響くものがあった。
本作は前作同様バトルが熱いが、より頭脳を使った、単に力を超えるパワーで押しきるみたいな展開というよりも、能力の特性を使ったロジカルな展開が特徴的。その中でも『発見』の意志は、前作のメアのトパーズみたいな便利さと万能さがあって、表面上は強さを感じさせないもののかなり強力だったと思う。さらに、ミリアの諦めない"意志"によって輝く書き方がされているからこそ魅力的に映ったと感じる。
「――手はあるわ」
そして、この場面を一番引き込まれるものにしてくれたのが、上のイルザのセリフ。外国人を憎み、敵対し、不条理をぶつけ、でもシナリオどおりにいかず諦めてしまった彼女が、最後の決め手になる。ミリアの意志が、最後まで諦めず、地に足をつけ、進もうとするその意志が、彼女を動かしたということだろうか。
名前を当てることも、童話をつかったシナリオを破ることも、そこに彼女との戦いの本質はなくて。運命に抗えなかった彼女が一歩を踏み出したようにもみえて、とても心に残った瞬間だった。
「本当に――竜を……倒したの…………?」
迸る電撃とともに――雷蛾竜の体躯が消滅していく。
その脇で、はらりと、舞い落ちる雫があった。
「――ほらよ」
手に入れた竜玉を差し出すミリアの一枚絵がとっても綺麗で印象的。最後笑顔になる差分もめっちゃよい。
ここは流れる『With Yours』にいろんな意味が込められていると感じてしまう。イルザが欲しいと願った竜玉。でも、後の場面で受け取らないように、もうその玉自体は問題ではなくなっていて。『はらりと、舞い落ちる雫』。作中明示的な説明はないけれど、イルザの、不条理を現実にしてしまう屈折した想いに対して零れたような、一筋の救いのように感じられたテキスト。
ミリアにだって、ゴードンを壊された想いがあるはず。差し出しながら、同情する気はこれっぽっちしかないと言うセリフにも表れている。だから余計にここのセリフは堪らないものがあった。また遊ぼうという昔の約束も。ミリアだからこそそこに意味があるような、手に入れたいという気持ちへの共感も。
深層から一度脱出して再度潜ろうとする、前夜の酒場での彼女も一枚絵でとっても魅力的に描かれていたけれど、内面までこんなに魅力的に書くとは。イルザを絡めたとっても素敵な場面だった。
「ずっと欲しかったんだろ、こいつが、やるよ」
「そりゃ……恨みもあるし、いくら理不尽な目に遭ってきたからって、同情する気はこれっぽっちしかねーけど」
「また遊ぼう――っつっちまったからな」
「あな……た……」
「それと。お宝手に入れたいっていう気持ちだけは……真っ直ぐに共感できたからな」
発見の意志
『みんなはきっと……いつかわたしのことを忘れる』
オフィーリアによって、アリアンナに蘇る旧世界の記憶の残滓。ソーマが記憶の意志エメラルドのレイズの効果によって永い時間を超えて礎となったアリアンナを探したことが語られる。上のセリフで『With Yours』が流れる演出。この綺麗な音楽は本当に残酷なほど切ない場面によく合う。
――そして、また数年の月日が流れた。
ここで流れる挿入歌『星の消えた日』がたまらない。
プレイヤーは前作で一度見ている場面なのに。でもアリアンナがその記憶を見ることには意味があって。ソーマの想い。異種族の原罪のような補食関係を書き換える、礎としての彼女が果たした大きすぎる役割はたしかにあっても、でも彼女を探すことを、もう一度会うことを"決して諦めない"意志。
彼を助けてくれる冒険家ミリア。イルザとの戦いで『冒険家たるもの――』というじっちゃんのセリフが出てくるから、諦めないソーマの前に彼女が登場することには必然があると感じられるし、ソーマが冒険家と名乗るのもなぜだか無性に良いくて、とっても感動してしまったシーン。
理由が上手く言語化できないけれど、でもこの続編をつくったことが、ここに『発見』の意志を登場させたことが、たしかに意味をもつと理解できた気がする。
『――なるほど。近づくほどに忘れてしまう、か』
『どこに沈んだのかも不明――確かに難儀な代物のようだ。が、案ずるな。遺志の行く先ならきっと、過ごした日常の中に鍵があるはずさ』
『――見つけてみせよう。その鉱脈。どれほどの礎であろうとも……私たちの地と繋がっているのなら』
『――待って』
そしてソーマだけではなく、アンドロメダに破滅を止めるように頼もうとするアリアンナに届く、地上いる4人の声。メアの「今度こそ」「無茶する前に」が沁みる。前作でできなかったことを乗り越えようとする、ペガサス組みんなの想いが…熱い。
『解決するんだ、私たちで。今度こそ、アリアンナが無茶する前に――!』
『ああ……危機的状況なればこそ、一人で突っ走るのがハートベルというものだからな』
『フン――どんな状況だろうと、勝手な真似はすんなよ。ま、オレが言えた義理じゃないがな』
『どこかで聞いてる? ハートベルさん。ちなみにこれ、思いやりっていうか警告だから』
シズマ・キリュー
――一陣の風が剣士たちの間を吹き抜けた。
シズマの正体。妖刀の召喚体。寄ってくる邪な者を斬り捨てずにいられない内なる声と、そんな刀を生み出した稀代の刀工が回想で語られる。自分を呪われた存在と考える彼の独白。
上に引用したテキストがとってもかっこよく(厨二っぽく)この場の二人を彩るのに、「己の出自を自覚した今――あなたは、迷いなく剣を振るえるはず」というセリフとともに、『With Yours』が流れるのが見逃せない。ベルカの見せ場に呼応するかのよう。竜を斬るのにはまだ自分の実力は少し足りていないと、目の前の最強の剣客を自身が強くなるための糧に、『砥石』に使う。
目の前の敵を倒すために、立ちはだかる強敵を倒すために、どこまでも自分本位で身勝手にみえる、ベルカの純粋な意志。彼女の前作の見せ場は毎回のようにこの音楽が"魅せて"くれたから、ああ、やっぱりこの流れにはこの音楽しかないよなとベルカ最推しとしては納得しかなかった。
「あなたの本質は刀。何事も、斬ることでしか理解できない。だから、私の剣に込めてあげるわ」
そしてただ強くなりたい、というだけではない、斬り合うことで伝えられものがあるかのようなこのセリフによって、二人の戦いが戦い以上の意味をもつ。
私の砥石になりなさい、というセリフと、笑顔で剣を振るう一枚絵。作中何度も出て来たけど、この瞬間のためのような構図と表情。BGMがいったん止まっていたのが、『Everlasting Shine』に変わる。前作を、ギメル戦のように激しいバトルを思い起こさせる演出が……熱い。
「輝け」
「俺という名の……哀れなる刀工の遺志」
「《飯綱我々灯篭仁華》」
イズナカカトロニカ。ここでは抜刀だけど、鞘とともに刀を縦に構える一枚絵は毎回引き込まれる。渾身の一閃。どうやって斬ってるのと決してツッコんではいけない、独特な構えから繰り出される一筆書きの斬撃もやたらカッコいい。
レイ先生から剣技を学ぶ回想を挟み、修学旅行とセリフに出てくるとおり、強敵から貪欲に"学ぼう"とするベルカ。アレキサンドライト。宝石と初めて刃を交わし、自身が研ぎ澄まされていくようだ、というシズマ。
「文字は読めん。人情も知らぬ。だが……人を斬ることにかけては譲れん。散れ」
一閃。――ハチドリ。
己の剣を穢れとしか思えず、穢れなく磨かれたベルカの剣への嫉妬が、これまでの妖気の総量をもって清算しようと放たれる。(るろ〇に剣〇の九頭〇閃みたいだと思っていたら、BL〇ACHの千〇桜に進化しててちょっと笑ってしまった。)
渾身の奥義にもちろんベルカもただでは済まないが、致命傷になる斬撃のみに集中して凌ぐ。作中でもほとんどのキャラを圧倒していたシズマの最強の技すら超える、彼女の自負。
まばゆいアレキサンドライトの裏側には、無数の血と汗水が滲んでいる。ベルカにはその自負がある。
前作の一心に剣を振るう姿が重なるから、ここのテキストは堪らないものがあった。
そして斬り合いを通じて刀匠のこめた本当の意志を見抜く。妖刀ではなかった、穢れを引き寄せ、穢れをすべて斬り伏せようとするシズマの本質。ジェットの宝石。破邪の意志。世の中から邪がなくなるまで永久に満たされない、呪いと表現されるアイデンティティ。
自分の本質をようやく理解した、シズマが水に横たわるような一枚絵が美しい。
――まだよ。ずっと満たされなかった想いが晴れていくような、勝ち誇ったような顔をしているとセリフにでてくる彼に対し、ベルカも自身の成長をぶつけるような奥義を放つ。
BGMが『Fate Crystally』に変わる。前作のここぞという音楽たちが詰め込まれる、贅沢で豪華な使い方。まだベルカのターンであることを主張しているよう。
黒色に散る燐光となって、空に舞い上がっていった。
決着。燐光となって舞い上がるというテキストと青空の背景絵によって、彼の想いも含めて解決したことが視覚的にも語られる。
たくさん学ばせてもらったと礼を言うベルカのセリフ。彼女が成長したことが伝わる。BGM『Prism Overload』も良い。
そして何といっても白背景に黒色の燐光が散る、後ろ姿のベルカの一枚絵が強烈に目を奪う。戦いの終わり。すっきりとした悔いを残さない成仏。美少女ゲームでもあるのに表情すら映さない、背中が魅せる屈指の一枚。
休んでいる暇もないと言いながら、次なる強敵に、電蛾竜という邪悪に立ち向かおうとするところで場面を閉じる。
どこまでもひたむきに剣士としての強さを求めるベルカの物語。前作のライトセーバー?から破邪の刀にパワーアップするこのイベントは、最後のテキストによっていっそう魅力的なものになっていた。
――刀を握る。
その銘は破邪の聖剣・静巻竜。
「――さあ。望みを果たしにいきましょう」
アレキサンドライトの残光が、薄明の向こうへ溶けていった。
ジークリンデ・ジェローム
『――幸あれ。親愛なる徒たちよ』
すべてのサンダーバードを依り代に神が現界する。
生前、人間であった頃の気配さえ声に滲ませながら……彼女は幽かに微笑んだ。
少し手前のセリフ、――私の声が聞こえるか? の部分で、一度BGMが消え無音になる演出。静かな中で語られるジークリンデとして始まった人間の、神に、雷神レシェフとなった所以。唯識に至った、神となった存在を前にした、厳かさみたいなものもちょっと感じられる。
そして、――幸あれ、からBGMが『Divine Vortex』に変わる。前奏からふつふつと盛り上げ、そしてくっそかっこよい音楽が否応なしに闘いの渦中に引き摺り込んでくれる。
幸福。全てのヒトにあまねく与えることによるシンプルな解決策。巫女の頃の回想、雷神に至るまでの彼女の物語をとおして人間的な動機も語られる。他者と心を通わせたかった、と素直にセリフに出てくるとおりその想いは純粋で、エレクトロンを自在に操り世界全体から不幸を消し去ることこそ正しいと信じて疑わない、身勝手な意志。前作から続き、敵役こそ意志にゆるぎがないことにも説得力がある。
神に至ったにもかかわらず、しかしだからこそ、シャーロット先生と瓜二つの顔で想像させる、……彼女は幽かに微笑んだ、というテキストがたまらない。
『――轟け、我が唯識』
『《我、千夜一夜の楽園にあり》』
トルマリンナイツアルカディア。唯識のルビによるタイトル回収。
彼女の立ち姿と指先に渦巻く雷光が美しい一枚絵とともに思いっきり引き込まれる。続く、唯一の使命というセリフに、前作ギメルの『宿業』を思い起こさせるようなその強大な意志に、がっちり心を掴まれてしまった。
『この深淵なる不毛の地を楽園に変える。それこそが、雷神レシェフに与えられた唯一の使命!』
オフィーリア
――神鳴りが下る。――僕という依り代目がけて。
成功するはずのない受肉。
だから――今こそ。
僕らの約束を、果たすべき時だ。
「――いくよ。オフィーリア」
人間の脆弱な体でも構わないと無理矢理受肉しようとする。シャーロット先生の加護も万全ではなく絶体絶命のピンチにみせて、このタイミングで流れる主題歌『君とのミチシルベ -Eternal Hope』。鳥肌モノだった。
ジークリンデが唯識で求めたもの。オフィーリアが意志の力で実現したかったもの。ソーマの旧世界の断片に触れられるほどの『記憶』の強固な意志。意志の礎となったことも、アリアンナを助けてくれたことも。僕は決して、忘れない、というソーマの独白。ここまでの物語がすべて収束していく流れ。
『ジェイス――泣い、てるのか……?』
「ああ……なんでしょうね、この、気持ちは」
「先生が……僕らに託して逝った気持ちさえ……わかる気がします」
この先の未来に、どんな醜い感情が生まれ、どんな素晴らしい意志が生まれていくのか。
この輝きのひとつひとつに、知らない誰かの人生と幸不幸が詰まっている。
オフィーリアを降ろしても宝石をすべて自在に扱えるわけではない。代わりに一つ一つの宝石に"変彩"させながら、未来に生まれるはずのその輝きを、不可逆に跨ぎながら発揮させていく。撃ち出した弾丸は二度と銃口には戻らない、というテキストに現れているように代償もあるが、当然のように躊躇しない。
先生のあの時の気持ちがわかる、といったセリフ。
未来に、この先に生まれる、醜い感情、素晴らしい意志。幸不幸が詰まった輝きのひとつひとつ。テキストで語られるとおり、ソーマが宝石をとおして実感する、その本質。ヒトの持つ、想う、希う、未来にあるべき輝き。それが「僕らに託して逝った気持ち」を教えてくれる。
オフィーリアという、万能となったアリアンナと同列の存在を出して、宝石の、意志の力をもたらした者によって、そこに込められた意味が表現される。前作の主題歌『君とのミチシルベ』のアレンジが抜群の効果を出していて、これまでの物語すべてが集約することは勿論のこと、この場面に、この瞬間に語られるモノを書きたいがために、前作と本作があったようなクライマックスがつくられる。
これだ。
この輝きこそが、真の礎なんだ。
テキストで語られる、前作のダイヤモンドの『超越する意志』も、死後の世界を失うというアンドロメダの万能の代償も超えた、礎の本当の答え。自分の死後であっても旅路は続いていると思えること。人を人たらしめる心の土台。
「――いいや。ある!」
「ヒトっていうのは不思議な生き物なんだ。自分のいない世界を想像して、そのために頑張れる性分なんだ」
――たとえ、己が散ったとしても。
――先に進んでいく、未来を思えば。
「それこそが――僕らの生きがいで、意志ってやつだ」
ノアとギメルの一枚絵をつかって、その先を、未来を想って行動するヒトの意志の輝きが表現される。ただでさえシャーロット先生が画面に出ていて、先生の気持ちがわかったというソーマのセリフがあるのに。前作のあの異種族の壁を超えるような感動的な演説も、心優しき吸血鬼の遺志にどこまでも寄り添う姿も覚えているから、その輝きに一点の曇りもないことが思いっきり説得力をもって伝わってくる。
そしてソーマが、サンダーバードに意志を撃ち込んでいく。抜け殻となってしまった彼らをヒトに戻していく、というテキスト。「私たちをヒトたらしめるのは四肢でも、知能でも、腕力でもありません」「意志です」。意志に、こころとルビが振られた前作のノアの演説の回収。大好きなセリフだったから本当に堪らなかった。この後の地上で電脳に囚われた人々に薔薇輝石を使うマークスのセリフにも、人を人たらしめる『心』が出てくる。
『私は知ってほしかったの。あなたに。地上にはもっと未知の輝きで溢れているんだって』
人格と唯識は別物。ジークリンデを、信者から、育ちすぎた深層(ラビュリントス)から解放すること。オフィーリアたっての願いでもあった、というテキスト。
ここのオフィーリアのセリフもとってもよい。この先の、未来を思う、といった言葉が使われているが、それらが『未知の輝き』と再度表現されることで、『発見』の意志ともつながっていると感じられるから。
無限の『意志』を撃ち込むことで――僕らは彼女に味わわせる。
いつか、どこか、遠い未来の知らない場所で、こんな感情を抱く人々が生まれていくんだと。
だから――
「未来の道しるべをあなたに、刻んでやる」
「――わたしを……一人のヴァンパイアに、戻してくれる?」
「ううん。いい。わたしは……アリアンナ・ハートベルとして生まれた自分に、誇りを持っているから」
「わたしは、わたしに降りるよ」
画面は地上に変わり、流れる音楽も『Prism Overload』になる。あたしの護りたかったもんがそこにあるというシャーロット先生のセリフ。静巻竜によって電蛾竜を倒したベルカ。それぞれの役割を果たすペガサス組の面々と、カーラ、プリリッコ、ルクリナ、イルザ、マスター、ミリア、全員の活躍を映していく。
そしてペガサス組全員に決断を相談するアリアンナに、当然のようにアンドロメダを失うことに同意するみんな。背中を押すようなそれぞれのセリフもよい。
わたしは、わたしに降りる。ジークリンデとの対比。万能という途方もなく大きな力を失うのに、物語がしっかり効いていて万能に頼る明日を否定できる説得力と、世界の終わり程度ならものともしない仲間の絆が感じられるから、ちゃんと前向きな表現になっている。
「うん。わたしは……アンドロメダさんを捨てて、自分の足で歩いていくよ」
「――バイバイ。アンドロメダさん」
「わたし達と、世界を救ってくれて、ありがとう」
まばゆいほどに輝いていた翠緑の光に――影のごとき漆黒が混じる。
「《孤狼の爪》――僕らの仲間の、置き土産だ」
《孤狼の爪》=ローンオニキス。地下での戦いに戻る。前作よろしく大事なところはまた孤独の意志がもっていく。ヴェオを倒してしまい勝者としてその能力を宿したことが、サンダーバードという信者を失い、地上の人間全員の生体電気から給電しようとした、彼女を衰弱させる。
『希望』の運命=シナリオ、《天馬翔ける普及の未来》を撃ち込むソーマ。ジークリンデが持つことができなかった、まだ見ぬ未来への希望、というテキスト。唯識が剥がれ、人間へと戻り本来の寿命を全うする。
『…………これが、最期か』
『あっけない……ものだ。戻って……しまったな……ちっぽけな、人間に』
『……最期なのかどうかも、まだわからないわ』
『もし、本当に、死が単なる終わりなのだとしたら……人が未来に想いを馳せることないはずよ』
修学旅行
「だったら……またいつか、どこかで会えるかもしれない」
『…………』
人間と唯識が別個に切り分けられるものだとするなら。
観測者と化してしまった彼女にだって、いつか役目の終わりが訪れてもいいはずで。
『――ええ。わかった。その言葉……覚えておくわ、蒼色の青年』
オフィーリアとの別れ。ただ、時間を超越する彼女とのやりとりは再会の期待も抱かせる。
シャーロット先生との別れも。最後の一言が何とも先生らしい。
『《メデューサ》との戦いも――全部みてたぜ。よく頑張ったなって、伝えとけ』
一日経った後に、地上に戻ってきたアリアンナ。彼女の独白は『自分の足で』『みんなと』という言葉が出てきて、翼を失ってでも一歩を踏み出していることが感じられる。これに『With Yours』がハマっていて響くものがあったシーン。
この後のソーマを掘り出して見つけるミリアの笑顔も◎。
そんな折、ふと誰かが呟いた。
――「進路、決まった?」
物語の結末。飛べなくなったことを伝えるアリアンナ。岩場で寝転がる六人。前作のラストが綺麗に収まっていたからどうまとめるのかと思ったら、この何とも修学旅行らしい流れになっていって上手いなと思ってしまった。
進路の話が出て音楽が『With Yours』に変わる。夜空を背景にした仲間での語らい。近づく卒業とお互いがお互いに、らしい進路先を述べていく。仲間って感じがとても伝わってくる、印象的な場面だった。エンドロールで、みんなのその後の活躍が描かれるのも嬉しい。
「……帰ろうか」
「フリギアへ――僕らの、ジュエリー・アカデミアに」
時が。場所が。いくら離れていたって。
僕らの、意志の輝きは、どこまでも繋がっているはずだから。
この先にずっと、いつまでも……未来という礎は広がっている。
それこそがきっと、僕らにとってのアルカディアになると信じて。
琥珀色の乙女
「そう――まだ、暦が琥珀であった時代の、旧い一冊の本」
薔薇の少女は、お兄様というセリフが出てきて姿もそっくりなので、亡くなる前の、アカデミアに行く前のノアかと思ったけど、どうもセリフからすると、暦が新しくなるくらい未来の様子。
手紙の相手、琥珀色の乙女。一緒に学ぶことを匂わせるセリフ。オフィーリアの生まれ変わりだろうか。暦の変化が役目の終わりだとすると、彼女が人間に降りたことを示唆しているといえそうだし、アカデミアがソーマ達の時代から引き継がれたものであったらなお嬉しいと思った。
そして、薔薇の少女が書いた旧い一冊の本。ソーマが進路について話していた際の、自分たちを書き記したものではないかという別の方の感想を見てなるほどと思ってしまった。薔薇の少女がレオンシュタイン家の縁の娘だとするとソーマの書物が引き継がれていることの説明になるし、この娘を通じて琥珀色の乙女がこの書物と出会うということかもしれない。
オフィーリアとソーマの再会がこんなお洒落な流れだとしたら、素敵すぎる。
「新たな学び舎でお会いできたら――ぜひ、このお話の続きをいたしましょう。琥珀色の乙女さま」
「では、私はこれにて。言葉多きは品少なし――とも言いますから」
「明日も。その先も。未来という礎が、ずっと続いていきますように――」
総評
上に書いたもの以外にも熱い展開・戦いがたくさんあった。
ルクリナ。石化現象の裏側。ペガサス組の否定。分裂した自らを躊躇なく退場させる、徹底した意志。
カーラとダイヤ組。また級友を失ってしまったと、よりによって自らの能力で手をかけてしまったとブチ切れる姿は心を掴まれるものがあった。
プリリッコも取り締まる立場ながら、過去の回想も使いつつ国境警備隊に志願した想いによって行動を変えていく見せ方が印象的だった。
戦闘シーンの演出、一枚絵の見せ方や画面の使い方は前作より相当進化していて、アップや引きを上手く使うことにより単調さがずっと減っていてとっても楽しめた。おそらく場面を取捨選択していてフォーカスするシーンを限定していることによる読みやすさもあったと思う。ただし、頻繁に場面が切り替わるのは一長一短だと思ってしまった。
バトルの内容も単なる殴り合いやセリフのやり合いで強さが決まるのではなく、能力をどう使うか、機転や頭脳戦のような展開が前作より増えてるイメージで面白かった。
システムも、セーブ数の上限を増やせるようになっていて遊びやすくなっていた。
相変わらず音楽が思いっきり盛り上げてくれる。大事な場面で無音の時間をつくり、そこから新しい音楽を出す聴かせ方は何度も引き込まれた。戦闘曲はどれもいい。『Burning Electronica』『Criminal Survivors』『Grimr Fairytale』『Noctuid Explosion』。特にレシェフの唯識とともに流れる『Divine Vortex』は入り方含め大好き。
二つの主題歌は上に書いた通り。OPが入り方も画としてもすごく引き込まれるものになっていて、これらの主題歌はとっても印象に残った。
そして、挿入歌。旧世界記憶の回想で流れる『星の消えた日』も、オフィーリアを降ろすときの『君とのミチシルベ -Eternal Hope-』も、神がかったタイミングだった。特に後者は前作からの話の流れを想起させる、非常に大事な曲だったと思う。
ED曲『Iridescence』もしっかり沁みる感動があった。
作品の世界観をひっくり返す大きなどんでん返しこそなかったものの、予想外の展開、伏線回収がはまったときの気持ちよさは健在で、能力や正体が明かされるシーンが際立っていた。背景設定も作りこまれていて、自然界の四つの力を持ち出したり、人間スケールでは電磁気力が広範な事象に関わっていることをつかったり、読み手側のリアリティも、SFっぽさもあり、フィクションとしての要素も勿論ありつつも作りが丁寧だと感じた。
前作のラストを生かし、続編としてさらに発展させた内容。特に雷神レシェフとのバトルでオフィーリアを使い、意志という宝石が生まれた意味と、万能の代償でも電脳によっても否定された『未来』に対し、『未知の輝き』という答えが秀逸だった。作品全体をとおして、ミリアの『発見』の意志が、諦めずに見つけようとする意志が、重要な要素として感じられるのもとってもよかった。地に足をつけ、というじっちゃんのメッセージも翼を失ったアリアンナと彼女のエンドロールの絵によって表現されていると感じる。
世界の終わりという大事件に引き込まれ、いつの間にか頭から抜けていた修学旅行という設定によって、ペガサス組らしく幕を閉じたのも大好きなところ。
期待していたジュエハらしい仲間の描き方。新ヒロイン、特にミリアをつかった意志の輝きの見せ方。そして期待を超える、意志の力が生まれた意味を描いた物語としての収束のさせ方。大満足の続編でした。