たしかにもうちょっとHシーンは欲しかった。桜子ルートが一番好きで、茉百合さんが一番好き。
桜子ルートは、世界を移動してからの話だけで考えると、病人とのラブストーリーの典型だけど、晶が違う世界で経験した桜子との恋愛が持ち込まれることによって典型じゃなくなっている。
病人モノの典型は、このひとがもしかして死んでしまうかもしれない、そんな人物を本当に愛せるのか? という、愛の強さを描くものだ。晶も実際、桜子が死んでしまう、ということを聞いて葛藤するが、それは本当に愛せるのか? という葛藤ではない。晶にはすでに(違う世界で)愛したという経験と、世界移動のときに起きた喪失の感覚があるので、本当に愛せるのか? という葛藤ではない。それよりも大事なのが、本当に愛してもいいのか? という葛藤だ。晶が桜子を愛することで、桜子は自分が死んだときに晶が悲しむかもしれない、と思うだろう、それが重荷にならないだろうか、という葛藤だ。でも晶は父親との会話がきっかけで、大きな愛で桜子を支えることを選ぶ。
そして(その愛で)桜子は手術を耐えきる。だが、晶のほうは、唯一の肉親であった父親が死んでしまい、失意にある。手術を耐えた桜子が今度は晶を支えようとする。お互いを支え合う恋人になるのだ。
実は桜子の心臓のドナー提供者は晶の父親である。晶が桜子を愛で支えようとしたきっかけは父親だし、桜子が生きられたのは父親の(心臓の)おかげだ。ふたりはお互いを支え合うことになるが、その支えのきっかけは父親の置き土産だった、というちょっと感動的なオチだ。だから、最後が父親の眠る墓でのプロポーズなのだ。