バグは一切考慮せず、純粋に作品のみを評価した点数。評価が低かったり中古価格が暴落したのはバグのせいだけではないと確信した。システム面はもちろんのこと、シナリオも今までのSORAHANEからは考えられないような作品。正直、完全に一万円をドブに捨てたと感じてしまった。
予約購入しましたが、重大なバグのせいでプレイを見送り、11月にパッチ3.1が出てからようやくプレイを開始。その時点までは、シナリオはいいだろうにバグのせいでこんな評価になってしまってかわいそうだな、などど甘く考えていました。
しかし、シナリオを読み進めるにつれ、それが誤りだったと思い知りました。そもそもさして特徴の見えないあらすじの時点でほんの僅かながらも不安感はあったのですが、そこはこのブランドのことなのでよいシナリオに仕上がってくるものだと信じていたのです。しかしふたを開けてみれば、ブランド過去作とは似ても似つかぬような陳腐かつ手垢にまみれたような展開がどのルートにおいても繰り返される惨状が広がっていました。シナリオゲーとして世に出された本作ですが、萌えゲー、絵だけゲーでも許されないようなシナリオが全ルートにおいて書き連ねられます。
全ルートを終えて感じたことは、ブランドカラーである「死生観」というものに捉われすぎたのではないか、ということです。そしてその「死生観」を表現するにあたり、何か超常的な現象・存在を一切登場させず、過去作とも被らないようにヒロイン四人分の物語を綴じるということが、それを非常にハードルの高いものにしてしまったように思えます。そのような条件下において綴られる物語は、必然的に大切な誰かとの別離・それの克服。という点に帰結してしまいます。それを掛ける四人分ということは、当然ながら既視感のある内容、かつどのルートにおいても似たり寄ったりな展開、ということにしかなりません。
何も無理に死生観やらなんやらを盛り込まなくてもいいのではないか、と思うのですが、この作品にはもうひとつテーマが存在します。それが「家族」なのですが、このテーマは本作においてマイナス要素しか与えていません。詳細は後述しますが、この「家族」要素のせいで物語がより陳腐かつ読み手の心情と乖離したものになってしまいます。
以下、各ルートごとのネタバレにならない範囲でのあらすじと感想。
七海 結衣
最も死生観の割合が少なく、家族の割合が多いのがルートなのですが、このルートがおそらく作中でも一、二を争うひどさでした。アダルトゲームでは幾度も見かけてきたような光景の後、唐突に過ぎる展開、そして取ってつけたようなハッピーエンドと、シナリオゲーの欠片もありません。エロシーンにオナニーが一回あったことだけがせめてもの救いでした。
白羽 心音
無理矢理に死生観を盛り込もうとしてしまった結果、わけの分からないことになってしまったルート。心音の謎なトラウマが謎なタイミングで発動し、心音の父親の言動も色々と謎で、トラウマが解消される経緯も謎という謎だらけの話。読み手を置き去りにしたままよく分からないハッピーエンドが訪れます。野外でのおしっこがあったことだけがせめてもの救いでした。
泉 雫
無理矢理に死生観を盛り込もうとしてしまった結果、わけの分からないことになってしまったルートその二。雫の大切な人との別れを主軸にして物語は描かれますが、見ている側としてはやや冷めてしまいます。人間である以上、誰しもに別れは必ず訪れるものであり、それを雫のようなある程度年端のいった少女が受け入れ、乗り越える、というのは意外性に欠けているため、かなりの力量がなければ厳しいことであると思います。
また、このルートではあくまでも雫を主点にしてそれが紡がれるため、感情移入がしづらくなってしまっています。別離と新たな旅立ち、また別離までの瞬間を描いた作品は過去に多くありますが、それらのほとんどは主人公とヒロイン(ないし主人公と対になる人物)を軸にして組み立てられています。そうすることで読み手は物語に感情移入しやすくなるわけですが、このルートでは前述のような描き方をされているため、主人公、ひいては読み手がかやの外に置かれているような感覚に陥り、感動よりも「その程度のことでそんな泣き喚くなよ」という思いの方が先行してしまいます。
レイプ目(立ち絵のみ。レイプ的な要素はゼロ)が見れたことだけがせめてもの救いでした。
水城 はるか
おそらくはメインヒロインである彼女のルートですが、あらすじからも大方の予想がついていたように、兄妹の物語です。ところがこれが陳腐にすぎます。兄妹で付き合っていることを友人たちに報告すると、主人公の親友は激怒して主人公を殴ります。いわく、「何で言ってくれなかったんだよ。俺たちを信じてくれてないのかよ」。そういう展開をさせたいならストレスレスな萌えゲーを作ればよかったのではないか、と思ってしまいます。主人公に優しい世界を、シナリオゲーには求めていません。
挙句の果てには兄妹で結婚式を挙げ、妻だとか夫だとか言い出すので、噴飯どころか気持ち悪くて吐きそうになります。何の悶着もなく、周囲は兄妹の恋愛をすんなりと受け入れてしまいます。最終的にはそこで筆を置くとしても、もう少し困難を設けてもよかったのではないでしょうか。苦労もなく訪れるハッピーエンドでは、得られるカタルシスも相応のものにしかなりえないのではないかと思います。
はるかのオナニーがあったのがせめてもの救いでした。
グランドルート
はるかをメインに描かれる、もうひとつのはるかルート。これがまたどうしようもなくひどいです。一応核心部分なのであまり言及しませんが、どうしようもないです。散々あれこれひっぱったすえ、結衣ルートを彷彿とさせるとってつけたようなハッピーエンドで物語は幕を閉じます。ハッピーエンドが好まれる風潮を考慮したのかもしれませんが、それは萌えゲーなどにおける話であり、SORAHANEのようなメーカーの作品には、シナリオを突き詰めた上でのアンハッピーエンドであれば、そちらの方が評価されたのではないでしょうか。
重大なバグも含め、総じてクオリティの低い出来でした。絵はかわいいですが、他作品と比較して飛び抜けているわけでもなく、エロが特段濃いということもない。シナリオはライターとブランドの実績からは考えられないような粗雑さです。好きなメーカーの作品だけに、とても残念でした。次回作がもしあるならば、購入はよく検討してからにしようと思います。