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lagrangeさんの機械仕掛けのイヴ Dea Ex Machinaの長文感想

ユーザー
lagrange
ゲーム
機械仕掛けのイヴ Dea Ex Machina
ブランド
ninetail
得点
90
参照数
945

一言コメント

ソフトハウスキャラが華麗に生まれ変わったら出しそうな作品。経営SLG的な淫具開発と、派生する豊富なシチュエーション。出来の良いカードバトル。それぞれが上手くシナリオに結び付けられている。多くを望み、それをほぼ成し遂げた、一つの手本。

長文感想

システム       3/5  一通りの機能はあるが、既読スキップがないのが非常に痛い。
音楽         10/10 バトル時の音楽(十種類以上ある)とシリアス時の「孤独」が没入度を高めている。全体としても高品質。
グラフィック     7/10 料理や服装など、妙に凝った部分もあり。立ち絵は一部古風だが一枚絵はOK。
ゲームコンセプト   10/10 テーマの明確な世界観とSLGとバトルが上手く融合し、それぞれが高レベル。見事。
キャラクター     14/15 サブキャラクタは男性・女性ともに熱い。ヒロインの一部は目立たない性格だが、代わりにイベントがメリハリを付けている。主人公は物腰柔らかな、不屈の天才技術者ながら、淫具が絡むとドSに一変。
シナリオ展開     18/20 後半のイベント量が少ないルートもあるが、全体のテーマに上手く乗っかっている。
テキスト(台詞回し) 18/20 第三者視点の状況描写文が突っ込み役なのが特徴。平易な表現で理解しやすく、それでいて盛り上げ方は上手い。ただし、誤字が多め。
特別評価       10/10 コンセプトと音楽に加点。
計 90


このゲームの舞台は少数精鋭、誰にも負けない技術力を持つ、日本の町工場のような会社。
ゲーム自体からもどこか職人的というか、手を抜かなかったことが伝わってくる。


まず、ゲームバランスが素晴らしい。

一つには経営SLG要素。限られた予算をやりくりして、淫具の開発を行う。研究や設備投資、時には警備訓練も必要になる。サポートに入る人によって効果が変わったり、競争相手のシェアを奪う、という考え方も面白い。
どのシナリオでも勝利条件があるわけだが、「手を抜いたらダメだが、セーブロード必須ではない」という良いさじ加減。

もう一つがカードバトルだ。
これもかなり良く出来ている。頑張って何回か挑戦するうちに勝てる、というバランス。(鍛えていればある程度楽になる)
やや運の要素が強く、通常攻撃に比べて必殺技の威力が高すぎる感じはするが、クリア後のおまけであるバトルモードは楽しませてもらっている。
なお、レベル引継ぎや戦闘スキップ機能があるので無駄に何周も戦う必要はない。


次にエロだが、これも力が入っている。
開発した淫具が濡れ場に直結しており、種類が多い上(75種)、それぞれがちゃんと書かれている。
とんでもない効果のものが多く、良く考えたなと思いつつ、どうなるのかと読み進めてしまう。
これだけで量としては、May-Be SoftのSixty-Nine系に匹敵している気がする。
多くは道具が絡むわけだし、主人公が基本的にSになることもあって、ちょっと特殊系に偏ってはいるが…。
基本はおバカなノリで、日常会話にも一部影響して笑いを生んでもいる。


そしてテーマ。根底はSF的であり、「作られた知性」であるヒロインが多く登場する。
これだけ言うとありふれたテーマかもしれないが、出来は意外に良い。
(シナリオ展開よりも文章力の影響が大きいか?)
特に、「作られた知性」同士の友情・愛情もかなり描かれているのが印象的だった。「人と人でないもの」の交流ももちろんあるのだが、それだけでは物足りないと感じていたところだったので、この部分は特に評価したい。
特にファムのルートはとあるアシモフの短編SFを思い出させられた。

シナリオ全体としてみれば、伏線も張られ、ルートごとの起伏もある。
細かい齟齬やツッコミ所もあるのだが、全体として「燃えゲー」の要素があり、読ませる力がある。
出来の良い音楽と合わさって、かなりの感情移入力を持っていると思う。


要約すれば、このゲームは稀有である。
SLGとしてのゲーム性。カードバトルのバランス。しっかりしたテーマ。展開も燃えあり笑いあり。質量ともに見所のある濡れ場。
それぞれ一つの要素だけを取ってみれば、これより優れたゲームはいくつもある。
しかしこの全てが並立し、(完全とまでは言わないが)上手く結びついているのは、高く評価されていい。

なおおすすめ攻略順は、樹里>燈子>ファム>ティエラ。