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kokuyoさんの百千の定にかわたれし剋の長文感想

ユーザー
kokuyo
ゲーム
百千の定にかわたれし剋
ブランド
エウシュリー
得点
85
参照数
1314

一言コメント

言われるほどひどくないし面白い

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

言われるほどひどくはないような、というのが第一印象。むしろ今作はかなり好きです。
後文で触れますが、ちょっとした便利な仕様やシステムをきちんとプレイヤーに周知する工夫というのがあるべきだったかなと。素材集めにしろ戦闘にしても、全体マップで素材や魔物を見れるよとか、戦闘のコツとか。「直観的に操作しても気づけない部分」はストレスになりがちです。
ゲームバランスは「ダメージが跳ねあがって一撃で死ぬぞ、どうすりゃええねん」と思えますが、きちんとレベル上げして装備・アイテム類をそろえると意外なほど耐えます。私は攻略情報を見ないでお金コンティニューもせずにクリアできました。(コテエリル大橋の騎士とラスボスは何度か試行錯誤しました)
正史一周目を終えた後での感想になります。攻略の要点をまとめるとこんな感じです。

・レベル上げをしてアイテム類は最新のものにする。レベルが商品の更新フラグにもなってます。
・ステータス上昇(低下)は最大で五回まで重ねられる。強いボス戦では最優先で最大まで防御上昇を重ねる。
・フィールドではステータス上昇の戦技も使用可能なのでボス戦前にあらかじめ最大限まで重ねておく。(コテエリル大橋で有効)
・装備品には見切りや敵のステータス低下等の有能スキル付もあるので、攻撃力・防御力以外も一応見ておく。(特に固有武器)
・攻撃が強いボス相手には基本的に防御重視の陣形を使うが、数が少ない敵には瞬天陣で武器落とし(15%発動)×5人でそもそも行動させない等の戦術もあり。コテエリル大橋では攻撃力全振りの陣形を使う。

これらをふまえたうえで、ゲームシステムでの難点を挙げていくと

×戦闘を終了した時に戦闘不能のキャラは好感度が下がる、レベルが上がらない→イベント進行やショップの品ぞろえに影響する。
 装備品とレベルに気を付けていればあまり心配しないでいいが、いい加減にプレイしていると負のスパイラルになる恐れがある。たまに攻撃力の高い雑魚や最後っ屁で強力な攻撃をかましてくる雑魚がいるのもそれを助長する。しかしver1.02へのバージョンアップにより、好感度の処理・レベル差による経験値補正等に修正が入ってかなり遊びやすくなったのではないかと思う。

×序盤からフリーシナリオでなくともよくない?
 仲間全員が集まるまでは固定進行でいいと思う。仲間が揃いきらないうちに難しいマップに行けてしまうのが本作が難易度高いと言われる要因の一つじゃないかと。これが上記の難点と悪い意味でかみ合っているような気がする。それに序盤に仲間同士での会話が少ない理由でもあるよね。

×ステータス上昇の重要性がわからないとお金コンティニューゲーと化す
 ぶっちゃけゲームバランスについては、チュートリアルで全プレイヤー向けにステータス上昇効果の重要性についてこれでもかと強調してくれるくらいでもいいと思うんですよね。「あ、このゲームはバフが重要なんだな、使ってみるか。おお、クソ火力に対しても意外と耐えれるじゃん」と認識されるとだいぶ評価が変わるような気がします。


さて肝心のストーリーについてです。「英雄不在の物語」なんですよね。
いつものエウシュリーだと英雄がいて、立ちはだかる強大な敵を武力(あるいは持ち前の能力)で解決するのがパターンなわけです。英雄がいればトキーグ国王の圧政、王国騎士団の武力なんて覆せます。
(このあたりのパワーバランスは「闇色の隷姫」をやると実感できるかと。極端な言い方をすると一国の武力をもってしても神から力を授かった神格者や魔神を殺すのは難しい。それらに立ち向かえる能力を持つ英雄たちも同様)
ところが今回はそうではない。英雄がいれば、民衆は自立心を失う。別に自分が頑張らなくとも英雄がやればいいと依存していく。そうではなく自分たちが声を上げていくことが大事なんだと、そういう話なわけです。これが後の「神採りアルケミーマイスター」におけるミケルティ王国連合という都市国家の連合勢力の成り立ちにつながっていく。
これは逆にいえば、主人公たちが英雄性をもって民衆に受け入れられてはならないということでもあります。この辺はかなり徹底されていて、結局局地的な戦い以上のことはできない強さであると強調され、国の命運を左右する戦いでも目撃者はいません。敵の格も大半が騎士とかリムドラという下位竜くらいのものです。このあたりをスケール感の小ささと感じるか、テーマに対して真摯に向き合った結果と思うかは人それぞれかと思います。
しかし振り返ってみるとこれまでの作品は主に英雄等の超越者の視点に立ったものであって、力でどうにもならない立場・視点というのはあまり触れられてこなかったところなので私はこの点を評価しています。世界の大半は普通の人によって成り立っているし、その力(数の暴力・組織力)というのも無視できないほどに人間族の強みであるというのも触れられてきたのですが、じゃあその中核である民衆はどうなのっていうところがほとんど話題にもならなかったことなので。
このため総じて深紅衣の動乱が始まる前は草の根活動で地味なのですが、これらの活動が実を結んで一気に動乱が動いていくのは爽快で面白いと思います。

さて、個別のキャラストーリーについても上記のテーマを補完するような内容が多いです。人々・仲間がつながることで生まれる新たな力や関係性の大切さについての認識(シャルロット、ヴェラ、エルネス、セレストラヴィ)、神採りアルケミーマイスターにつながる職人集団の組織化・戦力化や伏線(ルーデンステルグ、ユイリ)、民衆が自ら声を上げることの大切さ(ソフィア、ロラン)、ただあるだけの力の虚しさ・何のために戦うか(アルヴィナ、アセリア)等の話はメインシナリオとのかみ合わせをしっかりと考えられたうえで作られているなという印象を受けました。
そして、民衆が声を上げていく物語の行きつく先で待っていたものは、声を上げられなかった力なき者の苦しみに最も近いところにいたセテア王女であり、彼女が王国崩壊の引き金を引いてしまった存在だったというのは皮肉なところです。
総括すると、テーマ性のあるストーリーに、魅力的なサブ(セドリック、ヴィオレッタ、無能に見えてツンデレで意外と有能なところもあるモブ貴族ズ、両面性のある市民たち)も取り揃えていて、この作品のそういうところが私は好きなんですよね。厳然たる身分差を強調しつつクソ王が下女を虐げて妊娠させる一方で、しれっと旦那のいる平民人妻が主人公相手に不倫を楽しむような一筋縄ではいかないシモの事情をこっそり並列させていくのも面白いです。孕んだらあの清楚な人妻は黙って托卵するんでしょうね。強い。

それと忘れてはいけない大事なことですがエロシーンは全年齢化にともなって全部回想にツッコむという雑な処理がなされています。これは残念な点です。イラスト・シチュエーションともに実用性は結構あると思うのですが……。後で見るとなんだっけこのシーン?と思い出さないといけないんですよね。次回作では是非とも改善するべき点かと。

9/27 追記
ゲームとしては神採りからお店経営を差っ引いてSRPGをRPGとして仕立て直したものになります。その観点から言って一つ難点を上げておきます。
神採りではマップにあらわれるモンスターは固定なので、素材収集は根気が必要でもどれだけ作業すればよいかわかっていました。しかし今回のモンスターは確率による出現ですので素材収集のために調整が必要かと思います。
レベルやストーリー進行によってダンジョンマップで登場するモンスターが増加するという仕様があります。それで、おそらく初期配置のモンスターの中で出現率が低いものはそのしわ寄せなのか相対的に出現の確率が下がってしまっているように感じます。特にローパー類が出てきません。この辺はドロップ素材のことも考慮して、特定のマップで特定のモンスターを出やすくするとか、確定で戦えるようにマップ上に配置する等してほしいです。せっかく、快適なオート戦闘を実装しているのに、小一時間粘ってローパーがニ、三体しか出てこないとかかなりの虚無を感じます。