死生観を変え、人生に寄り添ってくれる名作
総評
シナリオ、音楽、絵は非常に良い。2000年発売なので、windows7 32bitより古いPCでないと起動しない、既読skipが無い、バックログが無い、音楽がループしないなど、環境面、システム面の欠点を抱えている。ただ、ノベルゲームはあくまで、「シナリオ、音楽、絵」の3つさえ良ければOK!という主義の方にとっては、心に突き刺さる名作に成る。
✴︎精神✴︎
ナルコレプシーの少女、一ノ瀬静香の物語。消えゆく自分を想像して、あえて静香を恋人と言わず「彼氏募集中!」と言わせる圭司の優しさ。一夏の思い出をそっと胸にしまって、自分の人生を歩み始めるラストはとても切なくて温かい気持ちになった。エンディング後の静香のモノローグで流涙…「やれるか?」「はい」「よし…いい返事だ」
✴︎生命✴︎
シナリオ担当が他の3ルートと異なっておりややボリュームが少ない。親友間でのイマジナリーフレンドの共有は面白い題材だし、滝川への憑依も悪くはなかったし、自身と同じ状況のトヨキの不憫さを慮りトヨキを演じてあげる圭司の優しさには共感できる。まりあは最終盤では「天の川でトヨキ君にあったら…」「さようなら…ななしのごんべさん」と言ってトヨキではない誰かに気付いており、その辺りをもう少し丁寧に掘り下げられれば良かったかも。
✴︎感情✴︎
「今のあなただって、あなたの声は分かっても、その目の奥にある物が見えない…言葉だけじゃ…私には届かない」
「いや、俺は目を閉じてたよ、君と同じ気持ちになりたかったから」
「俺の知ってる梨奈先生は、理解しようと必死に相手の言葉に耳を傾けてくれる、受け入れようと頑張ってくれる人だよ」
弱視の英語教師朝倉梨奈との純愛。「精神」と異なり、成長したのはヒロインではなく大沢圭司の方。「海へは…行けなかった」梨奈先生。エンディングで差し替えられた轢死の一枚絵が頭に残り続ける。8月の圭司の梨奈へ対する愛情が唐突過ぎると思っていたが、読了後はとても腑に落ちる。「目が見えないことは死んでることと同じ」10年前にそう言った圭司を励ました梨奈を、今、圭司が同じように励ましている。「いや、俺は目を閉じてたよ、君と同じ気持ちになりたかったから」。ラスト15分で景色が変わった。
✴︎過去✴︎
「いつまでも続く悠久の日々、だが不意にそれが終わりを告げるときがある。悲しみの中で、人は終わりがくれるものもある…と気付く。」
物語の全容が明かされるグランドルート。手に汗握るサスペンスと圭司から遥に捧げられた深い愛情。あまりに理不尽な運命に振り回されながらも、ただひたすらに遥の幸福を願った圭司が本当に格好いい。trueルートの最後の圭司と中嶋のやり取りには怒り、嘆き、諦め、覚悟、願い…とても多くの感情が詰まっていた。この世を去る自分の気持ちに蓋をして、自分を殺した相手に最愛の妹の幸福を託す圭司…それが圭司の「誇り」と言われると涙が止まらない。もう一つのルートでは、最後の1ピースだった「遥の成長」がピタッと納まり、1つの切ないけど暖かい、素敵な物語が完成していた。「あかりお姉ちゃん。遥…今日、学校行きます」