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kmintoさんの紙の上の魔法使いの長文感想

ユーザー
kminto
ゲーム
紙の上の魔法使い
ブランド
ウグイスカグラ
得点
95
参照数
2632

一言コメント

少し遠回りな、何気ない幸せを探す物語。

**ネタバレ注意**
ゲームをクリアした人むけのレビューです。

長文感想

橘まおさんがメインヒロイン。それが全ての始まりでした。

去年の夏、私が何か面白そうなゲームないだろうか、と色々探しているうちにタイトルロゴ可愛いなぁと目を引く作品を1つ発見しました。
とりあえずお気に入り登録してそのままにしていたのですが、CVとか発表される予定日の前日にブログで、フライングでCV発表しちゃいます!と。
伏字をわくわくしながら反転させると、遊行寺夜子:橘まお と書いてあり1人深夜に気持ち悪い笑顔を浮かべたことが、まるで昨日のことのように思い出されます。


ということでプレイするのを決めた紙の上の魔法使い。
こんな私ですが、初めてゲームの感想を文章にして残したいと思いました。
もし、読もうという風変わりな方がいらっしゃったら、良ければお付き合いください。



物語は、とある島の幻想図書館ではじまります。
魔法使いが開く本、そこでは本に書いてあることが現実となってしまう。
それに振り回される(?)主人公達の物語です。

個別√除いて13章構成。
プレイする前は、「引きこもり夜子が瑠璃と出会ってどう変わっていくか」というのを自分の中で1つの視点として持っていました。
その上でいくつか思ったこととか書いてみたいと思います。


全体として、やっぱりこれは夜子のための物語だったのかなと思いました。
メインヒロインは遊行寺夜子ちゃん。それは間違いないと思います。
けれどそれを取り巻く登場人物たちが素敵すぎますね。

ということで登場人物についても触れながら、感想を書いていきたいと思います。


(以下、核心に触れるネタバレありなので、未プレイや興味のない方は戻る推奨です)

























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・理央
夜子と瑠璃のことを、おそらく誰よりも一番近くで見ていたはずの理央ちゃん。
やっぱり、一番近くにいる同い年の子がいたら惚れてしまいますよね。そう思います。
理央ちゃんの話で印象的だったのが6章 ローズクォーツの永年隔絶での選択肢ですね。
この作品全般に言えることだと思いますけど、選択肢に至る直前の数行と選ぶ瞬間がたまらなく良かったです。
▶愛すべき友達への、友情の極み
▶愛すべき少女への、愛情の極み

最初にこの選択肢見たとき、思わず息を飲みました。こういう類のゲームって、例えば
「○○ちゃんと~。」
「△△ちゃんと~。」みたいに、選択肢の方向性があからさまに提示されている場合があると思うんです(もちろん別に悪いとは思っていません)
そこをこういう対にした、すごい繊細な言葉遣いをされているところがとても好印象で、この作品を買って間違いなかったと思いました。
選択肢についてはもう1点、この選択肢を選ぶ瞬間に無音になって、カーソルをあてると本がめくれる効果音が鳴るところですね。
正直この演出には鳥肌立ちました。調子に乗って何度もカーソルをあてて、ペリペリッってやってしまったのはここだけの内緒です。

個人√についてですが、たとえどういう存在であっても年頃の「女の子」に、幸せになってはいけない「命令」は辛いですよね。
その「命令」の中で、ずっと近くで、ずっと夜子とのやりとりを見ていた理央。
たとえそれが現実のものでなくても、本意に沿わないものだったとしても。空虚な幸せを望んでしまう理央を誰も責めることできないですよね。
もし私が理央だったなら、迷わず魔法の本を開いていた、そんな気がしました。

そしてBAD ENDと書いてハッピーエンドと読みあげるクリソベリル。
正直勘弁してくださいよ。鳥肌止まんないです。
ここで理央が本当に記憶を失っているのかどうか。と言った伏線を√終わりに提示されることで、プレイヤーは余計に真実に近づきたくなる気持ちが抑えられなくなりますね。

「理央と生きてくれるとは言ってくれたけど、理央を好きとは言ってくれなかった。それじゃ納得できるはずがないんだよ。でも瑠璃君は何も間違っちゃいないよ。」
私が選ぶ理央ちゃんの名セリフですね。
あとはクリソベリルとの会話の中で出てきた、瑠璃と夜子を信じる一言。それはまた夜子√で書きたいと思います。




・妃
妃ちゃんは、中盤で一気に引き寄せられてしまいました。
叶わない恋をサファイアの存在証明で…と思いきや、「オニキスの不在証明」。
そして最後には全てが紙の上の出来事だと知ることになります。
1つ真実が明らかになると、その裏にある設定が明らかになる。そしてその設定を裏付ける真実が新たに明かされる。この演出、伏線回収は本当に素晴らしいと思います。

そして、ここでも選択肢を選ぶ場面で鳥肌が止まりませんでした。
▶お前のことなんて、大好きだ
▶お前のことなんて、大嫌いだ
どちらを選べばどうなるか、そんなこと私でも分かっています。それでも簡単に選択肢を選べない。そんな不思議な雰囲気が私を悩ませました。

妃は最後の最期まで紙の上の存在でありつづけることを拒否します。

「幸せな瞬間に、死ぬことができれば---それはハッピーエンドなのかもしれません。」
過去を清算させるためだけに存在する紙の上の妃。彼女に一時の生きる意味を与えたくて瑠璃は運命を共にします。
そうして妃と瑠璃は炎の中に消えていく。
ここが妃の数少ない感情をあらわにするシーンの中でも最も妃が「生きている人間」に見えたシーンでした。御苑生メイさんの気持ちのこもった演技には本当に心打たれましたね。

(ちなみに別選択肢を選んだ場合に、「大好きでした。」と言って自らの名前を記した本を破く妃ちゃんのシーン、あれは辛すぎて泣いてしまいました)

そして、誰が何のために「失恋させるために妃の本を作ったのか」
謎を残したまま。物語は幕を閉じることになります。
これもまた次への伏線ですね。個人√で一応エンディングを迎えながらも、次への布石として伏線を張り巡らせていく。良い意味で酷いシナリオです(苦笑)




・かなた
とりあえず最優秀助演女優賞あげたいですね。それに尽きます。
かなたちゃんについては2つ、絶対に触れたいシーンがありました。
1つめは、7章 ブラックパールの求愛信号で、汀に妃への生贄として殺されかけるシーン。
両手を広げ、瑠璃さんが言わないのなら私は言いません。と命をかけて瑠璃をかばってました。
格好良いですよね、かなたちゃんと結婚したいです←

そして2つめ、12章 ラピスラズリの幻想図書館の瑠璃と対峙するシーン。
ここがかなたちゃんの一番の見せ場だったと思います。本当に見ていてすごいとしか言えませんでした。これについても夜子ちゃんのシーンで書きたいと思います。

あとは少し本題からはずれてしまうのですが1つ疑問に思ったことがあります。
ホワイトパールの泡沫恋慕で、かなたが「なぜ夜子さんは3年前と見た目が変わっていないのでしょう」というところです。
これはもう1冊の魔法の本が開いていたからなのですかね?
私はこの段階で、夜子も紙の上の存在だと思い込んでしまったのでよく分からなくなってしまいました。







・クリソベリル
 紙の上の魔法使い。状況に合った笑い声など小倉結衣さんの演技がただただすごく、簡単に引き込まれてしまいました。
 でも最初はずっと悪者扱いなんですよね、正直、ここでクリソベリルちゃん来たら困るなぁ…来ないでよ…って思うときに限って必ず登場してくれました。期待を裏切らないですね。
 そして章を経るごとに重みの増していく、「夜子を愛してあげて、幸せにしてあげて」という言葉。
 彼女の正体は最後に明かされましたが、結局は彼女も、夜子と同じような、いえ、もっとひどい運命を辿っていたんですね。所々で描かれていたクリソベリルの葛藤も、今なら理解できる気がします。
 それでも最後は全てを受け止め、歩み寄る姿勢を示す少女。最後の夜子と抱き合うCGがすごい心温まるもので、お気に入りの1枚になってます。

ちなみに、私は最初クリソベリルのことを、闇子が夜子の思うままの本を描くのを手助けするために描いた紙の上の存在であり、闇子が自身の生き写しとして描いた最後の魔法の本。という風に考えていましたけど、全然違いました(苦笑)


メインヒロイン夜ちゃんについて。
・夜子
CV橘まおさんです。CV橘まおさんです。
まず夜子ちゃんを語る上で、「だから瑠璃のことは大っ嫌いって言ってるでしょ?」というPVでの迫真のセリフは外せないと思います。(インパクトありすぎです)
初めて見たときに、橘まおさんのあの悲痛な叫びが何度聞いても頭から離れなくて、一体どんなストーリーなんだろうと心躍らせたのを覚えています。

ですが、プレイはじめても、序盤は夜ちゃんあまり出てこないんですよね。
9章、ホワイトパールの泡沫恋慕で、初めて過去に触れるお話がはじまります。
ここもやはり選択肢が一番心に来ました。

「さあ、選んでみようか。どちらを選んでもきっと後悔し、どちらを選んでも幸せになれない、不自由な二択だ」
▶自分のために、破れたページを読む。
▶夜子のために、破れたページを返す。

この対比形式の選択肢は本当にずるい、しかも「どちらの本をめくりますか?」みたいに効果音ペリペリ言いますし(笑)

続いて少し箇条書きになりますが、3つ書きたいと思います。
○理央の夜子と瑠璃を信じる気持ち
理央ちゃんの部分でも少し触れたのですが、クリソベリルが「四條瑠璃」にまだ1行足りないという部分で。
「四條瑠璃が、遊行寺夜子のことを好きになる」
こんな1P許せない。本に描かれたシナリオがなくとも、きっと2人は結ばれるはずだと強く宣言した理央ちゃんは本当に格好良かったです。これもきっと、一番近くでずっと、ずっと2人を見てきたからこそ言えたセリフなんでしょうね。



○夜子がファントムクリスタルの運命連鎖を使って瑠璃に本心を聞き出すシーン(夜子√)
 普段引きこもりの夜ちゃんが、急に明るくなったらそりゃその部分好きって言っちゃいますよね。仕方ないですよ…。プレイヤー視点では、途中から夜子の演技であろうことは大体分かるような書き方になっていたので、「瑠璃やめて言わないで」「あかん、あかんそれあかん…」とかぶつぶつ言いながらプレイしていると案の定…。
口調、そしてCGの表情差分でもどんどん冷たくなっていく夜ちゃんは見てられなかったです…その後結ばれたときは思わず泣いてしまいました。

あなたが目を逸らした箱の中身には、一体何が隠されていたのでしょうね。
台本上の幸せから、どうか覚めないで。
何も知らないまま、恋をしていられますように。(YORUKO END)

この終わり方も個人的に好きですね、知らない方が良いこともある…という感じ。
ですがそんな本当の幸せを手にすることができない夜ちゃんを何とか幸せにしてあげるべく、私はTrue Endへとページをめくりました。


そして私の涙腺を一番刺激した場面を最後に書きたいと思います。
○12章 ラピスラズリの幻想図書館
 ラピスラズリの幻想図書館。夜子の理想とした、瑠璃のいる幻想図書館という意味が込められた魔法の本。タイトルだけで心苦しいです。
 もうこの時点で、妃は死んでいた。実は魔法の本。瑠璃も死んでいた。実は魔法の本。という流れで来ていて、プレイしてる側苦しくて仕方なかったんですが(笑)

最後のTrueに至る前に、ヒロイン達が夜子に語り掛けるシーンがありました。
 ここのかなたちゃんのシーンが作品中一番泣きました。

全てを知り、引きこもる夜子を連れ出そうとする瑠璃。
「これから、お前が幸せになれることを証明してやるよ。何がなくとも、ただ日常がそこにあるだけで、幸せになれることを教えてやる。」
「普通の幸せを手にすることができると証明してやる」
瑠璃君ほんとイケメンです。はい。

ここでハッピーエンドかな?と思っていたんですが、クリソベリルが余計なことを。
「瑠璃のお兄ちゃんは、日向かなたのことが大好きなのよ?」
唯一の希望すらも打ち砕かれて、眼が虚ろになる夜子。
ここの演技も本当にすごかったです…さすが声優さんと思いました。

「夜子さんのことをたとえ好きになってもあなたを恨むことはないのです。だからちゃんと向き合ってあげてくださいね。さぁ、誰なんでしょうね。誰なんでしょう。もしかすると彼女は、この物語の主人公なのかもしれませんね。私はただ待っていますから。あなたのそばで、あなたの隣で、私を選んでくれるその時を。」

こんなセリフ言えるかなたちゃん格好良過ぎです…最優秀助演女優賞あげたいです。


さらに自暴自棄になるクリソベリルが瑠璃を上書きし、かなたを殴るところで。
「どんな嫌なことがあったか分かりませんが、それでも瑠璃さんのことが大好きです。」

こんなセリフ言えるかなたちゃん格好良過ぎです、結婚してく(2回目


妃ちゃんからは「振られて死んでしまえ」と後押しされ、夜子は最後の思いを瑠璃に告げる。
(ここのシーンのクリソベリルの服に今までの宝石があしらってあるのが凝ってるなぁ..と思いました)


断られることを分かっていながら、その先に進むために告白し、涙を流す夜子ちゃん。
前を向いて、もう少しこのままでいさせてとお願いする夜子ちゃん。
やっと、やっとのことで素直になれた夜子ちゃん。

ですが、恋愛は成就しないんですよね。
瑠璃と幸せになってほしかったですよ。本当に。
でもそれは夜子を好きになった私にとってのハッピーエンドであって、夜子自身のハッピーエンドではなかったのかな。そういう風に思いました。

ですが夜子と瑠璃のイチャラブハッピーエンドも見てみたいので、FDとかないですかね….。夜子の幸せを祈る限りです。



最後に。
この物語は、決してハッピーエンドではないと思います。
プレイする方の考え方によって、評価はいくらでも動きうると思います。
正直、夜子には瑠璃と結ばれて幸せになってほしかったです。けれど、「紙の上」のそばで生きる夜子にとっては、ありふれた何の変哲もない日常。それこそが幸せであり、現実を生きていく上でのハッピーエンドだった。


魔法の本は、少し遠回りな幸せへの道しるべだったのかもしれないですね。
みなさんは、幸せの定義って何だと思われましたか?