書き手の世界が完成されていることの非凡さを見た
なんの事前知識を持たずにプレイしたところ、これが素晴らしい作品だった。もちろん商業作品と比較すれば荒さを感じてしまうところがあり、特に文章面において「ひぐらしのなく頃に」と言った作品と同様の、くどいわりに分かりにくい表現があって、最初はここに躓いたところもあった。しかし、そうしたあらゆる欠点がどうでも良くなる美点があって、自分はそれだけでこの作品を絶賛できる。
この作品でもっとも素晴らしいと思ったのは、作者が描こうとしている世界が完全にイメージされているという事だ。これは世界観が作りこまれているとか、設定が詳細だとかとはまったく別の話だ。それは言ってみれば”異世界が存在しているかどうか”という事で、そこに本当に異世界が「生きている」と感じられるものだ。それは地の文でさらっと物語の習俗が語られたり、世界を構成する人々の温度が感じられるような、そういうものだ。膨大な設定をただ羅列するのではなく、その設定が他の設定とどのように結び付いているのかが、作者の中で明確になっていて、それゆえに設定を描写する必要がない。ただ物語が語られる言葉の端々に、そうした背景が匂わされるだけで、それゆえにこの物語は異界として描写される。それは情報量の多寡はそれほど関係はないものもので、むしろ情報が欠けているからこそ、そこに律する我々の知らない異世界のルールを想像させるものなのだ。
つけた点数はエロゲーノベルとしてみた点数であって、”物語”としての点数とまったく関係のないものであることは明記しておきます。