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kokuyoさんの星の乙女と六華の姉妹の長文感想

ユーザー
kokuyo
ゲーム
星の乙女と六華の姉妹
ブランド
ensemble
得点
80
参照数
600

一言コメント

ensemble乙女シリーズ(女装モノ)の白眉

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

共通ルート8話、9~12話がヒロイン個別ルート、アフターがヒロインに1話ずつ。だいたいボイス飛ばさずにじっくり読むと1話あたり1時間くらいのイメージです。
近年のensemble乙女シリーズはちょっとイマイチな作品が続いていて、平坦で起伏がなく特に印象に残らないし魅力を感じなかったので、今作はどうしようかと足踏みしていたのですがレビューを読むと面白そうに思ったので購入しました。
結論から言うと乙女シリーズではかなり上位に来る面白さでした。主観的には花乙女、エッセンスくらい好き、というか一番好きまであり得る。

まず、キャラクターの見せ方で、例えば「ありすというヒロインはダメ人間」だけど「環境が変わればしっかり自分で考えるし成長もする」という風に紋切型ではない多面的な描写が伝わってくることでしょうか。視点変更を適宜入れてヒロインの内面を描写していることも効果的に感じました。そしてキャラクターの関係性がしっかりしているので行動とストーリーがかみ合って進行するというところが感じられるのが良いですね。

シナリオそのものは芸能女子学園に女装潜入して、多様なアイドル活動をしながら、妹のありすの自立を促しつつヒロインと交流するという如何にもensembleらしい大筋です。しかし、これまでの作品と毛色の違う「幻想的な謎の庭園」や「異能」、「情状酌量の余地がないヘイトを集める悪役」といったアクの強い要素がぶち込まれています。このような要素に戸惑う人もいるでしょうが、個人的には歓迎したい。残念ながら「謎庭園」や「異能」、「星組の死亡者」、「星組の欠員の補充」といった謎を残したままなので、FDで回収されるのか期待していいものか。
シナリオはヒロイン三人共通の花組ルートと進行によって開放される夢組ルートに分かれています。花組ルートはワイワイ楽しく、体験版で雰囲気がつかめると思いますが、夢組ルートは同クラスにならない花組のキャラと距離感があり雰囲気がかなり変わります。(サブヒロインのめがねさんは仲間意識が強いので花組ルートでは親切ですが夢組ではよそよそしく、ネリネは夢組ルートでもあまり態度が変わらないといった描写は賛否分かれるかもしれませんが個人的に好き)

そして、女装した主人公という乙女シリーズの最重要ポイントについて。Hシーンでは主人公である山吹 雪(山吹 兎美)がヒロインにリードされる、可愛がられる、甘く責められることが多いです。女装に違和感がないのと女装慣れしているせいか、女性がいる女湯に自発的に入る(そしてバレない)。内面的には、妹のありすを保護する兄としての自覚が強くてそこが男性的なのですが、先述の「異能」に苦しんで妹を世話することに無自覚に依存しているといったキャラクター像になっています。そしてありすが自立していくにつれ、時にはありすに背を押される形で妹離れします。

プラスポイント
・魅力的なキャラクターが多い
・キャラクターの関係性がしっかりしており、かみ合ってストーリーが動く(近年の乙女シリーズはこの点が残念だった)
・ゲスでクズな悪役とトリック的なシナリオ(ありすルートの罠合宿)といった今までの乙女シリーズにない要素
・いつも通り女装主人公が可愛い
・可愛いミニキャラ

マイナスポイント
・立ち絵やイベントのイラストは標準的な枚数だと思うのですが、いろんなシチュエーションの変化に対応できるほどの枚数ではなく、シナリオ側がイラストに寄せた描写にせざるを得なくなっているように思えました。(水着やコスチュームの使いまわし等)
・いかにも何かありそうだったわりに若干消化不良
・一部が駆け足気味(テンポよくサクサクといえば聞こえはいいが)

恒例のファンディスクは出るでしょうし、好きな作品ですので期待したいところです。