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koron08さんのシンフォニック=レインの長文感想

ユーザー
koron08
ゲーム
シンフォニック=レイン
ブランド
工画堂スタジオ
得点
93
参照数
769

一言コメント

雨が降り続ける街、音大が舞台の雰囲気ゲー

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

書けといわれた気がしたので感想を。プレイしたのは1年前くらいなので、ボヤがかかっていると思います。

まず、ネタバレなし感想。

雨が降り続ける街で卒業発表会を間近にした主人公クリスが、誰と発表会に望むか?という軸に沿ってストーリーが展開していきます。その折に、パートナーとなる女の子達の内面や自分自身の過去に触れていくことになるのですが、その心情の表れがこの作品の際立った特徴だと思います。癖があるキャラが何人かいて現実離れしているとは思うのですが、人間味があるというか、よく作りこまれているなぁという感想が出ざるをえなかったです。音大を舞台にしていることで、音楽は素晴らしいの一言。BGMは雨の音との呼応が良く、歌は本当に質が高く、物語にとっても重要な役割を果たしていた。また、絵についてもなかなか味があって良かった。この二つが合わさった独自の世界観がとても良かったです。


以下、ネタバレあり感想。

主に、トルタルートが印象に残っているので、ここをメインに感想を。ちょこっとファルさんも。思い出しながら、整理して書いていくので、既プレイの人は面倒くさい文章だって思うかも、申し訳ないです。

トルタとクリスは幼馴染で、クリスにとっては初めは近づき難い存在として描かれます。その理由は、クリスがトルタの双子の姉であるアルと恋人の関係にあったからです。アルは音楽の才能がなかったようで、音大には行かなかったために二人とは別々になっていました。そのため、クリスはアルのことを想うためにも、音大ではトルタとは心的距離を置こうと避けていました。アルとは、必ず一週間に一度手紙をやりとりしていました。この年月が約三年?

しかし、話を進めていくと、実際はアルが事故によって意識不明の状態となっており、クリスが心を閉ざしたために、トルタがアルの代わりとなって手紙をやり取りしていた、という事実が分かります。

このトルタの行動は、クリスを騙していると同時に自分を苦しめることにもなっていました。なぜなら、トルタもクリスのことを想っていたからです。
そして、個人的な問題場面である、"アル"の手紙を用いてクリスに,、恋人として自分かアルかどちらかを選ぶように、と誘導します。

アルが意識不明の状態であるにも関わらず、自分がアルの代わりとなり、このような選択をクリスに迫るのは、一般的に否定されるのではないか?と想うかもしれません。脱線しますが、私としてはやっていることは、途中に豹変するファルさんより、トルタの方が厳しいと思っています。というか、ファルさんは言われているほど悪女に見えないんですよね。豹変振りには驚きましたが、やっていることについては何も否定する所がないかと。クリスを利用するために近づいた、と言っていましたが、クリスへの近づき方は自然に見えたし、良かったらパートナーになりませんか?という主旨だったので、結局選んだのはクリスの意思です。だから、利用することが目的だったとしても、クリスとパートナーになった過程が自然であれば問題ないという意見です。名前忘れたんですが、クリスの男友達が裏切られたとか騒いでいたのは、別にファルさんは悪くないんじゃないかと思っています。ここら辺は私の読み込みが浅いかもしれません。

脱線しましたが、トルタは厳しい方法を用いてクリスに近づいたのにも関わらず、なぜ許されるのか、という点について書いていきます。

その理由は、三年という月日、想い人に"アル"の姿で文通していたことが、何よりも認められたからだと思います。一週間に一度送られてくる、アルの生活の様子なども如実に描かれていた手紙が、実はトルタが書いたものだったというのには素直に驚きました。手紙にはパン屋で働いていると書かれていたのですが、実際トルタが手紙に書くために、教室に通い学んでいた、という事実も受けいられる箇所だと想います。また、年に一度のナターレ?に毎回アルの姿でくるのも良かった。トルタルートのみトルタが来たんだったかな?クリスのため、またアルのために行動していたトルタが、自分のために行動した場面だったと思います。最初の方でも書きましたが、トルタとクリスは音大で、あまり接点のない生活をしていたんですよね。自分の想いを殺して行動していたトルタに感情移入してしまうために、許せてしまうのだと感じました。

このことは、トルタの歌の「秘密」にも表れていましたね。みつめていることさえ罪に思える、報われない思い、あなたに心を見せたいなどがとても分かりやすい。

トルタルートのテーマは罪の認識みたいなものだと思いました。トルタはクリスを騙している&アルに対する裏切りへの罪、クリスは忘れていることへの罪。この二人が、最後にアルのお墓で向かえたエンディングが良かったです。冒頭でも書きましたが、心情的なものがよく表れていたのが本当に良かった。トルタ視点になり、心の葛藤が見られる展開になったところは、話に奥行きが出て本当に面白かった。あと、初めて街に訪れる時の電車の中だったかな?クリスの「雨の音が聞こえる…」に対してトルタが反応する場面がすごく印象に残っています。

最後にちょっとだけフォーニについて。私的には、フォーニの正体がアルだったっていう展開はあまり好きではなかったです。グランドルートで、フォーニの歌声がなんとなく観客に伝わる点。目を覚ましたアルがフォーニの記憶を持っているっていう点がメルヘンすぎるかなって(妖精って時点でメルヘンですが)。
何より、発表会でトルタが、クリスとアルが共にいたっていう事実を知るところが最高に報われないと思う。トルタが精一杯手紙を書いたりしていたことはなんだったんだろうって…。アル生存ルートがグランドルートなのは構わないんですが、トルタの救済もして欲しかったな、という意見です。