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kurobekoさんの月に寄りそう乙女の作法の長文感想

ユーザー
kurobeko
ゲーム
月に寄りそう乙女の作法
ブランド
Navel
得点
96
参照数
1364

一言コメント

私の理想とするSキャラと女装物の魅力の2つを体現してくださったお優しいルナ様に感謝を。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

1.全体としての評価
 王雀孫と鈴平ひろの名前で即座に購入を決定したが、その期待通りのクオリティであったと思う。誰がどの部分を書かれていたのかはわからないが、ところどころに「俺たちに翼はない」と似たような独特のノリを感じ、気持ちよくテキストを読むことができた。また、りそなやサーシャなどサブキャラクターも魅力的であり、個々の会話まで楽しめた。
 ルナ様のルートは、私の考える女装物の魅力と、Sキャラの魅力をどちらも兼ね備えていた点で素晴らしかった。私が過去にプレイして来た個別ルートの中でも5本の指に入る出来である。ユーシェも非常に可愛かったですわ。しかし、この2ルートと、瑞穂・湊ルートとの間にかなりの差を感じてしまったことが残念でならない。また、瑞穂がルートによっては邪魔に感じてしまうこともあり、もう少しルートごとの態度に配慮してもらえなかったものだろうかと思う。詳細は個別ルートごとに。

2.湊ルート
 あまり印象に残っていることがない。主人公及び他のヒロインは、「服飾」をめぐってのストーリーになるが、湊の場合は家の問題を軸にストーリーが展開する。湊というヒロインの立場の特殊性に鑑みればそれ自体はかまわない。しかし、メイド喫茶が唐突すぎるし、最終的に帰ってくるとはいえ、主人公が「服飾」を捨てる際の描写があっさりとしすぎているような気がする。そして、このルートでは兄との確執が解消されないままである。
 湊のキャラクターに関しては嫌いではないのだが、どうもシナリオ全体として納得ができない部分が多くなってしまった。

3.瑞穂ルート
 女装物では一番ヒロインとの間に問題が大きい「男嫌い」のヒロイン。
 このルートについては、主人公の性別がわかってからの対応にどうしても不満を感じる。「男嫌い」のキャラが同性だと思っていた主人公が男だったと知ったのであるから、最初は拒絶するのも無理はないと思う。
だが、「男嫌い」という大きな障害を設定するのであれば、そこを乗り越える過程をもう少し示して欲しかった。結局、性別が露見した後、直接に言葉を交わすのは、ストーリーにおける山場であるフィリアコレクションの後であり、それに付随する形でなんとなく解決させているような印象を拭えない。
ただ、瑞穂ルートに関しては、「男嫌い」という要素が、そもそも後述する私の中の女装物の魅力と抵触する部分があるため、必要以上に悪い印象を持ってしまっている部分があるかもしれない。

4.ユーシェルート
 大きな「才能」に対して、「2人なら立ち向かえるよね」というルート。話としてはありがちだが、こういう話は好みなんですの。
 ストーリーに関しては、特にここが素晴らしい!というわけでもないけれど、何の不満もなく、ユーシェの可愛さもあり、全体として満足できた。ユーシェをツンデレと呼ぶのが適切であるかはわからないが、強がってみせる理由と、ユーシェの芯がきちんと描写されていて、ただ高笑いしているだけのキャラにはない深みがきちんとあった。
 そして、その描写がなされているからこそ、甘えん坊なユーシェがとっても可愛いんですのおおおおおおおおおおおおおっ!!!!

 フィリアコレクションのCGはすごくキレイだったけど、鈴平先生、あの衣装って「銀盤カレイドスコープ」の最後にタズサが着てt(ry

5.ルナ様ルート
 本当に素晴らしかった。詳細は、項目ごとにわけて述べることにしたい。
(1)Sキャラとして
 私は、Mである。ピンヒールで踏まれるとかそういう痛そうなのは嫌だが、基本的にSなヒロインにからかわれたり、足で(自主規制)されるのが好きなMである。しかし、ただ理不尽に虐げられることは好まない。
 Sなヒロインにいじめられ、それに身を委ねることができるのは、そのヒロインの根底にある優しさと愛情への信頼があるからである。それがあるからこそ、表面上は虐げられてるように見える行為に喜びを感じることができるのだ。
 この点、ルナ様は理想的なSキャラであると思う。ルナ様が強さと優しさを兼ね備えていることはすぐに見てとれる。そして、何度かにわけて語られるルナ様の過去が、その強さと優しさに、ストーリーの軸でありルナ様の強さの一つの根源でもある「服飾」が、朝日に対する信頼にそれぞれ大きな説得力を与えている。
 だからこそ、ルナ様が朝日に行うS行為に喜びを感じるし、こう思うことができる。
「あぁ、ルナ様、もっといじめてください…。」と。
(2)ルナ様の見せる弱さ
 「強く優しい女性が自分だけに見せる弱さ」というのは、男にとってすごく都合のいいものなのかもしれない。だが、可愛いもんは可愛いのである。
 ルナ様は、とても強くて優しいが、共通ルートの中でも語られるように、どこか危うい。強くあろうとする意志と、人をあまり寄せ付けない態度が根源を同じくするからかもしれない。そして、そのルナ様が、「今は君だけだから、弱音を言ってもいいだろう?」と甘えてくれる時、孤独でいようとしたルナ様が「私の体と心で君に隠すべき場所なんてひとつもない。」と言ってくれる時。この瞬間に感じる独占欲と愛おしさは、一人パソコンの前で幸せなため息を深くつくことになるほどのものである。
(3)女装物として
 私の中に、女装物に限らず純愛ゲーにおける好みとして、「主人公とヒロインとの絆の強さが示されている」という観点がある。この点についての描写があるほど、2人の世界に強く感情移入できるからである。
 女装物というのは、その「主人公がヒロインに重大な隠しごとをしている」という性質上、この点についての描写がしやすいものであると思う。その隠しごとが露見するまでの間に育まれる絆・信頼、それらが説得的に描写されているほど、ヒロインが隠しごとを受け入れてくれる瞬間に見られる主人公への愛情の深さに感動を覚えるのだ。
 上述の通り、ルナ様の朝日に対する信頼と愛情は、「服飾」を通じて形成される。そこで育まれる愛情が揺るぎないものになっていく過程もきちんと描写されている。だから、「朝日」の正体が兄によって露見した時のルナ様の「だからなんだ。」の一言にカタルシスを感じ、また、2人の揺るぎない絆を確認してよりその関係性に魅力を感じるのだと思う。
 女装物では、その正体が露見する瞬間のヒロインの対応に、主人公に対する信頼と愛情が集約され、はっきりとそれが示される点が魅力であり、ルナ様は見事にそれを示してくれたと言えよう。
(4)百合っぽさ
 上記の、ルナ様の朝日への信頼と愛情が形成される過程で、ルナ様は「不純な関係は求めない」という。恋愛に偏見は持たないと言いながらも、いざ自分が同性に惹かれていることを自覚していくルナ様はとにかく可愛いのである。「不純な関係を求めたいんだ」というあの破壊力抜群の一言にたどりつくまでのルナ様の葛藤がとにかく可愛いのである。
 こっちは朝日の正体を知っているのに、百合モノを見ている気分になれてとてもよかった。百合好きとしても、非常に評価できる部分である。
(5)その他
 フィリアコレクション前に、ベッドの中でルナ様が抱きしめてくれてるCGがすごくキレイだった。自分の中で本作のベストショット。

6.総括
 不満に思う点もいくつか述べたが、総じて満足できるゲームであり、買ってよかったと思う。ていうか正直ルナ様ルートだけで十分金払う価値ある。ルナ様もっといじめてください。

 長いレビューになりましたが、ここまで読んでいただいた方がいらっしゃいましたらありがとうございました。