10th anniversary の触れ込みにふさわしい佳作。そしてディレクションの勝利
pulltopに期待するもの全てが詰まっていたと私は思う。
pulltop作品は数作前から購入していて、
一貫したカラーを打ち出してくる姿勢に好感をもってきた。
100%満足という作品には出会ってこなかったものの、
記念作と銘打つからには、きっと裏切らない作品を出してくれると思ってはいた。
超大作というわけでない。
最近であればフロントウイングはあのような大作を記念作としてもってきたわけだが、
pulltopにその必然はないと思う。
たとえばボリュームから言えば、本作は前作「恋神」よりも少ないだろう。
そうではなく、物語としていかに感情移入できるか。
心の奥のどこかに、いつしかあたたかい、熱い光をもたらすような、
ヒロインたちの表情や声色から目が離せない、
そんなpulltopの良さを、思う存分に味わわせてくれている。
もっとも、そういったブランドカラーへの合致という面だけが、
この作品の良さではない。
ヒロインたちと主人公のこころの細やかな揺らぎを演出することに、
シナリオを中心に音楽、声優さん、CG演出が一体となって集中し、
徹底的に磨きをかけたと感じられる。
これぞ、ディレクターをはじめとするチームワークの賜物であろう。
「愛されて生まれた」希有な作品であると、確信する。
シンプルでテンポのよい展開がよかった。
「どんな話?」と問われれば、ありきたりな展開とも言えようが、印象的なシーンを出し惜しみしない。
そのことが、描かれた心情の色の変化をむしろ鮮やかに見せている。
Hシーンに至っても、通り一遍の内容にせず、
相当に濃く、練り込んだ展開のように感じた。
この点は、pulltop作品として出色だったように思う。
1回の中で、物語の流れのまま、ヒロインへの愛しさが増すための工夫をちりばめているため、
回数としてみれば2回ずつと少なめだろうが、実用性を含めた満足度は高い。
個人的には、好奇心と積極性は大好物です。
テーマとして一貫しているのは「自立」そして「絆」である。
主人公との距離感はヒロインごとに異なるが、
4つのパラレルなストーリーどれをとっても、地に足のついた課題解決と、周囲の自然な支えがある。
これは物語づくりにおける感情移入のための一つの典型とはいえ、高い安心感があった。
「自立」する起点は庇護、保護された状況から。
その状況は確かに幸せなこと。それも「絆」の為す業。
それでも、そこから階段を一段ずつ上るかのように
幸せな「絆」から離れていく。
しかし、「自立」の原動力は、実は
「絆」そのものだったりする。
「絆」が強ければ、それだけ遠くまで飛べるのかもしれない。
そんな物語に私は元気をもらった。
いつか、元気を失ったときには、きっと棚の奥から出してみることがあるだろう。
ブランドにとって重要な方々が相次いで籍を外れたようだ。僭越ながら残る方々、その他かかわった方々も含めて前途に幸運を祈り、また期待したい。
この幸せな作品をありがとう。
以下、こまごまと
・オープニング曲は、メロディはさすがの出来。詞が、作品にとてもよく合っていた。効果音も工夫していた。
・人物CGは、パッケージではインパクトが弱いように感じたが、本編では物語によくとけ込み、非常に好感をもった。
・声優さんは、どなたも熱演と言ってよく、どんどん引き込まれた。Hシーンも実用性が高かった。
・澪里ルートのシナリオの分岐直後など、若干違和感を感じた箇所があった点は残念。
・希ルートは「虫」を気にする方もいるようだが、彼らはキャラの引き立て、そして自立のきっかけを演出する小道具以上の扱いはなく、
私はそんなに気にならなかった。むしろ気に入った話であった。